新担任の強さ
ここ国立魔法学園は名前の通り普通の学校とは違い、
主に軍事利用その他に研究職などの人材を輩出するため、
魔力を持った若者を育てるために初等部から
大学まである国家機関だ。
悲しいことに俺は初等部からここにいて
もう今日から高2だ。
「そういえば、新しい先生が担任だとか何とか
ばあちゃ、おっと学園長が言ってたな。」
とりあえず新しい教室について出席番号順に座り、
苗字が綿桐なので一番左の列の後ろの席だ。
ギリギリ朝のHRには間に合ったが、すぐに
始業式だ。生徒が式の場に集まり終え、
学園長の挨拶があり、新しい先生が紹介された。
「今日からこの学園の高2Aの担任をする鏡先生です。
科目は実技演習を担当します。皆さん、
仲良くしてあげてくださいね。」
髪は黒く、瞳も黒、スーツも黒で、ネクタイも黒だ。
肌は色白だが、ワイシャツは灰色だし、
なぜか黒の手袋を左手にしている。
「どんだけ黒なんだよ。」
「あの先生、屋上で寝ていたわ。」
「鈴、いたのかよ。朝見なかったぞ。」
「早めに登校して屋上にいたの、そしたら
あの人が寝てたわ。そして隣に座っていたの。」
「無用心すぎるだろ、あの先生。
本当に実技演習担当なのかよ。」
「さあ、分からないわ。始業式、
終わったみたいね。涼、先に行くわ。」
「おい、お前何組だよ?」
「もちろん、涼と同じA組よ。」
「マジかよ、気付かなかった。」
生徒が続々と教室に戻る中で俺は、鈴と同じクラスに
なれた喜びと、見つけれなかった悔しさの両方の
感情が渦巻いていた。
「あいつの隠密能力はほんとに凄いよ。」
教室に戻ると、鏡がもういた。
「初日だけど、全員の力も知りたいし、
実技をしようか。演習場Aに集合。」
それだけ言って出て行った。
演習場Aに全員が集合すると、鏡はスーツ姿のままで
立っていた。
「先生、着替えないんですか?」
と、クラスメイトが聞くと、鏡は
「汚れないからいいんだよ。」と言い、
手をパンと叩いた時、鏡の周囲に結界がはられた。
「マジかよ、拍手ひとつで結界はるとか、
化け物かよ。」
「さあ全員でかかってきなさい。」
クラスメイト達は、ざわついている。
そりゃそうだ。あんな化け物に勝てる奴は
いないだろう。しかし最初に力が知りたい
といっていたから遊び半分だろ。殺す気で
やらなきゃ俺達がすぐ倒されるだろう。
そう自分に言い聞かせ、足を出した。
魔力を拳に集めながら、鏡に近づいていく。
鏡に動く気はないのだ。このまま魔力を最大まで
溜めた拳にスピードを乗せ、鏡に殴りつける。
ガーン、何か凄く硬いものを殴った感触だった。
鏡は平然としている。
「どうなっている?結界を通り過ぎた後に弾かれた。」
手に激痛が走る、鏡の手に凄い速さで
魔力が溜まっていく。
やばい、このままじゃーー
その時、見えない速さで誰かが横を通り過ぎた。
ガキーン、ナイフが魔法で作られた防御壁に
阻まれている。
このナイフは確か鈴の魔法で創造されたものだ。
振り向いた時には、鈴はすぐに態勢を直し、
2本目を作り終えていた。そして、
次の攻撃を仕掛けている。
またも防御壁に阻まれたナイフを持ち直し、
鈴がナイフを作り、それを左手で持つ。
二刀流、鈴の本気だ。
鈴の二刀は見えないが、全部弾かれているようだ。
鈴の本気の筈なのに、鏡は汗ひとつ、かかない。
鈴と鏡の戦いを見るだけしかできない俺達は
まだ、弱いことを思い知らされた。
そして、鏡が一歩も動かないまま、鈴が倒れた。
「鈴っ!」
「ただの魔力切れですね。」
鏡は冷ややかに言った。
「お前が、ずっと相手をしてたからだろうが!」
「私は、全員でかかってきなさい、と言いましたよね?
ずっとあなたたちは彼女が独りで戦っているのを
見ていただけですよね?手も足も出せない君は
彼女を見てただけの役立たずだったのですよ。」
鏡の言葉が心に刺さる。
そんなことは分かっていた。けど追いつけない
ものはどうしようもない。
いや、やるしかない。そう心に決めたはずだ。
ここで、鈴を越えるんだ!
その気持ちが昂ぶり、俺は何かが吹っ切れた。
「鏡、勝負だ。」
「やれやれ、やっと本気が見れますか。」
その言葉を待っていたかのような口ぶりだ。
「では、私も同じ場所にいるのも飽きましたし、
動きますかね。」
鏡が喋っているのを無視して、今度は体全体
に魔力を溜め始めた。
これで相手の攻撃を緩和できるし、攻撃力も
2倍ぐらいにはなっているはずだ。
「君からどうぞ。」
「じゃあ、お先にいくぜ。」
足に溜めていた魔力を解放し、瞬間的だが、
猛烈なスピードを手に入れ、鏡の前に移動。
そのままの勢いで鏡に左手でフェイントをかけ、
右で殴りあげる。これには対応できなかったのか、
頬にクリティカルした。
その時、鏡の左脚が俺の横腹に迫っていた。
こいつ、うまいな。
そう、思ってしまった。殴られた衝撃を
足に移動させて俺に当てたわけだ。
そして俺はぶっ飛ばされ、演習場の壁に激突した。
鏡がこちらに向かって歩いてきているのが分かる。
「おい、あれ止めなくていいのか?」
「え、でも演習なんでしょ?」
「演習だったら動けなさそうな奴に
追い打ちかけるかよ。」
クラスメイトが止めに入ろうと考えるが、
力足らずで、止めれないことを知っているから
迷っているんだ。
鏡の歩みは止まらない。
俺の前に来て、鏡が殴ろうとした時、
目の前に学園長が現れ、鏡の拳を片手で止める。
「これ以上は、まだダメですよ。」
「まだ、ダメでしたか。」
「本当に、貴方は昔から何ひとつ
変わっていませんね。鏡くん。」
「いえいえ、私は変わりましたよ、強さとかね。」
鏡の魔力が周囲に放出され、魔力の圧で、
体が地面に押し付けられる。
「止めなさい。」
その学園長の一言で圧から解放される。
鏡と学園長は、どれぐらい強いんだろうか。
その疑問を抱え、俺は意識を失った。
この話では綿桐くんが出てきましたね。