始まり
ある朝、目を覚ました少女は、自分の知る世界が消え去っていることに気づく。
緑に飲み込まれた街、失われた日常、そして誰もいない世界。
突然すべてを失った少女は、絶望と孤独に押し潰されながらも、生きるために一歩を踏み出す。
これは、文明が崩壊した世界を舞台に、一人の少女が「生きる意味」と「失われたものの価値」を探しながら旅を続ける物語。
荒廃した世界の静かな風景と、少女の心の成長を描くポストアポカリプス・ヒューマンドラマ。
「私は死んだ」
そう思えるほどこの二年間に希望などなかった
二年前までの「私」は死に絶え
冷たい孤独と、乾ききった焦燥感で、生き物として此処にある。
それが今の私だ。
此処へきて私は変わってしまった。
二年前のあの日
「ジリリリリリ」
目覚まし時計がやけにうるさい朝だった
「うるさいなぁ」
けたたましく鳴る目覚ましを止め
「ふわぁぁ」
と大きな欠伸が出た。
(最高記録だな)心のなかで呑気にそう呟く
昨日遅くまで課題をやっていて眠気が覚めない、目をこすりながらいつも通りカーテンを開けた。
「、、、は?」
一瞬思考が止まる
目に入るのは、
一面緑に染まった建造物、赤サビがかり脱線した列車、割れたアスファルトから生える大木。
到底信じられるものではなかった。
目を擦っても擦っても三階から見える景色は変わらない。
勢いよくカーテンを閉めた
(これはきっとまだ夢の中だろう)と失笑混じりにそう思った。
私は自分の頬を
グイぃぃと抓った
「痛ててててて」
りんごのように赤くなった頬はジンジン痛かった。
夢ではない。
異常な景色に唖然とし次に家族のことが頭をよぎった。
(パパとママは?)
次の瞬間、体はリビングへと向かっていた。
勢いあまりドアにぶつかりながらも部屋のドアに手をかけた。
(ガタ、ガチャガチャ)扉はびくともしなかった。
「なんで」
ドアは私が出るのを拒んでいるみたいだった
ドン、ドンっと全体重をかけ叩き、蹴り、体当たりを狂ったように続けた。
鈍い音と共に少し隙間が空いた、隙間から絡んだ蔦が見える。
ブワッと鼻先を濃厚な森の匂いが掠め、湿った空気が
私を包む。
私は必死に叫んだ。
「パパ!、ママ!いるなら返事して!」
何度も、何度も、そう繰り返した。
「、、、、、、、」
冷たく澄み切った静寂と小さく小鳥の声が返ってくる。
「誰一人、いない?」
そう嫌な考えが頭によぎった。
「そんなことあるの?」
「ないよ、ないに決まってる!」
声に出して否定を述べ現実から逃げようとした
「そ、そうだ、そうだよ!別のことに集中してたら聞こえないかもしれないじゃん! リビングに行けばきっとみんないる」希望を創り、虚勢を張った私はドアに絡んだ蔦を睨むように見つめた。
「これを切らないと」
机の上にあるものにまず目が付く
「ハサミ!」
切るといったらと思い真っ先に手に取った。
力を込めてハサミを閉じた。
「パキ」
情けない音と共にハサミは柄が二つに分かれてしまった。
手は勢い余ってドアに向かう
「痛っったぁ!」
「何すんの、この役立たず!」
そう吐き捨てハサミを机に投げた。
次にペンケースのカッターを試してみた。
(ダンボールが切れるんだから蔦くらい余裕でしょ)
心の中でそう呟いた。
刃を伸ばし蔦にあて力を込めた。
「ポキッ、ポキッ」
期待を裏切るように刃は節ごとに折れ飛んでいった
悉くうまくいかない
「クソがぁぁ!」
怒りのあまり私は声を荒げた。
生半可なものじゃ肉厚な蔦の前には歯が立たなかった。
道具探しも小一時間は経っただろうか、ふと、
ベッドの下を覗いた時。
それを見つけた。
「これだ!」
ベッドの下からそれを引っ張り出す。
それは文化祭準備に使ったノコギリだった。パパに返そうと思っていたがすっかり忘れていた。
「過去の私、ありがとう!」
過去の自分に感謝し、急いで蔦を切り落とした。
切り落とした後再び体当たりする。
ドアは軋む音と共にその力を緩めていった。
ドアと床がこすれ嫌な音がなり、ドアがようやく開いた、
汗が目に入り染みる。汗を服で拭いながら前を見た。目に入るのは伸び放題の蔦や雑草、割れた窓、見慣れた廊下などそこにはなかった。必死になった熱はすぅーと引き、ドアを開けた達成感などすぐに消え失せた。私は疲れた体に鞭打って家族の安否を確認するためリビングに駆け出した。
疲れで足元はおぼつかない。
蔦に絡まり転び、階段を転げ落ちた、痛みなど気に留める余裕はなかった。リビングに草をかき分け向かった。トイレを横目にそこが見える。
「リビングのドアだ!」
目的地をとらえた直後
「バリィィィン」
静寂を割くように、確かにそう鳴った。間違いなく皿が割れた音。それは、確かな人工音だった。
「ドアの先に人がいる!」
高まる鼓動が音を支配する
リビングのドアを渾身の力を込め開けた。ドアは固くはなく思いの外、簡単に開いた。
私を出迎えたのはパパとママではなかった。
一面の緑が私を出迎えた。勢いよく開けた音は緑に吸われていった。
「なんで、皿の音は」
音を鳴らした皿は
老朽化で傾いた棚から
一人でに落ちていた
人の気配はそこにはなかった、ソファにも机にもキッチンにも緑が張り付き、巻き付いて、人の跡を消そうとしていた。
その時自分の耳は鮮明に音を拾った。
聞こえるのは澄んだ空気にこだまする自分の呼吸だけだった。
「この世界には誰もいない」
嫌でも理解した、私の大きく膨らんだ期待は音を立てて崩れていった。
気づかないうちに私の頬を大粒の涙が伝った。そこからしばらくは息ができなくなるほど嗚咽が止まらなかった。誰もいない、単純かつ明快な事実は私の心に深々と傷をつけた。涙が枯れ果てた頃、すでに日は落ちていた。あれだけ明るかった部屋には、影が落ち不気味なほど暗くなっていた。そのまま私は動く気力もなく眠ってしまった。
目を覚ますと日は頂点まで昇っていた。そうだ此処には、
「誰もいないんだっけ」
涙は流れない。けど頬には粒が落ちる感覚が確かに有った。
体は錆びついた様に重く動かしにくかった。
起きる気力も湧かず仰向けのままただぼーっとしていた。
自分のことなどどうでも良かった
「ガダァァァン」
突然、大きな音を立て棚が倒れた。
頭の横を通り、右手の指を押しつぶした
「ボキッ」と鈍い音が部屋中に響く。首だけでゆっくりと振り返った。
頭の横には一枚の写真がヒラヒラと落ちてきた。
ボロボロで今にも朽ちそうな写真。
そこには家族みんなが笑顔で映っていた。
首だけで周りを見渡す、綺麗で賑やかだったリビングはもうない。今では重い空気と体を突き刺すような静寂がありカビと草の匂いで埋もれていた。私は天井に視線を向ける。
ボーっと、何秒、何分、何時間もただ眺めていた
突然
「ぐぅー」と空気を読まない音が部屋中にこだました。
(お腹、減ったなぁ)
場違いとも取れる反応
日常の中での、ありふれた反応だからこそ
体は私に生を感じさせた
「生きろってことかな、」
大きなため息をつき
指を引き抜く
無気力とどこか壊れている体を動かし
ドアに向かう
ドアノブを握った手の指は反対に曲がっていた
「あらら」
気づかなかった、無理矢理抜いた時、痛くなかったが、その時曲がったんだろう。
折れた指を掴んで反対に曲げた。
「これで大丈夫かな」
そのうち治る、そう考えて
私は一度部屋に戻ることにした。
一度来た道のりは何倍にも長かった。
足元もおぼつかず足をよろよろ踏み出しながら部屋に向かった。頭のイメージと体の動きがなかなか合わない。ゆっくりと一歩一歩踏み出しながら部屋へと向かった。
部屋に入り、外に出るための準備を始めた、目に入るものを兎に角リュックに詰めた。
ペシャンコだったリュックはあっという間に、はち切れそうなほどパンパンになった。
体が上手く動かず、リュックを背負うまで苦労した。リュックに詰めたものは覚えていない。けど、ただ一つ部屋に食べ物はなかったこと。生存本能なのかそのことだけは鮮明に覚えている。下に移動するが見つけた殆どの食べ物は腐り、とても食べられるものではなかった。電気がないので冷蔵庫からはすえた匂いが漂い、缶詰も食べられそうなのは一缶だけ。そうして腹を満たすため私は荒廃する世界へ足を踏み出した。
「行ってきます」
静かに呟いた言葉に返事が返ってくることはなかった。




