第1話 -別の音-
「寒ぃね」
まんま口から出した。
人気のない放課後の校舎。その一室の照明が点灯、生徒が集い『部活動』を始めている。
肌寒い年度末。こと期末試験期間において、全校生徒は部活動停止、完全下校を規則としてる。
「なんで鍵持ってたの」
「いいから手を動かせ」
俺達は[パソコン室]を失敬した。無許可で。
「成果物の納品期限」を言い訳に"試験期間"に[パソコン室]を開けた部長様にぼやきながら、俺はパソコンのキーボードを叩いた。
カチカチカタカタ、カチカチカタカタ。
今日も多分ずっと鳴ってる、部屋内に響く作業音。
そいつに集中していたとき、ふと窓の外の"別の音"に気が付いた。
「ん」
結構はっきり、確かに聞こえた。俺は作業を中断させて席を立った。
「サボったら飲ますぞ~」
「ちょっと休……え、何を怖い怖い怖い」
部長様から休憩の許可を得た。しかめ面だった。
俺は窓に歩み寄り、カーテンのスキ間から外を窺った。
外は既に真っ暗だった。冬場の日の沈む速度に感心しつつ、"音"の聞こえた方向を流し見た。
「……気のせい?」
"音"はもう聞こえない。それに暗くてよく分からない。
せっかく得た休憩タイムも、目的の音の正体を確認できずに過ぎようとしていた。
「……ありゃ?」
カーテンを閉め直した時だった。今度は窓の反対方向、部屋の出入口側から"別の音"が聞こえた。
「なに、蟻ゃ?」
「違う」
丁度部長様とも目が合った。
「先生来ちゃったかな~」
「まじで。やっと帰」
っぶね。
「ん~?」
「何でも、部長様。俺が出る」
俺は少し遠回りをして出入口の鉄扉に向かった。
"音"はまだ聞こえている。センセーとかが「とっとと帰れ」と言いに来たと、そう思った。
「ハイどちら様です?」
声を掛けながら、俺は出入り口の鉄扉に近づいた。