表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/38

人と、竜と―前世と、力ある者、ない者

「この二人は?」

「私はメグと言います。ミオの友人です」

『同じくアイ。リュカだっけ? 話に聞いてたのと違うじゃん。もっと紳士的に……というか、女性的なものだと思ってた』

「そうです。まるで飢えた獣のように襲い掛かって。恥を知りなさい」

 アイとメグはものすごく、リュカを警戒している。私はちょっとむっとなって、二人の間をすり抜け、リュカに抱き着いた。

「二人とも、リュカは私の片割れなの。リュカは私に何をしてもいいし、私もリュカに何をしてもいいんだよ」

 もちろん、私はリュカを尊重する。何より大切な半身だからだ。リュカだってそうだろう。

 返事代わりに、リュカは私を抱きしめてきた。

「そうだよ、ミオ。私の可愛い可愛いミオ。今日は一緒に眠ろう? ずっと一人で寝ててさびしかったんだ」

「仮にも国王が『さびしい』などと」

 部屋の端にいるロウが抗議の声を上げるが、リュカは全く気にせず、私の返事を待っていた。

「うん、一緒に寝よう。久しぶりだね、リュカ」

「そうだね。もう十六年ぶりだよ」

 リュカは私よりも二年早く産まれていた。いつもは同時期なんだけど、その違いも今はどうでもいい。

 こうして、お互いの存在があるということが、喜ばしくて、嬉しくて。

 そして同時に、やっとお互いを感じられるというのにそれを邪魔するように行動するみんなが、ちょっぴり疎ましい。本当はこんなこと思っちゃいけないんだろうけど、それでも思ってしまうんだ。

 ――幸せになる邪魔をしないで、って。


「陛下、みんな警戒しています」

 と、そのとき、リュカの部屋にノックもせずにスーツ姿の女の人が入ってきた。

「優奈か。何の用?」

 リュカが聞くと、優奈という女性はあざけるように笑った。

「何の用、ですか? それをお聞きになられますか? 今大臣たちは大慌てです。『あの陛下があんな少女を気に召されるなど!』という具合に。どのような風の吹き回しでしょうか?」

「彼女は私の片割れ。話したでしょ?」

 リュカが言うと、優奈は得心したようにうなずいた。

「ああ、あなたが『あの』? 可愛いですね。しかし、なんでしょうか、目の奥、濁っていますよ?」

「私、濁ってない」

 まだ、そこまで絶望していないはずだ。

「ああ、私、魔力の流れとかが見えるのです。そこのロードドラゴンや五大精霊の二人は、本当に純粋な魔力の流れをしてるのですが、あなたは別。まるで誰かにひっかき回されたかのようにぐちゃぐちゃな魔力をしているのですが、どうしてでしょうか? ふつう、あなたのような子供がそんな魔力をすることはないのですが」

 不躾な質問に、気を遣ったリュカが私を抱きしめた。

「優奈。そういう話はあとでしてよ。今は、ミオといちゃいちゃするの。会えなかった分、思いっきり甘えるんだから」

「それを陛下がおっしゃられても。陛下、今は男だということ、自覚なさってください」

 優奈さんが苦笑すると、リュカはむっと頬を膨らませた。

「それでも、まだ私は中性的で通る容姿してるもの」

「だからといって……。それで、あなたは陛下のお嫁さんになるのですか?」

「ううん」

 私は首を振った。そうすると、意外そうに優奈さんは目を瞬かせた。私が王妃になるつもりだと思っているんだろうか。私の本質は野生児だというのに。ドレスもダンスも会食も嫌い。

 きらびやかな服より獣の毛皮を。ワルツより狩りを。会食よりも、肉丸かじり。そんな私が王様の隣にいたらきっと反乱がおこってしまう。

「そう。ではどう身を振るおつもりですか?」

「ミオが言うんじゃしょうがないね、私の妹ということでいい?」

「うん!」

 リュカとの関係はいろいろあった。姉妹だったことも当然ある。いまさら、義理の妹くらいで驚いたりしない。

「よし、それじゃあ優奈、『お付き』の人たちを部屋に案内して」

 ロウたちを指してリュカが言った。

「お付きだと? 私がか?」

 ロウが険悪な雰囲気をまとってリュカに近づく。剣のようなオーラが立ち込める中、リュカは涼しい顔でロウの強大な、鋭い視線を受け止める。

「そうだよ。聞いてるよ、ロードドラゴン。『ナンナ・フォン・アイゼン』を攫った飛蜥蜴。私がお前なら、東の暴虐王の物にさえさせなかった。世界最強が聞いてあきれるよ。助けに馳せ参じたくらいで『保護者』名乗れると思ってるんだったら、思い上がりも甚だしいよ」

 辛辣な物言いに、ロウは口を閉ざした。苦い顔をして、リュカから目をそらす。

「もう、失敗しない」

「お前が羨ましいよ、ロウ。一度失敗してミオを喪わずに済んでいるんだから。今まで私たちは、絶対に失敗できない状況でずっとお互いを守り続けてきたんだよ。失敗すれば、待っているのは身の破滅。フン! 自分は何があっても大丈夫だという認識が、ミオを狙う輩につけいる隙を与えたんだ」

「言わせておけば! お前とて、失敗続きだからここにこうして生まれ変わっているのだろう!」

 リュカの表情が、一気に感情的なものに変わった。

「お前に責められるいわれはないね! 自分の命かミオの命か、そんな状況になったこともない癖に偉そうに言うな! だいたい、今世では平和的に出会えたけど、大抵絶体絶命の時に出会うんだからどうしようもないでしょ!?」

 前世では、私が死ぬその寸前にようやく巡り逢えた。お父さんにかなりやばい薬を打たれて、山の中に捨てられた時だ。その時リュカはヤクザの小間使いをしていて、ちょっとした抗争で死んだ敵の死体を埋めに来ていた最中だった。泣きながら穴を掘っているリュカのところに、朦朧とする意識の中、這って会いに行ったんだっけ。

「前世だって、出会った時にはもうミオはどうしようもなかったの! 薬打たれて、医学の知識がない私には何を打たれたのかさえわからなかった! そんなことの連続なの、私たちは! それに引き替えお前は! 膨大な力も、莫大な体力もあったのに! それなのにむざむざ敵にミオを渡して!」

「うるさい! もう私は間違わん!」

「どっちにしろ信用できるかお前みたいなやつ!」

「それはこちらのセリフだ!」

 ロウの物言いに、リュカは本格的に怒ったのだろう。立ち上がると壁に立てかけてあった剣をつかみ、それを抜き放った。白銀に輝く剣身は曇りなく、その切っ先はぴたりとロウに向けられている。

「どういうつもりだ、王よ」

「出ていけ。お前はいらん。役立たずめ」

「今まで待っているだけだった者が偉そうに」

 ロウも対抗するように、戦闘態勢に入った。

「ま、待って、待って二人とも! 戦わないで!」

 そこでハッとなった私は、二人の間に飛び出た。両手を広げて、リュカの前に立つ。

「ミオ、そいつをかばうの?」

「待って、リュカ、私、ロウに助けられたの。ロウがいないと私、また前世みたいにお父さんに酷いことされてたの」

 リュカは目を細めた。

「ふうん……」

「だからね、リュカ。剣を収めて。ロウは敵じゃないよ。私の味方だよ」

「……ミオがそう言うなら」

 ため息をついて、リュカが剣を収めた。ほっと、私は胸をなでおろす。

「ロウも、お願い。今日だけはわかって。やっと会えたの。二人きりで話したいこと、いっぱいあるの」

「……今日だけなら、我慢する」

 ロウはしぶしぶ、そう言った。よかった。

「分別はついているようだな、ロウ」

「お前に名を呼ばれる筋合いはない」

「ミオの下僕なんだろう?」

「お前のではない」

「変わらないよ、そんなこと。ミオの下僕だったら私が尊重すると思ったら大間違いだよ。お前はミオの下僕であってミオじゃないんだから。いいから、とっとと私の部屋から出ていけ。優奈、丁重にもてなして」

 リュカが命じると、優奈はやれやれと言った具合に首を振って、それから頷いた。

「わかりました。それでは、四人とも、こちらに」

 アイとメグは私の耳に顔を寄せると、小さくささやいてきた。

「何かあったら私の名前を呼んでください。絶対に助けます」

『僕の名前は呼びやすいよね。声さえ上げられれば呼べるんだから。何があっても、守るから。それじゃあね。それから、まあ、ミオの意思を尊重して、呼ばれるまでは、何も聞かないよ』

 そう言って、二人はポンと音を立てて消えた。

「……部屋の準備が楽で済みそうですね。ささ、お二人とも、部屋は別に用意させましょう」

 優奈の案内に、しぶしぶロウはついていった。フラウは恐縮しっぱなしで、緊張でがちがちになっていた。わずかに震えながらも、優奈の後を歩く。優奈たちが出ていくと、私たちは二人きりになった。

「やっと、二人きりね」

 ぎゅっと、抱きしめれれて、ベッドの上に連れて行かれ、押し倒された。

「今日は疲れたでしょ? もう寝ない?」

 断る理由は、何もなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ