4話 後悔
色々な事が重なり私は詩織と会った次の日から熱が出てしまい、学校の寮に引きこもっている。病院ではストレスによる発熱ということで寝てれば治るものだった。試験が終わった後だったこともあり、安心して休むことが出来た。正直頭の整理が必要だと思っていたから丁度いい休みを貰えて少し嬉しかった。
「考えることが多すぎるな〜。こういう時相談出来る友達が近くにいるといいんだけど、詩織には相談できないし、里奈やゆきなや優里にも話せることでは無いし。こうなると黒川くんに頼るしかないかな。」
一人で色々考えているとノックが聞こえて寮母さんが入ってきた。
「熱は大丈夫?一応お粥とスポーツドリンク持ってきたから良ければ食べなね」
優しい寮母さんでよかった。看病をしっかりしてくれて不安になることがなかった。寮母さんにはあまり迷惑をかけないようにしないとと心の底から思った。迷惑をかけないためにも今後のことをしっかり考えるために整理を始めた。
まず早急に解決しなければいけないことがある。それは昨日詩織と会って知ったこと。それは詩織のお腹の中に赤ちゃんがいるということだ。どうやら陸斗くんとの事でそういうことになったらしい。詳しい話しはまだ聞けてないけど、赤ちゃんのお父さんは陸斗くんか取り巻きの二人の誰からしい。このことは両親にも言えずにいたようでそのせいで部屋から出られなかったみたい。詩織は周りの人に頼られるせいか自分のことになると相談したりするのが苦手で今回のことも一人で抱え込んでしまったらしい。両親には伝えた方がいいと言ったけど、どうすればいいか分からないみたいでまだ伝えられていない。次に詩織に会いに行った時に両親と相談出来ればとは思っている。それともう一つ、私が最近知った事実。私と小学校の親友の由香里をいじめていた三人の正体についてだ。これに関してはまだ調べないといけないけど、由香里のお母さんが言うには中学の最後に友達になった芽衣と茜と芽衣の幼なじみの玲央くんだと言うことだ。ママが二人が泊まりに来た時、変な反応をしていたのはその事を知っていたからかもしれない。ただ、さすがにすぐに信じられることではなかったから私の過去のことと一緒に調べていこうと思う。
「やること多いな。とりあえず次の休みは詩織の家に行ってその次の休みに私が通ってた小学校に行ってみよう。黒川くんに頼れば色々わかることも増えると思うし、また話しをしてみよ。」
考えすぎてまた熱が上がったみたいで気絶するように眠った。次に起きたのは深夜だった。
熱も下がり学校に復帰出来たのは週末だった。次の日休みだったけど、勉強が遅れるのが嫌で出席することにした。教室に入るとゆきなと優里が心配そうに駆け寄ってきた。
「由香大丈夫?結構寝込んでたみたいだけど、最近色々あって疲れが出たのかな?とにかく治ってよかったよ!優里とずっと心配してたんだからね!」
こうやって友達に心配されるのがこんなに嬉しいとは思ってなくて、ついつい笑顔になってしまった。二人はまだ詩織の状況を知らないからとにかくばれないように行動した。詩織は私以外には話したくないと言ったので二人にも教えていない。あまり知られたくはないだろうと思い、誰にも話さないようにした。
「あれから連絡あった?詩織の部屋で二人で話してたみたいだけど、理由とか教えてもらったのかなってずっと気になっててさ。」
二人が気になるのも仕方ない。あの日私は詩織と話し終えた後、何を話したか言わずにはぐらかしていた。本当のことは言わず、それっぽい事を話してなんとか信じてもらえた。二人には悪いけどやっぱり言えない。いつか言える日が来るといいなと思う。
学校が終わり、帰りのホームルームが終わった後黒川くんと話すためにカフェに集合した。彼には私の過去について一緒に調べてもらおうと思っている。私への好意を利用するみたいで申し訳ないとは思うけど、彼の行動力と推理力には期待していた。
「相談事があるんだよね。私のことについてなんだけど、これから話すことは両親とちょっとしか知らないことだから誰にも離さないで欲しい。けど協力してもらうつもりだから全部話そうと思う。」
そう言うと黒川くんが、
「わかった。誰にも言わない。僕は好きな人との約束は破らないから」
堂々とそういう事を黒川くんを見て変わってるなと思ったけど、気にせず話した。
「私は小学校卒業までの記憶がほとんどないの。その原因は卒業式の日に交通事故にあったから。車に衝突した後色々あってそのせいで記憶がほとんどなくなったんだよね。最近になって過去のことを知ることが出来たんだけど、まだ思い出せないし、調べないといけない事が山ほど出てきたんだよね。正直私の事情だから申し訳ないけど、黒川くんに昔の事を思い出せるように協力して欲しい。それと調べて欲しい人がいるからそれもお願いしたいんだ。もちろんお礼はしっかりさせてもらうから。」
親友の事やそこで何があったかは話さなかった。自分でも自覚があることだけど、黒川くんにそこを掘られるのは嫌だったからだ。なぜその事故が起きたのか。今の私を知っている黒川くんならすぐに理解するだろう。
「わかった。由香さんの頼みなら聞くよ。頼られるのは嬉しいし、断る理由もないしね。でもあまり期待はしすぎないでね。僕は探偵では無いし」
それを踏まえて頼んでいることを伝えると嬉しそうに引き受けてくれた。過度な期待はしてないけど、彼ならやれるとは思っている。三人のことは彼に任せて、私は詩織の方に集中しようと思った。
週末になり、詩織の家に向かった。前回はゆきなと優里と三人で向かったけど、今回は事情を知る私のみで向かった。詩織のお母さんは私を暖かく迎え入れてくれる。毎週のように来て迷惑かもしれないと思っていたけど、嬉しそうにしているのを見て安心している。
「由香ちゃん。毎週来てくれてありがとうね。詩織も少しずつ変わってきててこの前ドア越しだったけど会話することが出来たの。それもこれも由香ちゃんのおかげよ。私達には言えないことでも信頼出来るお友達がいてくれるとほんとに心強いの。これからも詩織のことをよろしくね。」
感謝されるようなことはまだ出来ていないからなんとか期待に答えようと頑張っている。事情を知る私だけは部屋の中に入れてくれるようになったけど、やっぱりまだ両親にはお腹の赤ちゃんの事は言えていないらしい。言った方がいいとオブラートに包んで伝えてはいるけど、その話になると黙り込んでしまう。私の知る詩織とは全く違う性格になってしまったのを見て心が痛くなる。けど一番辛いのは詩織だと思うし、私が頑張ろうと思った。
「それで少し聞きたいことがあるんだけど、いいかな?答えたくないことがあったら答えなくていいからね。陸斗くんと取り巻きの二人に何をされたか話せるかな?私は詩織の力になりたい。だからどうしてもあの三人が許せないの。陸斗くんには罰が下ったと思う。残り二人にも何かしらの罰が必要だと思うから。」
つい怒りが込み上げてきてしまって、私の秘密も話しそうになってしまった。もし陸斗くんのことを知ったら詩織が責任を少しでも感じてしまうと思うから今は言うつもりは無い。
「……由香……私……あいつら絶対許せない……信じてたのに……」
泣きながら小さな声で何があったかゆっくりと話し始めた。その内容は酷いもので付き合ってから色々あったみたいだ。赤ちゃんが出来た原因は間違いなく三人のせいだ。あいつらを許すことは出来ない。私は静かに心に誓った。
詩織と色々話をして、溜まっていたものを吐き出せたおかげか、かなり精神も安定してきたと思う。前は何も話せなくなるほどの過呼吸やあの時のことを思い出した時に嘔吐したりなど症状はかなり酷かった。けど私が会いに行く度に良くなっていると私は思う。顔色も良くなり、ご飯もしっかり食べられてるみたいで段々と身体も元に戻りつつある。でも、まだ両親には顔を見せられないみたいだ。なぜならお腹がかなり目立ち始めてきたからだ。さすがにそろそろ言うべきだと思って、詩織を説得しようと試みた。
「詩織、言いづらいことかもしれないけどもうお母さんたちに言った方がいいと思う。お腹の子の事は詩織一人でどうにかなる事じゃないと思う。出来た経緯も話さないといけない辛さはあると思うけど、お腹の中の赤ちゃんに罪はないからね。詩織も分かってるんだよね?私はいつどんな時でも詩織の味方だからね。だから勇気を出して欲しい。これ以上詩織に辛い目にあって欲しくないよ。」
詩織のお見舞いをし始めてから二ヶ月が経った今日、私の心の内を伝えて説得をしてみた。最初は嫌だったようで黙り込んでしまったけど、少しして私に抱きつきながら話し始めた。
「由香の言う通りだと思う。これ以上隠してても誰も幸せになれないよね。アイツらのことは絶対に許すことは出来ない。けど、お腹の子に罪は無いもんね。由香がこの二ヶ月通い続けてくれて凄く心強かった。頼れる人が居なくて、両親にも相談出来なくてほんとに苦しかった。由香が親友でいてくれてよかった。両親に話そうと思う。由香も一緒に居てくれる?」
私は心の底から嬉しかった。親友と言ってくれたこと、頼ってくれたこと、信頼されるのが嬉しかった。詩織は勇気をだして、私と一緒に部屋を出た。リビングで詩織の両親がいつも私が出てくるまで待っている。今日も私だけだと思っているだろう。二人でリビングの扉を開けるといつものように私を迎え入れる詩織の両親は詩織の顔を見た途端、震えた声で名前を呼び、涙を流して詩織に抱きついた。さっきまで俯いてた詩織も両親を見て涙が止まらなくなった。私もそれを見て涙が流れてきた。詩織の両親が暖かい人達でほんとに良かったと思う。
「詩織、もう大丈夫なの?何があったかはまだ聞いてないけど、たくさん悲しいことがあったのよね。あなたは責任感の強い子だから私たちに心配かけないようにしてくれたのよね。これからは私たちを頼って欲しい。あなたのためならなんでもするからね。」
両親の言葉に泣き崩れる詩織をゆっくりとソファーに座らせて少しずつ落ち着かせて言った。みんなが落ち着いたところで私から話しを始めた。
「お父さんとお母さんは久しぶりに見てかなりの変化があるのがわかると思います。詩織は今妊娠しています。その事で塞ぎ込んでしまって引きこもりの状態になってたんですよね。」
二人は多少予測していたようで落ち着いたように話し始めた。
「何となくそういう事情があるのかなとは思ってたのよね。詩織が私たちに話さないことと言えばそのくらい大変な事だと思ってたからね。でも、責めるつもりはないわよ。どうしようも無いことって世の中にたくさんあることだからね。」
妊娠について両親は理解してくれた。そんな二人を見て詩織は事情を話したいと私に言ってきた。自分からは言いずらいと言うことで私が説明することにした。陸斗くんとの事やされたことを包み隠さず話した。さすがに予想以上のことで二人は絶句した。しかもその主犯格と言える陸斗くんはもう亡くなっているということも知っていた為、怒りをどこにぶつければいいのか分からないという感じだった。
「そんなことが、学校側からは特に理由はないと言われてたけど、そんなわけないわよね。ましてや相手は地元の地主の息子で逆らうと面倒事になるって分かってるだろうしね。でもまさかこんなタイミングで亡くなるなんて神様は見ているものなのね。」
陸斗くんの事件については偶然だと思ってくれたみたいだ。まぁ私がやったなんて誰もわかるわけがない。ありえない推理力を持ったやつはいたけど。私はこの時両親の気持ちにも答えようと心に決めた。そして、
「悪いことをした人間には必ず報いは訪れますよ。残りの二人も罰は受けると思います。」
そう話を合わせるようにみんなを安心させるために努力しようと思うのだった。
詩織が部屋から出てきてすぐに両親は産婦人科に向かった。お腹の子は順調に育っているそうだ。妊娠三ヶ月になったところらしい。複雑な気持ちになりながらもちゃんと産むと覚悟を決めたらしい。その後学校側に詩織の休学届けが正式に受理され、産むまでの間は休むことになった。妊娠の理由はまだ詳しく学校側に話してはいないけど、何となく察したようで本来なら退学を進められるところを休学という形で落ち着いたようだ。
「詩織、やっぱりまだ学校に来れないんだね。また今度会いに行こうかな。由香はちょくちょく会いに行ってるんだよね?」
ゆきなと優里はすごく心配している。妊娠については話すことが出来ないけど、両親と話ができるようになったことは伝えた。二人とも安心したようだった。これで私は一つのことに集中出来るようになった。あの二人への復讐を始めよう。
取り巻きの二人を地獄に落とすために準備を始めた。私はまず材料を探すためあることを黒川くんに依頼した。色々頼んで申し訳ないけど、これは黒川くんにしかできないことだったからなんとか受けてもらった。ご褒美をねだられたけど、ちょっと不安になった。調べてもらってる間に私に出来ることを進めて行った。あの二人とはほとんど関わりがなく、近づくのもなかなか難しかった。陸斗くんの事件以来、周りの生徒も二人に近づかないようにしていた。元々権力を笠に着ていたから何も無くなるとなんの力もないただの人となった。助ける人も仲良くしようとする人もいなかったため常に二人で教室のかたすみにいるようになっていた。ただ逆に周りを信用していないから簡単に近づくことも出来なくなっているから少し厄介だ。特に私と詩織が仲が良かったということを知られているから近づけずにいた。そこで里奈に協力してもらうことにした。詳細を里奈には伝えず、二人を誘導してもらう役割を担ってもらう。他に場所の確保、あるものを教室に仕掛ける作業、SNSでの編集や投稿などやることが多すぎて準備に一ヶ月以上を要した。黒川くんに頼んでたものも予想が的中し、奴らを地獄に落とすための情報を入手した。ある薬を手に入れるのには苦労したけど、なんとかなって良かった。全ての準備が整ったところで昼休みに行動を開始した。私は昼から実家に帰ると理由をつけて居ないことが問題にならないようにした。あの二人は元々授業をサボりがちだったから誰も気にしないだろう。
「里奈、変なお願いしてごめんね。あそこに誘導してくれるだけでいいからね。そこからは私が一人でやるから。」
すると里奈が
「理由は教えてくれないんだね。けどあの二人が関わってるってことはやっぱり詩織の件だよね。多分聞いても教えてくれないだろうから聞かないけど、これだけは言わせて。無茶なことはしないでね。確かにあいつらのしたことは許せない。けど由香が犠牲になるなんて嫌だからね!」
私のことを心配してくれてる。最初は嫌われていたようだけど、仲良くなれて良かったと思う。だからこそ巻き込みたくないと思った。
「大丈夫だよ。無茶のことはしない。これからも詩織や里奈と仲良くしていきたいからね。だから心配しないで待っててね。」
そう伝えると里奈は二人をある場所に誘うために行動を開始した。ある場所とは、高校の中にある旧校だ。うちは名門校で歴史もかなり古く、全てでは無いけど旧校舎を残した状態にしている。今は立ち入り禁止で誰も近づくことは無い。そこに二人を誘い出してもらうつもりだ。
「やっと準備が整ったんだ。絶対に失敗出来ない。でもなぜだろ。私なら出来ると思ってしまう。やっぱり私ってどこかおかしいんだろうな。」
自分のやろうとしている事の異常さを改めて実感して覚悟を決めた。旧校舎の最上階の教室で待機していると二人の声が聞こえてきた。上手く誘導できたようだ。そういえばあいつらの名前知らなかった。取り巻きった呼んでたから。
「里奈に呼ばれたけど、ここで何するんだろな。まぁ何となく想像しちゃってるけど、三人でやるとかあいつもやっぱりビッチだよな〜。」
聞くに絶えない会話だったが我慢した。こいつらは絶対に許せないと改めて思った。教室に入ってきた二人は周りを見渡して里奈がまだ来てないと思い、黒板の方を向いて座った。黒板にはここで待ってねとハート付きでメッセージを書いてたため、二人は盛り上がりそれを見ながら待ち始めた。私は予め教室の隅にある掃除用具の棚に隠れていたが二人がメッセージの方を注視しているのを見て音を立てずに棚の扉を開けて後ろからそっと近づき二人の口元にあるものがついたハンカチを同時に押し当てた。何が起こったか分からない二人は口を塞がれたことで焦り、一気に息を吸った。そのまま気絶するように倒れた。
二人が目を覚ましたのは、6時限目が始まった頃だった。起きた彼らは自分達が置かれている状況を把握するのに少し時間がかかっていた。
「なんだこれ!なんで椅子に固定されてんだ!クソ!取れねーぞこれ!」
寝ている間に椅子にガチガチに固定して動けないようにしておいた。逃げられると面倒だからだ。二人が少しずつ落ち着いてきたところでうさぎの面をつけ、黒の全身カッパを身につけて誰かわからないようにした状態で登場した。
「起きたようだね。君たちこうなった理由は言わなくてもわかるよね?君たちが犯した罪についてここで色々聞きたいと思ってね。」
すると二人は話し始めた。
「は?なんの事だよ。てかお前誰だよ!こんなことしてタダで済むと思ってんのか!今ならまだ半殺しで許してやるからさっさとこれ外せ!」
やはり簡単に答えるはずもない。まぁ予想していたことだから冷静に質問を始めた。
「まぁ少し落ち着きなよ。冷静に話そうじゃないか。僕の質問に答えてくれればそれでいいんだよ。答えてくれればすぐに解放してあげるよ。ではまず一つ目の質問だ。陸斗くんとは仲が良かったよね。君たちは陸斗くんのおこぼれをもらってたのかな?」
二人は質問に答えるつもりがなく、黙り込んだ。仕方がないので、聞き方を変えることにした。
「僕ね、自分で言うのもなんだけど、かなり狂ってると思うんだよね。正直君たちがどうなってもどうでもいいんだよね。とりあえずこの映像を見てもらえるかな?」
プロジェクターを起動させてある動画を流し始めた。それを見た二人は焦り始めた。
「これ……なんでお前が持ってんだよ!これは陸斗しか持ってないんだぞ!外に出回るはずがねぇ!」
彼らが焦るのも無理は無い。今流している動画は奴ら三人が詩織に乱暴する時に撮った動画だ。彼ら以外知ることの見ることの無い動画。焦るのも当然だろう。こんなものが世間に出回れば自分達も陸斗くんの親族もとんでもないことになるからだ。
「てめぇ、ほんとに何者だ。陸斗のスマホは警察が持ってるはずだ。だとすると警察関係のやつか?じゃないとこんなこと出来ないもんな!」
核心をついたと思った奴らは少し余裕を見せた。もしその関係のものならこんなことをすればタダでは済まないということが分かっているからだ。だか、私は冷静に返した。
「この動画は確かに警察が押収した陸斗くんのスマホに保存されていたものだ。あるツテを使ってスマホの動画を入手しただけで、僕はその筋のものでは無いよ。それに今回の事で僕に罪問われることはないと思うよ。どの道君たちに僕の正体は掴めないだろうしね。」
まぁバレなければの話だけど、馬鹿な二人はその話を鵜呑みにしてまた焦り始めた。
「な、お、俺たちは陸斗の命令に従っただけだし!やりたくてやったわけじゃねーんだよ!」
苦しい言い訳だ。動画の中には自分たちから楽しむ姿や言葉も映っているため言い逃れは出来ない。こいつらはこれで逃げられると思っているのかと思うと異様に腹が立つ。
「でもやったという事実がここにある以上君たちは裁かれなければならない。ただ警察が押収した陸斗くんのスマホを見ているはずなのに君たちが法的に裁かれてないということは彼の両親の権力が使われたのかな。どうしようも無い奴らだよほんと。そうは思いませんかみなさん?」
うちの学校には各教室と職員室にテレビが備え付けられている。本来は授業で使うものだが、私が一ヶ月かけて今のこの状況を映し出せるように接続しておいた。今ここの会話は学校中の人間が見ている。
「おい、どういうことだよ!最初からみんな見てるってのか!ふざけんなよ……」
事の重大さに気づいた二人はただ呆然とした。これで二人の罪は学校中が知ることとなった。そして私は彼らに警告した。
「今回はこれくらいにしといてあげるよ。僕はまだまだ物足りないけど、仕方ない。これ以上証拠を残して正体がバレるのも嫌だし、次はまた違うところで会おうね。これで終わるとは思わないことだ。」
二人は恐怖していた。私の怒りが伝わったのか、涙を流しているようだった。まぁ無理もない。今後どうなるか分からないだろうし。二人だけを残し、その場を後にした。私が撤収したあとすぐに教師たちが現れたようだ。彼らは私を探し出そうとしてきたが、逃走ルートはしっかりと確保していたのでバレることなく寮に戻ることが出来た。一応顔も隠して体型も分からないようにオーバーサイズの服も着てたし、声も太くするようにして男の振りをした。映像も残ってないからバレることもないだろう。みんなに見せた映像は二人だけしか写してなかったし。私は何事も無かったように教室へ戻った。
その後の授業は取りやめになった。学校側は大事にしたくないようで警察には届けなかったようだ。実際被害があった訳でもないし、あの二人も怯えていてこれ以上何もしないと言ったそうだ。まぁそこも想定済みだけど。陸斗くんがいないと何も出来ない腰巾着っていうのは分かっていたから。急遽授業が無くなり、帰ることになったことで退屈になった私とゆきなと優里はカフェへ向かうことにした。
「なんかすごいことになったよね!誰がこんなことしたんだろ?姿は写ってなかったけど、多分男だよね?声も太かったし。まぁでもとりあえずあの二人の悪事が知られて良かったよ。多分あれ詩織の件だよね。引きこもった原因はやっぱりあの三人のせいだったんだね。マジで許せない!」
二人は怒っていた。無理もない。友達があーなる原因を作った奴らなんて許せるはずがない。これからあの二人は生きずらくなるだろう。どうしても無理ならその手助けはしてあげようと思っている。
「まぁあんな映像見ちゃったらもうあの二人は学校に居られないだろうね。警察に突き出すとかはしなさそうだけど、学生みんなが見てたわけだし、学校には居づらくなるだろうしね。」
二人の悪口を言いながら私たちはケーキを食べた。
次の日、週末休みに入ったので詩織の家に行くことにした。あの二人の件を伝えようと思ったからだ。
「由香、毎週来てくれてありがとうね。けど無理しなくていいのに。結構遠いのに大変でしょ。」
詩織は出迎えをできるようにまで良くなっていた。あれから体調もかなり良くなり、今は両親ともよく話し家のことを色々しているみたいだ。
「詩織に会えるなら無理してでも来るよ。それと今日は伝えないといけないことがあるんだよね。」
そう伝えると詩織は自分の部屋へ向かった。部屋は前と違い明るくなっていた。引きこもっていた時は物も散らばっていたし、掃除が行き届いていないって感じだった。けど今は整理整頓されていて模様替えされていた。
「めっちゃ綺麗になってる!カーテンとかカーペットとか色々変えたんだね!詩織らしい部屋になったよ!」
嬉しかった。前の酷い状態を見ていたからいい変化があって良かったと思う。
「気持ちを切り替えるためにも部屋の模様替えしたんだよね!前の状態だとお腹の赤ちゃんにも悪いしね!それで話したいことってなに?結構重い話っぽいけど。」
私はここ数日で起きたことを話した。もちろん私がしたということは話さずに二人に何が起きたかだけ話した。詩織は動揺しながら話しを聞いていたけど、最後二人がどうなったかを話すと心做しか表情が緩んだように見えた。
「そんなことになってたんだ。その人って私のこと知ってたのかな?他に被害者がいるっていうのはなんとなく察してたけど、まさか私のことでこんな事件になるなんてね。けどその事を知れてよかったよ。正直ずっとモヤモヤしてたの。あの二人はまだなんの償いもしてなかったからさ。これで少しだけ心が晴れたよ。」
復讐なんて虚しいだけだと詩織はわかってるんだろうけど、何もしないよりいいと思っている。少しでも嫌なことを忘れられるように復讐は必要な事だったんだと私は思う。でも、私の中の怪物はまだ終わってはいないようだ。これは自分でも抑えられない衝動になりつつある。私はこの怪物に抗うことが出来ないのだった。
週明け、学校に行くと黒川くんが話があると呼び出された。
「三人のことについて調べたよ。正直話を聞くまでは半信半疑だったけど、君の言う通りだったよ。君と事故で亡くなった親友の子をいじめていたのはあの三人で間違いないと思う。当時の同級生や教師の人達に聞いてみたよ。君が記憶をなくしたことをみんな知っていたからあまり話したくなさそうにしていたけど、何とか聞けたよ。話しが長くなりそうだから、放課後カフェに行って話そう。」
そう言うと黒川くんは席に戻って行った。重苦しい空気だったからどんなことを聞いたのかなんとなく想像はついた。けど私はそれを聞かなければならない。記憶が戻るきっかけになるかもしれないし、今の歪んだ私が生まれた理由も分かるかもしれない。
授業が終わり、放課後になった。黒川くんと話すためにカフェに向かった。席に着くと早速話を始めた。
「早速だけど、まず結論から言うよ。親友が亡くなった事故は事故じゃない。あれは自殺に近い殺人だよ。」
何を言っているのか理解するのに時間がかかった。でも可能性は感じていた。運転手の証言が嘘でないという証拠もなかったし、今の私を思うと可能性があったからだ。黒川くんは続けて話した。
「どうやら運転手の他に目撃者がいたみたいだよ。同級生がたまたま近くにいたみたいだよ。ただ、その子はそれを見て気が動転してしまったみたいでなかなか誰かに話すことも出来なくてずっと心の中にしまっておいたみたいだ。でも僕が調べてることを知って話しをしてくれたんだ。彼女が見た光景はありえないものだったみたいだけど、鮮明に覚えてるみたいで間違いないそうだ。その光景とは……」
その後の事はあまり覚えていない。私は自分がやった事に後悔し、頭を抱えていた。その理由を聞いても全く救われなかった。これ以上過去を知りたくないと思ってしまった。




