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すがぽん珍道中  作者: サビヒメ
16/16

すがぽん16話 すがぽん、駄弁る

お読みいただきありがとうございます。

海の上で人が落ちたらどうするか。


基本的には捜索をするが、発見が遅れた場合においてその生存率は限りなく低い。

まず、揺れる水面に隠れて人という、海抜30cm程度の物体を見つけることが困難であることが一番にある。海はよほど風が吹いていない場合でないと大抵やんわりと波打つものなのだ。


次に、生存性に於いて海水にぬれた状態では直ぐに低体温症に陥ってしまうだろうし、脱水症状にも見舞われる。

大きな船が転覆した場合であれば、けが人も出るだろう。すると、遠く500kmも先からサメがワサワサと押し寄せたりもする。

さらに大きな構造物が海に沈む時、海中に向かう水流が発生する。

船から速やかに離れ、出来るだけ浮遊物に乗る、ないし捕まり、後は天に祈るのみといった所であろう。

基本的に水を生産できない船で機能不全を起こし、予定以上の帰還を漂流する船では生存することは不可能に近い。


そもそも、壊れていない船が港から港まで航行する事自体、風と潮流、そして岩礁でないという一本の道筋、即ち航路が発見されて、それでかつ熟達した操船技術が相まって漸く再現性のとれる航行が出来るのだ。


水平線にポツンと浮かんでるセイルの無い帆船は、長らく漂流しているように思われて、もし人が乗っていても生存が難しいと思われる。


なんか全体的に黒っぽいし、かびているのだろうか。


赤エルフ先輩「なんだいシュー君、あの船が気になるの?」


シューヘイ「ええ、まぁ、ていうか幽霊船なんてあるの?」


赤エルフ先輩「ううーん、アンデットだのレイスだの、普通のモンスターだったら近所のおじちゃんが倒したって話は聞いたことあるけど、幽霊船ってあれでしょ?船が霞みたいに消えたり、突然現れたりするやつでしょ?」


シューヘイ「えっ、いや、レイスとかっていうか、モンスターいるんですね、普通に」


赤エルフ先輩「そりゃいるよー、日常生活に溶け込んでるぐらいいるよー。もう基本的にいるよー」


シューヘイ「へぇー、俺のいた国にはモンスターなんておとぎ話でしか見なかったもんで」


赤エルフ先輩「えっ?うん?いや逆にシュー君、どんな状況かならモンスター居ないの?」


シューヘイ「ええーと・・・信じてもらえないかもしれないけど、俺の居た世界は多分ここと違うんだ、でね」


赤エルフ先輩「ええっー!シュー君漂流者なの!?」


シューヘイ「ええっ、いやー、どうかね。流れ着いては居ないかもしれないけど、朝起きたらあそこにいたんです」


赤エルフ先輩「・・・ずっと森の妖精だと思ってた・・・」


シューヘイ「・・・なんで?」


赤エルフ先輩「なんかひげがもじゃもじゃで、何となくフワっとした感じだったし、皆だらだら働いてるのに右も左も分からないままセッセと働こうとしてたのもおとぎ話の妖精そのものだったでしょ?あー、そういえば水夫長があの時、木の下でゴロゴロしてた妖精捕まえてきたって言ってたからかも」


何と言うキャラ付けか。

確かにヒゲは剃ってなかったから多少フサフサとしてるのは分かっていたんだが・・・。

それにしても俺は今までいろんなあだ名は付けられて来たが恐らく妖精と呼ばれたことは無かっただろう。

それに森と言う字は木が3本だ。


っていうかこれもしかして俺、船内で妖精扱いなのコレ。


シューヘー「いや俺は妖精じゃない…と思うんだけど、取りあえず漂流者ってなんなの?」


赤エルフ先輩「うん?あー、漂流者ってのはアレだよ、・・・私はずっと世迷言を言ってる人たちだと思ってたんだけど、たまーにその辺に、俺は異世界から来た!なんていって、やたら国のお偉いさんに合わせろ!だとか、ダンジョンでハーレム作る!とか、凄い魔導具をいきなり作ってそして」


シューヘー「そして?」


赤エルフ先輩「うーん、大体そう、犬が走ってきて雷が落ちて、黒焦げになったりする人とか」


シューヘー「何その犬怖い」


赤エルフ先輩「うん、実際見たことは無いんだけどね。港について酒場に行くでしょ?するとそんなの吟遊詩人が引いてたりしてたんだけど、吟遊詩人じゃん?適当な作りものだと思ってたんだよ。でまぁ、そんな感じ?そんな感じの話の人の冒頭に付くのが、とある漂流者のお話~ってな感じでね」


シューヘー「へぇー、そうなんだ、うーん、まぁ俺もその口みたいだなぁ」


赤エルフ先輩「なるほどー、漂流者かー。でもあんなところで何食べて生きてたの?」


シューヘー「ああ、いや、ヤシの木があってね、その実ずっと食べてましたね、今朝もなんか取れたんで、おひとつどうぞ」


今朝がたまた額にモーニングショットが在ったので、お昼休みにでも食べようと思ってバックに詰めもってきていたヤシの実をぽんと、赤エルフ先輩に渡す。


赤エルフ先輩「え、ええ?えええー?こ、これの意味を・・・知ってないだろうなぁ、よしわかった取りあえず食べちゃうね」


言うが早いかヤシの実のボタンをこれまた碌に探しもせずにパカリと開け、いそいそと素手で必死に食べる赤エルフ先輩。


赤エルフ先輩「もがもが、これ凄いもごもが、ごくごく」


シューヘー「いいから、取りあえずゆっくり食べてていいって」


はて、ヤシの実がそれほど重要な物なのだろうか。

あの島で1本しかないヤシの木から延々と落ちてくる木の実の不思議さは、寝ていたままの姿でいきなり大海原のど真ん中に放置された懸案よりも幾分と穏やかだったのであまり気にせず食べてしまっていた。


考えてみれば、ヤシの実は年間4~50個成るとどこかの文献で読んだような気もするが、朝昼晩には取れないだろう、それに見た感じ常に2個しか成ってなかった。


前提からしておかしなヤシの木だったが、そこには俺の植物栽培らしい何かが絡んでいるのかもしれない。


赤エルフ先輩「ぷはぁー、美味しかった、一気に食べちゃった」


口の周りを子供の様に汚しながら朗らかに笑い、空の木の実を大事そうに抱える赤エルフ先輩。


シューヘイ「でしょ?それ美味しいんだよねー、随分喜んでもらえたみたいだし、また出来たら上げるよ」


赤エルフ先輩「な、なんですと・・・ううん、いくら取れるとしてもそれは自分で食べたほうがいいと思うよ?」


シューヘイ「いやぁー・・毎日食べてたし、そんなに喜んでもらえるならまたあげるよ」


赤エルフ先輩「ま、毎日!?」


シューヘイ「まぁ食べなきゃ死んじゃうじゃん?無人島だし・・・何より空腹の所にポンとだされて、食べる以外の選択肢がなかったというか・・・えなに、そんなに凄いのそれ」


赤エルフ先輩「シュー君この木の実、今さっき私が貰ったものは、精霊の果実って呼ばれていてね、龍脈が集い、精霊の力が十分にたまった時に、ポロっと出てくるありがたい食べ物でね、食べるだけで魔力が増えるやら寿命が延びる事やら、力が増えるだとか、とにかくいろんな恩恵が貰える、生命の凝縮なんだよ」


シューヘイ「へぇー、ええー、三度三度普通に食べてたから未だに有難味があんまりわかないんだけれども」


赤エルフ先輩「そもそも、その普通に食べられる状況がおかしいんだけどね・・・」


深刻そうに眉根を人差し指と親指で挟み、どうした物か、といったふうに唸る赤エルフ先輩。


シューヘイ「でも、体にいいんだったら、それこそ食べることが出来る事は歓迎すべき事態なんじゃないの?そんな大それた」


赤エルフ先輩「そこなんだよ、基本こんなのホイホイ取れないから、大陸の大きいオークションで年何回かの出物で、お貴族様か大商人が婚約にってあげる物なんだよ。だから、精霊の果実を競り落とした何某にはもうそこら辺からうちの娘をーって、それはもうちょっとした婚活祭りになっちゃうんだよー」


シューヘイ「えへぇ。でも知らなかったし…水夫長にもあげちゃった・・・」


赤エルフ先輩「ええっ、他に誰かあげて無いかって聞こうと思ったのに・・・。そう、まぁいいわ、この偉大で至高のルッカさんですらシュー君のお嫁さんになるの覚悟して食べたのに、普通の娘が貰ったらそれはもう親族郎党含めた結婚式よりも重大な事柄になるとだけ言っておこう」


シューヘイ「えっ、いきなりそんな、困る」


赤エルフ先輩「なよなよっとしてもダメだから。まぁ、私は事情が事情だし、そうね、シュー君が漂流者なら仕方ないって納得するけど、水夫長かぁ・・・」


シューヘイ「うーん、水夫長」


あの島で孤独死だとか先の事など考える事も無く、ノンビリと席を設けて生きていたとはいえ、言われてみればいつ配給が止まるか分からない食物を頼りに生きていたのではいつ終わりを迎えてしまってもおかしくなかっただろう。


であれば命の恩人というと重々しいような気もするが、実際の所渡航するすべもなければ、発展することも無いあの島では、いつ俺の異世界人生が終了してもおかしくはなかった。

俺はあの人に感謝の念を忘れた時はない。

是非ともここは微妙な空気を打ちこわし、水夫長が如何に頑張ってるかを伝えなければいけない。


シューヘイ「小姓って言われても給料未だに貰ってねぇしなぁ」


以外にも俺の口から出た言葉は本音だった。


赤エルフ先輩「え、ええ、小姓とか言われたんだ。どこから出てきたんだその制度」


俺の本音は赤エルフ先輩の微妙な水夫長への評価をさらに微妙にさせることに成功したようだった。


シューヘイ「いきなり言われて、でも水夫長んとこ行ってもいっつも忙しそうでしょ?あのひと」


赤エルフ先輩「あー、まぁ舵が壊れてからこっち、ずっと帆を動かしてたからねぇー」


シューヘイ「んだからそう、その辺の出来そうな仕事コツコツやってたら今日みたいな感じで」


赤エルフ先輩「そーなんだー。あの人基本的に仕事があるとずっとそっちなんだよねぇ」


うんうんと頷く傍らちらりと外舷を見ると、件の船が見えた。

それ程熱意があるという訳ではないが、毎日洗濯に追われ、看病をし、それについては穏やかに成果らしいものも見えてきた。

その毎日が少し退屈に感じ始めていたのかもしれない。

謎の船が気になる、俺は少し冒険をしたいんじゃないだろうか。


シューヘイ「うんうん。あっ、そんな所で、あのさっき言ってた船が大分近づいてきたんだけど、あーいった、海にポツンと浮いてる船って、調べたりしないの?」


「んんー?」と赤エルフ先輩が見た先に、大分近づいた帆を張っていない船がある。

ちょっと前にマストだけ見えていた船はどうやら5ミリぐらいに見えるまで接近していた。

遠くに見えるときには針の先程度にしか見えなかったものも、今では大体の船の形までは見えるようになっていた。


赤エルフ先輩「そうだねー・・・水夫長に聞いてみようか?」


シューヘイ「水夫長?船長じゃなくて?」


赤エルフ先輩「えー?船長?無駄な事すると良く分かんない事ずっとギャーギャー言ってるし、水夫長に言えば絶対水夫長見に行くーってなるから、そしたら私怒られないし?」


シューヘイ「お、おう。じゃあちょっと行ってみよ」


以外にも計算高かった赤エルフ先輩の発言を聞いて結構心の距離が離れてしまったが、まぁ彼女なりの付き合い方があるのだろう。

そう何となく納得し、下で帆と海を交互ににらみ、せっせと指示を出してる水夫長の元へと向かった。


水夫長「うん?帆のない幽霊船みたいな船が10時方向?よし、向かおう、向かって調査しよう。マスト回せ宇梶だツーシックスヒーブ!」


実をいえば何某かの問答があるかと思いきや、即答というか即行動に移る水夫長は中々の冒険者だった。

そういえばこの人、島に来た時もピンで見に来たんだったな。

この船は本当になんで浮いてるんだろうか。

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