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すがぽん珍道中  作者: サビヒメ
12/16

すがぽん12 スガポン、宵闇に浸る

こんにちわー。

住んでる県で気象特別警報発表中ですって。50年に1回の大雨だとか。でもこの辺は外れてるんだよね、しとしとぴっちゃんですわ。


嵐は夜半に静まり返り、漆黒に染まる海は風も止み、静けさを増していた。

寝ている間に嵐は止んでいたのだが、いきなりヤシの実が頭にぶつかり、起きてしまった。


枕元の小箱を見れば、小さくなったヤシの木がやんわりと光っていた。

思えば船に乗ってからは一度もヤシの実が出ることは無かった。

やっぱりプランターじゃ栄養がたらないかなぁ、後で陸にいったら地面に植えてやろう。

等と思案しつつ、ヤシの実を食べようかどうしようか、当てもなく歩いてみると、テーブルの上にはラム酒の子樽が。

仕方がないので持っていくことにする。

横にレジーナと書いてあったのは気が付かなかったが。


さてまぁ、くすねたラム酒をどこでやっつけてやろうか。

なんて思って空を見上げりゃメインマストが悠々と、波の高い日は登るのは御免だが、静かな今ならいいかもしれんと、メインマストの望楼でノンビリと遠くを眺めながらラム酒をちびちびとやっつけていたわけだ。


「いやー、起き抜けに飲むのもまた乙だねぇ。起き抜けに、呑んで宵闇、波を待つ。なんてなー」


嵐も止んだという事だが、未だシーアンカーは打ったままである。

夜だから作業しないというのもあるのだが、本来のアイアンアンカーよりも軽いとはいえ、引き上げるだけで6人掛かりで30分ぐらい、取っ手の付いた巻き上げ機をぐるぐると回さなければいけないので、明日の朝にしようとなったのである。

本来であれば、海賊警戒もあり、早々に巻き上げるのだが。

今は乗員の状態が悪く、通常航海ならいざ知らず、嵐の作業を終えて疲労困憊の様を呈しており。

如何に訓練されたアズマ商船船員の手腕をもってしてもなおカバー出来ない程度に病んでいた。

嵐でなければ乗員の6割程度が昼に動き、夜には1割程度の者が当直に付く。

海の上では常に風を読み、帆を動かし続けなければいけないため、誰もいない状況を作ることが出来ないし、また、人間も連続して重労働は出来ないのである。

アズマの商船では、砂時計を元にして時間をはかり、1ループ9時間、3時間の勤務の後に6時間の休憩が付く。

大体は朝5時から午後2時、午後2時から夜の8時の2ループである。

夜は冬は早く、夏は遅いので、どちらにせよ勤務時間に差が出るため、ループは毎日順にずらして行われる。

足元も見えない夜では危ないので、ロープワークは行わない。夜は観測作業等以外はほぼしないのである。

それに、いかな海賊船とはいえ、夜間に強襲するほどの猛者は数えるほどしかいない。

また帆船というのは、同じ方向に向かっている場合、同じような帆の船であれば、見えていても何日間も接近できなかったりする時も有る。

「風の向くまま気の向くままってなぁ。・・・んー?なんだありゃあ」

見れば遠くの海に小さい灯がぽつねんと。

あれもどこかの商船かなぁと思いやり、一人酒を楽しんでいると、下から誰かがやってきた。

「珍しいなスガヤ、メインマストに上るとは。いつもは嫌がって登らないくせに」

水夫長だった。

あっ、やっべ、とくすねた酒の罪悪感から一つ夜酒に誘ってみる。

「あー、いやね、えー、おほん。月の綺麗な夜だったもんで、ちょいといっぺぇ飲もうとおもいましてね水夫長もどうですか、ささ、そう遠慮せずにどうぞお飲みになってくだせぇ」

「・・・ありがたくいただくとするよ。・・・そういえば、自己紹介がまだだったな、私はレジーナ、姓は無い、島風で水夫長をやっている」


何を言い出すのかと思ったが、水夫長が煽った小樽の横にはレジーナと名前が書いてあった。

この船は割と輜重品が積んであり、言えば貰えるのだが、ラム酒は定期的に飲み物として配られるのである。

皆適当にのんで、呑みかけなどもそこらへんに転がっているため、しばしばくすねて飲んでいた。

がしかしこれは水夫長のものであった。


あ、あかんこれ。きっとすまきでポンや。


「そう怯えるなルーキー。誰もこの船の乗組員で放置されてるラム酒を飲んだところで怒ったりなどしない」


戦慄に震える俺をみやり、水夫長は笑いながら言った。


そ、そうなの、俺ここから海に投げられちゃうんかなって思って怖かったの。

よかった、まさか水夫長の酒だったとは。


座っていてもサイズ感が違う水夫長にビビりつつ、そういえば、と貢物を差し出す。


「そんなそんな、まぁ飲んでしまって返せないんですが、お詫びと言っちゃなんですが、これをどうぞ」


と、バレーボールみたいなヤシの実を。


「ス、・・・スガヤ、私がこれを貰ってもいいのか・・・?」


驚愕といっても過言ではないような表情で聞き返してくる水夫長。

これをつったって、まぁそりゃあ、飛び切り美味しいけど、ヤシの木からぽいぽい落ちてくるもんだしねぇ。

まー、うん、水夫長にはなんだかんだで拾ってもらったし、命まで助けてもらっちゃ、これを上げてもおつりがくらぁ。


「ああ、ええ、どうぞどうぞ、大したものではないんですが、とってもおいしいんで、呑んでみてください」


と、酒の件の罪悪感がチリリと胸をさし、ついついよそ見をしながら上げてしまうが、水夫長はあまりこちらを見ようともせずにじっとヤシの実を見ていた。


「そうか・・・、まぁそうだな、スガヤにとっては命の恩人だものな、出されたものを無下にするわけにもいかないだろう、ありがたく頂戴する」


パカリと蓋を簡単に開け、俺は毎回苦労してたのにな、と思いつつも、のんびりと水夫長がココヤシを味わうのを見ていると、ぼんやりと水夫長が光っているような気がした。


「・・・おお、これは凄い、・・・精霊の実を初めて食べたが、力が湧いてくるようだ・・・」


手をグーパーしながら言ってる水夫長。


えっ、俺全然そんなんなかったよ?結構凄いものだったの、とか思った所で水夫長が急に立ち上がった。


「アレは…、すまんが私は船長の所に行ってくる、・・・スガヤあの船をよく見て置けよ、いいか、小さい灯が分かれて近づいてきたら船長室に来い、これをやる」


といって、干し肉をお尻のポッケから出して渡してくれた。


「え、えへぇ、なにあれ、海賊なんですか?え、ちょっと水夫長?」


言ってる間に水夫長はするすると下に降りて行ってしまった。「ちゃんとみてろよ~」と言葉を残して。


ふむ、と、残された俺としては、秀吉の様に胸板であっためたわけではない干し肉を、くしゃりと齧って遠くの明かりを見つめることとした。

まぁ、ポケットの中なら胸でも尻でもかわんねぇよな。

ありがとうございましたー。

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