第8話 -[物置くとこ]-
「さん、に、いちって数えたら、飛び込むぜ」
「わかった」
俺はユズに頷いた。
足に力を込め、ユズの後ろで前傾姿勢をとった。
部室の入口。
室内から陰となる場所。
背後から迫る"人影"の集団と、部室内。
俺は、どちらにも『知らせ』の光が反応しているのを見た。
「さんッッ」
ユズが床を蹴った。
「オラァ無事かーおめーら。あぁ?」
ユズは部室の鉄扉に手を掛け、勢いを殺さずにそのまま室内へ飛び込んでいった。
「数えてない数えてない」
俺はユズに続いて、部室内に飛び込んだ。
ユズの声を聞きながら、俺はそのまま鉄扉を閉めた。
「敵を騙すには、味方から」
「今騙す意味あったかね」
俺は扉に錠を掛けた。
錠を掛けた少し後。
ひっかくような音と、叩いているような音が、扉の振動といっしょに聞こえてきた。
「居ねえぞ誰も」
室内を見回し、ユズがそう言った。
「なんか踏んだ。あぶねえ」
「この散らかりは何だ」
パソコン部部室内は、俺たち以外、誰も見当たらなかった。
床にはパソコンのキーボードや部員達のカバンの中身などが散らばっていた。
それと被さるように、赤黒いものが飛散している。
「GRR、[物置くとこ]は」
ユズの声に、俺は室内の端を見た。
「見てくる」
パソコン部部室は室内中央、横長の本棚を隔てとして設け、室内を2つに仕切っている。
今、俺とユズが居るのは本棚のオモテ側。
入口の扉がある、パソコンと机が並ぶメインのスペース。
そして本棚の裏っ側。
今ユズが言った[物置くとこ]は呼び方のそのまんま、物置とかに使っているスペースだ。
「ユズはこっち側に居てくれ」
「おう」
俺はモップの柄を短く握った。
室内を仕切る本棚の脇から、[物置くとこ]を覗き見た。
"それ"は否応なしに目に入った。
「お前…」
俺に危険を伝える、"知らせ"の光だった。
黄金の光は"それ"の周囲で静かに舞った。