第3話 -「待てよ、俺もトイレだ」-
「小便しよう」
「いいよ言わなくて」
扉の錠を閉めてから数分が経過した。
俺は部長様から離席の許可を取った。『光』の事、室外の様子が気がかりだったからだ。
「あ、戻ったらコレ見てくれない? ああ、戻ったらでいいから~」
「あいよ」
部長様は自身のパソコンに視線を戻し画面を指した。今やってる作業のハナシだ。
俺は短い返事を返して作業席から立ち、一伸びしてから出入り口の鉄扉へ向かった。
「待てよGRR。俺も行くウンコ」
声に一瞬ドキリ、とした。
部員達が作業を続けているパソコン席。声の主はのそりと席を立ちこちらへ来た。
「おーう」
その生徒を待つ間、何度か扉を見た。『知らせ』の光は消えている。
俺は静かに鉄扉の錠を外した。
「すぐ帰ってこいよ~」
部長様の送り出す声を聞いた後、俺は扉を開け、ついて来た生徒と共に薄暗い廊下へ出た。
「寒っ」
「寒っ」
俺は扉を閉めた後、そのままポケットに手を突っ込んだ。
棟の最も東側の2階に位置する[パソコン部部室]。
[トイレ]は反対方向である最も西側の各フロアに設備されている。遠い。
「待ってユズ。あっちって確か」
「"工事中"、だったぜ確か」
ついて来た生徒、ユズはポケットに手を入れボソッと答えた。
ここから一番近い[2階の男子トイレ]は現在工事中で使えない事を思い出し、俺達は[1階の男子トイレ]を目指す事にした。
「降りる?」
ユズが階段を指さして尋ねる。
各フロアへの移動手段として、ユズが見ている[東階段]と反対の西側の[西階段]が存在する。
目的地までのルート選択。
先に1階へ降りるか、[西階段]まで歩いて1階へ降りるか。
「……。降りっか」
「あい」
悩むような事でもなかったが、ユズの問いに「ンー」と少し考えるような間を取った。
時間にして1秒、経ったかどうかの間。
"判断"をするには十分な時間だった。
2階廊下の西側に『あの光』が見えた。