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GLoop〜やり直し世界と僕〜  作者: 倉里小悠
第1章 華形香織
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閑話 鎮魂歌

第8話で香織ちゃんがカンナちゃんを見て、胸囲の格差社会に絶望していたとき、香織ちゃんが見ることのなかった、西条くんが何してたかのお話です。

 西条要は自分が蹴り飛ばした男に駆け寄るチンピラたちを見る。蹴り飛ばされた男は腕があらぬ方向を向いている。


「誰だテメェ!」


 チンピラの1人が彼の名を尋ねる。彼は薄い笑みを浮かべたまま答えた。


「名は西条要だ」

「そうかい。んじゃ、サイジョー。テメーはゆるさねぇ。大人しく死にやがれ!」

「仲間の仇だ!」


 男たちが手にメリケンサックやナイフを持ち、4人で順番に殴り、切りかかってくる。だが、それら凶器を前にしてもなお、西条の表情は薄い笑みを浮かべたままである。


「"其ノ(Analyze)動キヲ(those)紐解ケ、(vectors,)“世界ノ形”(“System”)"」

「何ごちゃごちゃ言ってんだよ! 死ねぇ!!」


 重なるように聞こえる言葉を紡ぐ西条。男の1人は、彼の言葉を気にせずそのまま手にしたナイフで西条を切りつける。

 しかし、


「何っ!?」


 男のナイフは空を切った。気付けば、ついさっきまで棒立ちをしていたはずの西条の拳が、男を貫ぬかんと彼の腰に突き立っていた。


「ガヒュッ」


 ゴキリと嫌な音がし、哀れな男が血とともに息を吐き出す。そして男の体がくの字に曲がる。背中の方向に。


「ヒィッ! な、なんだ!? 今動きが見えなかったぞ!?」

「チィッ、お前ら下がってろ! あいつは武道の達人に違いねぇ。近くに寄るな!」


 チンピラたちのリーダーらしき男は、仲間の倒れる姿を見、目の前の男を危険な存在と認識する。他の仲間を下がらせ、自分の奥の手を取り出す。


「ケッ、武道を修めていようが、銃の前じゃただの人間だろ。撃ち殺してやる。命乞いは聞かねぇ。俺たちにケンカを売った自分を恨むんだなっ!」


 自信満々の彼の手に握られていたのは黒い銃。短機関銃と呼ばれるもので、これには減音機(サプレッサー)が付いている。銃口を西条に向け、すでに指をかけていた引き金を引く。極小の閃光が走るとともに、凶悪な速さで進む鉛の塊が、西条の体に穴を開けようと迫る。

 しかし、弾丸は空しくも、彼に穴を開けることはなかった。第2、第3の鉛玉が彼を狙うも、悉く彼に傷をつけることはなく、ただの何も無い空間を通るのみ。


「な、なんでだよ。なんで撃たれて死なねぇんだよ!」


 西条はゆらゆらと肩を揺らす、奇怪な動きをしながら徐々にリーダーの男に近づいていく。その身体に一切の傷は無く、体のいたるところに当たっているはずの銃弾は、彼の後ろへと流れていく。残るのは、発砲音の抑制されたパス、パス、という音のみ。


「"我ガ望ミヲ(Reload)汝ガ知ル(and)形ニセヨ、(create,)“世界ノ記憶”(“Record”)"」


 弾倉が空になった瞬間、再び西条は二重に聞こえる声を発する。男たちにとって、もう彼の声は自分たちの終わりを告げる呪文にしか聞こえない。

 さらに西条は何かを掴もうとするかのように、右手を前に出す。


「イングラム」


 リーダーの男が持っていた銃の名を口にする。すると、西条の右手に青白い光の筋が生まれ、形を作っていく。光が収まったとき、彼の右手には、彼を射殺さんと使われた物と、同じ銃があった。


「ヒッ」

「"発射(Fire)"」


 無情の弾丸が彼らを貫く。リーダーの男は哀れにも眉間を、ある1人は肩を、もう1人は腹部を。彼らの痛みなど関係なく、ただ機械的に処理するが如く、弾丸は彼らを追っていく。


「いてぇ、いてぇよぉ」

「血ぃっ、血だぁっ!」

「リーダー! 返事しろよリーダー!」

「なんでこんなことに……」


 発砲が止んだとき、西条の手にあった銃は消失し、彼の前には傷ついたチンピラたちが倒れていた。


「あらあら、4人も生きてらっしゃるのですか。要様は本当にひどいお方ですねぇ」

「そうでもない。じわじわ殺されるよりはましだろう」

「うふふ。それもそうですわねぇ」

「さあ、早くやれ」

「はーい」


 端から聞けば陽気な会話はすでに彼らの耳には入らず、ただ彼らは痛みや死に怯えている。男の1人が自分たちに近づく女を視界に捉えた。


「メ、イド?」

「はいー、みんな大好き、らしい? メイドさんですよー」

「そのメイドさんが何の用だよ」

「女ぁ……」

「いえいえ、皆さんに消えていただこうと思いまして。あと、私は要様以外には股は開きませんよぉ」

「「「「は?」」」

「では、皆さんに。さよならパーンチ」


 メイドの口から出でる気の抜けた声が、哀れなこの世界の彼らへの、鎮魂歌(レクイエム)だった。


–––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––


「うむ」

「どうかしましたか、要様?」

「いや、さすがに『さよならパンチ』は可哀相だったと思ってな」

「ゔっ……精進致します……」

「ああ、サキホと相談して、次はしっかりした名前にしておいてやるといい。無論、力加減を間違えないようにもしてくれ」

「はぁい……」


 うっすらと、いつもと変わらぬ笑みを浮かべて、西条はカンナと共に、4月30日の朝(・・・・・・)を迎えた。

西条くんが俺TUEEEE!してくれました。

閑話は基本的に第三者視点のつもりなので、本編とは文の調子が違います。

バトルは、少なくとも1章は閑話でしかやりません。

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