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「……あっ。えっと、あのう、その」


 思わず固まってしまいましたわ。

 ど、どうしましょう、用と言いますか、ただお喋りがしたいだけなんですが……。

 あわあわと戸惑っていると、


「ななよ……」


 にこが小さな声でわたくしの名前を呼びましたの。

 久しぶりに呼ばれたものですから、


「にこっ!」


 嬉しくなってパッと顔をあげたのですが――


「……校則下校時間が迫っています。二人とも危ないですからお早めに帰宅してください。それでは、ごきげんよう」

(なる)?」

音無(ねむ)、わたし達も帰りますよ。お腹が空いてるんでしょう?」

「……肯定」


 と。お二人ともわたくしの横を通り過ぎて行ってしまいましたの……。


「ご、ごきげんよう……」


 振り返ることも出来ずにさようならの挨拶を交わすわたくし。

 絶対、絶対、嫌われちゃってますの!

 ううっ、学校カバンを持つ手が震えてしまってますわ……。


「なぁにあれ。少しくらい話聞いてあげればいいのにさー。そんなに下校時間が大切なのかしら。校則の鬼ってカンジね」


 スクッと立ち上がって肩をすくめる第2位。

 もしかしてわたくしのことを気遣って下さっているのでしょうか? 

 ――いえ、まさか。VRMMO内のキングとしては何度も会ってますが、こうして現実世界で会ってお話するのは昨日が初めてですし……気遣うハズないですわよね。


「おーい。歌雨さんってば、うーたーうー?」

「…………」


 ああ、どうしましょう。どうやってにこと仲直りをしたら……。

 あまりのショックに、何も言えずに俯いていますと、


「あーもう! 歌雨さん、ちょっと来て!」

「い、いきなりなんですの……? ああ、腕を引っ張らないでくださいましっ」

「お嬢様ぶってないで、いいから来なさい!!」

「ぶ、ぶってないですの、一応ちゃんとしたお嬢様ですのっ!」


 ◇◇◇


 あれよあれよという間に連れて来られたのは、とってもとってーも大きな豪邸の前でしたの。

 はぇ~。どんな悪いことをしたらこのような豪邸に住めるのでしょうか……。


「歌雨さん。あんた今どんな悪いことしたらこんな家を建てられるのよって考えてたでしょ」

「い、いえ、決してそのようなことは……!」


 この方、エスパーですの!?


「ふふっ。冗談よ、ジョーダン。ま、ちょっとここで待ってて」

「わ、わかりましたの」


 それにしても凄いゴージャスですわね。なんて口を開けたまま見上げていますと、


「ミヤカ様ぁ~、ごめぇん遅れちゃったぁ!」


 ゼーゼーと息を切らしながらむいが走ってきましたわ。

 背中には大きなリュックサックを背負っていますの。


「遅れちゃった~じゃないわよぅ。十分もあたしを待たせるだなんて良い度胸してるじゃ~ん?」

「ふぇええん、ごめんなさぁい。だってゴーグル忘れちゃったんだもぉん」

「もー。言い訳すんじゃないのっ」

「やめぇふぇよぉ~みひゃひゃ様ぁ」


 むいのほっぺを両手で掴んでムニムニする第2位。

 なんだかとっても楽しそうですの。いつの間にこのお二人こんなに仲良くなったのでしょう。

 少し羨ましいのですわ……ふと、にこと仲良かった時のことを思い出していると、


「ゴーグルはいいけど、肝心のメガネとヘッドホンはちゃんと持ってきたわよね?」

「うんっ、もちろんだよ! それにしてもあんなので本当にダイブ出来るのかなぁ」

「メガネとヘッドホン……お二人ともなんのことを言ってるんですの?」


 たまらずに訊いてみたところ、


「あれがないとβテストに参加出来ないんだよぅ……って、歌雨ちゃん!?」


 ビックリした様子でぴょいんと飛び跳ねるむい。

 同時にどういう仕組みか、ツインテールも逆立っていましたの。


「そんなに驚かれましても――」

「わー、歌雨ちゃん歌雨ちゃんーっ!! 私、絶対来てくれるって信じてたよっ!!」

「な、な、なんですの!?」

 

 急に抱きつかれたものですから、たまりませんわ。

 むいはわたくしの胸に顔を埋めながら、


「なんですのって、もう~知ってるクセにぃ。今から《Music Rainbow Online》のβテストに参加するんだよっ三人で!」

「ええー!? き、聞いておりませんわっ!」

「じゃあ、今言った。いいからあたし達と一緒にテストやるわよっ」

 

 腕を組みながらニヤニヤと言う第2位に、


「ず、ずるいのですわ! こんなの強引過ぎますのっ!」

「えーっ、せっかく来たんだから一緒に参加しようよ、歌雨ちゃん。三人一緒だったら怖くないよ、絶対楽しいよっ! だから、ダイブしよっ」

「そんなこと言われましても……あ、そ、そうですわ! わたくしそのメガネとやらもヘッドホンとやらも持ってきておりませんの。なので、残念ながらテストには参加出来ませんわ!」

「ええ~~!?」


 ぐいぐいと抱きしめてくるむいから必死に離れようとしたその時ですわ。

 わたくしのカバンが落ちて、その中から橙色のフレームのメガネと、橙色のヘッドホンが出てきましたの。

 さらにひょっこり出てきた手紙には、


「お姉ちゃんはななよちゃんの気持ち全部お見通しなのよぉん。ヴァーチャルアイドル、がんばってねんっ」

 

 と、実に腹立たしい丸文字で書かれていましたの……。

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