スガポン01 すがぽん、大地に立つ
すがぽん、大地に立つ!
「ふあーあ」
先だっての風邪が治り、さて此れから何の用事を片付けてやろうかなとぽつねんと考えているのだが、
やれ、家の周りの草はあまり伸びても居ないし、タバコを買い足すにもそれ程でもない。
特に夕餉に食べたいものも無ければ冷蔵庫に貯蓄もある。
「ふむ、まずは状況整理かな」
広がる青、澄み渡る空気というか、少し湿っぽい。
そろそろ夏本番とはいえ、今日はとても温い。
ひるねでもこいてやろうかと思うのだが、如何せん目の前の状況がそれを辞する。
目の前一杯に海が広がっているのだ。
着ている服は先ほどまでと同じ、シャツにズボンにお気に入りのサスペンダー。
靴は履いておらず靴下だ。
地面は砂浜なので取りあえずは足のけがは心配ないなと思い、ぐるりと見回すが、
ぐるりと海面がある、しいて言えばヤシの木が1本にヤシの実が二つなっている。
あと、この島ちっせぇ。
島全体が砂浜でおおわれており、海抜は大体2m程度、やんわりとした丘になっており、広さは4畳半程度。
これは一体どんなストーリーの夢なのかと思い、展開を待ってみたのだが、
先ほどから3~4回の2度寝を繰り返しても何も変わらない。
起きている時間だけでもすでに4時間以上経過している。
もういい加減寝てるのも飽きたというわけだ。
喉も乾いてきた。人は3日水を飲まぬと死んでしまうという。
それでは俺の一生もあと3日になるのだろうか、考えてみれば短い人生だったなど思ったが、
このまま死んでしまうのも釈然としないので、ヤシの実を取りに登ってみた。
すると、なぜか、以前より木登りが凄くうまくなっており、15m程のやしの木の半分程度まで
するすると登れる。
考えてみれば体が少し軽く、動きやすいように思う。以前から高い所は苦手であったが、
今はその恐怖もさほど感じえない。
やはり夢なのだなと思いつつ、続きを登るが見事に足を滑らせ転落する。
「あがががががが」
したたかに頭を打ち付けて意識が飛びそうになるが、かろうじて取り留める。
いやもう痛いしいっそ気絶させてくれぇぇと5分ぐらいのたうち回っていると、
痛みもだんだん引いてきた。
「ひどい目にあったな。もう高い所なんてぜってぇのぼらねぇからな。」
等と誰に聞かせるわけでもない意識表明とともにヤシの木を見上げて見て気が付いたのだが、
この木の半分ぐらいまではヤシの葉で作った輪があって、そこに足をかけて登りやすくしてあった。
見てみると近くにヤシの葉が落ちており、これをよじって縄にして、
木の幹に取り付ければやがて上まで登れるようになろうものかと思ったのだが、
3本しか落ちていなかった。
ふむ、取りあえずどうしよう、と、外からみたら平然としているようではあるが、
内心不安でさいなまれ、居てもたってもいられないので、
取りあえずごろごろしていると、また眠気が襲ってきたので身を任せることにする。
あぁ、砂浜で潮騒を聞きつつ、ごろごろするの気持ちいいなぁ。
ゴッ
「あがががががががが」
突然の衝撃に目がちかちかする。頭がとても痛い、いきなり殴打されたのか?
誰に殴られたんだ、いてててて、超いてぇ、どうしよう血でてない?ちょっと痛い痛い。
ゴロゴロと目をつぶりながら5分程度して、ようやく精神状態が落ち着いてきたので、
たんこぶが出来た頭をさすりつつ後ろを見ると、ヤシの実が落ちていた。
「あー、あれおっこって来るのね、そりゃ落ちるよね、・・・ん?」
確かになっていた実は二つだったはずなのだが、今もまだ2個ついている。
「これはアレか、何時間に一回かで落ちてくるのかもしれねぇな。」
一人思案して、それもまた希望的観測に満ちているのだが。
取りあえずはヤシの実だと、急いで拾う。
ヤシの実をカリカリ爪でひっかいてみたり、かじってみたり、
砂浜に投げつけてみたりしたが一向にあく気配が無い。
これを食べねば後3日、しかし煮ても焼いても食えぬ。
煮ても焼いてもいないんだけどさ。
これは困ったと寝っ転がり、顔の真上でポーンポーンと投げていると、
カチリという音とともに親指が茎に1センチほど入り、パカリと10cm程度の蓋が開いた。
「がぼぼぼぼぼぼ」
どうやらボタン式になっていたらしい。
折角のヤシの実の汁が半分以上こぼれてしまった。
しかしヤシの実の汁は予想以上に旨かった。
これは思わぬ朗報だろう。
味を言うなら、これはヤシの実の味ではなく、自動販売機で売ってるココナッツジュースだな。
テレビでよく原住民が、ヤシの実を手で割ったりナタで割ったりして中身を飲んでいるが、
実際のところあれはあまりうまくない。
やんわりと甘く、脂っこいようで、そして少しだけ青臭い。
だがこのヤシの実は、うん、ココナッツジュースだわ。
ごくごくと後のことも考えず一気に飲み干してしまい、ついでに内側についていた果肉も食べる。
傍から見たら熊の○ーさんが蜜のツボを漁っているように見えるだろう。
でもこれが病みつきになる味で、たとえるならバニラアイス味のナタデココ。
コリコリしていてたまらん。
しかしまぁこの痛みからすると、これは夢ではないのかもしれんな、
と、うっすらと思いつつ、先ほど食べたヤシの実を地中に半分ほど埋め、
砂をベットの形にして寝た。
が、ヤシの実は堅かったので枕には適さず、やはり外した。