スガポン08 スガポン、鉢植えに切れる
読んでくれてありがとうございます。
「ぐごごごご」
「おい。起きろ」
「ぐがががが」
「起きろつってんだろこのスカタン!」
「おぎょぺっ」
突然の腹痛に訳が分からずゴロゴロと転がる。
おかしい、ヤシの実コールはもっと先の筈だ、崩壊寸前の巨大建築物をビニール紐でくみ上げていた筈なのだが、どうして今砂浜に居るんだろうか。
巨大建築物完成させたかった気持ちは置いておいて、今非常に異常な事態が発生している。
自分以外の人間がいるような気がするのだ。
しかも金髪巨乳で超絶美人のエルフときた。
おいおい、とうとう修平にもファンタジー来ちゃった?
俺は思う、ファンタジーとは実世界に異世界を夢想する事こそがファンタジーなのだと。
エルフとかまさにファンタジーだよね。
そうかそうか、俺、とうとう幻覚見えるようになっちゃったんだな。
などと考えていると、目の前のエルフが怪訝そうにこちらを見やって手を差し伸べてくる。
「よかった、お前、生きてるか?よく助かったな、とても運がいい・・・こんな何もない島で助かるなんて在りえないだろうに・・・」
「ええと、状況がちょっと良く分からないんだけど、どちらさん?」
助けに来てくれたのだろうか、即ち救助という行為はそれは俺のもっとも欲していたものなのだが、エルフが単身救助とは、夢見がちもいい所であると思う。
むしろ俺はとうとう長きにわたるストレス生活によって精神を病んでしまったのかと思い。
こんな幻想をぶち壊してやる、と、生きぎたなく握手を求めるふりをして胸に手を伸ばす。
きっとおれの幻想通りならそこにはやわらk
「ぷぎょらっ」
「おっと、手が滑ってしまった、そうか、呑まず食わずでこんな島にいたんだものな、憔悴して足がもつれたのだろう。どれ、船に行って食事をやろう、取りあえず落ち着いてから話を聞こうか」
はっ、夢か、この痛みが現実か。
蹲ってうめいていると、恐らく俺の腹を今しがた蹴ったであろうものの発言ではない言葉が聞こえてくる。
どうもこのエルフは本当にこの孤島に助けに来てくれたようであった。
この辺の順路を通り、交易をしている船に勤務しているらしい。
その途中、少し風の流れが弱く、いつもより潮に流された所、無人島に伏している俺を発見したそうだ。
あとこのエルフ、超でかい。2,5mぐらいある。俺より1メートルぐらい大きいわ。
エルフは森の人って、そんな設定よく見るけどさ、この人上腕二頭筋とか凄いんだぜ。
腹筋もシックスパックなんだぜ。
森の人は森の人でも、オランウータンっていうか、ゴリラだよね。
そんなのありかよ!!!などと心の中で突っ込むと、ゴリラもといエルフさんがちょっと軽く睨んできた。
水だ、と言われて水筒を受け取ると、少々生臭かったが、少し怖かったので大人しく飲んで返した。
怖いのでさっさと準備をしようと4畳半の端を見れば、3m程のカッター(小型船)が泊めてあった、どうやら本船から小舟をだして漕いできたようだ。
「忘れ物は無いか?」
「忘れ物かー・・・んーと、そうだね、ちょいとまってね、小道具がありますわ」
忘れ物と言われても、裸一貫、いや、服は着ていたが、大した物は持っていない。
せいぜいスコップとクワ、木槌と、あとふんどしだな。
取りあえず集めて、船に積む。
「こんなもんじゃない?ほかにはないと思うんだけど・・・」
「後ろのヤシの木とプランターはお前のじゃないのか?」
そういわれて思い出した。
この島を出るとき、そう、俺はこの木を伐採すると決めたことを。
それと、5年越しでようやくにも目が出た可愛い可愛いトマトのプランターがあることを。
何故忘れていたのだろう。最早俺の生きる目的にすらなりかけていたのに。
後を見やってみると、そこにはプランターに植わった小さなヤシの木が。
トマトの苗は無くなっていた。
「ひぇ?!とっ、トマトオオオオオオオオオ!
俺のトマトを俺のトマトをてめぇ!!!」
俺の中を殺意の暴風が吹きすさぶ。
どこまで行ってもこのヤシの木は俺の邪魔をするんだ、今やらなければいつやるんだ。
「いまでぷぎょっ」
「やめておけ」
いきなり首根っこを捕まえられて変な声を出してしまった。
「何もない所とは言ったが、お前恐らくその木の実を食べたんじゃないか?」
いきなりエスパーな事を言い始めるおっきいエルフさん。
「それなら、君はそのドリアードの加護を受けていると思うんだが・・・、悪戯をされたのかもしれんが、その木に感謝こそすれど、危害を加えるのはかわいそうだと思うんだが?」
等とニヤニヤしながら言われた。
ヤシの木だとヤシの実をぶつけられるのはどうやら広く知られる物らしい。
まぁ、そうだよな。
なんだかんだと言ってこのヤシの木にはこの世界で5年、元の世界で言えば7年もの間毎日毎日エサを与えられていたわけだし、むしろもう保護者と言っても過言じゃない。
それに、この島で生きてるものと言えば、俺以外にはコイツだけだった。
自販機に語り掛けてるとはいっても、本当はヤシの木にヤシの実のお礼として聞かせていたのもあったのはあったんだ。
色々と思う所はあるが、素直にここは連れて行こう。
旅は道連れ世は情けってな。
ひとまず納得し、ヤシの木も船に乗せる。
となれば後は本船へと向かうだけである。
「よし、じゃあ準備完了だな、出発するぞ」
といって漕ぎ出すエルフさん。
櫂がギシリ、ギシリと軋みながら段々と船足が早くなっていく。
ここにきて5年か、突拍子もない形で終わりを迎えたが、そもそもが自分で脱出するなんて考えてもみなかったのは何故なんだろう。
ふと後ろを見ると、凸の形をした変な島。
前はヤシの木が在ったのに、それが無いだけで随分と何もない島に見える。
なんとなくセンチメンタルな気分になった俺は、あばよ、もう会うこともねぇだろうがな。
なんて小さく呟いたが、果たしてこれはフラグなんじゃないかと少々後悔した。
どんぶらこと揺られながら2~3この世界の事を聞いてみると、
大陸は大体地球と同じようなもので、
現時点を中心に、北西に北セントガーデン大陸、
その南に南セントガーデン大陸、
北東に北セイクリッド大陸、
南に南セイクリッド大陸。
そして、中央やや南にグレードヘッド大陸というものがあるらしい。
彼女の所属する国家は、北セントガーデン大陸に近い群島の、アズマという国らしい。
アズマという国は、もともとは海運会社が開拓し、支社としての町を起こした島であった。
世界各国をまたにかけての海運業で、資産が増加し、国家アズマとして起こった新興国であるが、その海運業は世界の8割を担い、金にものを言わせて全ての国と同盟を結んでいる。
海運国家アズマに対しては戦争は挑まれないが、それでも世界平和とはいかず、海賊もおり、反政府組織対国家や、小規模の国家間戦争は行われているようである。
今いるのはグレードヘッド大陸手前の群島がある海域で、温暖な地域らしい。
北セントガーデン大陸からグレードヘッド大陸に向かう途中で船のメンテをするために砂浜を探していたところだったという。
船がメンテといえば、ドックに入って水を抜いて。といった状況を思い浮かべるだろうが、実際湾口でそのような大工事が出来るようになったのは近代で、大航海時代の頃は手動で浜に引き上げ、修理を行っていた。
木造帆船は長期航海が出来るようにはなったものの、航海を続けていくとどうしても船艇に貝や藻がはったり、甲板やマスト、帆が傷んだり、大抵船足が落ちる要因が増えていく。
ともあれ、定期的に島に上がってメンテナンスを行わなければ長期航海は行えないのである。
船というのは思いのほか遅く、そして大きな船は浅瀬には行けない。
ひとたび座礁すればちょっとした穴から沈没にもつながる。
なので、基本的に何か見つけたらすぐ接岸、ではなく、小型のボートで偵察してから、おおよそ調査が終わった後に本船の接岸へと移行する。
案外ちょっと移動するにも時間がかかるのである。
浅瀬には大きな船は近寄れないし、大きな船でないと大陸間航行も出来ない。
大きな船には当然多くの人が必要で、なおかつ一番の問題は、ある程度以上になると木材の梁に求められる強度がぐんと上がるので、建設コストが大幅に上がってしまう事だろう。
現代の様に機械文明というものが確立されていない時代では、木を切り倒すにも一苦労、大きなパーツをくみ上げるのにも一苦労、となれば、大型艦建造の大変さは今の比ではない。
例えば、現代の船は30m程度のクルーザー等が個人資産で所有することができ、大きな船、タンカーや空母などは300m超の物もある。
だが、大航海時代の平均的な船の大きさは、公的な船であっても30mから60m程度であった。
形としては全長と全幅の差は3:1と、大分どんぐりのような姿をしたものが多かった。
程なくして本船が見えてくる。
大きさは長さ50メートル程だろうか、
ずんぐりむっくり、2階建てで、帆が3本。
船首の望楼があるのであれはキャラック船に近いものだろうか。
キャラック船と呼ばれる輸送船は、大航海時代のはしり、14世紀ごろに登場した船で、フォア、メイン、ミズンの三本のマストを備えた。
フォアマストとメインマストの二本に横帆を、ミズンマストに三角帆を備えた。
ずんぐりとした船体を採用したことで乗員、物資、貨物を運ぶための豊富なスペースを確保でき、貿易船として都合がよく、貨物と物資の積載能力が高かったため、長い期間航行できた。
縦帆の船は向かい風を得意とし、横帆の船は追い風を得意としたが、
キャラック船は横帆縦帆の組み合わせで、
風に対して適切な角度を選択する柔軟性が高く、
船尾と船首につけた帆は回頭性の向上に寄与し、
三角帆は逆風状態での航行を可能にした。
この優れた積載量や航行性能により、大航海時代のスタンダードとなったのである。
それに加え、高さを得ることで小型船からの攻撃に強く、乗組員たちに与えた安心感は計り知れないと言われる。
しかし、その利点に対しての難点として、高さがあるために横からの強い風で転覆する可能性があるのが難点ではあるが。
「アレが私達の船、アズマの商団に所属する、新鋭巡航商船【島風改2】だ」
「ブッ、はっ?!えっ?」
いきなり横文字、ではなく縦文字が出てきて拭いてしまった。
しかも何故か帝国海軍の高速試験型駆逐艦である。
いや、高速でもなさそうだし駆逐艦でもなさそうなんだが、っていうかそのネーミングセンス誰が付けた。
もしかして聞き違いなんじゃないだろうか。
こんな金髪巨乳エルフが島風に乗ってるとか冗談にもほどがあるだろう。
「なんだ、いきなり面白い顔をして。アレが私たちの島風改2だ」
「し、島風?」
「そうだ、良い名前だろう、そしてカッコいいだろう。従来の横帆につけ、ミズンマストの三角帆で向かい風でも巡航出来る」
どうやら聞き違いではないらしい。
「そ、それは知ってるけどそうじゃなくてだね、あの・・」
「ほう、中々博識なのだな、では改2についてだが、改1ではスクープ弁からの水圧出力機構により艦内空気循環と、ドレンポンプが、改2では船首から油を噴射し戦うことができる火砲が」
「ちょっ!えっとそれ軍艦じゃねぇか!!」
突拍子の無い話に思わず話に割り込んでしまった。
なんで商船なのに火砲ついてんだよ、ローマ海軍かよ、てかえっと、いやさ、まぁずっと思ってたけどこのエルフさん森の人ってかむしろ海賊のほうが絶対にあってるよな・・・。
「ん?違うぞ、アズマは軍艦などは持っていないが、海賊が稀に出るからな、その為の装備だ。それに、火砲は積んであるが吹き出す油が高価だし、使うことも無いので真水が積んである」
あ、だめだ、きっとなんかこれはフラグなんだ。
武器積んであるけど使えないっていう前提から入る何かアレがあるんだきっと。
等と暗雲吹きすさぶ未来を想像している間に船の横に到着した。
「水夫長が帰って来たぞー!」
「浜どうでしたかー!」
「おーい、引上げ準備はやくしろよー!」
「あ!あれ、生きてたんだ!生存者ありー!」
等と甲板からは騒がしい声が聞こえ、カッターにロープが下りてくる。
水夫長と呼ばれたエルフが船尾と船首にロープを結え、船上へと引き上げられる。
「うーん、只今みんな、浜は使えそうだと船長に伝えてくれ、あと、小僧を一匹拾ったから小姓にしたいことと、あーなんだ、まず皆に紹介するか。」
と、一しきり言い終えた後で、俺の横に立つ。
「こいつはガイアの加護を受けてる。縁起担ぎには丁度いいだろう、みんな、歓迎してやってくれ。そうだ、お前名は何と言う」
縁起担ぎだとかガイアの加護だとか、良く分からないことを言われ、一瞬戸惑ったが、取りあえず名はなのならければね、助けて頂いたわけだし。
「え、僕ですか、僕は菅谷修平と申します」
思えばこれが、俺の大後悔時代の幕開けであった。