お題もの、その八
「ダウト」
その声と共に舌打ちをする少年を含め、四人の学生。
ものすごいさっきがこもっているのが甚だ疑問だ。
──所詮ゲームなのに。
「ダメだこりゃ。全然終わんないじゃん!」
「そーゆーゲームだし仕方ないよ、那都琉」
「もう飽きたーやめるー!!」
終わりの見えないゲームに退屈した那都琉という子が手札をばらまいて
もうやらないという意思表示をする。
その代わりに手に取ったのはノートパソコン。
(高校生なのに無許可で持ってきているものだ)
ヘッドフォンまでつけて、ネットゲームに集中してしまった。
それを見て、大きくため息をついているのは最初に声を発した夏樹だ。
那都琉が放ったカードを一枚手にとり、裏面を那都琉に向けて言った。
「なぁ、これなんだかわかるか?」
「・・・・・・・・・・・クローバーの2」
案外音量は小さめに設定しているようだ。
普通の声量で聞こえている。
彼女はあんな性格だ。
寂しがり屋で、嘘が得意。
飽きた、とは言っても構って欲しい。
別のことをしようと提案していたのだ。
私達以外の人に「淋しい」といってもこんな態度ばかりされていたら、
きっと誰も信じてはくれないだろう。
まるでオオカミ少年の話で出てくる村人のように。
っさ。
「もーらいっ!」
那都琉の後ろに這い寄っていた優騎が那都琉のヘッドホンを取り上げた。
それに対して那都琉は嫌そうに眉間に皺を寄せる。
二人はとても仲が良い分、遠慮がない。
「か・え・せ、馬鹿」
「えーちょっと聞こえませんねー」
「バーカ、バーカ!」
「こらこら。喧嘩が幼稚だぞ」
「「夏樹にだけには言われたくない」です」
「ハモッてるわよ」
また嫌そうな顔をする。今度は優騎も。
本当に仲が良くて羨ましい限りだ。
「それにしても先生も人使いが荒いわよねー」
「そうそう。こんな量のプリント女の子に運ばせるなんてひどいー」
「というか暇そうな連中って言われましたね」
「勘違いだけどな!俺はいつだって忙しいぜ!」
「夏樹うっさい」
しょんぼりした挙句、体育座りで教室の隅に固まる夏樹。
それを見てやはり嫌そうにする那都琉。
本当はそこまでではないくせに。
本心を少しくらい表に出してもいいじゃないかとも思う。
「しかも、これ進路のやつじゃん」
「あー定番のどこ行きますかーの奴だな」
「うーん?これ考えなくちゃいけないかしら?」
「聖奈だったら適当に書いても怒られなさそうですね」
「なによそれ」
「ほらよく言う優等生補正」
「聞いたこともないわよ!」
珍しく鼻歌交じりに笑顔を見せる那都琉。
手元に一枚だけプリントを置く。
「まー。こんなものなんて要らんのだー」
あっという間に紙飛行機を作成。
教室の窓を全開にして校庭に向かって投げる。
紙飛行機はつぃーっと空を泳いでいく。
それを何よりも楽しそうに見守っている那都琉。
「プリント教室まで運べたから帰ろー」
「え、今プリント捨てたわよね?」
「いーのいーの。あれは私の分だから」
「・・・那都琉出さないの?」
「うん!」
きっと明日になって、提出日になって。
それから先生がとても狼狽するだろうことを予測する。
那都琉はいつも私を優等生というけれど。
那都琉が異常に不真面目なだけだと思う今日この頃。