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臣下の考察―嘘か誠かはたまたそれは……

日本生まれ、日本育ちの優奈さんの視点でお送りします。

 全く、どうしたものか。

 私は、後ろで凄まじく重苦しい雰囲気をまき散らしながら歩く二人を想ってため息を吐いた。

 我が敬愛する国王陛下にして、アラサー間近にも関わらずファンタジックに異世界トリップなんかをやらかしてしまった私を受け入れてくれた恩人――の、『片割れ』。の、付き人。

 正直、付き人という割には、片方の魔力はヤバい。どれくらいヤバいって彼の力があればこの世界を片手間で滅ぼせるくらいヤバい。そしてもう一人の方も、気品あふれる立ち居振る舞い。きっとどこかの貴族のお嬢様なのだろう。

 ――そう言えば、ナンナ妃と一緒に側室のフラウ妃が失踪したのだったか。もしかして。

「そう言えばフラウさん、ミオちゃんとはどこであったんですか?」

「え? え、えっと……町で、偶然」

 うわぁ、大当たり。ごまかしてるみたいだけど、知らない人から名前を呼ばれることを不思議がらないあたり、貴族の娘さんだよね。貴族の名前を覚えるのも、お仕事の一つだから。

「そうなんですか」

 そう言うにとどめる。まあ、彼女の心証を悪くしてもしょうがない。何せ、陛下の大切な人が大事にしている付き人だ。無下にして陛下の怒りを買うわけにはいかない。

 というかあんまりにも不興を買うと文字通り消されるのだ。陛下が持つ圧倒的魔力によって。

 齢十六だというのに達人のように武芸に秀で、バケモノみたいな魔力を最大効率で運用するものだから、陛下は城内の者に恐れられている。新人の下働きも、次の日には陛下を恐れるようになるありさまだ。というのも暗殺毒殺等の処断せねばならない案件が毎日山のように出てくるからなのだが、場内でその実情を知る者は少ない。

「あのリュカという男はなんなのだ」

 ぽつりと、男がつぶやいた。

「この国の王様。ものすごく強い方なのよ」

「私よりもか」

「ロウより上かどうかは……わからないわ」

 フラウが苦笑しつつ答えた。彼女にはロウという男性がどれほど強い思いで先ほどの問いを発したか、わかっていないようだった。

 体がねじくれるほどの情熱を感じる。きっと、ミオを守るのは自分だ、とでも考えているのだろう。

「とにかく。明日ミオに何かあれば、この国を滅ぼそう」

 その言葉の本気度が容易く理解できて、思わず震えた。本気で、ロウはこの国を滅ぼすつもりでいる。つまり、私は明日にでもロードドラゴンと戦うことになる可能性があるのか。


 ……遺書、書いておこう。


 割と本気で、そう思った。

 陛下の普段を見ていれば、ミオをぞんざいに扱うわけがないのだ。だから、大丈夫。国が滅ぶなんてことはない。ない、ないったら、ない。

 よし、落ち着いた。

 私は客間の前まで歩くと、振り返った。

「ここがロウ様の部屋でございます」

 思えば、私も成長したものだ。ここに来る前はコンビニバイトレベルの敬語しか知らなくて、きっと来たばかりの私なら『ここがロウ様の部屋になります』と言っていたかもしれない。ゆっくりと敬語や丁寧語を教えてくれた陛下には頭が下がるばかりだ。きっと帰れる方法が見つかっても、少なくとも陛下が崩御なさるまでは、ここにいるだろう。陛下の生活を見ていて、先十年生きていられるとは思えないし。

「すまんな」

 礼と共に、ロウは部屋に入った。

「何かあればお申し付け下さい。部屋のそばにメイドが侍っておりますので」

 頭を下げると、部屋の扉を閉める。

「フラウ様はこちらのお部屋でございます」

 隣の部屋を開けると、フラウを招き入れた。

「何かあれば――」

「よいです。下がってください」

 口上を言い切る前に、遮られた。何も言わず頭を下げると、扉を閉めようとする。

「あ、そうだ」

 ふと、フラウが私を引き留めた。なんだ?

「東の国には、何も言わないでね」

 気づいていたのか。礼儀としてとりあえず報告するべきだと思っていたのだが。まあ、陛下はあの国と戦る気だし、まあ、多少礼を失してもいいか。

「かしこまりました」

 私は礼をすると、今度こそ扉を閉めた。一人きりになったと同時、大きなため息を吐く。しばらくして、警備の騎士がやってきた。

「アラウンド・カーター上級騎士、参りました」

「同じく駒鳥 舞香上級騎士、参りました」

 今回警備をするのは、知らない騎士と、同僚の舞香だった。二人の後ろには下級騎士が一人ずつついている。陛下のそば付きともなると地位は相当なもので、下級騎士なんかは名乗ることさえ許されていないのだ。

 舞香とは久しぶりに会ったのでいろいろ話したいこともある。が、ここは仕事場だ。気を引き締めて、二人に応対する。

「ご苦労様。この部屋にはカーターが、この部屋には舞香が付いて。陛下の客人だから、くれぐれも丁重にね」

「はっ!」

「かしこまりました!」

 敬礼と共に、元気な返事が返ってくる。私は頷くと、四人の間を抜けて陛下のいる部屋へと向かった。


 陛下の部屋までくると、笑い声が聞こえてきた。少しだけ、驚く。私がこの世界に来てからというもの、この部屋から聞こえてきたのは悲鳴か苦悶の声くらい。そして扉を開けると決まって死体が転がっているのだ。だというのに、今聞こえているのは楽しそうな笑い声だ。

 ノックをすると、陛下の返事が返ってきた。

「誰?」

「私です」

「あ、入っていいよ、優奈」

 彼の声色はかなり安らいでおり、聞いたこともないくらい優しいものだった。

「失礼します」

 部屋に入ると、ベッドに腰掛けている陛下がいて、その膝の上にミオという少女が座っていた。

 きっとほかの大臣なら『不敬だぞ!』とかなんとか言って陛下に手打ちにされるんだろうなぁ。そんなことを想いながら、私は扉を後ろ手で閉めた。

「フラウ様とロウ様は客間にお通ししておきました」

「ん、ありがと。優奈も混じる?」

「……何にでしょうか」

「おしゃべり」

 陛下のお誘いは非常に魅力的である。何せ、私が元いた世界のことがわかる数少ない理解者なのだ。だが、今はミオという非常によくわからない存在がいる。

「いえ、遠慮しておきます」

「つれないね。というか、丁寧語外してよ。優奈、ミオの前では、いつもどおりでいいんだよ」

 む、と私は唸る。許可があったのだから、言われた通りにするべきなのだろうが……。

 ミオという少女は、本当に未知数だ。陛下のような化物じみた魔力を持っていて、しかもそれがねじれるように渦巻いている。正直、最初見たときは魔物と勘違いした。魔物が城にやってきたと本当に思ったのだ。

「しかし」

「はあ。仕方ないなぁ。命令だよ」

 と、いろいろ思案していたのだが、その言葉で私の逡巡は全くの無意味になった。命令されたのなら、仕方ない。

「わかったわよ。陛下、わかる? こうして臣下にタメ口きかせてるってだけで舐められる原因になるんだから。というか、私これを誰かにチクられたらヤバいんだけど」

「え、日本語?」

 ミオはかなり動揺したようだ。私も驚いた。さっきまでこの世界の共通語を話していたくせに、なんで日本語がわかるの?

「わ、わかるの?」

「もちろん。私、前世日本人だもん」

「え、嘘!?」

 陛下と一緒? いや、『片割れ』とか言ってたからそうだとは思っていたけど。でも、本当に日本語わかるとは思わなかった。嬉しいなぁ、こんなところに元の世界のことがわかる人がいるなんて。

「嘘じゃないよ! 優奈さんも、前世は日本人?」

「いや、私は異世界トリップ」

「……なぁにそれ」

 あれ、わかんなかったか。まあ、見た目子供だし、ネット小説なんて読まないか。

「異世界に急にトリップしちゃうことよ」

「クスリやってたの?」

「なんでそうなるのよ! 旅行の方よ、旅行!」

 あわてて訂正すると、ミオは納得したようにうなずいた。というかなんでトリップって聞いてクスリの方が先に出てくるのよこの子。

「へえ。じゃあ、ここに来る前は何してたの?」

「社会人よ。普通のOL」

「OLって?」

 なんだか、質問攻めに去れそうな予感。

「ね、ねえ、それよりさ、あなたは陛下と知り合いなの?」

「片割れ、だよ」

 陛下と同じような表現を使うミオに、疑問を感じずにはいられない。なぜなら陛下は『国王』なのだ。その庇護が受けられるとなれば相当の楽ができるはずだ。それを狙っていたのだとしたら?

 でも、そんな芸当この世界の人間にできるはずがない。まず『日本語』の存在を知らないといけないし、『ミオ』と呼びかけられて『リュカ』と返せないといけない。リュカという名前は私しか知らないはずだ。でも陛下は度々送られてくる前後不覚の幼女たちに『ミオ? 私だよ、リュカだよ』と言った問いかけをしていたし、感づくことは不可能ではないのだ。いや、待て。そもそも日本語が話せるという時点で陛下の前世がらみだということは間違いないのだ。それか私の世界から来た間者か。でも、正直この世界に来たばかりにしては共通語が馴染み過ぎてるし、そもそもこの子の身体的特徴はこの世界特有のものだし……。

 ああ、こんがらがってきた。

「えっと、まず、いろいろ確認させてほしいの。いいかしら?」

 直接聞いちゃえ。ごまかしようのないことが山ほどある。それを聞けば、わかるだろう。

 私は質問を開始した。質問攻めが嫌で話題を変えて、その結果が質問攻め。なんとも皮肉な。

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