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すがぽん珍道中  作者: サビヒメ
9/16

すがぽん09 すがぽん、海人になる

船に上がると、乗組員たちが勢ぞろいしていた。

50mと小型の船(といってもキャラック船が活躍していたころの物では大型のものになる)の割に、甲板だけに30人ほど集まっていた。

これから接舷して船底掃除をするのに、必要な準備も終わり、休憩時間になっていたようだ。


甲板にいるクルーは多種多様な獣人や、エルフや、普通の人間もいたが、押しなべて全員肌が焼け、腕は太く、身長が180より上の者ばかりであった。


そのうえ、今の所全員女しかいないようである。


「ねぇ君なんの船に乗ってたの?海賊?」

「いつからあそこに漂流してたの?三日?三日ぐらい?」

「アンタの服装、なんだか貴族さんみたいだね!」

「ねぇもしかしてクルーになるの?よろしくね!」


だとか、一気にわぁわぁと質問攻めにされて四苦八苦していると、水夫長が手を振り待て待て。と声を掛ける。


「いったん落ち着けお前ら。まず接舷するからメインとマストに帆を張れ、それと無いとは思うが岩礁に気を付けるんだぞ!」


水夫長が怒鳴ると「アイアイサー」とそろって敬礼をし、各持ち場に散って行った。

なるほど、中々これで、錬度が高いらしい、商船とはいえ、やはり海の上、規律正しくゆかねば船は走らないのだろうか、等と納得した。


「取りあえずは船長に顔を見せに行くぞ」


付いて来い、と言われ、接岸準備で忙しく走り回るクルーをしり目に甲板後部の艦長室に向かう。


船の階層の呼び方は独特で、まず船の一番広い空気に触れている階層。ひとまずは今いるここが第一甲板、下に行くに連れて、第二、第三とよび、上に行く時には01、02と、0が先につくようになる。


帆船の中は外からみたずんぐりむっくりとした作りからは想像出来ないぐらい現代的であった。

木造作りなのにも関わらず、階下に降りるには階段には手すりがあるし、板は波目に刻みが入っており、滑りにくいようになっていた。

一見大したことないような事ではあるが、雨や波で足元が濡れると、思いのほか簡単に足が滑り、なおかつその天候の異常とともに、波は激しくなり、船の揺れも激しくなる。


つまり、足が濡れてる時は危ないときなのである。


ほかにも、がらんどうだと思っていた中は、船の両サイドに廊下があり、各部屋にはピタリと締まるであろう重そうな扉がしつらえてあった。

廊下も今は解放状態で固定されてあるが、10m置き位にドアが付けられている。

つまり、ダメージコントロールを重要に考えているのである。

他にも階段の下や部屋の隅、隔壁内毎に鉄兜がアイスクリームのコーンのように重ねてあった。

時代背景から見ると、絶対戦闘艦だよねこれ。


「おい、あんまりよそ見するなよ、鼻でも打って血を出したら、私が乱暴したように思われるじゃないか」


「あ、ああ、すみません」


・・・いやさっきアンタ俺のこと蹴ってたじゃん・・・。等と思ったが、怖いので大人しくついていく。


第二甲板に一度降り、艦尾の方に行き、また階段を上がる。


艦長室は第一甲板の最後尾にあった。


コンコン、と水夫長がノックし、連れてきたぞ。と言って中に入る。


中に入ると、狭いながらに赤い絨毯や、拵えの立派な机、奥にはステンドグラスの窓に、柔らかそうなソファーがあり、壁には世界地図と鳶の羽が付いた帽子が。中々にお洒落であった。


ソファーには髪は藍色犬の様な耳があり、目は真紅切れ長で、青を基調とした服を着た、小さい女の子が座っていた。

テーブルの上の羅針盤と何やら細かく書き込まれた海図から顔を上げる。


「その青年が浜に打ちあがってたヤツか?」


そういうと少女は立ち上がり、タバコに火をつけながらこちらに近づいてくる。


「あ、ああ、カイリ。コイツは無人島に流れ着いても生きていて、おそらく精霊の加護持ちだ。体は小さいが男だし、水夫としても」


と、そこまで言ったところでカイリと呼ばれた少女が人差し指を差し、水夫長の言葉を切る。


「今、我々が置かれている状況をあまり理解していないようだな、お前は水夫長だろう、軽はずみに事を考えてもらっては困る。

まず、この海域はどこだ。グレードヘッドのおひざ元、いつ海賊に襲われてもおかしくない。

こいつが海賊でない可能性が無視しきれない。

しきれないが、まぁ、そうだな、それでももし違ったとすればサメのエサにするのは忍びない、よろしい、次の港までだ、そこで商館に引き渡し、陸で過ごしてもらおう。後、これは別件だが、とうとう歯茎が荒れてるやつらが出てきてる」


そこまで目を細めたまま一気に言い終えると、少女は長くタバコを下に吹き、こちらをみやる。


「なに、気を悪くしてくれるな漂流者。こちらも皆の命を預かる立場だ、ああは言ったが、歓迎しよう。ようこそ、島風へ。むさ苦しい女しかいないが、気に入ったらつまみ食ってもいいぞ」


と、ニヤニヤしながら少女が告げると、「そ、そういうことはいかんぞ!船の規律が乱れる!それにそういう事は長く相手を思ってからだなその・・・」等と、水夫長が顔を赤くしながら言っていた。

後半はごにょごにょ言っていてほとんど聞き取れなかったが。


まぁ、なんだ、一応歓迎、されてるのかな?よくわからんが命がつながったとだけ考えておこう。


「えと、その、支払える物種もありませんが、しばらくご厄介になります。菅谷修平です、よろしくお願いします」


「なんだ、礼儀がしっかりしてるんだな、余程育ちがいいと見える。この辺で難破したのか、、他に助かった者は居なかったようだな・・・」


「では船長に漂流者の引き上げ滞在及び小姓の許可を頂けたので、引き続き接岸準備に取り掛かります」


少し気まずい雰囲気が流れたが、それを切るように水夫長が姿勢を正してやや硬く言い、回れ右をして部屋を出ていく。


船長と呼ばれた少女は少しだけ表情が少女の表情が曇るが、こちらに向き直り、耳元に顔を寄せて小声で話しかけてきた。


「水夫長は堅物だが、面倒見がいい、取りあえずあいつの言うこと聞いてればどうにかなる。見たところ船仕事はしたことがないようだが・・・、まぁ、1年も経てばいっぱしになるさ。

・・・さ、水夫長がドアの向こうで待ってるから早く行ってやれ」


そういって俺の肩を軽く叩きドアへと誘われた。


ドアを抜け、失礼しました、というと、中から「あーいーよそういうの、頑張れよー」と気の抜けた声が返ってきた。


ドアの横で水夫長がいささか憮然とした表情で腕を組んで待っていた。


「…まぁお前が海賊ではないのは手を見ればわかるが、先ほど船長が言っていたようにこの海域には海賊が居る。

だから、ピリピリしているのは確かだ。

だが、誤解の無いように言っておきたいのだが、陸に無理に降りる必要はないんだぞ?

ただ、船勤務はこれで中々厳しいし、時には命の危険がある。だから、覚悟がないのであれば船乗りを続けるのは難しいだろう、だからああいっただけであって、君を拒絶しているわけではないことを理解して欲しい」


「へ、えへぇ、ありがとうございます」


少し困りながら言う水夫長が少しかわいく見えてしまって、少々どもりながら返事をする。


「では甲板に出よう、みんな作業してるから、見ながら仕事を覚えるといい」

水夫長の後について来た道を戻る。


つまりは、単に俺のことを心配してくれていたようだ。なんか言い方がいちいち怖いから何なのかと思っちゃったよ。

一先ずは陸まで乗って、それから考えるとしよう。

まだまだこの世界のことも分からないし、もしかしたら船に乗ってるほうが安全かもしれないしな。

俺たちの旅はまだ始まったばかりだってか、やめろ、そんな打ち切りみたいなこというんじゃない。


甲板に戻ると、大きな横帆はやんわりとした風をはらみ、船はゆっくりと島に向かって進んでいた。


「水夫長!もうすぐ浜の中心部に到着します!」


「了解!バウスプリット畳め!上陸用意!」


「「「アイアイサー!」」」


流れるように水夫長が支持をだし、数人の獣人がカッターと呼ばれる小型のボートに乗り付け、下に降りる。


前甲板の方に行ってみると、なるほど、思ったより近くに来ていて、後200m程度で俺の島に着くようだ。

しかし思っていた情景とは違い、島が水没していた。


思い返してみても、地下から上にあがるとき、如何に海が湿気ていようとも、嵐が吹こうとも、すごい竜巻みたいなのがあっても、水没などはしたことがなかったように思っていたのだが、


「君が居た時にはヤシが生えていただろう?あれは精霊で、ある程度潮の高さなどを変えることが出来る。だから君は海に漂わずいられたわけだ。精霊にちゃんとお礼いっておけよ?」


不思議に思って横にいた水夫長に聞いてみようと思ったが、先に説明をしてくれた。やっぱりこいつがエスパーです。


「よーし、帆畳め!錨下ろせ!荷物が下ろし終わったら潮が引くまで休憩だ!」


どうやらここで塩が引くのを待つらしい。つまるところ、満潮で近づいて、干潮で船底を晒しての掃除が始まるものと思われる。


文献では船底のフジツボを落とすのに、焼いたり、こそいだり、タールを塗って補強をしたりするらしいのだが、実際に見るのはこれが初めてである。

これから行われる作業に少しだけ期待しながら作業を見つめる。


作業としては、下の作業で使いそうなもの下ろしたり、をだんだんと干上がってきた砂浜で足場になる梯子を組み立てたりだ。


自分も下に降りて作業を手伝おうとするのだが、船の中には思いのほか人が居て、むしろ作業してる者よりもしゃべりながら作業を見てる者の方が多かった。


船の乗員がすべて降りてくると、どこにこんなに入っていたのだろうというほど人がいた。総勢で92人いるという。

女三人寄れば姦しいとは言ったものだが、荷卸しもそんなに多くはなく、みんなそれぞれおしゃべりに興じていた。


そんなこんなで完全に船が横倒しになるまで潮が上がると、いよいよ船底掃除である。


船に乗ってる間は全然わからなかったが、船底は木製だけあってビッシリフジツボやら藻やらなにか棒みたいな虫やらがついていた。

すごく生臭いし正直触りたくない。と思っていたら水夫長が「ほら、このヘラでゴリゴリすると取れる。まずやってみろ」と、鉄製のヘラを貸してくれた。


やるのかー・・・。


見ていてもしょうがないのでゴリゴリとし始める。

しかしこのフジツボ、10cmまで大きくなっており、中々取れない。

見ていると簡単そうなのだが、案外フジツボが木にしっかり食い込んでおり、かなり力を入れているのだが中々とれない。


どうやったら剥がれるのか…と、ぐりぐりとやっていると、割と小柄な(170cm程度の)赤髪のエルフが近づいてきた。


「おお~?やってるねぇ漂流者あらため、新人くん」


「あ、どもども、なかなかこれ取れませんね」


「これはね~、この根元のところに歯を入れてぇ~、コンって叩くとほら、簡単に取れるよ~。あと、この後浜で焼いて食べるから、あそこの集積所にもっていってね」


等と教えてくれた。

根元に歯を入れて、後ろからコン、お、ほんとだ、赤エルフ先輩すげぇ。

暑い中で労働をして、こんな時はビールに枝豆だよな。


そして、フジツボの下からたまねぎが出てきた。


ええー、なんでフジツボの中から出てくるのー?

これ砂浜に生えるんじゃなかったのー?

もしかして、貝類なのか。等と考えながらコツコツと集積所に玉ねぎを積んでいった。


2時間程度で作業は終わり、後は宴会である。

船が走ってる間は何かと仕事があり、しっかり飲むことが出来ないのだ。

砂浜で投錨してあれば、あとは船にのってハンモックで寝てしまえば、特に座礁することもないし、ということで、宴会が始まった。


「「「「お疲れ様~~~~~」」」」」


長い航海というストレス環境下でに置かれる中で、地面に足をつけられることはうれしいのであろう。

先ほどは船長がむさ苦しい女達とは言っていたが、孤島で孤独を極めた俺には眼福であった。

まぁ、多少自分が縮んだような錯覚は覚えたが。


振る舞われた酒はラム酒で、やはり海路にはラム酒だな、と焼けたフジツボを一つもらい、食べてみる。


フジツボはやや硬く、カニと卵の間みたいな味がした。

塩味がつけられており、中々これは病みつきになる味である。


ひとりでぽつねんと酒をちびちびやっていると、先ほどの赤エルフ先輩がやってきた。


「ねーねー新人くんー、君名前なんての?」


「ああ、どうもどうも。僕は菅谷修平といいます」


「ふーん、アズマの出身なのかな?たまにそういう珍しい名前の人いるよねー」


それはそうと、と、先ほど俺がせっせと集めたたまねぎを取り出した。

ああ、そうか、玉ねぎも食べるよね。それからいよ。


「まぁでさでさ、これシュー君がとったんだって?フジツボの中から?レアなスキルだねー!ねぇねぇこれ食べれるの?」


と目をキラキラさせて聞いてくるので、「あ、ああ食べれますよ、ただ」生で食べるとすごく辛いですが。と続けようと思ったが、食べれますと聞いてすぐに赤エルフ先輩はシャクっと行った。


「あっえぐっ、あれ、おいしい…豆みたいな味がする…けど滲みる、目がうぐっ、おいしいうぐっ、しみるっうぐっ…」


そんなに泣いたら俺まで悲しくいや、風下でこっちにからさが飛んできた。

くっ俺まで泣きたくなってきた。

この赤エルフな・・・・・。


結局赤エルフ先輩はえづきながらも終始美味し言ってたべていた。

すごく辛そうに、そして俺ももらい泣きしながらも、お残しせずに最後まで。


途中で食べるのをやめられないのは、

やはりこの玉ねぎは呪われているのだろうか。


それにしてもスキルか、一応珍しいとは言ってもこういった技能がある。

むしろ、この玉ねぎが発生することは俺の技能、ということになるんだな。

これは後々の食糧調達に使えそうだ。と思案していると、赤エルフ先輩が目を真っ赤にしながら「なんで先に言ってくれなかったのー!」等と叫んでいた。


オレも目がからかったよ・・・。

言おうとしたんだがね、いるよね、あんまり話聞かないでノンブレーキしちゃうヤツ。


「いえ、それ生で食べると涙が止まらないんですが、加熱すると普通に食べられますよ」


「えっ、そうなんだ、ごめんね、話全部聞かなかった私が悪いよね、そっかそっか、焼くとオーケーなんだね、皆にいってくるー!」


などと言いながら元気に走っていく赤エルフ先輩。

後から追加のラム酒と焼けたたまねぎを持ってきてくれた。

なにこれほんとおいしいよ!とはしゃぎながら焼きたまねぎをかじる先輩を見つつ、

ほんといい先輩だなーなんて考えながら宴会の夜は更けていき、

最後のあたりで船長が、あぁ明日、メインマストの2番セイルとバウスプリットの柱とセイル補修ね、ごめん忘れてたわ。等と衝撃発言も途中であったが、やはりツマミがある酒呑みはいいなぁと思った。


一番のつまみはこの賑わいだわな、と独りごちて。


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