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「ふぁああ、ひっろーい! すっごーい! きっれーい!」


 感嘆の声をあげてキョロキョロと第2位の部屋を見渡すむい。

 確かに凄いのですわ……。高そうなドレッサー、天蓋付きベッド、キラキラと部屋を照らすシャンデリア。

 なんともはや。お嬢様を通り越してこれではお姫様みたいですわ。


「あ、あんまり人の部屋ジロジロ見ないでよね……。お茶持ってきてあげるから、二人とも大人しく座って待ってなさい」

「はーい! ありがとーっ」

「まぁ。ありがとうございますわ」

 

 ぽふっとソファに腰掛けてニコニコ笑顔を向けるわたくし達。


「べ、別にいちいちお礼言わなくていいわよ……。なんだか調子狂うわねぇ、あんた達って」

 

 うふふっ、第2位ってば照れてますの。

 高飛車な言葉遣いばかりするのでついつい忘れてしまいがちですが、さすがお嬢様学校のナガジョに通ってるだけありますの。

 根っ子はやっぱりお嬢様なんですのね。

 でも……。


「BEOに関する本ばかりですわ。こういうところを見るとやっぱり第2位って感じですの」


 巨大なテレビの両脇に本棚がたくさんあるのですが、その中には所狭しとBEO関連の本が並んでいました。

 ええと、なになに……。『BEO2冬の大型パッチ対応版ダイヤグラム掲載!対人(PvP)完全必勝法!』『あの人に勝ちたいあなたへ。BEO2クラス相性考察。解説ディスクつき』

 その他にも対人戦に関する本でギッシリですわ。


「ど、努力家なんですのね、第2位って……」


 何度もクラスを変えてわたくしに挑んできた第2位。

 色々ありましたわねぇ……。

 彼女との戦いをボーっと振り返っていますと、


「ねぇねぇ。歌雨ちゃん、さっきから第2位第2位って何のこと?」

「何のことって……。あの方、『ミヤカ』と言えば5鯖(フィフス・サーバー)のランキング2位の有名人さんですわよ」

「えーっ!? そ、そうだったの!? 私、5鯖だったのに全然知らなかったよぅ……」


 おかしいですわねぇ。

 知ってるものとばかり思っていましたの。

 他のサーバーならともかく、5鯖で遊んでいる方々ならばキングと並んで誰もが知っているハズ。

 不動の第1位と不屈の第2位なんですもの……って、そうですわ!


「むいに聞きたいことがありましたわ! 貴女、ランキング何位ですの? MROのβテストの手紙には『上位ランカー百位の方たちだけに送っています』って書いてありましたのっ」


 鼻息を荒くして隣のむいに詰め寄るわたくしに、


「うーん。あんまりランキングとか見てなかったからなぁ。敵さん倒したり採取したりアイテム集めたり売ったりするのが楽しくて、そういうのあんまり興味なかったっていうか……最後はちょっとPvPとかいうゲームモードで遊んだ気がするけど。えへへ、ランキングはわかんないや。ごめんねっ」


 ちょっとPvPを遊んだだけでランカー百位以内……?

 そんなことありえるハズが――


「噂なんだけどさー、百位以外でもゲームマスターに認められた人は招待状が送られたみたいよ。選ばれる理由は分ってないケドね」


 いつの間にかわたくし達の横に立っていた第2位からケーキと紅茶を受け取りつつ、


「わ、ありがとうございますの。でも、噂レベルなんでしょう?」


 と訊ねるわたくしに、


「噂レベルだけどあたしは信じるわ。大体、五つのサーバーからランキング百位以内だけ集めますじゃあ、たったの五百人じゃん。しかも女性プレイヤーだけなら多くても二百人くらい。そんな少ない人数で大型VRMMO……実質BEO3のβテストなんて出来るハズないし、」


 お茶を配り終えた彼女は対面のソファにゆっくりと腰掛けてこう言いましたの。


「それに実際に三人くらいランキング外でも貰った人を知ってるからね」

「三人? それって、私とあとだぁれ?」


 「ありがとー、お茶いただきますね」と続けて紅茶をすするむいに倣って、わたくしも紅茶をすすっていると、


「ほら、隣にいるじゃん。歌雨さんよ」

「!?」


 思わず吹き出しそうになりましたわ。


「なによ、そんな驚いた顔して? だってあんたも少し嗜んだ程度って言ってたじゃん」

「そ、そ、そうでしたわ! なるほど、だからランキング外のわたくしの家にも招待状が届いたんですのねっ」


 あぶねーあぶねーですの……。

 冷や汗だらだら流しながらケーキを頂くわたくしに「やったー! むいと歌雨ちゃんってばすっごいラッキーだねっ! 運命感じちゃったっ」と、またもや抱きついてくるむい。


 って、ちょっと待ってくださいまし。

 今、むいってば自分のことを名前で呼びましたの。

 小学校卒業日のとき、これから中学生になるんだからお嬢様らしくしましょうってにこと三人で決めましたのに……。


「ねぇねぇ、ミヤカ様このケーキおいしーね! むい、これ好きーっ」

「ふふん。トーゼンでしょ。それはパパのお友達のケーキ屋さんから……って、あんたねぇ。ほっぺにクリームついてるわよ」

「きゃははっ、くすぐったいよぅ」

「ジッとしてなさいよ、もう!」


 第2位にゴシゴシと拭いてもらい、笑顔ではしゃぐむい。

 なんなのでしょうこの気持ち……まるでBEO2にのめり込む前に見た光景のような――

 わたくしと、むい。そしてにことこんな日々を送っていたはずなのに。


「あれ? 歌雨ちゃんどうしたの?」


 心配気にわたくしの顔を覗き込んでくるむいに、


「……前の喋り方に戻ってますわよ、むい」

「あっ! ご、ごめんなさい……です」


 しまったと言わんばかりに口を両手で塞ぎましたの。

 その仕草に思わず笑ってしまいましたわ。


「いえ、やっぱりその方がむいらしくて良いですわ」

「歌雨ちゃん……」

「だから、わたくしのこともあの頃のように呼んでくださらない?」


 その途端、むいの顔がパァっと花咲きましたの。


「うんっ、うん……っ! ななよちゃん!」

「ふふ。久しぶりですわね」

「ほんと、ななよちゃんて呼べるの久しぶりだね! えへへ、なんだか懐かしいなあ」

「わたくしもですわ……」


 きっと完璧なお嬢様という変な噂が一人歩きしたせいで、むいに変な遠慮が生まれてしまったのですわ。

 それに、そのときわたくしもBEO2に夢中になってお二人のことが見えなくなっていた――だからギクシャクしてしまったと思いますの。

 本当に嬉しそうな笑顔でわたくしを見るむいの手をそっと握って、


「ねぇ、むい……。こ、これからもわたくしと仲良くしてくださると、その、あの……う、嬉しいですのっ」

「あったり前だよっ! むい達はずっと、ず~っと仲良しだもんね!」


 ギュッと手を握り返されましたの。


「……ありがとうございますわ」


 なんだか照れくさいですわね。と、頬を赤くしながらむいの笑顔を見つめていると、


「あーのーさー。人の家で勝手にイチャイチャするのやめて欲しいんだケドっ」


 ぶすっとした表情で第2位が睨んでおりましたわ。

 って、イチャイチャ!? 変な表現はやめてくださいまし!

 

「えー!? むい達はずっと、ずっと仲良しだもん!」


 そうぷんすかと立ち上がるむいは続けてこう言いましたの。


「だよね、ミヤカ様っ!」


 差し出されるむいの左手に、唖然とするわたくし達。

 ――まったく。どうしてこの子はこう、いつもキラキラとして真っ直ぐなのでしょう……。


 反応に困ってるのでしょうか、見る見るうちに耳まで真っ赤になってしまっている第2位。

 しょうがねーですわね、と。わたくしは小さく笑ってむいの隣に立ちましたの。

 そして、


「むいの言うとおりですの! というか、わたくしはすでに貴女とはお友達のつもりで接してましたけど?」


 更に顔が赤くなる第2位。ふふっ。これは強引に連れてきた仕返しでもありますの。

 むいに倣って右手を差し出したところ、第2位はぐぬぬと怒ったような照れてるようなごちゃ混ぜの表情で立ち上がりましたの。


「あーもうっ! は、恥ずかしいやつらね……わかったってば」


 ぷいっと顔を背けながら、


「ほら、これでいいんでしょ!」


 と。むいの左手とわたくしの右手を握る第2位。


「これからもよろしくね、ミヤカ様!」

「よろしく、ですわ!」


 笑顔で言うわたくし達に、彼女はぼそりと呟きましたの。


「……ね、ねぇ。そういうのやめてよ」

「え?」

「その、様って呼ぶの……。あたしもちゃんと名前で呼ぶからさ」


 ま、まあ……なんて可愛らしいのでしょう!

 顔を見合わせたわたくし達は同時に、


「みやかちゃん!!」


 彼女の手を握ったままぶんぶんと大きく振って何度も呼びましたの。

 だって嬉しかったんですものっ!


「……う、うるさいわねこんな時間に大声でっ! ちょっとは静かにしなさいよ……な、ななよ、むい……」


 こういうのに慣れていないのでしょうか。

 つっかえながらわたくし達の名前を呼ぶ第2位――いえ、みやかについ微笑ましくなってしまいますわ。

 そして隣で無邪気に笑うむいをちらりと見て、こう思いましたの。


 ――やっぱりむいはこうでなくっちゃ。前向きで、一直線で、いつもわたくしを引っ張っていってくれる。

 たまに危なっかしいところもありますが、むいが笑っていればわたくしも楽しく笑えますの。

 そうですの。きっと、にこともすぐに仲直り出来るはずですわ!


◇◇◇


「そろそろテスト開始の時間ね。二人とも準備はいいかしら?」


 暗い部屋。お姫様のようなみやかのベッドの上で、わたくし達は三人で川の字になって寝そべっていました。

 左がわたくし、右がみやか。そして真ん中がむいですわ。

 それぞれVRゴーグルのようなゴテゴテしたものではなく、普通のメガネとヘッドホンを装着していますの。


「うん、準備万端! でも、来たときも言ったけど本当にメガネとヘッドホンだけでダイブ出来るのかなぁ」

「た、確かに不安ですわね……テストという響きもちょっぴり怖いのですわ」


 思わず手が震えてしまいましたの。

 すると、隣のむいがギュッとわたくしの手を握って、


「大丈夫。三人一緒だもん。へっちゃらだよっ! ね、みやかちゃん」

「案ずるより生むがなんとやらよ。それに第2位のあたしがいるんだもん、心配することなんてないわ。MRO……精一杯楽しむことだけ考えるのよ!」

「ええ、そうですわね。わかりましたの……みやか」

「うん、みやかちゃんっ」


 きっとわたくしのようにみやかの手も握っているのでしょう。


「……さあ、ダイブの時間よ」


 午後十九時ぴったり。メガネディスプレイにタイピングするように文字が映し出されてきました。


『_Are you ready?』


 ついに始まる大型VRMMOの新作《Music Rainbow Online》のβテスト。

 期待と不安の入り混じる中、いよいよわたくし達はダイブすることになりましたの。

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