魅入られる
夏のホラーに投稿しようとして、文字数制限があると勘違いしてこちらに投稿してしまいました。
折角書いたので暇つぶしにでもお読みください。
公式ツイッターで注意喚起されていました。
夏のホラーに投稿する本文には文字数制限3000文字以上だそうです。
私の勘違いでさらに誤解される方がいましたら、申し訳ありません。
あたしの通っている小学校では、下校の時間になると『エリーゼのために』が流れてくる。
この曲が聴こえると小学生は全員家に戻らないといけない、そういう決まりだった。
「ねぇ。早くしてよ。まだ、見つからないの?」
忘れ物をした加奈ちゃんに付き合って、下校時刻ギリギリに教室に戻ってきたのだ。忘れたのは大事な物らしく、嫌々付き合ったあたしは早く帰りたくて仕方なかった。
「ねぇ? まだぁ?」
「変だな。確か、ここに入れたと……あ、あった!」
机から石のような物を取り出して、加奈ちゃんは戻ってきた。
「ごめんね。美春ちゃん。見つかったから帰ろう」
そう言って見せてくれたのは、5cm位の水晶の原石だ。おまじないがブームになっているあたしたちの中で、水晶は人気だった。
「わぁ。いいなぁ。あたしも欲しいんだけど、ママがダメって言うのよね」
「へぇ。美春ちゃんのママなら、こういうの興味ありそうなのにね」
「うん。おばあちゃんの家のママの部屋に、実はおまじないの本とかグッズが沢山あるの。今度、コッソリ持ってくるんだ!」
「あはは。いいね、それ。持って帰ってきたら私にも見せてね」
「いいよ、いいよ。夏休みに行くから、楽しみにしててね」
教室のドアを勢いよく開け、あたしたちは廊下へと出る。
一歩踏み出した途端、何故か背中がゾクリとした。
「ねぇ。遅くなっちゃったし、玄関まで走って行こう」
加奈ちゃんも何かを感じたのだろう。さっきまでと違って少し怯えたような表情をしている。加奈ちゃんの案にあたしは頷き、一気に走り出す。なんだろう? とても嫌な感じだ。さっきまで聞こえていたエリーゼのためには終わったのか、学校はとても静かだった。いつもの騒々しい学校とのギャップの所為か、とても恐ろしく感じた。
おかしい。
あたしたちの教室からは廊下を渡った先にある階段を下りれば玄関に着く。走っているのに、中々階段に辿り着かないのだ。廊下は真っ直ぐで、階段も見えている。それなのに、全然近付いているようには見えなかった。加奈ちゃんを見ると、真っ青な顔をして走っている。
どうしよう。どうしよう。
どうしたらいいの?
なんで階段に辿り着かないの?
そう思っていたら、突然加奈ちゃんが立ち止った。
えっ?
「加奈ちゃん?」
加奈ちゃんは後ろを向き、何故か笑っていた。まるで誰かとお話しているみたい。不思議に思って見たけど、加奈ちゃんが向いてる場所には誰もいない。
「加奈ちゃん。」
もう一度呼んでみるが、話に夢中なのかあたしに気付いてはくれなかった。
「加奈ちゃん!誰と話しているの?!」
シンっと静まり返った廊下に私の叫ぶ声が響いた。
すると、さっきまで聞こえなかったぼそぼそと話す声が聞こえてきた。
誰もいないのに、誰かと話す素振りを見せる友達。
中々辿り着けない階段。
あたしは怖くて怖くて仕方なかった。
「美春ちゃん。この人がね、家まで連れて行ってくれるって」
先程までの恐怖の表情が嘘のように笑顔で言う加奈ちゃん。この人って誰? ドコにもいないのに。
「あ、あたし、いい。一人で帰れるから」
「そう?でも、もう遅いんだよ」
「大丈夫だよ。もう、5年生なんだし。加奈ちゃんも一緒にあたしと帰ろうよ」
恐る恐る、あたしは加奈ちゃんに手を差し出す。加奈ちゃんを引き留めないと、と思った。
でも、それは叶わなかった。
「じゃあね、美春ちゃん。また明日ね」
そう言って、加奈ちゃんは元の教室の方向に歩いて行く。
「加奈ちゃん、ダメ! 一緒に帰ろう!」
加奈ちゃんの腕を掴もうとしたあたしの手は空を切り、忽然と加奈ちゃんの姿が消えた。
加奈ちゃんの姿が消えると、一瞬でさっきまでの嫌な空気が消える。そしてまだ明るかった学校は真っ暗になっていた。あたしは廊下を走り階段を一気に駆け降りて、慌てて靴を履き替えて玄関を出た。
小学校の時計を見ると夜の8時になっていた。さっきまで、エリーゼのためにが流れていたのに。
その日、加奈ちゃんは帰ってきませんでした。
警察に捜索願が出されたけど、見つかっていません。その日、最後まで一緒にいたあたしは、加奈ちゃんのパパやママに、加奈ちゃんと別れた時のことを話しました。
目の前で消えた。
だなんて、信じてもらえるかと思ったけど、私の話を聞いた大人の人は、みな
「加奈ちゃんはきっと魅入られたんだ」
「美春ちゃんだけでも無事で良かった」
と、言っていました。誰に魅入られたのかは教えてもらえませんでした。
フィクションです。
登場する人物や実際に起こった出来事とは全く関係ありません。
ご読了ありがとうございました。