8話 安寧
取り押さえられた私はすぐ近くの病院へ連れていかれた。子供に銃を撃つという前例のないことをして出血の量も大人より多かったことから一時は危ない状態だったらしいけど、若さゆえの体力もあってか何とか一命は取りとめた。芽衣と茜も爪一枚剥いだだけで他は外傷もなく、治療だけで済んだようだ。けど、私が行なった拷問の効果は出ているみたいだ。二人が言うには常に頭の中で音楽が流れているらしい。しっかり効果が出ているようでよかったと安堵した。爪が治り次第、精神科へ行くようだ。二人は私にはもう会いたくないと言っているようだ。会わない方がいい。多分また殺そうとしてしまうだろうから。けど、あの時は殺せなかった。何故か未だに考えている。
一ヶ月後、私の腕もほとんど完治した。神経に当たったとかで指の動きが悪くなる後遺症が残ったけど、特に何も思わない。自業自得だとしか思っていないからだ。面会謝絶が解除され、警察からの事情聴取が始まった。これまでしてきたことやこれからのことを話した。私が殺したのは四人。嘘をつくことなく全てを話した。多分嘘をつくメリットもなかったし、何より止めて欲しかったんだと今なら思う。復讐だけでここまでやれる人間は少ないと思う。これは私の人間性に関わってくるところだと思う。精神科の先生とも話し合い、一つの結論に至った。
「あなたは恐らく事故の影響で二つの記憶を抱えたまま日々を過ごすことで自分というものが分からなくなってしまったんでしょうね。記憶が戻るまでの人格と昔の人格が話を聞く限りまるで別人のようになったのは、自分を守るためなのかもしれません。思い出したくない記憶を閉じ込めておくために真逆の人格を生成するということはよくあることです。少しでも記憶が戻らなくするために前と全く違うことをする。これは人間の本能のようなものです。ただ、なぜそれが今回のような事件に繋がるのか。昔何があったのか知り、復讐を考えてしまう。覚えていないのにそこまで大きな復讐心になってしまったのか。恐らく復讐や記憶とはまた別の何かがあるのでしょうね。それは由香さんにしか分からないことでしょう。もう少し診察をしていく必要があるようですね。」
私には問題が山積みみたいだ。私にはまだ控えているものがある。世間はその話題で持ち切りだった。
「君の担当をさせてもらう三上だ。最初に謝っておく。俺が未熟なせいで君の腕に後遺症を残してしまった。すまない。もっと穏便に済ませる方法があったのかもしれない。今更考えても遅いんだがね。」
この人は前にもあったからよく覚えている。私から見ても優秀な刑事さんだと思う。けど、未成年相手にこんなことになったと悔やんでいるようだった。
「気にしないでください。こんなの自業自得ですから。むしろこれだけで済んだのがラッキーなくらいですよ。ほんとなら射殺されてもおかしくないことしたんですから。」
そういうと三上さんは頭を上げて気を取り直し、聴取をはじめた。念の為に前と同じ質問を何度もされた。これは嘘をついていないか調べるためらしい。当然、なんの嘘もつくつもりは無かったから聴取はスムーズに進んだ。話しをしていく上で私も気持ちの整理がつき始めていた。そして私がしてしまったことの罪の重さ。例え誰かを救うための行為だったとしても許されることではないことを。そして気づいた。その事を三上さんに話してみた。
「多分私は復讐とか割とどうでもよかったのかもしれません。だってよくよく考えると記憶が無いまま昔の話を聞いて殺したいほどの復讐心が芽生えるなんて普通ありえないですよね。だとすると復讐を理由に私は誰かを殺してみたかっただけなんじゃないかって思うんですよね。そのための理由として復讐という名目を付け加えただけだと思います。ただの人殺しなんですよ私って。」
三上さんは黙って聞いていた。私が全て話終えると口を開いた。
「君は恐らく頭がかなりいいんだろうね。冷静になれれば自分を客観的に見ることが出来る。素直に現状を把握し、正直になることが出来る。君の昔の話を聞く限り、そういう性格だったんだと思う。俺はね、今まで色々な犯罪を犯した人を見てきた。君みたいに何人も殺して刑務所に収容された人も多くいる。けど、君は自分がやってはいけないことをしたと自覚し、なぜそうなってしまったかの原因も心の中で整理した。そんな犯人俺は見た事ないね。君はやり直せるよ。何年かかるか分からないけど、自分を見つめ直して普通の人に戻ることだって出来るかもしれない。まだこれからの人生の方が長いんだ。一緒に考えていこう。」
この人はいい人なのだろう。何人も凶悪な犯人を見てきたせいか私みたいな人間にも優しい。未来のことまで今は考えるつもりは無いけど、少しだけ心に響いた。けど、今は直近の未来の話しに戻った。
「君は殺人、窃盗、誘拐、監禁、傷害などあらゆる罪を犯した。高校生が行なった犯罪の数が前例のないことで裁判所も頭を抱えているところだ。起訴は決定みたいなものだが判決をすぐに出すことができない状況らしい。というのもマスコミがすぐに嗅ぎつけたせいで君のことが既に世間に周知の事実として広まっているからだ。高校生の身で四人の同級生を殺めてしまったというはかなりの事件になる。だが、問題なのはその内容まで広まってしまったということだ。そのせいで裁判所や警察に大量の問い合わせや批判が殺到してるみたいなんだ。今の状態で裁判を開くと傍聴席も満席になるし、裁判所の外に人が大勢来ると予想されていることから延期になっている。そこは受け入れてもらいたい。裁判の日が決まるまでは収容所で寝泊まりしてもらうことになる。」
どうやらかなりの騒ぎになっているようだ。誰が情報を流したのかはわかっていないらしい。ここまで詳しく情報が出ているとなると私の周りの人間か警察の誰かということになる。けど、私は特に気にしていなかった。もう嘘をつくつもりもないし、隠し事をするつもりもない。全てを打ち明ける覚悟があったからだ。もう私にはそれしかできることがない。
「構いませんよ。私に逆らう権利もないですし、その気もありません。ただ、少しだけお願いがあります。裁判で私の判決を軽いものにしようとしないでください。今後私みたいな人間が出ないようにしっかり裁いてもらいたいんです。」
私の話を聞いた三上さんはあまりよく思っていないようだったが、「なるべく君の話しは聞く」と言ってくれた。聴取も終わり、私の長い収容所生活が始まった。
捕まってから一ヶ月、やっと裁判の日取りが決まった。二日後に始まる予定だ。そんな日に私の面会謝絶がとかれた。それからすぐ両親が面会に来た。
「由香……久しぶりね。一ヶ月間全く会えなかったから心配してたのよ。詳しい話しは警察の方から聞いてる。あなた記憶が戻ってたのね。気づいてあげられなくてごめんね。あなたがそこまで思い詰められてたなんて。親なのにそれに気づくことが出来なかった。もしかしたらこんなことにもならなかったかもしれないのに。助けてあげられなくてごめんなさい。」
泣いていた。こんな親不孝な娘を罵倒したり、突き放すこともなくただただ謝ってきた。そんなものを見てしまったら私も耐えられなくなった。記憶をなくしてから涙なんて流さないと思っていた。けど、両親を悲しませたこととこれから不幸にしてしまう事を考えると心が痛む。今まで押し殺していたものが溢れ出てしまった。
「ごめん……な……さい。私の……せいで……パパとママ……に迷惑かけて。こんな娘のことなんて忘れてね。」
涙を拭いて今できる一番の笑顔を向けた。これ以上両親を不安にさせたくなくて少しでも落ち着いてもらえるように振舞った。面会終了時間になり、両親は差し入れを置いて部屋を出た。すすり泣く声が出てからも聞こえてきてさらに胸が痛くなった。私もまた涙が止まらなくなった。そしてもう一組、面会予定があった。涙を拭き、心を落ち着かせてから呼び込んだ。来たのは黒川くんと詩織だった。
「詩織!今は大事な時期なんだからこんなとこ来ちゃダメでしょ!もしお腹の子に何かあったらどうするの!」
黒川くんには目もくれずに詩織の心配をした。
「大丈夫だよ。体調もかなりいいし、ここまではお父さんが車で連れてきてくれたから負担も軽いよ。それに私体力はあるからね!」
妊婦とは思えないほど元気ハツラツだった。私の心配を返して欲しかった。二人で話していると、黒川くんが耐えられずに入ってきた。
「由香さん。俺もいるんだけど、見えてないのかな?さすがに悲しいんだけど。一応色々手を回してもらってやっと取り付けた面会だよ?俺結構頑張ったと思うよ?」
ちょっと怒っていた。確かに警察官の息子が犯罪者の面会なんていくら同級生でもよくはないだろう。そこに黒川くんの努力が見えた。無視は悪かったよなと思い、謝ることにした。
「ご、ごめんね黒川くん。別に無視してた訳じゃないんだよ?詩織は妊婦だから一番に心配しなきゃって思ったら他が見えなくなってさ。」
まだ不服そうだったけど、何とか説得した。ちょっと気まづい雰囲気になったけど、本題に入ることにした。
「それで今日はなんで会いに来たの?色々動いてくれたのはわかるけど、そこまでして会いたかったのはなにか理由があるのかな?正直同級生でも私みたいな人間に会う必要はないと思うよ。」
精一杯突き放した言葉を使った。正直この二人には私に関わって欲しくないと思っていた。詩織は妊婦でストレスを与えたくなかったし、黒川くんは色々協力してくれた恩があったから。
「そんなこと言わないでよ由香。今回由香がしたことって全部私の為だったんでしょ?由香のおかげでうちは助けられたの。どうやって生きていけばいいのか分からなかった私に道を作ってくれた。不安を取り除いてくれた。でも、それで由香がこんなことになるなんて、うちは嫌だよ!」
詩織はそういう子だとわかってた。責任を感じさせてしまうことはわかっていたのに余計なことをしてしまった。助けることはできたと思うけど、すべてハッピーエンドとはいかないものだと心の底から思う。だから少しでも詩織には幸せになって欲しい。その為なら私は何にでもなれる。
「何勘違いしてんの?私は私が殺したかったからあいつらを殺したの!復讐とかぶっちゃけどうでもいい。私はね、ただ人を殺してみたかっただけで復讐はただの口実だよ。たまたまなんだよ?これが私の本心だから自分のせいとか自惚れたこと言わないでね。」
悪役を精一杯演じた。もうこれ以上関わらせる訳にはいかない。私に関わると確実に不幸になるからだ。
「なんで、そんなこと言うの?由香は真面目でそんなこと思う子じゃないのは私が一番知ってるよ?優しくて気遣いができて友達思いな由香が人を殺したいなんて。絶対違う!」
大きな声を出して私に怒った。けど、これ以上会話をするのを辞めた。それを見て黒川くんが、
「君はそういう人だよね。冷酷でドライ。人を利用するだけして切り捨てる。僕は切り捨てられたから分かるよ。復讐なんて元々気にもしてなかったのもわかってたよ。でも、僕は君が大切だったから…………」
そこからの話しは遮った。今面会室にいるのは私と詩織と黒川くんの三人だけだけど、どこで会話を聞かれているか分からない。彼が私に協力していた事を話させるわけにはいかない。これ以上迷惑をかけなくなかった。
「黒川くんの事は利用してただけだよ。親しくしていたのはその方がやりやすくなると思ったからだよ。変に誤解しないで欲しい。私は君のことなんとも思ってなかったよ。これ以上私に関わらないでほしい。」
酷い言葉で突き放した。彼はこれくらいしないと多分引くことはないと思った。裏で色々手を回していたことはわかってる。私が犯人だとリークしたのも警察が学校に来たことも彼がやった事だ。それは悪意あっての事ではなく、これ以上犯罪を犯して欲しくないという気持ちだったのだろう。彼の推理力はほんとにすごいと思う。将来いい刑事になれるだろう。
「そろそろ面会が終わる時間だよね。もうここには来ないでね。もう話すこともないし、これから忙しくなるだろうからね。私のことを聞きたかったら黒川くんのお父さんにでも頼んで聞いてもらってね。」
早く追い出したかった。二人を見ていると名残惜しさが出てきてしまう。また詩織とお泊まりしたい。黒川くんと話しをしたい。もう外に出ることを考えられない現状と相まって色々な欲が出てきてしまう。だからこそもう二度と会いたくないのだ。
「また来るようちは!こんな終わり方嫌だし!由香が何を考えてるのか分からないけど、そんなの由香じゃない!うちの知ってる由香は優しくて頭が良くて友達想い。今回の事件だって全部私のためにやったことなのに!少しでも由香の罪が軽くなるように協力するから!」
答えることはしなかった。時間になり、警察官が二人を迎えに来た。詩織は怒りながら出ていき、黒川くんはそんな詩織を落ち着かせながら「またね」と呟いて出ていった。私は顔を伏せて目を合わすことはなかった。
二人が面会に来てから数日後、やっと私の裁判が始まった。警察署から出る時も裁判所に向かう時も常に記者や野次馬がいてとにかく向かうのが大変だった。黒い上着を頭に被せられて写真を撮られないようにずっと俯いていた。車の外から罵倒の言葉や暴言の数々が聞こえてきた。特に傷つくということは無いけど、世間から見た私はやはり異質な存在で疎まれる存在なのだと改めて思った。
裁判所に入り、待機する部屋に向かった。そこには三上さんとその上司という人が待っていた。
「なんとか到着出来たようだな。三上から報告は受けている。世間に君のやった事がかなり広まっているようだな。こういう状況になるのも頷ける。裁判でも同じような状況になると思うが、自業自得だと割り切ってくれ。」
上司さんは当たり前だが対応が冷たかった。三上さんの方は犯罪者なのにも関わらず、普通に接してくれる。まぁ上司さんの方が普通といえば普通だろう。そう思いながら待機室で裁判を待った。
一時間後、裁判が始まるということで警察官数人が部屋へ入ってきて私に手錠をつけ、法廷へと向かった。大きな扉を開くと前に裁判官と裁判委員、書記や警察官がいる。傍聴席は満席で私が入るやいなや一斉にこちらを見つめてきた。さすがの私も少し緊張が走った。ひそひそ話が聞こえてきたがそんなこと気にする暇もなく、警察官に挟まれて椅子に座った。ついに裁判が始まる。
「それでは、裁判を始めます。不用意な発言は謹んで、静粛にお願いします。」
堅苦しい挨拶から始まり、次々の罪状や事の経緯などが話されて言った。私が聴取で話したことを全て話し、警察側で調べたことも話される。私の過去についても話すとは聞いていたけど、まさかほとんど事実と同じことまで調べられているとは思っていなかった。話が進んでいく度に傍聴席はザワザワしている。私の弁護側は年齢と私利私欲ではないということで少年院送りが妥当だと言っている。検察側は残虐な犯行とそれを意図して行ったとして無期懲役を求刑した。高校生に無期懲役を求刑するのはかなりのレアケースでほとんどが却下されることだが、今回に関してはそうなる可能性がかなり高い。弁護士は頑張ってはいるけど、検察側は犯罪に関する証拠をかなり持っており、私にとっては不利な状況が続いた。そんな状況が続き、被疑者の主張を行える時間になった。
「それでは改めて、何か言いたいことがあればここでお願いします。」
裁判官がそういうと大きく深呼吸して私は口を開いた。
「私は今話されたようにたくさんの罪を犯しました。どれも復讐を掲げてはいますが結局のところ人を殺したかったというのが本性です。私は多分元からこういう人間だったんだと思います。だから減刑は求めません。私を日常に戻さないでください。外に出ればまた私は人を殺めてしまう。そんな人間は隔離しておいて欲しい。そして今後私みたいな人間が出てこないように教育をしっかりして欲しい。復讐したいなんて思ったり、そんな口実を与えたりするような学校生活を作り上げて欲しいです。言いたいことは以上です。」
まとまりのない話をしてしまった。思っていることをただ口にしただけだった。やった事の恐ろしさからはありえない言葉にここにいる者みんなが動揺していた。そして裁判官も悩んでいた。恐らく年齢も考慮して減刑するつもりだったのだろうけど、また同じようなことをするという私の言葉に迷いがうまれていた。ただもう私が話せる機会は無さそうだからあとはみんなの判断に委ねるしかない。裁判官と裁判委員が別の部屋へ移動し、そこで私の処遇を決定するようだ。
どれだけの時間がたっただろう。法廷の中に時計がないから時間感覚が掴めない。静まり返った法廷に扉の開く音が響き渡る。裁判官と裁判委員の人達が戻ってきた。席につき、裁判官が判決を口にする。
「主文、被告人を無期懲役に処す。行った犯罪の残虐さを考慮すれば死刑も妥当という判断ではあったが、年齢や今後の更生を考慮し、これが妥当だと判断した。今後は罪と向き合い、日常へ戻れるように更生して行ってほしい。」
高校生では珍しい無期懲役が課せられた。ただ、意見は別れたようだ。死刑を求刑する人もいれば無期懲役や少年院送りなど軽い刑でもいいのではという意見もあったようだ。裁判官が判断し、無期懲役による更生というので一致したようだ。その後は特に何事もなく裁判が終了した。裁判の結果はすぐにテレビで報道され、全国に知れ渡った。私の罪も全て知られる事となった。
裁判から一ヶ月後、私は女子刑務所に収監され、そこで軽作業をしながら罪を償っている。まだまだ外では私の話しがあちこちで飛び交っているようだ。学校も退学になり、私の籍が外れているにもかかわらず、テレビ局や記者が毎日のように押しかけているようだ。外の話はテレビやラジオ、たまに面会に来る両親や詩織、黒川くんに聞くことが多い。来るなと言っても来るから困っている。
「詩織、もう来ちゃダメだよ。私なんかに関わるとろくな事ないんだから。犯罪者に面会なんてバレたら大変なことになるんだよ。」
面会拒否をしても何度も何度も来て会うまで諦めなかった。もう諦めて欲しい。
「うちは友達に会いに来てるだけだよ!それで文句言われる筋合いないし。由香はうちを救ってくれたの。今度はうちの番だからね!」
面会に来てもなるべく冷たくしている。もう会いたくないからだ。
面会時間が終わり、詩織が帰っていく。部屋を出る直前で驚くことを言われた。
「そういえば黒川くんはもうここには来れないと思う。お父さんにばれたらしくて、出禁になったみたいだよ。事件に関係してるかもしれないって怪しまれてるらしい。由香が法廷で共犯者はいないって宣言したから基本的には大丈夫だと思うけど、立場的にもうここには来れないからね。」
犯罪に関しては他に迷惑をかけないようにしてたけど、黒川くんは直接手伝ってくれてたせいか完全には疑いを晴らせなかった。お父さんは頭のキレる人だと聞いたから用心はしてたのに。申し訳ないと思ったけど、それより先にもう黒川くんには会えないという事に動揺していた。これが恋というものなのだろうかと考えたがもう今後それを知ることはできないと悟った。
刑務所に入って一年が経過した。刑務所生活にも慣れてきて気持ちもだいぶ落ち着いてきた。メンタルケアを毎週欠かさず行っていて、前みたいに簡単に殺そうと思ってしまう殺人衝動はほとんどでなくなった。刑務所に入った時は周りが悪人だらけだと思って気持ちを抑えきれずに何人かを病院送りにしてしまった。それを思うとかなり落ち着いた方だと思う。そして変わったこと言えばもう一つ。私がいじめに対して話したことがネットや新聞で取り上げられたおかげか、いじめに対する処罰や罪について政府が本格的に動いているらしい。今後私のように復讐したくなるような環境を作り出さないために全ての学校に新たな教育としていじめの危険性や道徳心についての授業にかなり力を入れ始めているようだった。これを聞いてあれは無駄ではなかったと心の底から嬉しくなった。
私の存在はこの狭い世界に多少の影響を与えている。不純な動機で人を殺し、親友を傷つけた。こんな人間はもう外に出てはいけない。自分でもそう思う。両親を悲しませ、親友を傷つけ、友達を突き放した。私は私の中で全てを殺したんだ。今後外に出るつもりもないし、彼らに関わるつもりもない。誰かと関わってしまうとまた私の中の衝動が抑えられなくなるだろう。人との関わりを閉ざすことでこのどうしようもない心の衝動を殺すことにしたのだから。




