なろうによくいる無駄な正義感を滾らせる主人公の末路なんて、ラノベじゃなければこんなもん
いつも通りテンプレ異世界ものを読んでいてふと思い至り、一時間で書き上げました。よろしくお願いします。
異世界から転移してきた少年はある森の中で目を覚ました。森を彷徨っている間に、少年はこの世界に来てからやけに身体が軽いことに気がついた。
試しにジャンプをすれば周囲の木々より高くまで跳べてしまった。辺りの岩を殴れば粉々になった。更には身体のうちに不思議な力を感じ、それを解放すればイメージに従って水の大砲が放たれた。
少年は思わぬ力に驚きながらも、なんとか森を抜けることに成功した。
そしてそこでは白い馬車が十数の騎兵に襲われているところだった。少年はすぐさま騎兵達が悪だと断定し、自身の正義感に従って争いに介入した。
少年が全力で走れば馬よりもよほど早かった。その拳は人の頭を軽々と弾けさせた。少年は初めての人殺しに吐き気を覚えながらも必死に戦った。
そして、残るは敵の首領のみとなった。
「なぜ貴様は私たちに攻撃した?」
彼は自身の未来を諦めながらも、冷静だった。
「なぜって、人を襲う奴を倒すのは当たり前のことだ!!」
「理由も聞かずか?」
「どんな理由だって人を殺す理由になるもんかっ!」
少年の言葉に、彼は唖然とした。だってそれは自分の行動を完全に棚に上げた発言だったからだ。
そして、彼は悟った。
(この少年は、正義感に酔ったただの愚者か)
そして、次の瞬間。彼の意識は少年の拳によって永遠に断たれてしまった。彼は少年の愚かさと、自らの不運さを呪いながら死んだ。
少年は血に染まった拳を見て、思わず胃の中のものを吐き出してしまった。げーげーとやっていると、馬車の中から美しい少女が現れた。
その少女は少年の背中をさすりながら丁寧に礼を述べた。すると少年は笑って「当然のことをしたまでです」と言った。
「本当に助かりました。私はこの国の第一王女、アリーシャ・フォン・レイブンと申します」
「あ、僕は相坂 俊って言います。怪我はありませんでしたか?」
そんな言葉を交わしながら、少年ーー俊はこれをまるで運命の出会いであるかのように感じていた。
まるで元の世界での物語のようだったから。だからこそ、俊は浮かれていた。物語の主人公のような正義感を燃やし、この先の未来を思い浮かべた。
今助けたこの少女が、どのような人間かも知らずに。
◆◇◆◇◆◇◆
俊は王城まで連れて行かれ、手厚くもてなされた。俊はその扱いに更に浮かれていった。
王様が王女を助けたことで礼を言いたいということで謁見をすることになった。そこで王様は俊にこの国の国難を救って欲しいとお願いした。
それは悪逆非道の隣国がこの国を狙っているという話だった。もし隣国にこの国が支配されれば、何万人という人が殺されてしまうだろうと。そう言われて、俊の正義感に火がついた。
「僕の力が誰かの役に立つなら、全力を尽くします!!」
俊は決意を込めてそう宣言した。
ーーー王の言葉が真実か確かめようともせずに。
◆◇◆◇◆◇◆
その後、俊は王と王女に自身の身の上を明かした。自分が異世界から来た存在であることを。
二人は大層驚いていたが、最後には笑って俊を迎え入れてくれた。俊は自身がこの世界に受け入れられた気がして、涙を流した。
ーーー二人の笑みの裏側を疑うこともなく。
◆◇◆◇◆◇◆
「俊様の世界はどんなところでしたの?」
「えっとね、僕の国は日本って言うんだ。そこでは王様とか貴族とか無くて、みんな平等に暮らしてたよ。勿論、貧富の差はあったけれど、みんな幸せに暮らしてた」
王女はこの国の将来の参考になるかも、と俊に元の世界の話をねだった。そして俊も求められるままに、なんだって話した。風土、政治、国民の思想に文化まで。
何日も何日も話し込み、やっと話が終わると王女は可憐に微笑んだ。それは薔薇の様な美しい微笑みだった。
「私、俊様のことを知れてとても嬉しいです!この国の未来をこれから一緒に考えていきましょうね!!」
「うん!僕らならなんだって出来るよ!」
俊は美しい花には棘があることを、まだ知らなかった。
◆◇◆◇◆◇◆
それから俊はこの世界のことを勉強した。教師役は王女が名乗り出た。彼女の教えは分かりやすく、俊はどんどんこの世界のことを知った
ーーー気になっていった。
◆◇◆◇◆◇◆
ある時、俊が街に出てみたいと言い出した。近頃では騎士団の中で俊に勝てるものがいなくなってしまい、暇だったのだ。
王女は俊が重要人物であることを上げ、行き来は馬車で行うように言った。そして王女自身も付いていくとも。既に王女と恋人関係にあった俊は、初デートという言葉にはしゃいで回った。
そして、二人は徹底的に考え抜かれたルートでデートを行った。
◆◇◆◇◆◇◆
デートの途中、暴漢から助けられた貴族の少女が俊のもとにやってきた。彼女曰く、一目惚れだそうだ。俊はデレデレとしつつも、自分には王女がいるからと告白を断った。
すると彼女はメイドとして俊に使えるようになった。その献身的な態度に、俊は最後には彼女を受け入れることにした。それを王女は「力あるものには当然のこと」といって笑って許した。
そうして、俊は二人からの愛情と幸せを謳歌した。
ーーー二人の愛情を信じ切ったまま。
◆◇◆◇◆◇◆
俊がこの世界に来てから半年が経った頃、とある地方で反乱が起こった。
その首謀者は王女から、「隣国との内通している可能性がある」と聞かされていた貴族だった。俊は王女に請われるまま、王女の近衛騎士達と共に貴族の城へと攻め入った。
飛竜の運ぶ籠によって数時間という短さで現地に到着するやいなや、俊は城門を全力で殴った。膨大な魔力によって人外レベルにまで高められた膂力は、いとも簡単に城門を粉砕した。
近衛騎士たちでさえも驚愕の表情を浮かべるなか、俊は不敵に笑って城に突入した。
全ての兵を殆ど一人で薙ぎ払い、俊は貴族の元へと辿り着いた。
「ふむ、どうやら私には大義を果たすことは出来なかったようだ」
俊を見て、貴族が最初につぶやいたのがその言葉だった。
「なんで、隣国と内通なんかしたんだ!お前のせいでどれだけの人が危険にさらされると思ってる!」
「ああ、私はそういう設定なのだね?」
貴族の言葉は俊に理解することは出来なかった。しかし、それを見て貴族は背筋に怖気が走るような暗い笑みを浮かべた。
「ならば、この上なく憎い君に、精一杯の復讐をしてやろう。あの王女のシナリオに乗ることが、きっと君に対して一番の報復だ」
「なんでここでアリーシャが出てくるんだ!!」
「なんでか、だと?決まっているだろう。あの王女は我々の手に落ちるはずだったのだ。君が邪魔をしてしまったがね」
俊はハッと気がついて顔を上げた。
「まさか、あの時のアリーシャ襲撃は……」
「そう、私と他の同志たちで企んだことだ。どうだ?憤るかね?私を憎むかね?私をーーー」
そこから先を貴族が話すことはなかった。俊の手刀が貴族の首を刈り取っていたからだ。
ぼとりと落ちた貴族の首は、不気味な程深い笑顔が刻まれていた。
◆◇◆◇◆◇◆
貴族の反乱からほとんど間をおかず、隣国との戦争が始まった。
国境付近にある平原での野戦では、俊の奮戦によって兵力が三分の一にも満たない自国側が勝利した。これは兵力差が勝敗を決めるとされる野戦では異例のことだった。
この時から俊は英雄と呼ばれるようになった。
そして隣国からはーーーー
◆◇◆◇◆◇◆
俊はその莫大な魔力によって軍勢を不可視の状態にして隣国の王都に攻め入った。
なんの対策もしていなかった隣国は、あっという間に陥落。俊は危機が去ったと信じ込み、街の様子も確認せずに眠気に身を任せた。
無理を言って付いてきた設定の王女は、この世の邪悪そのもののような醜悪な愉悦の表情を晒した。
俊の異世界譚が結末を迎える時が来たのである。
◆◇◆◇◆◇◆
俊が目をさますと、全身が鎖によって拘束されていた。あまりのことにギョッとして、鎖を引きちぎろうとしたがそれは不可能だった。
その鎖には魔力を吸収し硬度を増す性質があった。魔力によって超人的能力を維持していた俊は、もはや唯の子供でしかない。
自身の想定を超える事態に、俊の頭はフリーズしていた。そこへ、満を持して王女がやってきた。
漸く知り合いが現れたことにほっとしかけたが、俊はアリーシャの表情を見て凍りついた。そう、その表情はまるで、もがく蟻を指で引きちぎる子供のような、
純粋で、それでいて邪悪な笑顔だったのだ。
「ご機嫌はいかがですか、俊様?」
「こ、ご機嫌ってこんな状況でいいわけないじゃないか。早くこの鎖を解いてくれ」
「嫌ですわ。だってそれを解いたら俊様、きっと私を殺しますもの」
俊には彼女の言葉が理解できなかった。だって、俊が王女に手を挙げるはずがないのだ。
しかし、王女は笑ったままだ。
「まあ、言うより先に見た方が早いですわよねぇ」
ネットリとした、熱く、甘い囁き。しかし今の俊には凍えるほど冷たく感じられた。
近衛騎士の一人がニヤニヤと笑いながら、鎖をつかんで俊をバルコニーへと引きずっていった。その後ろを楽しそうに王女が続く。
朝日の眩しさに目が眩み、一度閉じた目を俊が再び開いたとき。
そこはーーーーー地獄だった。
あたり一面に整然と並べられているのは
首、首、首、首、首、首、首、首、首、首、首、首、首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首首クビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビクビくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくびくび
数千、数万の、首。それらすべてが苦悶の表情を浮かべ、俊を見つめていた。
「う、うわああああああああっ!!!」
それは最早、まともな感性をした人間が見れるような景色ではなかった。
「まだまだ、見せたいものがあるんですよぉ〜」
そう言って入ってきたのは俊に一目惚れをしたという、あの貴族の少女。いつも着ていたメイド服を脱ぎ去り、成金趣味のゴテゴテした装飾のドレスを身にまとっていた。
彼女は光の魔法を得意としている。そんな彼女が何事かをボソボソと唱えると、部屋中に何処かの光景が広まった。
そこでは、ありとあらゆる女達が犯されていた。五歳に満たないような幼女から、結婚して幸せに暮らしていたであろう熟女まで。
それぞれの大切な人の前で、人としての尊厳をけがし尽くされていた。
「…………う、あ……」
俊にもはや気力は無く、項垂れるのみだった。
それでも、王女は手を緩めたりはしなかった。
「全ては、最初の時から仕組まれていたんですよ?」
そう言って、俊の軌跡の真実を語り始めた。
最初の馬車の襲撃は反戦派の手勢によるものだった。元々戦争が好きな王女と王を、何とかして止めようとした反戦派による攻撃だったのだ。
本来ならば、王女はあそこで息絶えこんなことは起こらなかった。
王女と俊の出会いは、馬車の中で問答を聞いていた王女による演出だった。
謁見での王の言葉は嘘にまみれていた。ちょっかいをかけていたのは隣国からではなく、自国から。悪逆非道な行いも自国がよく行うものだった。
異世界人の真実を知らされた時、王と王女は感激した。何故ならば、それは無知ということだからだ。
洗脳だってし放題、いくらでも都合のいい情報を仕込める。
異世界の話をせがんだのも俊の倫理観や考え方を掴むため。それを元に耳に心地いい言葉ばかりを吹き込み、俊を思うままに扱えるようにした。
教育では自国を、平等を謳う世界でも随一で平和な国などと刷り込んだ。しかしそれも真っ赤な嘘。
真実は獣人や亜人をとことんまで差別する、世界で最も倫理観が劣悪な国。
だからデートの時はそう言った様子が見られないルートを通った。貴族の少女が襲われていた件も、すべて自作自演。
少女自身ただのハニートラップで、愛情など持ってはいない。寧ろ王女と二人で馬鹿な俊を嘲笑っていた。
反乱を起こした貴族はこの国でも数少ない善政を敷く地域の領主だった。民を尊び、責務を果たす、貴族の鑑のような存在だった。
故に民を蔑ろにし、徒らに戦争を起こそうとする王族達に反逆したのだ。しかし、それもあえなく俊によって潰された。妻も子供も部下も、すべてを失った貴族は俊を憎みながら殺された。
そしてこの戦争だ。そう、この戦争の発端さえ全ては王女が仕組んだこと。軍勢を送り、幾つかの都市を先に攻撃したのは自国側だった。
反撃に出た隣国も、俊の奮戦によってあえなく沈黙。王都に至ってはこの有様。
そんな、信じていたものと全く真逆の真実を知ってしまった俊は茫然自失といった感じだった。そんな俊の耳元に、王女がそっと口を寄せる。
「どれもこれも、ぜぇーんぶ貴方のせい❤︎」
「あああああああああああアアァァァ」
吠える俊を他所に、王女は回る。楽しそうに、踊るように。
そして、なんとも嬉しげにつぶやいた。
「ああ、これだから正義感の強いバカは扱いやすくていいわぁ」