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すがぽん珍道中  作者: サビヒメ
14/16

すがぽん14話 すがぽん挫ける。

こんにちわぁ~。

なんだなんだときょろきょろしてみるが、ここはまだ上から3番目、周りを見渡しても同じくキョロキョロしている水夫と目が合う。


まぁ、船内で回りを見渡したところで何が見えるわけもないのだが。


「シューくーん、こっちこっち、なんか船が横付けしてるよ、見てごらんよ」


向かって左手階段から一番近くの部屋の中からルッカ先輩の声がする。

あー、そっちですか、今行きますー、っと返事をしながら中に入ると毛布をはだけて寝ている水夫が。

そっと毛布を掛けてから先輩の隣から窓の外へと顔を出してみる。


そこにはゴォォっと効果音が鳴りそうな、長さ40m級の船が横付けしていた。

下からだと良く見えないが、ロープが何本も投げ交わされ、いくよ、おーよ、だのと合図が聞こえてきた。


「うーん、海賊じゃーなさそうだねぇ、まぁ取りあえずタバコ吸いにいこっか」


寝てるとこごめんね、と水夫にひらひらと手を振り、上甲板に向かうルッカ先輩についていく。


二つの船がロープで支えられてるお蔭か、少しばかり横揺れが少なく、階段が登りやすい気がする。

船は復元性と呼ばれる、船体を傾け過ぎて転覆することのない性質を持たせられている。


まぁ、簡単に言ってしまえば、釣り具で行くところの、重りで下に引っ張られているウキを思い浮かべてもらったら分かりやすいだろう。


下で重りが引っ張り、そのお蔭でピンとウキがそらを向く。

風が吹いても転倒せずに、風に流されて川の流れにも逆らうときも有る。


その性質を利用して、マストにセイルを張り、ふいた風で船を進ませる。

まず羅針盤で方位を測り、セイルでの風の受け方を変え、舵を使って進路を変えて、航行していく。


海の風はさえぎる山などがない為、陸にいるときよりも強く吹く。

このキャラック船でも10㌩(時速18㌔)程出るときも有る。

現代船のタンカーや貨物船の巡航速度は大体15㌩(時速28㌔)程度だと言われているので、大分早いことが分かるだろう。


しかし、追い風まっすぐ、貿易航路ど真ん中で最高速でそれ、というだけで、実際には5~6㌩でノンビリ航行し、さらになぎと言われる風が止む状況になると0㌩である。

凪は突然やってきて、長いときには3日も4日も風が吹かないときも有る。


櫂を出して漕ぐ船もあるが、我がキャラック船の動力は帆の力オンリーなので、前に進むといえば、3分隊が手漕ぎボートでえっちらおっちら引っ張ることもできるが、大きな船を手漕ぎボートでどれ程引っ張ったところで進むスピードは亀の歩み。なので接岸以外ではあまり使われない。


接岸といえば、帆船は岸壁手前で帆を畳み惰性で港に接岸するので非常に難しい。その為、手漕ぎボートは陸側での接岸準備や牽引で活躍する。

もちろん小型の船で大型の船を引っ張るため、大変危険な作業になるので良い子は真似をしないように。


さて、凪に突入した際に補修する部位もなければお休みとなり、釣りをしたり泳いだり、甲板で肌を焼いたり等、さながら観光地の様になる。


閑話休題


甲板に出て直ぐに目に飛び込む大きな船。

40m程度、帆が4本縦帆三角帆・・・ヨーロッパらへんのスクーナーかなぁ・・・。


海面から上甲板の高さが10m位、メインマストの高さは40mぐらい在りそうだ。上甲板ではたくましい男たちがセッセと作業を進めており、健康状態も良さそうである。

乗員は100人ぐらいは乗っているんであろうか。


スクーナーはキャラック船に比べ少人数で運用することができ、連なる縦帆により風上への航行を得意とする船である。


横帆はその性質上、追い風満帆の時の速度は最高速度となるのだが、向かい風への航行が難しい、縦帆に比べ横帆は細やかな操作がしずらく、斜め斜めに行く際の切り返しで揚力を得られない角度に突入してしまう場合がある。


往々にして海賊船や私掠船と言われる海のギャングはこの縦帆+櫂付の船を選ぶことが多い。


さりとて、何やら切った張ったの雰囲気ではないので、多分海賊の類ではないのだろう。


「うーん、なんだか忙しそうだけど一服しよっかー」


右手を額にあて、バイザーの様にして左手を腰にあて、前かがみで覗き込むようにしながらふむふむと観察しおえ、いささか気の抜けた調子でルッカ先輩はそう言い、しばらくすると飽きたのか、とてとてと歩いて甲板後部の樽の裏、ちょいとみんなの視線の外れたところがお決まりの喫煙スポットである。


喫煙用具を袋からごそごそと取り出し、3種類のタバコの葉を糸切りばさみでチョキチョキと、刻んで揉んでブレンドを行う。

と聞けば凄くこだわっているのかと思いきや、彼女は存外適当に選んでいて、稀に凄くうまいときもあるが、7割はハズレである。


大体辛い。


使っている喫煙用具はコーンパイプで、コーンパイプと言えばマッカーサーの御用達。

コーンパイプは何なのかといえば、トウモロコシの実を食べた残りの茎の部分。

あの部分を火口ボウルにし、木で作った棒で間をつなぎ(ステム)口に合う様に絞りを付けた吸いマウスピースを付けたものであり、普通のパイプの10分の1ぐらいの値段で買える。


まぁコーンの茎だからな。


アメリカなどでは、完全に消耗品と捉えて一度に5~10本程買っていく人もいるのだとか。


目の前にいるルッカ先輩もその部類に入る。


パイプでタバコを嗜む時には、まずボウルに最初は固めに詰める。ついで中ほどに詰めて、最後はふんわり淡雪のように。


そして、火をつける際には表面にそっと種火を残し、パイプが過熱しすぎないようにゆっくりと吸っていくのが鉄板である。


そして、大体パイプには6~7割ほど詰めるのがふつうと思って生きていたが、ルッカ先輩は上まできっちり、そしてエスプレッソの豆の様にギュっといっぺん押し込んで更に上にもりっと盛る。


「よしよし、シュー君火ぃくれるかなー」


手元の袋から火打石と火打ちがねを取り出し、此方に渡してくる。

最初は手間取ったが今ではチッチッと3~4度やれば火を付けられるようになった。人間なれるものである。


余談ではあるが、火打石は石と石をぶつけ合って火が出るものではなく、火元になる鉄に堅い石を打ち付け、削れた鉄片が火花となるのである。

江戸時代では、鞍馬山の灰色の火打石や、水戸藩で出荷される白色半透明の水戸火打が高級品となり、贈り物として使われたとかなんとか。


火種がタバコに落ちると、ルッカ先輩はギューっといっぺんに吸い込み、首の後ろを掻きながらプヘーっと胡坐をかいた足の上に吐息を散らし、たまんねぇなー、等と云っている姿は完全にオッサンである。


急激に吸うのでこのコーンパイプは3~4度使うと焦げて交換となる。もう少し大事にしてほしい所だ。


「ほい、シュー君どぞー」


「うぃ、どもども」


こちらもスペーっと適当に吸ってやる。相手に合わせて酒タバコを嗜むのは常識よね。

タバコと来ればコーヒーなのだが、この船にコーヒー豆は積んでない様で、未だ口にすることはできていない。

タリーズコーヒーを着やすく飲んでいた時代が懐かしい。


だが時代は進むもの。タバコーヒーは最高のごちそう、なんて思っていた時代が俺にもありました。


「おー、今日のブレンドはんまいですね、こりゃあ良い事ありそうだ」


「うむうむ、そうであろーそうであろー、この偉大で至高なルッカ大先輩はタバコのブレンドが超ウマなのであるー」


「へへぇ、仰るとおりでござんす、まぁ、ささっ、お代官様、一杯お飲みなすってぇ」


昼間から酒タバコである。


勤務中でも飲む、寝る前も飲む、流石に寝起きはまた寝てしまうので飲まないが。

いやー、やっぱりカフェインよりアルコールだわな。

タバコに行くとき大事なことは、腰元に吊るした酒の確認と、何か残っていればツマミとしての干した肉や果物か。


「おぬしも悪よのう~越後屋よう」


「いえいえ、お代官様程ではございませんやぁ」


なんで越後屋とか知ってるのかなぁ。と思ったのだが、聞いてみると昔からある庄屋で、今でも大手として賑わってるらしい。

お代官や町奉行等の役職も昔あって、時代劇として人気の役目で巷で公演されているとかなんとか。


本当に俺の電子辞書の役目が無くなって来た。

日本語で話していてもう終わったとは思っていたけれど、実際異世界なんだし、文化的差異は当然起こりえる話で、文字は日本語としていても、分からない職種や、行事習慣なんかも当然あると思っていたのだが、どうやらその方面で活躍してくれることも無さそうだと、最近になって段々とあきらめが付いてきた。


それでいて何の役にも立っていないのかと言えば、そうでもなく、時間の空いたときにルッカ先輩とミニゲームのオセロに興じているので、立派な上司とのコミュニケーションツールになっているのである。


オセロなんて作ればいいとか言うなよな、俺が泣くから。電池?ソーラーだわ。


そうしてルッカ先輩とのんびり喫煙していると、甲板中央部辺りから怒声が聞こえてきた。


「だから船内は機密になってるから閲覧許可は出せないと言っているだろう!」


「うーん、おかしいですネェ~、私も一応アズマ商団、それも2隻持ちの艦長なのですがネェ~」


船長と相手方のお偉いさん、恐らく船長であろうその人は、身長180程度で痩せぎすの、頭は禿げているが中世紳士の様な服を着ていて、丸まったひげを指でクリクリとこねていた。

見た感じから伝わってくる不信感がその人にはあった。


隣を見てるとルッカ先輩は屁を嗜みながら適当にくつろいでいた。


「えちょっと先輩、なんかあやしいみたいなんですが、大丈夫なんですか?」


「えっ?ええ?ああーあの人かー、大丈夫、多分。いや、なんかあの人海賊とつながってるとかって噂があるんだよねー」


赤エルフ先輩は頭をコリコリとかきながら子樽を煽り、此方に渡してくる。

それは案外大変な事なんじゃないんだろうか、でも大丈夫って言ってるけどこの人適当だからなー…。

船長がいつもは着ない艦長服に赤マント、腕を組んでわめいている。

横には若干おろおろとした水夫長。なんだかいつもと様子が違い、だんだん不安になって来た。


じっと見つめて会話が切れたのをみた赤エルフ先輩がパッと立ち上がり、尻をパンパンと叩き汚れを落とすとこっちをみてニヤリと笑った。


大体こういう時はこの人碌でもない事考えてるんだよな。


「じゃあ、ちょっと行ってみる?」


「えっ?いや俺水夫ですらないですし、今機密がどうとか言ってるのに、俺みたいな三下行ってもどうしようも無いですよ?」


「大丈夫大丈夫ー。今日は晴れてるから、交渉もきっとうまくいく!」


ルッカ先輩は少し酒がまわってるらしく、言ってる意味が分からない。

ちょっと強めに袖を引かれた俺はろくな抵抗もできずにずりずりと甲板を引かれて舞台へと誘われてしまった。



「ンン~、それにしても水夫の数が少し少ないんじゃあないんですか、ネェ~?」


「今日は休みだから半減運行なのだ、いいからさっさと物資交換を始めろ!」


「やれやれ、海の女は怖いですネェ~・・・ん?貴方たちはなんですかネェ~?」


男はそういって、俺を値踏みするように上から下まで見回して、此方に近づいてくる。


ほうら言わんこっちゃない、なんだよ、偉大なルッカ先輩なんか言ってくれよ、俺大丈夫なの?


「こいつがシューヘー・スガヤよ!」


どんと突き出された俺に船長と水夫長とヒゲ男爵の目が集まる。


「「「えっ?」」」


全員困惑しては居たが一番困惑したのは俺だろうな。


押された拍子にバランスが崩れ、出した両手が水夫長と船長の胸にそれぞれ当たり、足元に転がった小樽にのった足がツルっといって、直角にまがってはゴリっと骨の音が鳴った。


「あがががががががが」


どてーんとすっころび足が痛くてすべての事柄が無かったことになったのが幸いか、しかし痛くてどうにもならずふくらはぎ辺りを捕まえてしきりに首を振っている。


「おろ、大丈夫ですかネェ~、これは手当をせねばなりませんネェ~」


ぐりぐりと俺の足首を触って感触を確かめ、激痛が走り俺は悶絶していると、ポチャポチャと足首になにやら液体を掛けてきた。


あぁー、すーっとするわー、なにかこれは、ポーション的な何かなのかな・・・痛みもすっと引いてきたわー・・・。


「フーム、痛みも引いたようですネェ~。これはただのハッカ水ですが、何もないよりは少しマシだと思いますネェ~」


ハッカかよ!!

もっと魔法的な何かを期待してたのにスーッとするだけだよ!

むしろただの水のがまだよかったよ!


上げてから落とされた気分でうぐうぐと唸っているとルッカ先輩が背中を撫でてくれた。

うん、いや、ありがとうございます。


「キミはスガヤと言いましたかネェ~」


「え、へぇ?まぁ・・・はい」


ひげをクリクリしながらため息をつく。


「珍しい名前ですネェ~・・・。おおっとぉ、私、アズマ当ての積荷を倉庫に忘れてきてしまった様ですネェ~、この積み替えが終わったらまた中央大陸に戻らなくてはいけなくなりましたネェ~。フム、分かりましたネェ~、当初の予定通り、荷物の交換をしましょうネェ~」


芝居ががった調子で手を打つと、部下に指示して荷物の運搬が始まった。


一体何があるって言うんだ、とりあえずシップはないのかこのシップは。

痛む足を撫でさすり、甲板の隅っこの邪魔にならないあたりでぽつねんと甲板作業を見守ったのだった。

さようなら~。

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