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すがぽん珍道中  作者: サビヒメ
15/16

すがぽん15 すがぽん、名づける

読んでくださってありがとうございます。


シューヘイ「ごぁぁ・・・」

ミツヨシ「スガヤさん、スガヤさん起きてください」

シューヘイ「んが、・・・んん・・・今なんどきでぇ」

ミツヨシ「四月の半ばです」

シューヘイ「えっ、そんなに寝てたの、起こしてよもっと早く」

ミツヨシ「ちょっとそんな気分になれなくて」

シューヘイ「気分とか」

ミツヨシ「まぁちょっと頑張ってみましょう」

シューヘイ「よし、じゃあちょっといこうか」

シューヘイ「このーき何の木もやしだもやしだよ~」


フンフンと口ずさみながらもやしにちょろちょろと水を掛けていく。あの変な船長が乗り込んでから二週間ほど経った。足の痛みもなりを潜め、そういえばスガヤ病棟から数名退院者も出ている。

俺の看護も捨てたものでは無い様だ。

未だ病床に伏し、時折咳き込んでいるものが5名程いるが、概ね自分で喫食でき、回復の芳しい者は炊事や洗濯などの軽作業に従事できる様になったといった所だ。


さて、先だっての物資の交換とは何だったのかと言えば、高めの物資と引き換えに新鮮なパンにチーズに果物等の食料品の交換であったそうだ。


新鮮なパンって一体何なのかと思うだろう。焼き立てのパンではない。

食べても違和感が無く栄養に出来るパンだと俺は思う。

この船には輸送品としての食料が多めに積んである、食う分には問題が無いはずである。

であるが、航海が長引き食糧を長く船室にしまっている間に果物は早々に腐りパンにもカビが生え、真水の樽も濁ってとろみが出てしまう。

腐った水を飲むのは本当に辛く、それでも飲まねば脱水症状に陥ってしまう。

なので酒で割って飲んだりする。お清めにお酒を使うってのは案外実用的だ。


しかし、未だ積んである食料があるとはいっても年代物のパンに水だと当然衛生的とはいえず、床に伏せるものも出るというものだ。

この船だと船長だけは嗜好品をやたら持ち込んでおり、特に体調を崩したりはしていない様だが、それは別の船でもよくあることらしい。


大航海とはいえ、十分安全に航行しうる分の食料等が積んであるのにも関わらず、一時は次の港に着けるかどうかと危ぶまれるまでの状況に陥ったのは、前回の出航からしばらくして舵を壊してしまったらしい。

修理等々はやってみたものの、そもそも予備部材が無いのでどうしようも無かったし、貿易航路に乗ってしまったお蔭で、なんとか南に下るだけは出来たが、風上に向かう航法は舵が無ければ出来ないため、そのまま南の、グレードヘッド大陸を目指すことになったようだ。

しかし、往き足は鈍り航路自体も緩慢になる為、航行予定の大幅な増加は不可避であり、舵が無い事で増えるリスクは計り知れない。



さて、先日行った船と船の交流というのは、現代では余り考えられることではない。

何故かといえば、公海上でものの受け渡しなど、ヤクか人か金塊か、はたまたドイツと日本の希望の架け橋兵器設計図か。なんにしてもろくでもないモノしか行きかわないが、帆船航行が盛んな時代では往々にして行われる。港からでて直ぐならば、腐る前のパンや果物を多めに積んであり、渡す側も割良く物資が売れるので双方利があるためである。


うちの船は残る航路も2週間程度とのことで、本来であれば何も目の前まで来て高い食料を手にする必要も無かったはずなのだが、病床に伏してるものが2割を超え、船員の疲労もピークに近いことが相まって、渋々ぼったくり商品を購入したそうだ。


ぼったくり価格とはいえ、何を運ぶにしても手積み手下ろしのこの時代では、物資は何でも手間がかさみ、物価は基本的に固定価格ではない。

不作や豊作、どこそこで戦争があっただの、果ては商人と商人の意地のぶつかり合いで簡単に乱高下してしまう。

だからたとえ安く手に入れたとしても、最高値と最安値の真ん中よりも大分上で物品の取引が行われる。100円均一の自販機の様にはいかないのである。


普段生活してる分にはさほど気にならないかもしれないが、現代においても物価の上下はある。

もちろん豊作不作が一番だが、重油の値段等も大きな原因になる。

更に最近の米相場は特に荒れているというか、下落の一途をたどっている。


農家サイドでは60キロ一万二千円程度にならないと赤字になると言われているが、農協がジリジリと値段を下げてくるのだ。

当然直接民間に流れる米もある。「闇米」だ。

闇と言うと凄くダークなイメージがあるが、実はただ農協を通さずに知り合いに売るだけなのだが、米は全量農協に収めるという形がなぜかあるため、闇米と言われる。

しかし農協の支払いは3分割で、3年に分けて支払われるため、何かと入用になった時が困る。

兼業農家でも基本的には収入はある程度安定していて、急に金の工面は中々出来ないのだが、ある日突然コンバインが壊れるのだ。

そうするとどうするかというと、若干値引きはされる物の、一括でその場現金主義の近所の米屋に売り渡すケースが定番なのだ。

やりたくて闇米という訳ではないのだが、中々にシビアなコメ農家の世界において、米商人が懐に携えた札びんたに靡くものはおおい。

ちなみに、農協の支払いの3年分は米相場によって上下する、というかほぼ下降する。


何故コンバインを一家に1台固定で持つのか、共同で維持すれば維持費は大分落ちると思うだろう。

しかし、大体の兼業農家は平日は会社に出勤する、よって農作業は土日に行うものであり、土日はどこのコンバインも動いている。それに誰だって日がいい日に田植えを行いたいと考えるので、稲作をする上で一家に一台の米用機械が必須になるのである。


三種の神器はトラクターから始まり、田植え機、そしてコンバイン。

生きとし生ける物全てを養うガイアを混沌の絨毯に仕上げるトラクター、千の手を持ち万の稲を目にもとまらぬ速さで打ち込む田植え機に、蒼穹へその黄金の穂先を携え雄々しくそびえ立つ全ての稲を刈り取るコンバイン。


まぁその他乾燥機だとか色々あるが、基本的にはその3点、そして壊れるのはコンバイン。

何が何でもコンバイン、給料ボーナスに借金してでもコンバインである。


話がだいぶ逸れたが、為替相場はいつでも乱高下し、資産家たちは座りながらにして働き蜂の蜜を啜っている。

思うに、現代地球における投資型経済よりも、ちょっとしたお貴族様でも働かねばならぬこの世界は割と公平な気がしてきた。

モノがあふれると碌なことが無い。



シューヘイ「ふー、まぁこんなもんでしょ」


モヤシの棚を元に戻し、ジョウロを片付け洗濯場へと行く。


病人が出てからというもの、帆船に初めてのって思ったのはその悪臭であった。

船では水が確保できず、洗濯をこまめにするという事があまり行われない。

しかし、病人が着の身着のままで寝かせられていたんじゃ治るものも治らないだろうと一念発起し、その選択業務を一身に背負ってみたのだが、まず使う水は海水。

岸壁から遠いためあまり生臭くないので、水で洗うようにはいかないがそれでも洗濯した物の方が気持ちがいいだろう。


目の前に洗い終わり、軽く踏んで脱水を行ったパンツ群がある。

そっと名前のついてない下着を一つ手に取る。

勘違いされては困るのだが、特にやましい事をするわけではなく、これから名前を縫い付けるのだ。

最初は全員の物だったパンツ群を、電子手帳のメモ欄、パンツ名刺繍済み名簿をみつつ、次のパンツ主を確認し、洗濯場の隅の机の刺繍セットでちくりちくりと縫う。

壁には大きく4つ、各分隊毎に分けて、更にそこに各長、以下は50音順で名前の書いた木札の下に全部で92枚の袋がぶら下がっている。

俺謹製の麻袋だ。


以前は洗濯籠一杯に下着や上着等が積まれ、そのまま全部洗濯し、晴れている日は甲板で、しけっていれば乾燥室で干し、全部まとめて取り込んだものを共同の洋服棚に仕舞い、それをまたみんなで共同で着用していくスタイルだったのだが、合理的ではあってもやはり現代人の感性として、他人の使った下着を着用するのは少々問題があるんじゃないのかと思い、水夫長に訪ねて名前を綴ったのである。

所謂ヒモパンなので多少サイズが前後しても履けるのだろうが、サイズの概念とかは無いのだろうか・・・。


ちくちくと名前の頭文字、かぶってる場合は2文字目までを刺繍し、見つけた名無しのパンツに名入れが終わったので洗濯物かごに詰めて甲板に上がりマストについてる物見台まで登る。

紐に一つ一つ括り付けて下に垂らし、万国旗のように干していく。


まずもって湿った洗濯物を担いでマストを登るだけで結構疲れるんだが、ロープだけ垂らして下で洗濯物を括ったらいいな、そうだ今度からはそうしよう。

何故今まで担いで上がっていたのか。





ここの所しばらく色々な部署をまわってみたものの、どうやら俺には炊事洗濯と倉庫管理らへんが性に合ってるような気がする。


そもそもこの船にのってる女連中は大体が俺よりガタイがよくて、ロープワークなんて生まれてこの方軽トラの荷物を縛る程度にしかやったことが無い俺が手伝うとなると、悲しいかなそれとなく毎回足を引っ張ってしまうのだ。


であるならば、洗濯だの豆だの魚だのをコトコト煮たりとか、もやし作りは俺の真骨頂だし、看病に倉庫の物の員数把握。振り返ってみたら凄い多忙だった。部署とは一体なんだったのだろうか、まず水夫長が忙しそうにあれしてこれしてやっていて、小姓染みた仕事を一切やらされてないのも疑問だ。

小姓とはいったい何だったのだろうか。


員数管理と言えば、乗ってる船員大体が数の勘定というか、数字のかかわることに触りたがらない。

この前のみんなにパンを配るとなって赤エルフ先輩を手伝っていたのだが・・・。

基本的には問題なく倉庫から木箱を持ってきて、詰めてあるパンを配って、残った分をまた倉庫に持っていくのだが、大体余らせて帰ってくる。

ざっくりとテキパキ、まぁ早い仕事だとは思ったのだが、パン一個とはいえ、直径20cmほどある大きいパンなので、余分な分を運ぶのは無駄なカロリーの消費だし、一人で二個食べたりもしないので、特に数の変更も無い、だから人数分だけ持っていったらいいんじゃないのかと思い、少し気になったので赤エルフ先輩に訪ねたのだ。


シューヘイ「あの、これ、パン結構いっぱいあるけど数を数えてもっていかないの?」

赤エルフ先輩「えっ?うーん、毎回こんな感じだし数を数えたことがないなぁ」

シューヘイ「ほー、そうなんだねぇ。ちょいと聞きたいんだけど、このパンって後何日分あるの?」

赤エルフ先輩「うん、それはね、手前に1,2,3,4つの3段あるでしょ?大体5箱ぐらいで1日分なんだけど、・・・ここだけの話、奥の方が見えないから分からないんだよ」


と朗らかな笑顔で返答され、凄く不安になった。

どこだけの話なのか、果たしてそれは秘密だったのか、というかそんなもので航海出来ちゃうんだという衝撃にかられてそのままになっていたのだが、基本的には足し算引き算の簡単な計算のみで、掛け算や割り算といったものは感情の役割の人がオリジナルに算術式を組んで、それ専用のセット計算で行うらしい。

逆に高度な計算方法だな、と思いつつ今度普通の掛け算割り算を教えてみようかな等と思った。


そもそも、感じているベースが違うのだなと感じた。

現代人の感覚で行けば、3か月の航海の間の献立をルーチンワークで割り決めて、述べた材料をざっくりと計算して、同じ業者から一括で購入することができて、更にそれをシステマチックに保管できる冷蔵庫や冷凍庫がある現代。

それでも捨ててしまうロス分は出てしまうとしても、数を確保することが容易である。


しかし、レトリックな世界において、港の近場で手に入る部材の中で人数分の食材を纏め、用意するとなると、当然ありもので間に合わすしかないわけで、商人にほぼ丸投げで勘定しておくれと頼んでしまうのも致し方なしと言った所なのかもしれない。


となると倉庫の中身は雑然とし、誰もが確認もせずに日ごとに開封してざっくばらんに分配するのも流れとなるのも致し方ない所なのであろう。


取りあえず手元の洗濯物を全部干し終えたので、腰に忍ばせたラム酒を呑もうかと思ったところ、遠くに船のマストが見えた。

帆がかかって居ないので、最初は見間違いかと思ったのだが、よくよく見てもやっぱり船の様な気がする。


うろ覚えではあるが、人間立って見える水平線が大体4~5キロ、このマストが何メートルなのか分からないが、20メートル程度の高さで15キロ程度だった様に思う。

20キロが近いのか、遠いのか、富士山なんかだと凄く遠くでも見えるしな・・・。

まぁ近いって言っても、穂先の半ば程だから、20キロぐらいの所なのだろうか。

そんな事を思案していたところ、物見台に赤エルフ先輩が登ってきた。


赤エルフ先輩「お、いたいたシュー君、一服つけようか」

シューヘイ「あー、先輩先輩、あのね、遠くになんか船が見える気がするんだけど、あれ、ちがうかな」

赤エルフ先輩「うーん?あー、あれは船だねぇー、セイルついてないねぇー、幽霊船・・・はセイル張ってるよねぇ~、見たことないけど。」


「まぁ、取りあえず疲れたから一服しようよー」と特に気にせずタバコの準備を始める先輩。

やっぱりあれは船なのか。それもセイルが張ってないのか。

特に誰に知らせなくてもいいのか等と思いつつ、先輩のタバコに付き合う事とした。

またそのうち続きます。

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