第9話
書くのが難しくて遅れました。
どこが難しいのかは、多分わかってもらえないと思います…
でも、話は面白くなっていきますので…
西条との会話の後、私は西条とは別々に教室に入った。和哉くんが教室に入った私に気づき、声をかけてくれる。
「おはよう、香織」
「おっ、おはよう、和哉くん」
一瞬、華形さんと呼ばれるのではないかと不安になったが、和哉くんが優しい声で私の名前を呼ぶのを聞いて、ほっとする。まだ、夢のダメージが抜けきってないようだ。
「朝に彼女と楽しくおはようとか……。クソ、オレもイケメンに生まれていれば……っ!」
「上に同じくっす……。けど、まだ俺たちにだって希望はあるっす!! なぜならまだ俺たちの心のアイドル、クラスのマドンナである川崎さんがまだ残ってるんすからね!」
「あはは、元気だなお前ら」
「そうだな。ふっ、実は俺、すでに告白の算段を立ててんだよ」
「な、なにぃっ! それは聞いてないっす。よく話すっす!!」
「ほんと元気だなお前ら……」
バカな男子2人がバカな話をして盛り上がっている。川崎のどこがいいんだか。和哉くんと仲がいいから言わないけど。
「おら、お前ら! 馬鹿な話やってないで席につけ! そろそろ授業開始のベルが鳴るぞ!」
「うへ、黒岩先生……」
「うへ、ってなんだよ、うへ、って。尊敬する心優しい教師が、授業開始前にきっちり来てやったんだぞ?もっと嬉しそうにしたらどうなんだ?」
「イヤー、センセーガハヤクキテクレテウレシーナー」
熱血でクソマジメだが、冗談もよく言うため、結構評判のいい数学教師の黒岩先生がいつも通り定刻より早く来た。バカ2人と話して、ガハハと大きく笑っている。みんなそれを合図に席に戻って行く。全員着席したところで授業開始のベルが鳴った。
「んじゃ、授業はじめるぞー」
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いつも通りの授業を終え、放課後。私は所属する美術部の部室で、和哉くんのバスケ部が終わるまで絵を描くことにした。
やり直しをする三か月前に描いていた作品を見て、当時の思いを思い出す。改めてこの描き途中の絵を見ると、我ながらよく自分の気持ちが表せていると思う。
思い出にふけっていたら、スッと美術室の後ろの方、私の席の近くの引き戸が開いた。
「え、和哉くん?」
「やあ、香織。ちょっとバスケ部で面倒なことがあってね。あ、邪魔だった?」
「う、ううんっ。むしろ嬉しいよ!」
「そ、そう、ありがとう」
和哉くんはちょっと照れながら、私の席近くの椅子を引き寄せて座る。話を聞くと、川崎に告白した男が見事に玉砕し、部活のテンションが全体的に下がっていたそうだ。それを見た黒岩先生が、コンディションが悪いなら練習してもしょうがないと言い、今日の部活は中止となったそうだ。それでいいのかバスケ部。
「大丈夫だよ。あいつは今先生と青春の個人面談中。明日には元気になるようにしてやる! って先生が意気込んでたからね」
「それは罰ゲームって言うんじゃないかな……」
和哉くんは心配していないように話すが、暑苦しい男の先生との個人面談は、年頃の学生にはかなりつらい。いつもはうっとうしく思うバカに、今は同情を禁じえない。
「あはは、まあ俺は香織が美術部で、どんな風に絵を描いてるのか見れるからラッキーって思ってるよ」
「ちょっと恥ずかしいなぁ…。上手じゃないから期待しないでね?」
「恋人の頑張りを期待しない男がいると思うかい?」
「そんなこと言われても……」
からかわれているとわかっていても、和哉くんに期待していると言われれば、頬が熱くなる。しっかり描かなきゃ。でも、放課後のこの時間に彼といれるなんて嬉しいな。
私は、幸せな気持ちで絵具を手に取り、描き途中の絵に色を塗っていった。
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久しぶりだったために、絵を描くのに集中し過ぎてしまった。和哉くんと軽く慌てて昇降口へと走る。
しかし、私たちが帰る頃には、すっかり日が落ちてしまっていた。
「うわぁ、やっちゃったな。しょうがない、ちょっと暗いけど、近道して帰らない?」
和哉くんが近道を提案してくる。さすがにこの時間は二人とも明日の学校に響くかもしれない。近道で帰ることにした。
しかし、いざ近道である高架橋の方に行くと、つい先ほど事故があったらしく、通行止になっていた。
「え、これはやばいな。明日というか、今日の夕飯さえやばい気がする……」
「和哉くんの家厳しいもんね……。ごめんね。私が時間気にせず描いてたから」
「ううん、香織が気にすることじゃないよ。香織が綺麗な絵を描いてるのを見れたのは、本当に良かったしね」
そう言って、和哉くんは天使のような笑顔を見せてくれる。今朝見た夢なんかよりも、ずっと優しく、明るい笑顔を。頬がぼぅっ、と熱くなる。
「あ、ありがと……」
「? 礼を言うのは俺の方だよ。ありがとう、香織」
「う、うん! どういたしまして、和哉くん」
私は多分今、熟れたいちごみたいに真っ赤になっているだろう。
月が昇り、私たちを優しく包むように照らす。私は満ち足りた気持ちで、2人だけの長い夜道を歩いて帰った。
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「人間の動き1つでここまで変わるとはな。今後は気を付けないといけないか」
月の光の下、並んで歩く2つの影を見て、西条要はつぶやく。その顔は、いつもと違ってどこか寂しげに見える。
「要様……」
隣に立つカンナは、主の心情を思い、彼の名を、その心を案じるように、呼ぶ。
「まあいい、まだ先は長い。1つの失敗で悩むのも滑稽な話だ。それとカンナ」
「は、はいご主人様。どうかされましたか?」
急にいつもと同じ、何を考えているかわからない薄く笑った顔に戻ると、彼はカンナに声をかける。カンナは慌ててそれに応える。
「明日、華形香織が屋敷に来るだろう。準備を整えておいてくれ」
「かしこまりました」




