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すがぽん珍道中  作者: サビヒメ
11/16

スガポン11 すがぽん、大海の広さを知る

こんにちわぁ~

「シュー君が落ちたぞーーーーーーーーーー!!!!!」


遠のく船べりを見やり、水面までの短い間に俺は、息を思い切り吸った。


ドボーーーーーーーーーーン!


「がぼぼぼぼぼぼ」


まずいまずい、ええと、船が凄いゴリゴリしてうわぁ。


水中でパニックになると死ぬ、まず息を止めて、上を見つけろ。

そう叩き込まれた俺は、濁って見にくい水中の中で、気泡が進む方向を見る。


ええと、あっちか、あれ、いつの間にこんなに深く沈んじゃったの。と、思えるほど水面は遠く、頑張って水面に向かって泳ぐのだが、どうやら水面まで息が持ちそうにない。


ガボガボっと少し空気をはいて、少し胸が楽になったが、未だ水面は遠く、船も遠ざかったか、目の前はやんわりと明るい。


段々と息苦しさも激しさを帯び、目の前が段々にほの暗く染まっていった。


井の中の蛙大海を知らず。

海じゃ・・・溺れちゃうから・・・蛙君は井の中にいたほうがいいよ・・・。


_________________________________


遡ること30分。


朝ごはんを食べ終わった所に丁度の辺りで、波を伴わない貴重な雨【スコール】が発生した。


航海をしていくうえで真水はことの外貴重なものであり、現代でも真水を作るのには多大なエネルギーを使う必要がある。

大型プラントなどでは浸透式と呼ばれる海水から真水だけを浸透させて作り、それには作る塩分濃度の低いもの程、高い圧力を掛けねばならず、大型化が否めない、よって、地上でしか扱えない。

もっとも、科学技術が十分に発展していなければ、そのフィルムは作れず、煮だすにしても燃料も高いので、天然の真水に頼ることになる。

船に積む場合はどうするか。

船には大型のプラントを摘むことは出来ない。なぜなら、船の方向性として、軍艦や輸送船、漁船などの目的を持ち設計されるわけだが、真水を作るための施設をつくるとなれば、当然そこで働く人員や機材も発生するわけで、小型のものを使用することになる。

そこで使われるのが、熱で行われる真水精製。蒸発式(フラッシュ式という)だ。

しかしそれには蒸気や電気で作る熱が必要になる。


つまり、今俺が乗っている電気も火もない帆船では真水は作れないのだ。


一応は内側を焼いた樽に真水を入れるなどするのだが、どうしても長い航海のうちに濁り、やがて腐る。

蒸留や煮沸をしようにも船に積んである薪で、全員分の水分を確保することは出来ない。


そんな中、空から真水が落ちてくるスコールは、まさに天の恵みなのである。


そんなこんなで一生懸命セイルで水を集めた後、雨で着てた服を洗濯したり、更に酒を飲んだりしていたら、キューっと腹が冷えてきた。


いそいそと艦内のトイレに行くと、だれも先客はいなかったのだが、タンクに真水搭載中のため、トイレは船首の張り出しを使う事。と張り紙があった。


・・・・・船首のトイレかぁ・・・・・。


3週間1度も使用したことが無かった、なぜかと言えば単純に怖いからである。

ヤシの木に登った時はすがすがしいとさえ感じたし、時に上で眠ったこともあったが、あくまでそれは地に足が付いた物だったからじゃないか、と思う。


誰だって船の上で船首の先っぽで下に海面が見えるところでトイレを使えと言われても、中々勇気は出ないだろう。


トイレの前で一人ウンウンと唸っているが、ノーリターンポイント(我慢限界点)は着々と近づいてきた。


不味いな・・・後の方がなにやらモグラたたきに近い状況に。


等と、一人で顎に手をやり目をつぶり、唸っていると、肩をぽんぽんと叩かれた。


「おほん、あー、シュー君トイレに行きたいんだね?船首のトイレは・・・あー、怖いっていってたっけか。

でも残念だねぇ、一回樽に真水積んじゃうと、片方空にして、生活用海水をもう一回つめるまでは艦内のトイレは使用禁止になっちゃうんだよねぇ…」


まぁ、嵐の時はいいんだけどね。等と続けるが、段々我慢が出来なくなってきた。

無意識で返事もせずにトイレのドアを開けると、そっと手をつかまれ引きずられていった。


「だーいじょうぶ大丈夫!この偉大にして至高の大先輩がレクチャーをしてあげよう!」


といって、反抗をしようにも、少しでも力めばそこに地獄が待っているのを本能的に感じた俺はあっという間に船首の先まで連れてこられた。


船首に付いていると船体に付いてしまうと思うかもしれないが、帆船が前に進むときには、大体が横帆で後ろから風を受けているので、船体にはつかないようになっている。

まぁ、縦帆で風上に向かっているときには多少船体についてしまうが、きっと海のウォッシュレットが流してくれる。多分。


がらんどうだと思ったそこは、縦横高さ1m位の手すりの付いた壁で仕切られていて、半個室トイレに近い感じになっていた。

中には洋式便器のような物が設えてあり、そこの下は穴が開き、海面が見えていた。



思いのほかしっかりと作られておりこれなら安心して様が足せそうだ、と、安心した所で漏れそうになったので急いで中に入る。


「あー、あー、落ちないでねっ!結構落ちると大変だからねっ!」


腰のひもが団子結びになっていたが、ぎりぎりでほどくことができ、便器にに座り用を足す。

隣に当然の様に先輩が来て、遠くの海を見やる。


「いやー、やっぱりここ最高じゃない?こーやって大海原を見ながら、風を感じてさ、凄い気持ちがいいからつかってみなよーって思ってたんだけど、中々シュー君捕まらなくてねぇ」


「はぁ・・・下さえ見なければ気持ちがいいんですが、ここはやっぱりおっかねぇですよ先輩・・・、あ、これ尻を拭くときはどうするんですか?」


大航海時代にトイレの尻拭きと言えば、砂や干し草、おが屑などで、上流階級の人はシルク等で拭いたりしていたなんて、昔読んだ本に書いてあった気がする。


「ああ、そこに箱があるでしょ?そこにティッシュが入ってるからそれ使うといいよー」


ティッシュ…だと…、箱を開けてみると確かに白い紙が入っていたが、触ってみるとごわごわの、新聞紙みたいな白いA5版ぐらいの紙であった。

まぁ、藁とかよりはいいよね。


一時はどうなるかと思ったが、使ってみると確かに爽快で、最早船内のトイレは使わなくてもいいんじゃないかと思う程度には、大海原トイレは心地よかった。


さて、と、立ち上がったはいいものの、若干の酒と波による振動で、ポロリと船から落っこちた。


「シュー君が落ちたぞーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」



・。

・・。

・・・。



「げほっごほげほっうぇっ」


「おい、大丈夫か?」


どうやら水夫長に助けられたらしい。

周りを見やると、どうやら小さいカッターに、3分隊の人が一人と水夫長、そして俺で、カッターは本船からロープが伸びており、手繰り寄せて戻れるようだ。


海を行く帆船は思いのほか早く、それこそ手漕ぎのボートでは追いつけない程度には早いのである。



「ごほごほ、すみません、急に船がゆれたもんでつい落ちちまいまして」


「仕方がないなスガヤは・・・。まぁ助かったのだし、今度はちゃんと手すり掴んで用を足すんだぞ?」


「ぜぇぜぇ、へぇ、すみません、気を付けまう」


水夫長には助けられてばかりだな。今度お礼をしなければ。

やはり海の上は危険がいっぱいだ、と再認識したところで水夫長の後ろを見れば、南のそらがやたらに黒い。


こりゃあもう一雨来るのかなぁと思ってみると、先ほどよりもいささか小舟の揺れが強い。


「これは・・・急ぐぞ、どうやら嵐が来るようだ」


とキリっとした顔で呟く水夫長。

なんだか今日も一段と水夫長カッコいいっす。


さて、嵐が来るとは言ってはいたが、海の変化はすぐに来た。

本船からたゆたう救難用にひかれた100m程のロープをみんなで必死に引っ張って。櫂で漕いでぐいぐいひっぱり船の横に着くころにはざぶざぶと小波も立つようになり、急いで船に引き上げてもらった。


船に上がると甲板は、まるでアリの巣をつついたような騒ぎになっていた。


水夫長が居ない間は赤エルフ先輩が大声で指揮を執っていた。


ああ、やっぱり偉い人だったんだよね。知ってはいたけどさ、距離感近くてさ。ごめんね、ため口聞きそうだったわ。


「いいからとにかく帆をたたんで―!手開いてるやつ全員登れー!」


メインマストにフォアマスト、ミズンマストの帆という帆に人がとりつき、わっちゃわっちゃと帆をたたんでいた。


嵐のときには帆を畳んで置かないと、突風により船が転覆してしまうため、第一に行わなければならない。


帆をたたむ際には、下からロープでクイっと巻けるわけではなく、帆の上側のロープの上をよじよじ歩いていき、いっせーの、で人力で巻き上げ、ぐるぐるーっとマストにロープで縛って固定する必要がある。


なので、全部の帆をたたむとなるとそれはもう大変なのである。すごく大変なのである。


一つの帆をたたむのに、左右に5人、合わせて1枚で10人もの人が登り、足場となるはロープ一本、ぷらんぷらん揺れながらわっちゃわっちゃとたたんでいく。


嵐のせいもありグラングランと揺れてたまにポロリと人が落ちるが、どうやら安全帯を付けており、大事には至らない様だった。


安全帯はしっかり装着、しっかり確認。


「ルッカ、ありがとう、スガヤ拾ってきたぞ」


「あー水夫長お帰りー、よかった、おかえり、シュー君。ああそれと、シーアンカー投げたかったんだけど、人手が足りなくてさー」


「分かった、ルッカは引き続き指揮を執ってくれ。私とスガヤで投げてくる」


シー・アンカーとは、外洋にて錨を下そうにも海底が深く、通常の錨では止められない場合に、海水に掛ける錨である。


概要としては、水中に凧を駆け、船首を風上に向けるというものである。


船は、嵐の際に何もしないと船首が風下に向かってしまう習性がある。

その際に、横波をもろにくらったりすると、転覆する恐れが出てくる。

その為、風上に船首を向ける装置がシーアンカーだ。

風によって流される船を海面で引っ張り、風上を頭とさせる装置。

ざっくりと言えば水の中に張るパラシュートの様なものだな。


陸で見る波間というのは、大体が荒れていても1~2mであるが、概要で海がしけている場合、5mも10mも波が高く低くなるときも有る。

隣の船が見えなくなるなんてざらで、甲板にいるだけで簡単に死ぬ。


さて、そんなことにならないようにシーアンカーを掛け、風上からの波だけにする、そのシーアンカーであるが。


全長50m、喫水1000㌧にもなるこの船に使われるシーアンカーは、長さ3m重さ恐らく3~400kぐらいあるんではなかろうか。

とてもではないが二人でもてる大きさではないように思えた。


ど、どないしたらええんや。


「スガヤ!とにかくこっちに来て一緒に引っ張れ!!」


茫然と見ていると水夫長に怒鳴られた。


俺も一緒に引っ張るが、うんともすんとも言わない、でも動いてる。力を抜くと「全力で引っ張れこのスカタン!」と、怒られる。


力を込めても水夫長が引っ張ってる分しか動かない。力を緩めると「スガヤ!真面目にやれといってるだろう!!」と本気で怒られる。


汗水流して必死に引っ張り、無事に海にポトリと落とすと、足元のロープがシュルシュルと勢いよく流れていき、それを踏んでた俺も舷外に放り出される。


「あっー!」


ガシッ


「ロープは踏むな跨ぐな!何回もいっただろうが!」


寸でのところで水夫長に首根っこを掴まれまた怒られる。


「ぜぇぜぇ、すんません」


ロープは踏んじゃだめだぞ☆彡


シーアンカーを海に投げると、スーッと艦首が風上に向かい、船の揺れも多少ましになる。


と言っても上下運動は変わらないので、常にジェットコースターの弱い版みたいなものなのだが。


左右45度に振られつつ、手すりを掴んで甲板に戻ると、概ね畳帆作業は終えており、手の空いたものから中に入っていっていた。


「お疲れルッカ、取りあえず・・・船長室に行こうか」


「わかった、じゃあシュー君も行こうか」


へ?何故俺が。

海のうの字もわかりませんが。


二人に続いて船内に。


揺れる船内で出来ることは数少なく、船員の殆どは思い思いに休んでいた。

船の中で個室を与えられるのは船長室だけ、船長は船長室、幹部は二人部屋で、その他は全員ハンモック部屋に詰め込まれている。

俺も当然ハンモッカー衆の一味だ。


ハンモック部屋の前まで来ると、じゃあ休んでていいよーと、言われて俺は解放された。


ああ、そうか、取りあえず中にはいろって事だったのね。

そ、そりゃ俺だって多少なりと船の事しってたし?もしかしたら俺の知識使えんじゃないのなんて一瞬思ったりしたけどさ?

ほんとは分かってたよ?

うん、本当本当。


部屋に入り、お疲れ様です。と声を掛けながら自分のハンモックに潜り込む。


周りからうめき声が聞こえ、ハンモックを一度抜け出し、唸っている人に水をあげる。


最近は風邪のような、高熱を出してるものが出ていて、実の所20人ぐらい寝込んでいた。


俺が甲板作業を手伝っていたのも、人員不足のためやむなくペーペーなりに手伝っていたのである。

陸の空気に触れないせいで病気になってしまったのだろうか。

水夫長はそろそろ陸につくはずだとは言っていたのだが・・・。


船がギシギシと軋み、出来ることも無い中、海に溺れて上がってすぐに甲板作業と忙しく、

憑かれていた俺はうとうとと、直ぐに眠りに落ちるのだった。


またね~

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