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ロードドラゴンに惚れられまして。  作者: コノハ
繋がり生まれる絆
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感じる幸せ―だけどどこか空しくて

 冬の精霊と豊穣の精霊が同居人となってから、しばらくが経った。私、フラウディア・テスカートは、ミオを眺めていた。寒空の下『元気に』『軽装で』、友達であるアイ、メグの二人と遊んでいる彼女を。

「……まさか精霊を使役するとは。さすがはミオだ」

 隣にいるロウがつぶやいた。ここ最近彼はそればかりだ。

「友達だって本人たちは言っていますが?」

「言っているだけだ。精霊に名を与えることは最も古く最も確実で最も力の強い使役の方法だ。いうなれば、犬が自ら首輪を持って、『首にかけて』と言っているようなものだ。ミオが彼らを奴隷として認識し、命じたのならば彼らに逆らう術はない」

 むう、彼の説明は理解できるのだけれど、感情が納得しない。あの子たちは日がな一日遊んでいて、そばで見ていると本当に友人同士にしか見えない。使役するものされる者、なんていう上下関係には見えない。

「まあそんな事実はどうでもいい。ミオがどう思っているかが重要なのだ」

「……あ、転んだ」

 雪に足を滑らせて、ミオは転んだ。けれど彼女はすぐに頭を上げて、転んだことさえも楽しそうに受け入れている。どこにでもいるような子供のような朗らかな笑みを浮かべている。知らず知らずのうちに、私も微笑んでいた。

「幸せそうだ」

 ロウのつぶやきは、どこか寂しそうだった。


◇◇◇


「怪我をした時に使うといい草はなんでしょう?」

 夕方、私は住処に戻ってメグとアイの二人とクイズをしていた。なぞなぞというよりは、知識を問うものだ。

「ヴィゴニー!」

 私が答えると、メグは頷いた。私たち五人は狭い空間で温めあうようにして接近していた。お互いの距離は本当に近い。互いの呼吸の音が聞こえるくらいだ。特に寒くはないけれど、フラウは私とは違うから。

「正解」

『じゃあ次は僕からだね。冬と夏との温度の差が最も大きいのは、どこ?」

「ここだな」

 ロウが答えた。ロウの顔にもわずかに笑みが浮かんでいて、この遊びを楽しんでいるのがわかった。

 よかった。ロウは大人だから、こういう遊びは嫌いなのかと思っていた。

『お、さすがロードドラゴン、世界を股にかけた経験は違うね』

「こんなもの、別の地域で暮らしてみればわかる。では次だ。そうだな、魔法は本人の魔力によって威力が変わる。が、魔力だけではない。魔法を発動するために必要なものは何か?」

「精霊の加護、ですよね」

 フラウが答える。お姫様だったのに、詳しいなぁ。私、魔法のこと全然知らないから。今までの人生で魔法のある世界に行ったことは何度かあるのだけど、いつも使われる側だった。隷属の魔法だとかそんなろくでもない奴の標的だったのだ。

「そうね。前も言ったけれど、精霊はとても他者に飢えているの。みんなとお友達になりたい。だから、人間に好かれるために、人間に力を貸しているのよ。さすがに私たちと話せない人にタダで力を貸すわけにはいかないから、魔力をもらっているんだけど」

 へえ。私は思わず感嘆の声を上げた。魔法って、精霊の力だったんだ。

「私にも魔法、使える?」

 私が聞くと、アイとメグの二人はしばらく考えた。

「う……ん、魔力は十分だけど……魂の性質が、ちょっと」

「そんなの関係あるの?」

『そうだよ。僕たち精霊は、魂の性質が僕たちに近ければ近いほど強い力を貸してあげられるんだ。だから、まあ、僕はなんとか『魔法』という形で貸してあげられるだろうけど……メグはたぶん無理だと思う。ミオなら闇の精霊がぴったりなんじゃないかな?』

 精霊から魂が闇に近いとお墨付きをもらった。まあ、いまさら心がまっさらだとか思ってはいない。けれど闇と言われるのも心苦しい。

「アイ、あなたはミオの魂が闇だと言いたいの?」

『いや、ミオはいい子だよ。でも、やっぱり性質として、闇色なんだよ。気を悪くしたならごめんね』

「いいよ、アイ。わかってたことだから」

 いまさらながらに、自分が今まで経験してきたことの重さを知る。苦しいことや辛いことから離れて、幸せを享受している今、過去がどれほど私を蝕んでいたのか、はっきりと理解したのだ。

「……ミオ、お前の魂が闇だったとしても、今のお前は子供そのものだ。安心していい」

「ありがとう」

 ロウの励ましが、妙に心に響く。いや、違う。私が、人の言葉をすんなり受け入れらるように変わったのだ。

「冬を越えたら、ミオ達はどうするの?」

 メグは木製の体をちょっとゆすった。毛皮がチクチクしていたのだろうか。

「どうしよっか、ロウ?」

 ずっとここにいたいけど、さすがにそれは人として何か違う気がする。

「ふむ。私は春になったら近くの国へ行って、リュカを探そうかと思っている」

「……私も行くよ」

 忘れていたわけではない。わけではないけれど、リュカよりも遊ぶことやロウと過ごすことを優先したのは、事実。

 何よりも大切だったはずなのに。大事な大事な片割れだったはずなのに。リュカがいなくても、私は幸せになろうとしている。

 ……嫌だな。

 リュカと一緒じゃなきゃ、嫌。罪悪感じゃなく、義務感でもなく、私の欲求として、そう思った。

 リュカと一緒じゃないと、私は幸せになりたくない。

「メグ、アイ、今度私の親友も紹介するね。リュカって言って、たぶん、この世界にいるはずなんだけど」

 もう死んでしまっていたらどうしよう。もしリュカが孤児で、誰の保護も庇護も受けられなかったら、きっと凍え死んでいるか、それともいつものように殺されているか。三年前だったら、リュカが死んでいたら後を追おうとずっと思っていたけれど、今はどうなのだろう。リュカが死ぬのを目の前で見たら、きっとためらわないだろう。けど人づてにその話を聞いたのなら、たぶん、自傷くらいで済ませて、死ぬことはないのではないだろうか。

 ……薄情だったんだな、私って。

 ちょっぴり、自己嫌悪。

「まあ、それは素敵ね。仲良くなれると嬉しいわ」

『それは同意だね。ミオと仲良くなってから嬉しいこと続きだ。何も返してあげられないのが悔しいよ』

 二人はそう言って、申し訳なさそうにするけれど。

 あなたたちが私と交流を持って救われたように。私も、そう言ってもらえて救われたんだよ。

「ちょっと眠いよ……おやすみ」

「そう? じゃあ私も寝るわね」

「うむ。ゆっくり休め」

 フラウと私は体を丸めて横になる。最初は一人が眠ってほかの二人が見張る、というサイクルだったけど、同居人が増えたから、そこまでしなくてよくなった。疲れ知らずの精霊は、仮に私たちが全員眠っても、守っていてくれるだろう。

 そんなふうに信頼できることが、心の重りを少しだけ、軽くした。

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