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すがぽん珍道中  作者: サビヒメ
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スガポン06 すがぽん、潮干狩る


「ぐごごごご。」


吾輩は菅谷修平、現在絶賛昼寝中である。

最近の流行は畳の上で箱に足をのせ、ヤシの葉で編んだ籠マクラで昼寝をすることである。


一見暇人フーテンのように見えるが、こう見えてよく働く。

ここのところ一日の休みも取らずに毎日落語の席を設け、落語館菅谷屋を一人で切り盛りしているのである。


客はいないのが玉に瑕だが。


需給の関係から昼飯が取れないので、昼休み、中入りと称しては、しばしば昼寝を貪るのである。


そう、ここは南海孤島にして、故は知らぬが俺は監禁されていた。

しかし暮らしは悠々自適、便利なものは少ないが、どうしてこれで俺だけの為に設えられた、俺だけのステージだと思えば気楽なものである。


我は覇者、故に我あり。


「んが」


昼寝がさめて、ぼちぼちしたら午後の高座に立とうかな、と思ったところで一つ閃いた。


海の中には魚の一匹もいやしなかったが、砂の中なら貝の一つも在るんじゃないか。

そんな思いを胸に秘め、億劫ながらも、のろのろと戸板の上に登ってみる。


青い空に白い砂、手の染まるような藍の海に痛いヤシ。

やはり外に出ると空気が違うな、一つ深呼吸をして、さほど広くもない島の、さほど広くもない砂浜へと座り込む。


「さーて、なんか埋まってるっかなーっと」


ポイントで買った子供用のスコップで掘り返してみる。

15㎝程掘ったところで手ごたえを感じる。


「おっ!えっまじか!きちゃったのー?もしかして俺、また当たりひいちゃったー?」


等と、獲物が見つかり気色満面、大事な子を愛おしむようにそれを堀り上げる。

とはいえ、ここに来てから引いたもの、大体外れクジばかり。

鬼が出るか蛇がでるか。


形は球体、色はオレンジの大きさは大体LL玉ねぎ程度のものだろう。

むしろ、玉ねぎであった。


砂浜に埋まっていたからか、とても磯の香りがする。


「えっ!?・・・玉ねぎ・・」


本来玉ねぎに問わず、砂浜では作物は育たないと思うのだが・・・。

新潟の海岸では砂吹雪を防ぐために3万本もの松の木を植えるなどして、砂浜の砂を内部に侵入させない等の対策を取ったうえで作物が取れるようになったなどの歴史がある。


つまり、この4畳半の砂浜の、しかも地中15cmという微妙な場所に玉ねぎが植わっていることは本来ありえない。


すなわちなんなのだろうか。

とりあえずいってみる。


シャリッ、シャリッシャリ・・・・


「生臭っ!」


とてもタマネギが醸し出していい風味ではなかった。

しかしとてもコクがあり、しいて言うなればアワビの味に酷似している。

アワビだと思えば香りも磯で、とてもおいしい玉ねぎであった。


がしかし、ツンと目に染みた。



久方ぶりのヤシと塩水以外の味覚に、泣きじゃくりながらも必死に食べる。


「うぐっ・・・うめぇ・・・うぐっ、懐かしいなぁうぐっ」


それにしてもこの玉ねぎは少し目に沁みすぎなんじゃあないかと思う。

涙が止まらない。旨いんだがね。


玉ねぎに含まれる目に沁みる成分は硫化アリルという。

それが揮発して目に刺激を与える。

硫化アリルには、目に沁みる以外の作用として、ビタミンB1の吸収を助けて、利尿発汗作用を助けたり、血液をサラサラにして、糖尿や高血圧などの病気の予防に適しているといわれている。


ただ辛いだけではないのである。


・・・まぁ、この玉ねぎの成分が硫化アリルなのか、そもそもこの球根が俺の知る玉ねぎであるのか。


現状として号泣に近い泣き方をしてる俺と、このアワビの味からして、恐らく、というか絶対に、同じものではないだろう。


食べ終わり、一心地ついてから、他にも何か埋まっているんじゃないだろうかと捜索を始める。


といっても、四畳半の島なので、少し横に移動する程度だが。

さてはて、玉ねぎは旨かった。

昼の小腹も満たせたし、久しぶりに思いっきり泣いて少しスッキリしたところで。

アワビの味はしていたが、久しぶりに食べ物を食べるという事について思い出すことが出来た。


誰とも話さないでいると、どうしても気がかりなこと以外を失念してしまう様に思う。

幸い、俺は毎日落語の高座に上がっているおかげで、日本語を忘れる事はなさそうである。


遠く昔、太平洋戦争で駆り出され、露助に捕まり木を切らされて、そのままロシアの人となったおじいさんが、日本語をあまり覚えていないという話を昔耳にしたことがある。


自分の母国の言語は忘れるはずがないと思っていた俺にとっては小さくとも衝撃的な事であった。

母国語すらも忘れてしまうなら、遠い記憶なんぞ、尚の事忘れてしまうだろう等と思うと少し寂しくなってきた。


久しぶりに日本の食事が食いたいなぁ。

うどんか寿司か牛丼か。いや、うん、蕎麦が食いたいな。


30cmほど離れたところで少し掘ったところ、やはり玉ねぎが見つかり、その日は頭にヤシがぶつかるまで玉ねぎを掘っていた。


ガッ


「あがががががが」


痛いなー・・・もっと平和的な解決方法は無いのだろうか。

このヤシの木には絶対意志があって、俺にぶつけているのは間違いない。

だってこの前10mぐらい離れた海の中に居たのに顔にぶつかるんだぜ?

無風状態で。


なにその無駄な努力。いや、確かにさ、落ちてきたときにソコに俺が居なかったら、もしかしたら海にながれて、夕餉にはありつけなかったかもしれない・・・けど、なぁ・・・ねぇ?


うーん・・・やはり俺はこの島に飼われているんじゃないだろうか。

頭を押さえ、つらつらと考えながら太陽の方を見ると、割と雲があったので早々に帰宅することにする。


この小屋の中も初めて来たときの閑散とした畳一枚土間一畳よりかは、幾分かは、マシになっていると思う。


まず手編みの枕でしょ、

布って頼んで出てきたタオルケットでしょ、

あとヤシの実のナベ(また作った)とヤシの葉の茎の所の燃料に出来そうなところだけを集めた薪束でしょ、

後は飲み散らかした酒瓶ぐらいか。


まぁ、うん、なんだ。

大して変わらない気もする。


土間の隅に掘り出した玉ねぎをきれいに積み上げ、数えてみると30個程になっていた。

順調に掘れたはいいものの、途中で飽きて海水浴をしていたので、時間の割に掘れなかったのであった。

さて、この玉ねぎ、掘り上げたはいいがどうしよう。

おやつとして食べようかどうか微妙なところである。


だって辛いんだもん。

後で手製の竃にくべてみようか。


玉葱はとても日持ちがいい野菜でもあるので、ここに置いておけばすぐに腐ることも無いだろう。

地下室だからかヒンヤリとしていて、昼寝に丁度好し、更に一席打つにももってこい、なのである。


湿度も無いように思われるが、一体どういう構造なのか。

さて、夕食につく前に思案する事柄がある。


RPを貯めていくにしたがって、取得できる品物が増えるのは周知のことだ。


で、だ。

現在所持RPは160p

昨日思いついて提示してみたら、取得できる値段で出ていたので気になっているのがある。


<<カレー粉    150p>>


カレー粉といえば万能調味料である。

兵隊がジャングルに行くときには必ず持っていくというアレである。

野生の動物でも、猫や狸の肉など特に臭く、そのまま焼いてはとても食えぬらしいが、カレー粉をまぶして調理すると、なんとか食えるようになるらしい。


であるなら、この先が見えないサバイバル生活でもきっと活躍してくれるのではないか。


と、思い立ったのである。


しかし如何せん150pは高すぎる。

そして隣に並ぶ燦爛150pが、腕を縛り付けておかねば買ってしまいそうで怖い。


表示をオフにすることが出来ないのは、消費者としてはつらい所である。

朝晩ヤシをぶつけられ、イライラしつつも、これが生命線である、と刷り込まれる様は、何某かの洗脳のようであり、そのまま受け入れるのが怖い事なのではないのか、そんなことを考えるに至った訳である。


悩むこと30分、結局カレー粉を買うことにした。

ピッピと、操作をして、ガチャンと出てきたときに気が付いた。


煮込む具材が無いことに。


「やっちまったあああああ」


バンバンバンバンと畳を叩くが埃が舞うだけであった。

こんなことなら横の燦爛を買えばよかった。悔し紛れに調理酒10pもお買い上げする。


なんやかんや言って飲んでしまうのは呑兵衛の辛い所か。

手元に残ったカレー粉と、呑みなれた調理酒を手に持って。


中では煮炊きは出来ないので、上に登る。


外はうっすらと暗くなり、遠くの空の雲がやばい感じになっている。

クイっと調理酒の味見をすると、頬を撫でる夜風が気持ちよい。

生ぬるくはあるのだが、後は飲んで寝るだけだ、仕事終わりは酒がうまい。


座って海を眺めながらちびちびやると、手元にころりと転がるものが。


あー、まぁカレーといいやぁ玉ねぎ入るよね。

玉葱だけって聞いたことねぇけど。


カレー粉を買ってしまったのに調理をしないのもしゃくなので、玉ねぎを煮ることにする。

調理酒と水、塩とカレー粉、玉ねぎで煮ようと思う。出汁の代わりにココナッツジュースでも入れてやろうか。


水は1pで1ガロンという親切設計なので、たまに購入する。やはりココヤシだけで足りるとはいえ、甘ったるいだけなのも辛いのである。


それではと、取りあえず玉ねぎの皮をむき、水で軽く流し、子供用のスコップでザクザクやる。

概ね一口大かなという辺りで水と調理酒、それと少しのココ汁と、カレー粉を入れて、砂で作った竃に火をくべる。


無事に火がついて一安心。


実は弓式火起こし機を使ったのは初めてであった。

まぁ、煮炊きするものが無かったから、経験が無いのも致し方ない事ではあるが。


着火機械の実体としては、下に木材、中に棒、上に左手で軸受を持ち、右手の弓の弦を棒にからめ、前後させることによって下の木材を加熱する形式である。

糸さえ持ってれば器具が簡単に作れるため、有名な類であると思う。


まぁ、紐がなくてもヤシの葉をよじってできたのだから、案外その辺の物でもなんとかなりそうではあるが。

しかし、無人島に行くならナイフは持って行った方がいいだろうなぁ、あと砥石。


さらに言えば、やはり斧があると木材の伐採等も楽だろうなと思う。

ナイフで木の棒を切断するのは、思いのほか大変だし、数度で刃がつぶれる。

それと疲れる。手首とれちゃうんじゃないのってぐらい疲れる。


さてさて、コトコトと焚いていくといい匂いがしてくる。


「おー・・・ちゃんとカレーの匂いするじゃんスゲー」


久しぶりの日本文化に触れられて思いのほか心が躍る。

ちょいと味見してみると、少し塩気が足りない様だったので、海水を少し足し、味がよくなった辺りで雨がぱらついてきたので中に戻った。


「いただきます」


ヤシのジュースを飲みながらカレーをいただくことにする。


「んじゃー、生臭い玉ねぎ食べてみますか」


先ほど生で食べて泣いた玉ねぎであるが、臭いを嗅いでも不思議と涙は出てこない。

やはり加熱すると硫化アリルが飛ぶのであろうか。

一口食べてみる。


「・・・・ん?」


カレーはお世辞にもよくできたとは言えないモノだったが、肉の味は無いにしろ、やはりヤシに食いあきていたせいか、とてもおいしく感じた。

とても貝の味ではなかった。そもそも玉ねぎの味でもないのだが。

割とざっくり切ったおかげで、カレーの中でも味が分かるような・・・分からないような・・・。


「うーん。・・・もぐもぐ。こりゃあ、蕎麦の味がするなぁ」


不思議な玉ねぎだった。

生で生臭くて茹でるとそばの味である。

なんかの生き物なのかと不審がるが、まぁ植物だって一つの命、生きものにはちがいねぇやと、酔いも回っていいあんばいなので、適当に落ち着けて食べ進める。


「はー、やっぱ料理はこうでなくっちゃいけねぇ。何が悲しくて毎日ヤシの実喰わにゃあかんのかねぇ。いやもっとも、ヤシの実がなきゃ野垂れ死ンでたのは間違いない。今となっちゃ朝はヤシの実を食わなきゃ目が覚めないような気もするしね。ヤシの木にはとても感謝はしてるってことで」


等と言いながら調理酒を煽る。

最初こそサルミアッキに自前の舌が化学反応を起こしていたが、何升か飲んでるうちに大分味が馴染んできた。

もちろん久しぶりに飲んだ燦爛の方が全然旨かったが、まぁ、安酒なりの飲み口と言えばそんなものであろうものと。


ここで落語をぶち始めて、3か月にもなろうものか。と独り言ちる。

気が付けば早いものである。あれから順調に階級をあげ、かつては前座補佐代理と出ていた評価も、あっと驚く前座見習いまで上り詰めた。


平均取得RPも1回2pと二倍になった。

練習が入るために本数が減ってしまうため一日あたり15ポイント程度になってしまうが、

それでも前進しているといえるだろう。

これで落語家の一員であると自負できるのではないだろうか。


何でそんなにポイント持ってないのかって?

そりゃあおめぇ、惣誉のブルーラベルが700ポイントだったんだよ、普通買うだろ。

出てきたら1升あったが、一晩でなくなっちまった。

まぁ旨かったな。


やはり呑兵衛はだらしがない事が売りと言われる所以である。

自分でもばかばかしいとは思いつつも、これもきっと強迫症状だ、俺は悪くないといってボタンをノンストップで押した結果であった。


雨の音がし、さざ波が荒波に変わる。

まどろむ意識に身を任せ、今日も修平は眠るのである。

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