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すがぽん珍道中  作者: サビヒメ
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スガポン07 すがぽん、ガイアを開く

「あいつぁダメだ、全然怖がらねぇや、家賃なんていらねっつっちまったから、俺と二人で店賃だそう「ふざけるな馬鹿野郎、がま口なんか置いていかなかったのか?」


「さっきのがま口持っていきやがったあの野郎」


背筋をぴっと伸ばしてお辞儀をする。


「お化け長屋というお話でした」


評価点

<文化点      0点>

<まくら      4点>

<調子       3点>

<間        4点>

<盛り       1点>

<振り       3点>

<おち       0点>

<合計15p>

<評価、2段目末席>


「うーん、やっぱこの話は落ちが難しいなぁ。そもそも尻切れトンボだからな、何か面白い締めにしたい所なんだけどなー・・・」


あれから5年がたった。


ひとまず菅谷屋をお開きにし、恒例の作業のために、水のタンクを持って上に上がる。


「ふんふん、大分伸びてきたな~、よしよし、お水ですよ~」


最近は晴れが多い。

外に設置したプランターに水をやる。


こう晴れやかな日は畑仕事にも精が出るというものである。

畑仕事というには小さすぎる、ただのプランターなのであるが。


この島に来た当初は、雨が降る時期だとか、やや寒くなる時期だとか、つまりは暦がわからなかったわけだが、ここのところつけいてる気温、天候記録により、おおよその雨季と乾季があることが分かった。


雨季もだいたい年の真ん中にあり、それは梅雨時期といってよいものだと思う。

温度計による気温観測によれば、この島の気温は摂氏25度から40度程度の間で動くようだ。

さすがに紙の雪をヤシの木の上から降らして演劇をしようとは思わないが。



それはさておき、年間の季節の移行から察するに、一年は大よそ500日程度のもののようだ。

一年が五〇〇日だと暦はどうなるのだろうか、やはり一か月三〇日で一六か月程度になるのであろうか。

しかしひと月というように、一か月というのは月の満ち欠けによってきまっているものである。


この島から見えるものといえば、月の10倍ぐらいはありそうなものが昼とかよるとかに見える。

年の半分に向けて、ゆっくりと満ち欠けをしていて、これをひと月とするには長すぎる。


2か月では余り月で分ける意味が無いだろう。

そうして、30日をひと月にしてみる。

それだと16か月ぐらいになってしまう。


異世界ではあるのだが、10月で夏本番というのは、誰に話すわけでもないのだが、少しこう、違和感がぬぐいきれないのであった。


「うーん、取りあえず五〇〇日を一二か月に当てはめて、ひと月四〇日ぐらいで落ち着けとくか」


因みに満潮と干潮もない。

不思議な世界である。


今は12か月でいえば五月の半ば、ミニトマトの植え付けにはちょうど良い時期に当たる。

二か月もすれば収穫できるはずだ。


種は5日程度で芽が出始め、現在10cm程度まで伸びている。

朝晩2回水をやるのが近頃のブームである。


この塩水を被るといけないので、ヤシの木の1m程のところにヤシの葉を加工した台を取り付けてあり、そこに設置している。


地面には植えないのかと思うだろうが、それではだめだったのだ。

思えばここまで長かった・・・。



自動販売機に作物をリクエストしたところ、人参一本で100p程度、スイカやフルーツになると1000ポイントまでつくものもあった。

たまねぎだけは格安だが、玉ねぎはこの砂浜にいくらでも埋まっているので要らないのである。

何度も自動販売機の取り出し口に玉ねぎを突っ込み、ポイント還元を図ってみたが、何度目かに表示板に怒られた。



さて、作物が何故にこんなに高いのか。

やはり生活上必要なものから離れるほど高いというのはわかるのだが、

むしろ、それよりも人気があるものほど高値を付けているようにも思う。


思えばこの販売機から出てくるものは、ポイント如何や品物の種類はさておき、押しなべて高品質であることから、嗜好品の類はさらに甘さや風味なども一級品なのではないかとうかがえる。


少なくとも、今まで飲んだ酒でもそれは肯定されている。

単なるVSOPでも今まで飲んだどのVSOPよりも香りの完成度が高かったように思う。

まぁ、常用酒は今でも調理酒であるのだが。


今となってはサルミアッキの味も、少しエキゾチックな民族酒のように感じ、むしろいい酒よりも少し落ち着く味に感じるまでは教育されてしまった。

しかし飲み明けが一番楽なのが調理酒なのである。たんなる安かろう悪かろうでは無いと、今では胸を張って言える。



ここに住まいを設けてから、結構早めに農作に手をだした。

しかし、南海孤島の砂浜は、想像も絶するほど農作に適していない土地だと、すぐに知らされたのである。


まず種を買い、砂浜に植えては芽は出てこず、苗を植えても塩水で枯れた。

真水をかけても苗が溶ける状況は好転せず、それだけで1年目が過ぎた。

もはやあきらめてもいいのではないかとも思ったのだが、どうにかしてここに田畑を築きたい。


ヤシの木以外の作物を作りたかったのである。


1年過ぎて一日平均取得ポイントが30ポイントを超え、ちょいちょいと酒を買っても貯蓄ができるようになってきた。

がしかし外の世界に出るためのキーを取得するための貯蓄も行いたいとのことで、1日に使えるポイントを暫定として10ポイントにした。


10ポイントでも、コンクリートや木材の部材が1m程度の大きさのものが買えるのである。

これは世紀の大発見であった。


それに一度に大量の部材があっても、自分ひとりでは大した工事もできやしない。

コンクリート柱とコンクリート板で砂浜を一段上げて、海水に直接触れないようにした。


これにより、海水が砂浜にしみこむことがなく、砂浜でも何か育成できるかともったのだが、結局地質の改善が行われていないようで、大した変化はなった。

つまり失敗である。



次に地質改善を行った。


まずはおが屑と砂をまぜ、土になるようによく耕した。

いずれは土になると思うのだが、塩害の影響は無視できないだろう。


まずは海抜が2m程度まで上がるように、建築を進める必要があった。

幾度も工事を繰り返し、見た目は凸の上の部分にヤシの木が生え、1段目、2段目と土の作成が行われた。


おが屑を砂に混ぜるようになって、取れるたまねぎがやや大きくなったように思う。

しかしあらゆる苗が根付かない。



この時に気が付いたのだが、現在一段1m、凸型のこの島の海抜は2mで、ちょっと盛り上がってきたのだが、ヤシの木も戸板も地面に合わせて上に伸びている。

戸板を開けて降りるハシゴの長さは変わらないのだが。


それと、とうとうヤシのてっぺんまでヤシの葉で作った足かけができ、一番上まで登れるようになった。

案外とヤシの木は丈夫で、俺が一番上に上ってもあまりぐらつかなかった。

パイレーツオブカリ○アンでは凄いうねんうねんしていたのだが。


以前は高所恐怖症の気があったのだが、あまりにも固定位置に住みすぎたせいで、高い所に上るのはとても楽しく感じた。


そして、ヤシの木に登って直接ヤシの実を取ろうとしたのだが、ヤシのてっぺん近くになると、瞬きをした瞬間に無くなるのである。


忽然と。


諦めて戻ると、またついてる。


登ると消える。


2回しか繰り返していないが、恐らくこの木がそうさせてくれないのだろと思い、疲れたので木の上でしばらく休んで降りた。

この木の上に登れば結構遠くまで見渡せるのだが、何も伺えなかった所から、ここは本当に孤島なのだなと思い知らされた。



さて、土壌の改善が、現段階の行える工事ではとても作物が取れる環境まで至れないことが判明したというわけだ。


何しろ海岸の砂だからね、もう煮だせば塩取れるレベルですよ。そりゃね。


であるなら、発想の転換期に来ているのであろう、と、今年の正月に気が付いたわけである。


土壌が直せないなら作ればいいじゃない。


マリー○ントワネットさんは民衆に言ったとき、民衆にはすでに小麦が無かったが、俺にはポイントと自動販売機がある。


後はあと一歩で何かできる確信があった。


さてはてどうしたものか。


水耕栽培では200個ものトマトが成る大きな木に育成出来るだとか、

帝国海軍の潜水艦の床ではモヤシを生やしていただとか。

モヤシもそれで、ビタミンが豊富なので壊血病の解決策にも効果的である。


壊血病とは、ビタミンCの不足で起こる病気で、まず歯茎がぐらぐらし、ついで粘膜からの出血、つまりは鼻血とかだな。

それについで脱力感や鈍痛に襲われ、やがて死亡する。

バスコダガマの船でも半分以上が壊血病で死亡したといわれる。

壊血病は陸でも起きる、偏った食生活、むしろ野菜を摂取しないとビタミンが取りにくいので、兵站の異常で、容易に起きるのである。


俺はまぁ、ヤシの実食べてるからな・・・まぁ、今死んでないという事でオールクリアという事にしておこう。


この恐ろしい船での病気であるが、実際に有効な解決策を導き出せたのは19世紀のイギリス海軍で、15世紀から17世紀の大航海時代では謎の呪いとして認識され、多数の死者を出している。


船と言えばワンピースのふねではオレンジが甲板で植えられていたが、甲板ではすぐに塩害が出てしまうのではないか、と思ったが、実際土を露出させる必要はなく、土には屋根を被せ、水は真水を与えれば問題ないのではないか、それならば有効であるな。

などと考えた挙句に出てきたのが、プランターであった。



プランター栽培とは、農地で行う農耕が基本であった近代までからの常識を一気に覆した存在である。


本来地面でなければ育たなかったところを、土を軽く持った鉢植えで育てることにより、あらゆる場所で作物を育てることが出来るようになったのである。


地味すぎて凄さが分からないと思うが、本来畑とレストランは別の場所にあるのが当たり前だが、

ビルの中の飲食店の、蛍光灯で照らしてある棚の中にサラダの畑を陳列し、注文を受けてから採取し、調理を出来るのである。


野菜版のイケスだな、簡単に言えば。


プランターであれば地質改善は必要ない。おが屑を買って、それを腐らせればいいのである。

おが屑のほかの肥料は俺からもでる。


そう、もう農業の為にはなりふり構っていられないのだ。


そうして、堆肥が土となり、無事トマトの芽が出てくれた。


もう感無量の大喝采である。


1日2回、朝晩に水を上げるだけの作業がこんなにも楽しいことだと気が付けたのは、わが人生の中のハッピーイベントでも上位に上るであろう。


生めよ増やせよ、トマト食わせろ。


2か月後が楽しみでしょうがない。

潮風に負けなければよいのだが。




さて、昨今一日平均取得ポイントも、50ポイントまで取れるようになった。


落語評価も前座などからは脱し、二つ目まで上った。

もう朝早くいって仕事場に行き、軽い掃除をし、お茶を沸かし、朝飯を作り、先輩のお世話をしなくていい階級である。むしろお世話される階級と言ってもいい。

がしかし俺にお世話する先輩がいなかったのは言うまでもない。


ここまで評価が上がった理由については二つほど思い当たる節がある。


やはり覚えているレパートリーというものが少なく、40本程の落語と、練習の幅が少ないことで習熟度が上がりやすいからではないのかと思うのとがまず一つ。


この島にいるとほかの人との会話がない、がしかし人間一人では会話をすることができないが、ここが落語の真骨頂。


落語は俺一人の中に役者が居る。

一言でいうなら、落語は生きているのである。


さっきやったお化け長屋という噺がある。


その噺では、家を借りたい青年二人と、古だぬきと呼ばれる大家が居る。

大家は実は大矢ではなく、隣人であったのだが、物置に使っており、誰かに借りられると物置に使えない。

であるからして、新規人員を脅かして、定住ウィ内容に試みる。

怪談をしてみた結果大分いい成績を残しており、これからも同じ調子でごまかして行けそうだなと思っていた。


この噺のメインとなる部分は、借りに来る二人の青年と、大家の掛け合いと、二人の青年でまるで違う掛け合いで、大家の態度が如実に変わるところにある。


借りに来た一人目の青年は、気弱で会談を聞くと恐れをなして帰ってしまう。

その青年が友達にその話を伝え、格安で家を借りられると聞くと、早速古だぬきの元へと勇んでいく。

威勢のいい青年は大家の話を聞いてもおびえず、笑い飛ばしながら話を聞く。という処だ。


大家と店子の掛け合いの中で配役はきまっているのだが、そこから先のセリフは、当人同士が配役だけを携えて、相手に意志を伝えるときに、その時その時に言葉を選ぶ。


ここが生きている話だと思える所以である。


昨日思いつていないことがあったり、忘れたことがあったりすれば、会話の中身が変わってくる、表現方法も、一つ二つ三つと違い、そうすると受け手側の反応も変わる。


余談ではあるが、やはりそこが生きてる噺の悪いところか、噛んじゃったり、説明っぽい話になると、評価も下がってしまう。

まぁ、点数見る前に自分でわかるがゆえに、さらに気分も滅入っていき、そんなときは点数は最悪だ。

人間一度躓くとずるずると行ってしまうものだ。


しかし、そのよく出来たり、できなかったりもまた楽しみの一つであると思う。

この、自分で仕掛けているのにも関わらず、楽しいと思えるところが、二つ目である。



ポイントと言えば、先だってとうとう目的のものが出てきた。


聞いて驚いてほしい。

もう俺自身出来るとは思えなかった。


此れこそがここを出るためのカギになるであろう一品なのであると確信している。


「じゃじゃーん。5年の貯蓄で10万ポイント、思えば長かった、長い話はよそう。みてくれ、最新式のKOKUYOの電子辞書」


これで如何なる言語の人に助けられても意思疎通ができる。


暇な時間・・・と言っても、落語の推敲で一日は終わるのだが・・・、まぁ、語学を覚えるのには十分な時間はある。


取りあえず、習得人数が多い広東語、インド語、英語の基本単語を覚えておこうと思う。


あとこれ、広辞苑とかちょっとした小説とかまで付いてるらしく、まだ電源は入れていないが凄く楽しみである。


まぁ、今日はこれを弄りながら酒を飲んで寝よう。と、思った所にヤシの実が落ちてきた。


「あがががががが」


お約束というやつではあるが、今日は許せそうな気がした。

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