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すがぽん珍道中  作者: サビヒメ
2/16

スガポン02 すがぽん、海に出る

ガッ


「あがががががが」


痛ってぇぇぇぇぇ。毎朝、っていっても多分感じ的に9時ごろなんだけど、モーニングコールが激しすぎるっ。


朝だけにモーニングショットってか?笑えねぇよ!痛ぇ、超痛ぇ。

いわれのない痛みに一しきり転がり呪詛を心の中で唱える儀式が終われば飯の時間である。


「いただきます」


殻が新しいとか、いいナタデココだとか、ココナッツジュースの出汁がきいた汁に白くて腰の強いナタデココ、厚く育った殻だとの、のべつまくなしに褒めちぎりながら食い終わると無性に空しくなってきた。


「ごちそうさまでした」


まぁ、やっぱこの挨拶はせにゃあかんな。何でか知らんがこの木にはお世話になってるわけだし。

生殺与奪を握られているといっても過言じゃない。

あと三日と思った筈が、もう三日も食わしてもらってしまったな。


ふむ、まぁ取りあえず三宿三飯の恩義といけば、ちと足りない気もするが、お礼を兼ねて自己紹介といこうか、

行っちゃいますか。よし、行くぞ。


「俺は菅谷修平、巷じゃ知られたナイスミドルさ。趣味は読書をしながら世界のタバコと、酒をゆっくりと嗜むこと。

仕事は、まぁ・・・なんでも屋さ。言っちゃあなんだがこの島じゃ、一番の人気者だぜ」


くっ、三日考え抜いた結果がこのざまだよ、言ってて超恥ずかしい此れ、なにこれ、言わなきゃよかった。

一体どうしたってこんなになった。


大体俺誰に自己紹介してんねん。最初はヤシの木にって思ってたけどこれ、俺しか聞いてねぇじゃん。

あー、やべえ、凄い恥ずかしい。



さてと、そうね、毎日ヤシの実ばっか食ってても飽きてきたしな、思ってたんだ。

海って海産物豊富だよね、だったら目の前の海だって普通にいっぱいあんじゃん。

とりに行って食っちまえばいいじゃん。ってね。


言うが早いか服を脱ぎ、威勢よくパンツ一丁になって、「よし行くぞ」と、手につばはきすり合わせ、気合一発華麗にダイブした。


「いって、超あっさ」


遠浅であった。


「なんだよこれー、しまらねぇなぁもう。」


実のところ余り泳ぎが得意なほうではないので、いきなりドボンと足付かずよりかは幾分かは安心か。と一人納得し、取りあえず沖の方へと歩いてみる。



素足の間を抜ける砂水が心地よい。

流石に夏の海かと思う程度には風景もよく、やはり一か所にとどまれる男ではなかったのだなと確信する程度にその散歩は心地よかった。


海と言えば、大体塩分濃度は30%程度だと言われている。

この海はどうなのかと思って舐めたらすごくしょっぱかった、きっと同じぐらいであろう。


ひとえに魚と思って出てきたのだが、まず魚が居ない事には仕方がない。

実はもう素手の俺に魚を捕まえられないんじゃないかという問いかけは終了し、魚をみても捕まえることは出来ないという確信にまでは至っている。


でもいいじゃん。暇すぎて死にそうなんだもん。


さてまぁ、魚といえば、取れるところと取れないところがある。

時に豊漁で町が起きても、また神のいたずらか、突然めっきり魚が取れなくなるときも有る。

それぞれに理由はあるのだろうが、現在すべては解明されていない。

海洋資源は実に敏感で、山の木を刈り取って、川に流れる微細な栄養源が無いだけでも河口のプランクトン量が変化し、生態系は変異する。

干拓事業などを起こそうものならどのような変化が起こるか分からない。

海流によっては増える場所もありうるだろう。


冷たい海では魚が取れるという話を聞いたことがあるだろうか。

それは、ただ冷たいだけでは海洋資源は発生しない。

世界三大漁場と呼ばれる場所は、北東大西洋海域、北西大西洋海域と、聞いたことが無い言葉が続き、

3つ目が北西太平洋海域と、これまた聞いたことが無いが、これは三陸沖である。

これらがなぜ発生するかと言えば、暖流と寒流がぶつかりあう場所で、適度に海底のミネラル豊富な水が巻き上げられ、植物性プランクトンが発生し、ついで動物性プランクトン、そして小さき者が大きな者へと育まれてゆくからである。


大きな物よ、我に食されよ。


はてこの海は一体何なんだろうか、歩けど歩けど一向に何もない。


どうしよう、おっとり刀で出てきたは良いもののさっきから全然魚一匹もいないんだけど。

関係ないけどおっとり刀って急いでる感じあんましないよね、おっとりしていそうだもん。


うん、最初から一人だけどだんだん寂しくなってきたわ。

何度か休憩してはいるものの、いい加減に疲れてきたし、歩くのに飽きてきた。


あーもうモーゼの如く海が割れてしまえば歩くのも少しは楽になるんだろうが、その上割れたところに頃のいいサンマでもピチピチと跳ねてくれりゃあ、愚鈍な俺でも捕まえられそうだ。

ははは、俺はまるで王者だな。俺の為に魚が寄ってくる。


「いっててててて」


前も見ずに上を向いて歩こうを口ずさみながら歩いていた足に、唐突に激痛が走る。


イタイイタイなにクラゲ?やれ毒虫だったら薬はないからどうしようかなとか、足が切れて膿んでしまったら等と逡巡しつつ足の裏をちらりと見れば、ウニがざっくりと刺さっていた。


「うぉっこわっ、う、ウニか、え、ラッキー、超ラッキーじゃねこれ」


既に何も発見できずに3時間以上は歩いていたのだが、こりゃあ越前の塩雲丹。と上機嫌になろうものか。


しかし、いざ掴もうと思うと、サックリと皮膚を通す針の筵をおいそれとつかむ気にもなれず、

結局パンツでくるんで島まで持ち帰った。



さて、どうしようかと思案するも、ここには自分の身一つしかない。

ポケットの中を探ったところで洗濯後のあの綿しか入ってない。

タバコの一本もはいってりゃあちょいと吸ってやろうと思ってみたが、そういえばポケットの中身は全て机の上に並べてしまったのであった。


ふむ、と見渡してみれば、先日食べたヤシの実の殻が落ちている。

この前のヤシの実は二つに割れたので、これを使えばウニを割ることも可能かと思われた。

しめしめコレでこ奴を真っ二つに出来る。ああ、ウニを肴に日本酒をくーっとやれば、世間の憂いもはれるってもんよ。


パカッ。


うん、残念でした、中身はありませんでした、ウニも無ければ日本酒もありませんでした。

残念でした、ウニは食べられませんでした。


「ちくしょおおおおおお」


結局ただ散歩して痛ぇ思いしてきただけじゃねぇか、と恨めしく思いつつ、

何が食いたいものか、と夢想してみることにした。


「・・・レンガ飯・・・豚しゃぶ・・・うーん、肉はいいかな、今日はそうめんにしようかな、

でもそれじゃあ締まらねぇ、蕎麦にしよう。

ついでに暫く酒も飲んでないからな。そばに合わせるならポン酒かな、テンプラつまみにくいっといっぺぇ・・・」

「ああーーーー酒のみてえええ!」


なんでぇ俺は一体こんなに自分で進んで拷問を受けに行くが如く、自分に飯テロを仕掛けているのか。

・・・あれだけ酒のねぇ国に行きてえとのたまったものの、実際こう何にもねぇ所に来ると日本にいた時が如何に幸せだったのかって思うよな。今なら露助が工業用アルコールを蒸留して飲んだって話だって一杯くわせてもらいたくもなる等と、結局しみったれたところに帰結してしまうのである。

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