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今昔の果て  作者: ユーリ
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6話 再起

意識が戻った私は起き上がって周りを見回す。何があったか頭をフル回転させて思い出す。すると最近の記憶と昔の記憶が混ざったような感覚になった。そう、私の記憶は戻っていたのだ。頭を殴られたせいなのかやっと思い出すことが出来た。頭の出血は止まっていたけど、身体中が痛くてなかなか立ち上がれなかった。二人を確認するためにゆっくりと穴の方に向かった。明るくなったおかげで底が薄ら見えるようになっていた。はっきりと見えないけど、人のような物が二つ見えたので、胸をなでおろした。目的を達成することが出来て安心したのだ。

「今回は危なかった。下手をすると私が落ちてた。ここなら警察が見つけるのはなかなか難しいと思うし、発見が遅れれば遅れるほど原因も掴みづらくなるよね。とりあえず早く寮に戻ろ。うわぁ、スマホの着信とメッセージがすごいな。」

学校と寮母さんと両親から連絡が大量に送られていた。ゆきなと優里からも連絡が来ている。テーマパークに行く約束をしていたのに破ってしまった。また謝らないといけない。それに寮生である以上連絡なしに不在だと問題になってしまうからどの道行けないかもしれない。とりあえずこのまま寮に戻るのは良くないと思い、無理だとは思ったけど、詩織に協力を求めた。

「おはよう。詩織今大丈夫?急なんだけど今からそっちに行っても大丈夫?ちょっとお願いしたいこともあるんだよね。」

お願いをしてみたらあっさりOKが出た。理由も聞かずに受け入れてくれる詩織に感謝が尽きない。私は正直に全てを話そうと思う。今までしてきたこともこれからの事も。たとえそれで親友じゃなくなったとしても、詩織にだけは伝えるべきだと思った。身体中痛くて重かったけど何とか動いて電車に乗り、詩織の家に向かった。

「由香いらっしゃい!ってその傷どうしたの!?顔もアザだらけだし、それ絶対誰かにやられてるよね!?と、とにかく上がって!」

私の状態を見てただ事ではないと察した詩織はシャワーと着替えと傷の応急処置をしてくれた。至れり尽くせりで申し訳ないと思った。

「ありがとね詩織。 色々と助かったよ。学校に連絡までしてくれて。まぁ多分怒られるのは思うけどね。」

学校に詩織の両親が家に泊まっていた事にしてくれた。詩織が上手いこと説得してくれたみたいだ。両親も私のことを信頼してくれていたから協力してくれた。

「親友の頼みなら聞かない訳にはいかないからね!由香には色々と助けられてるし。とりあえず落ち着いたみたいだし、ちょっと話聞かせて貰いたいんだけどいい?」

心はだいぶ落ち着いた。さっきまでの殺伐とした気持ちは詩織と会ってからなくなっていた。これから話さなければいけない事を考えるとかなり憂鬱にはなるけど、嘘もつきたくなかった。

「話したいことは色々ある。これを聞いたら詩織は私のことを嫌いになると思ってる。けど、嘘をつき続ける方が嫌だと思ったから全部話すことにするよ。その後の判断は詩織に任せようと思う。」

真剣な話だと分かったようで詩織はお腹に赤ちゃんがいるのにも関わらず、正座で話を聞いてくれた。陸斗くんのこと、取り巻き二人のこと、そして私が思い出した過去の事。時計は見ていないけど、一時間くらい話し込んだと思う。長い話にもかかわらず、ずっと真剣に聞いてくれてて私が言い淀んだ時も手を握って全てを聞いてくれた。

「これで全部話したと思う。話した通り私は三人を殺めてる。でも、詩織は何も思わなくていいよ。これは私が勝手にやったことだからね。ただ、もう詩織に酷いことをしたヤツらは居ないから安心して欲しい。詩織はこれから幸せになれるよ。」

そう私は笑いかけた。これで少しでも詩織の心が軽くなってくれる事を期待していた。けど、詩織の反応は違った。

「なんでそんな事したの?私そんなことして欲しいなんて思ったこともないし、お願いもしてないよね?それで私が喜ぶと思ったの?ふざけないで!そんなことして喜ぶ人いないよ!」

詩織は怒っていた。まぁ予想はしていた。倫理的に良くないことをして私は今や犯罪者だ。それを自分のためと言われたら怒るに決まってる。余計なお世話だったということだ。けど流石に面と向かって言われると心が折れそうになる。私が考えてやった事とはいえ、詩織にも嫌な思いをさせてしまったのだと反省した。

「ごめんなさい。余計なことしちゃったよね。こんなことで詩織を救えると思った私が馬鹿だったよ。不愉快だと思うし、もう会わないようにした方がいいよね。」

泣きそうになるのをグッとこらえて部屋から出ようとした時、それを止めるように詩織が手を握ってきた。

「怒ってるよ!由香と私にね!私のために由香がそんなことをしてしまったことにも怒ってるし、そうさせてしまった私にも怒ってる!けどね、それでも私は由香を嫌いにはならないよ。出会ってからまだそんなに長くないのに結構仲良くなれたと私も思ってる。親友だと思える友達なんかそう簡単にできるものじゃないしね。それだけ、私も由香のことが大好きなんだよ?由香が間違ったことをしたとしても私はそれで救われてる。もうあの三人はこの世に居なくて二度と私の目の前に現れることがないと思うと嬉しくなるよ。こういう救い方もあるんだと思うよ。もちろん誰かに言うつもりもないからね!二人だけの秘密ね!」

泣くのを我慢できなくなっていた。気づくと座り込んで泣きじゃくっていた。私もまだ子供だ。表面上は平常心でやれてたけど、自分の気づかない心の奥底では恐怖と戦っていたのかもしれない。詩織に話したことで緊張の糸が切れてしまったのだ。多分誰かにぶちまけてしまいたかったのだと思う。

「落ち着いた?とりあえず私は由香の味方だからね!あ、そういえば由香に見せたいものがあるんだった!これなんだけどさ〜。」

そういうと一枚の写真を見せてきた。それは赤ちゃんのエコー写真だった。今まさに詩織の中でこの子が生きている。涙を拭いた私は写真を見て憧れを覚えた。人を作り、育て、誕生させる。私がやった事の真逆のことを詩織はやろうとしているということに感動した。まだあまりお腹は目立ってないけど、確かにそこに命があるのだと思うとまた私は卑屈になってしまった。こんな汚れた私が近くにいていいのかと。

「また変なこと考えてるでしょ〜。由香って結構顔に出るよね!何考えてるのか知らないけど、出産の時ちゃんと病院来てよね!由香のおかげで私はこの子をちゃんと愛せそうなの。あいつらが生きてて幸せそうにしてたら多分この子を心の底から愛すことは出来なかった。けど今は愛おしくてたまらないんだよね!だからありがとね!由香!」

私に会う資格もないと思っているけど、詩織はそうでは無いようだ。絶対に来てと念押しされたて押し切られるようにそれを受け入れた。その時どうなっているかは分からないけど。

「とりあえず今日も泊まっていきなよ!学校にはお母さんが上手く言ってくれてたから月曜日の朝寮に戻れば問題ないと思うよ!色々あったんだし、夜はゆっくり寝よ!」

色々考えることはあったけど、疲れが溜まっていたのかすぐに寝込んでしまった。明日のことは明日考えよう。

 月曜日、休み明けで学校もあったので朝一に寮に戻った。学校からの呼び出しもあったし、友達も心配していたから少し急いだ。詩織の両親に朝ごはんも昼ごはんも用意してもらってお世話になりっぱなしだった。詩織は夜遅くまで私の横で安心して眠れるように付き添ってくれていた。そのせいで朝起きられなかったから行ってきますは言えなかったけど、また言う機会はあると思っていたからこっそり出た。

「とりあえず寮母さんに謝らないとな。それと担任とパパとママにも連絡言ってたみたいだし。ちょっと気が重いな。有名校だし、停学とかにならないといいけど。」

よくよく考えると寮生なのに一晩帰らず、連絡も取れない状態で朝を迎えたというのはさすがにやばいなと思った。一応詩織のお母さんが泊まる予定だったけど、連絡するのを忘れていたということにしてくれているが、さすがにお咎めなしということはないだろう。学校に行くのが憂鬱になってきた。そうこう考えているといつの間にか学校に着いていた。こっそり裏口から入ろうとしたが、予測されていたのか寮母さんが裏口から現れた。

「連絡もしないで寮に戻らないなんて!いくら友達の家に泊まりに行くとはいえ、外出届けや連絡はするべきでしょう!私たちがどれだけ心配したかわかるかい?警察にも連絡したんだからね!」

いつも優しい寮母さんがすごく怒っていた。心配からの怒りとはいえ、さすがに怖かった。普段温厚な人は怒った時が怖いというのは本当みたいだ。

「その怪我はどうしたんだい?大丈夫なのかい?手当されてるみたいだけど、もし痛むようなら保健室に行くんだよ!」

心配されつつもそれから三十分くらいお説教をされて学校が始まる時間になるからと急いで部屋に戻されて準備をすることになった。

「あ〜怖かった〜、怒られるとは思ってたけど予想以上だったな。これから担任と学年主任と校長と話すらしいし、やっぱり停学とかになるのかな。お父さんとお母さんにも連絡行ってるみたいだし、そっちも怒られそうだな〜。まぁやらかしたのは私だから仕方ないな。でも、寮母さんすごく心配してくれてたな。なんだか嬉しい。」

厳しさの中に温かさを感じて安心することができた。まだ考えることは多いけど、とりあえず教室に向かうことにした。教室に入ると真っ先にゆきなと優里が飛びついてきた。

「由香!大丈夫だった?寮に戻ってないって聞いて連絡したんだけど、折り返しなかったから心配したよ!その怪我大丈夫?無事なら良かったけど、もう心配させないでよ!」

担任から仲の良かった二人にも連絡が言っていたようでかなり心配させてしまった。ごめんねと謝り、二度としないと約束した。ホームルームが終わり、一時限目は自習になり、私は校長室に呼ばれた。多分私のせいで自習になったのだろう。部屋に入ると校長と学年主任が居た。予想通りこの三人と話すようだ。けど、私の後にもう一人入ってきた。見たことの無い人物だったけど、特に気にしなかった。これから怒られるも思うと憂鬱になり、他のことなどどうでも良くなる。全員が揃ったようで校長が話し始めた。

「さて、ここに来てもらった理由はなんとなくわかると思う。君が先週末、無断で寮に戻らず、警察騒ぎになった件だ。うちは一応名門校として名も通っている。正直、警察沙汰になるようなことはして欲しくないわけだよ。今回は相談だけで終わることが出来たけど、もし最後まで君の事で連絡がなければ事態はもっと大事になっていただろう。そのことを反省してまた同じ失敗をしないようにしてくれ。」

厳しく注意され、二週間の停学をいい渡された。本来なら一ヶ月らしいが、私の普段の生活態度と成績を加味して罰を軽くしてくれたみたいだ。教師方の話が終わったあと最後に入ってきた知らない人物が口を開いた。

「一通り話が終わったところで私からも少し聞きたいことがある。私は陸斗君の件で捜査している警察のものだ。君が無断外泊した日、他にも行方不明になった生徒がいる。その二人はどうやら陸斗くんと仲の良かったグループらしい。ここ最近事件が多いも思うのだが君は何か知らないか?」

驚いた。もう既に行方不明届けが出されているとは。二人の親はあまり子供に関心がないと聞いていたからまだ探すことはしないと思っていた。家に帰らない日も多いと聞いていたし。でも、なんで私がいる時に話すのだろう。もしかして……。

「あの三人は結構目立つ人達だったし、なにかトラブルに巻き込まれてもおかしくは無いかなと思います。私はそこまで親しくなかったのでよくは知りませんけど。」

当たり障りのない言葉で返答した。なんとなく私が怪しまれているのはわかるけど、警察もほんとに私がやったとは思ってないだろう。あくまで念の為の確認として私の反応を見るつもりでその質問をしたんだと思う。ここでばれるわけにはいかない。私にはまだやることがあるのだから。

「そうですか。ごめんね疑うようなこと聞いて。警察ってのは疑うのが仕事みたいなものだからちょっと聞きたかったんだよ。私の聞きたいことは終わったからもう教室に帰っても大丈夫だよ。」

疑いが晴れたかは分からない。でも、この場はなんとか凌ぐことが出来た。教室に戻った私は帰る準備をした。ゆきなと優里は心配をしてくれてこっそり遊びに行くと行ってくれた。停学になると寮から出て実家に戻らないといけない決まりだから会いに来てくれるのは嬉しい。あまり遊ぶのは良くないけど、ちょっとくらいならいいかなと思ってる。

「二週間の停学で済んでよかったね!本来の学校の規則なら一ヶ月は停学になるところなのに由香は成績優秀だから罰が軽くなったんだろうね!でも、みんなに心配かけたんだからちゃんと反省はしなよね!」

笑いながら言われた。確かに心配をかけたのは事実だから気をつけようと思ってる。多分両親にもかなり怒られると思うから気が重かった。片付けを終えた私は教室を出る。二人にお別れの挨拶をした後、寮に戻った。荷物をまとめて寮を出ようとした時、寮母さんに話しかけられた。

「先生方に怒られたかい?停学だけで済んで良かったよ。うちは一応名門って言われるくらいの学校だから退学も有り得た行為だったからね。そうならなかったのは担任があんたの素行を見て説得してくれたみたいだからね。これ以上迷惑をかけないようにこれからは気をつけるんだよ!」

裏でそんなことになっているとは思わなかった。確かにテストでは学年トップを取っていたし、生活態度もそれなりにいいとは思っていた。そのことをしっかり見ててもらえているのは嬉しい。けど、多分これから今までにないほど迷惑をかけることになると思うとさすがに申し訳なくなってしまった。寮母さんのお説教が終わり、学校の校門を出ようとした時、授業中にも関わらず黒川くんが待っていた。

「金曜日の夜、寮に戻らなかったんだね。後で聞いて驚いたよ。正直考えたくなかったけど、君はまた何かをやったんだろ?多分正直には教えてくれないんだろうけど、予想はできる。君のやってることは正しいことなの?親友のためになんでそこまでできるの?そのためなら僕を利用しても何も思わないの?君は一体何者なの?」

黒川くんにはすごくお世話になったと思う。彼がいなければ掴めなかった情報もある。最初はただ利用してやろうと思ってただけだけど、今は他の感情もあるというのがわかる。それが何かはよく分からないけど、少なくとも無碍に扱っていい存在でないのは確かだろう。だからこれ以上迷惑をかけないようにしっかり言おうと思う。

「ごめんね。私は人間としてはかなり終わってる方だと思う。あなたを利用してたって自覚もあるし、多分普通の人と比べて色々な壁がない人間でもある。だから普通の人にはできないことも出来ちゃうんだと思うんだ。そんな奴に付き合う必要はないと思う。これ以上黒川くんを巻き込みたくないからもう私には関わらないでほしいな。勝手なこと言ってるのはわかるけど、黒川くんには幸せな未来が待ってると思う。だからもう私なんかに構う必要ないからね。」

はっきりと伝えた。実際に何をしたのか言うつもりはない。多分それを伝えると彼はまた私を助けようとするのが目に見えている。どれだけ私が汚く醜くなろうとも彼は支えようとする。そういう人だと分かって色々お願いしてしまったのもあるから申し訳なかった。だからもう自由にしてあげたい。そう思ったのだ。

「僕は由香さんのことが好きだ。だから利用されようと気にしない。だから近くにいさせて欲しい。一人で抱え込まないで欲しい。」

やっぱり引かなかった。どれだけ説得しても離れるつもりはないの一点張りだった。どうしようもなくなってしまったので、最終手段を使うことにした。

「これ以上私に関わるんなら警察官のお父さんに色々報告しなきゃいけなくなるよ。私の話すこと次第であなたもお父さんも立場が悪くなるんじゃないかな?」

黒川くんはお父さんをとても尊敬している。悪を許さないその姿勢をとても誇らしく話していた。それを利用するのは心苦しかったけど、彼はもう私に関わらない方がいいと心の底から思ったからなんとか遠ざけようとした。

「それは……僕はともかく父親に迷惑はかけたくない。どうしても僕の協力はいらないの?君のためならなんだってできる自信はあるよ?上手くやれる自信もあるし。細かいことは考えずに使ってくれたらいいと思ったんだけど、迷惑って感じなのかな。本気みたいだから諦めるよ。ただもし何かあれば頼って欲しい。こんなことで嫌いになるほど僕の気持ちは軽くないからね。」

最後の最後まで誠実に向き合ってくれた。そんな彼だからこそこれ以上付き合ってもらう訳にはいかない。最初は使えるものは使ってやるってつもりでいたのに今は彼の今後を考えてしまう。私と同じ道をたどって欲しくないと思っている。あとは自分一人で全てやると心に誓った。

 寮を出て、実家に帰るために電車に乗りこんだ。するとスマホが鳴り、見てみると芽衣からの連絡だった。

「久しぶり!最近あんまり連絡返ってこないけど大丈夫?何かあったんなら相談に乗るよ!また時間ある時に会おうね!」

最近芽衣と茜からの連絡は返していなかった。どういう気持ちで接すればいいか分からなくなっていた。記憶が戻ったことはまだ誰にも話していない。それを話したら二人は離れていくからだ。簡単に話すことは出来ない。

「なんて返せばいいんだろ。前みたいな関係にはもう戻れないな。過去のことを知ってあの二人は私とどういう気持ちで一緒にいたんだろうって思うし。どんな理由でも正直気持ち悪いけどね。」

電車の中で一人悶々と考えていた。過去のことを思い出し、あの三人に怒りは湧いてきた。でも、中学卒業から仲良くやってきた芽衣と茜をどうしても恨みきれないところがあった。今の私と昔の私はやっぱり違う人間のように思える。混ざりあった気持ちをどう整理すればいいのかが分からず、返信はやめることにした。まともな返事を返せないと思ったからだ。

 色々考えているといつの間にか実家に到着していた。目の前にすると憂鬱になる。これから両親に怒られることを思うと。

「どんな顔して入ればいいんだろ。学校からも連絡いってるのにあんまり私には連絡してこないんだよね。詩織のお母さんが色々話してくれたみたいだからとりあえず落ち着いてくれてるといいけど。」

そう独り言を言いながら玄関を開けた。すると開ける音に気づいたのかお父さんが出迎えてきた。

「おかえり〜。疲れたろ。早く上がりな。」

いつも通りだった。怒っている様子もなく、私を労りながらリビングに向かった。そこにはお母さんが台所でご飯を作っていた。

「おかえり由香。疲れたでしょ。ご飯作ってるからゆっくりしてなさい。」

いつもの変わらない様子を見て戸惑っていた。私が罰を受けているこの状況で怒ることもしない両親が何を考えているのか分からなかった。ご飯が出来上がり、みんな食卓についた。ご飯を食べ始めて少しした時、お父さんが話し始めた。

「いや〜学校から連絡があった時はびっくりしたよ!由香が寮に無断で戻ってないって聞いた時は心配したぞ?まぁその後牧村詩織さんのお母様から連絡を貰ったから安心はしたけどさ!あの真面目な由香がこんな不良みたいなことするなんて意外すぎて驚いたわ!」

笑いながら頭を撫でてきた。怒られると思っていたけど、反応は真逆だった。私がこんなことをするような子ではないと二人は知っていたからこそそれをある意味成長だと思っているようだ。色々覚悟をして帰ってきたから気が抜けてしまった。

「怒らないの?校則違反で停学になったのに。せっかく入らせてもらった学校でこんなことしたら普通怒るじゃん!色々覚悟して帰ってきたんだよ?」

するとお母さんが口を開いた。

「確かに良くないことよね。連絡もなかったし、心配はすごくしてたわ。でも、私たちはあなたが理由なくそんなことをする子だとは思ってないの。だから無事でいるって思ってたし、信じてたのよ。世間的にはあまり行動しない親だと思われるだろうけど、あなたとの今までの積み重ねがあるからね。まぁやれることはやってたんだけど。」

私を信用してくれている両親には感謝しかない。そんな両親に嘘をつき続けるのは心が痛むので、記憶の件を話すことにした。

「停学になって話すのも申し訳ないんだけど、私昔の記憶が戻ったんだよね。学校で転けた時ちょっと頭打ったんだよね。その時に昔の記憶が一気に頭に浮かんできたんだよね。今の私と昔の私がまるで別人みたいに思えて混乱してたんだ。頭を整理するために詩織のところへ言ってたんだ。そのおかげでだいぶ落ち着いたよ。だからすぐ連絡出来なかったんだ。ごめんね。」

記憶が戻ったこととちょっとの嘘を混ぜて話した。一応辻褄が合うように話したから二人も納得してくれた。

「記憶戻ったんだね。なんとなく帰ってきた時の雰囲気が違うなって思ったけど、そういうことだったんだね。お医者さんは何で戻るか分からないって言ってたし、戻らないかもとも言ってたから安心したよ。それでちょっと気になったんだけど、今と昔で違いがあるって言ってたのはどういうこと?まぁ小学生と高校生じゃ感覚が違うのは当たり前なんだけど、他に何かあったの?」

お母さんは昔から鋭かった。私の言い回しで気づいたのか雰囲気で気づいたのか。とにかく変に疑われるのも嫌だったからその場は無難に答えておいた。それ以上そのことについて追及してくることはなかった。ご飯を食べ終わり、自分の部屋に向かった。停学中にこなさなければいけない課題が山のように出されている。私の成績を加味して予習のような課題が多かった。さっさと終わらせるために課題を始めようと思う。

 一晩明け、停学一日目になった。課題はかなり進んで四分の一は終わった。うちの高校は校則が厳しい割に停学のルールは結構緩いと思う。外出も特に制限されてないし、教師が来るのも週に一回で何をしても特に何かを言われることは無い。両親も特に私を縛るようなことは言ってこないから私のやるべきことをやろうと思う。

「まずはあの三人に会わないといけないよね。それと思い出した記憶の中に気になるものもあったし。この二週間で決着したいな。」

私はもう後戻り出来ないところまで来ている。止まることなんて出来ない。あと少しで私の復讐は終わる。記憶が戻ったことで記憶が無い時より更に怒りと復讐心が強くなってしまった。もう自分で自分を抑えられなくなっている。あの三人への復讐と楽しかった記憶が混じって複雑な気持ちもあるけど、されてきたことを人から聞いたものより自分の記憶として思い出したものの方が酷いものだということが分かってしまった。前は曖昧な気持ちで復讐しようとしていたけど、もう容赦するつもりは無い。

 由香里ちゃんへのいじめは小学生とは思えないものだった。教科書やノートをビリビリに引き裂かれたり、給食の量を明らかに減らされたり、階段の低い段から背中を押され、落ちたこともあった。他にも色々されていてその都度私が注意していた。当時の私は本当に友達も多く、明るい性格をしていたみたいだ。今の私とは真逆だから混乱してしまう時とあります。昔の私はもしかしたら無理をしていたのかもしれない。

「まだ頭の中整理出来てない気はするけど、これだけはいえる。あの三人は消さないといけないよね。由香里ちゃんを守れなかった償いはしっかりしようかな。」

由香里ちゃんは望んではいないかもしれない。けど、思い出した記憶の中では毎日のように二人で遊んでいる姿がある。あの頃は本当に楽しかった。家でお泊まりもしたし、遠足や林間学校でもずっと一緒にいた。楽しい思い出があればあるほど、苦しめて死を選ばざるおえない状況まで追い込んだあいつらを許すことは出来ない。子供のやった事だと言われても納得できるものではない。この停学期間を有効活用しようと私は動き出すことにした。

「どんな復讐がいいのかな?私の親友を殺した奴らには幸せになって欲しくないもんね。また黒川くんに頼ろうかな。」

とは言ったものの彼の協力を拒んでしまったし、頼めるわけもなかった。最近頼りすぎだと思っていたし、これ以上迷惑をかけたくなかった。それに彼のことを考えるとなぜか気持ちが緩む感じがしてあまり近くにいない方がいいのかなと思ってしまう。これがなんの感情なのかよく分からない。あまり考えないようにしようと思う。

 停学が始まってから三日が経った。その間に課題を終わらせてなんのしがらみもなく計画を立てられるようになった。両親も課題をこなす速さに驚いていたが、終わったんだから好きにしたらいいと言ってくれた。子供思いだけど、変に縛ることの無い関係というのもなかなか心地のいいものだと思う。周りから見るとドライな関係に見えるみたいだけど。

「普通に停学中に好きにしていいって言う親いないよね。まぁ二人とも仕事だし、私のことを信頼しているからこそだと思うけど、やっぱりうちの両親は変わってるな。」

クスッと笑いつつ、色々調べるために動き出した。今何をしているかは芽衣と茜からよく聞いているのでわかっている。まだ私が記憶を取り戻していないと思っているから情報を引き出すのは容易だった。最近連絡をあまりとってなかったけど、忙しかったからと言ってまたやり取りを再開した。停学の最終日に4人で会う約束をした。その日が私の運命の日になるのは間違いない。作戦を考えていると詩織から電話がかかってきた。

「ゆきな達から聞いたんだけど、停学になったの?何も出来なくてごめんね。もっと上手い言い訳できてたらこんなことにはならなかったかもしれないし。それに私のせいだよね。」

自分のせいだと落ち込んでいる詩織にそんなことないと伝えた。そして、私が勝手にやったことで責任は全部私がとることを伝えた。

「別に詩織に頼まれてやった訳じゃないし、私が決めて実行したことだから気にしなくても大丈夫だよ。詩織が責任を感じることは無いよ!」

大丈夫と言っても気にしてしまうと思う。私がどれだけ言ったところで責任は感じてしまうとわかっていた。詩織の心の重りを取り除くことはできたけど、私への気持ちの配慮はできていなかったと痛感した。

「由香が色々してくれてほんとに嬉しかったよ。あの地獄の日々から救い出してくれたのは間違いなく由香のおかげだからね!だからうちはいつでもどんな時でも由香の味方になるからね!」

詩織の言葉はいつも私を喜ばせてくれる。本当に親友になれたと思った。

「なんか照れるね。あ、そういえば話したいことあったんだよね。お腹の赤ちゃんの事で調べたことがあるの。誰の子かちゃんと知るためにDNA検査をしてみたんだよね。まぁ陸斗くんとの親子関係しか調べられなかったんだけどね。でも、それですぐ結果がわかったよ。お腹の中の子は間違いなく陸斗くんの子供だったよ。私の部屋にあった髪の毛で調べたし間違いないと思う。」

誰の子かはっきりしたのは良かったと思う。ずっとモヤモヤしてた部分でもあるし。けど、次の詩織の言葉で怒りが湧いてきた。

「それでその鑑定結果をどういう訳か陸斗くんの両親達に伝わってたみたいなんだよね。間違いなくこっちを調べて病院側も協力してたみたい。こういうのって普通は守秘義務っていうのがあるみたいなんだけど、陸斗くんの両親はそれを守ることが出来ないくらいの力を持ってるみたいなんだよね。それでこの前私に電話をかけてきたんだよね。その内容なんだけど、私が産む子を孫として育てるからよこせって言われたんだ。両親はそれを拒否してくれて怒りながらその電話は終わったんだけど、その後から嫌がらせみたいなのが始まったんだよね。両親の職場に嫌がらせの電話が来たり、うちの変な噂も流れてるみたい。これだけじゃ済まないって手紙も届いてたし、正直かなりやばいかもしれない。両親も毎日毎日嫌がらせされてどんどん疲れてきてるの。ねぇ由香、私どうしたらいいのかな?これ以上酷いことになるなら私の子渡した方がいいのかな?もうどうしたらいいのかわからないよ。これ以上両親に迷惑もかけたくないし。」

電話の向こうで泣く詩織になんて声をかければいいか分からなかった。正直あんな男の子供を産んで欲しいとは思えなかった。なんであんな酷いことをされた詩織があいつの子を産むために辛い思いをしなくちゃいけないのか。子供に罪はないのはわかってる。けどどうしても割り切れない自分がいる。

「詩織はその子を育てたいと思ってる?ぶっちゃけたこと言うけど、あの陸斗の子だよ?私には出産の苦しみも母性もよく分からない。知識として知ってるだけだよ。愛おしいって思ってるのかもしれないけど、あいつは無責任に子供を作って放置してたんだよ?そんな男の血が入ってる子供なんて好きになれるとは思えないんだよね。」

モヤモヤしてたことがつい出てきてしまった。我に返った私はまずいことを言ったと思い、謝ろうとした時、詩織が口を開いた。

「由香の言いたいことすごくよくわかるよ。今でも思い出す。あいつらにやられたこと。痛かったし、怖かったし、ずっと心の中で助けを求めてた。あんなことをされて恨んだし、憎んだよ。最初はあんな奴らの子を産みたくなんかないって思ってた。自殺しようかとも考えてた時もある。でも、由香に助けてもらって心が救われた。それと最近赤ちゃんの胎動を感じるの。良くお腹をけってくるんだよね。検診の時も元気よく動いてる赤ちゃんを見て可愛いなって思ったよ。この子を守ろうってその時思えた。今はもう陸斗くんはいないし、由香のおかげで恨みもほとんど無くなった。記憶が消えることは無いけど、私はこれから赤ちゃんと生きていけると思ってる。だからもう心配はいらないよ!」

さっきまで泣いていた詩織は母親の声になっていた。子供を思う気持ちが電話越しで伝わってくる。私はそれを聞いていいすぎたと思い謝った。詩織は気にしないでと快く許してくれた。二人の仲がより深まった気がする。

 問題はまだある。陸斗の両親が詩織の赤ちゃんを奪おうとしている。それをどうにかしないといけない。電話の最後に私に任せてと詩織に言った。とはいえそう簡単なことでは無い。今までのようにはいかないことはわかっている。けど、詩織の話を聞いていてもたってもいられなかった。考えることは山積みだった。停学期間に全てのことを終わらせるつもりだ。私の最後の役目なのだから。





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