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今昔の果て  作者: ユーリ
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2話 目覚め

春休みが終わり、高校の入学式の日がやってきた。芽衣ちゃんと茜ちゃんとは春休みに何度か遊び、前よりうまく話せるようになった気がする。その証拠にちゃん付けで呼び合うようになったのだ。高校は別々になったけど、ちょくちょく連絡を取り合う仲になっていた。

「せっかく入った高校だけど、芽衣ちゃんと茜ちゃんと同じ高校だったら良かったな。」

前の私からするとありえない考えが浮かんでいた。ママに話したらいい事だと言っていたし、そんなものなのだなと思った。

 県外の高校に進学したので、私は入学前から学生寮で生活することになった。正直集団行動の苦手な私からするとかなり嫌だが実家から通える距離でもないし、受験する時に覚悟はしていたのでなんとか頑張ろうと思う。

「由香ちゃんおはよ!」

元気に挨拶をしてきたのは、寮の同じ部屋になった牧村詩織だ。人との接し方がうまく、私みたいに自分から話せない子とも積極的に話しをしたがる明るい人だ。見た目はギャルっぽいが悪い人では無い。前はこういう人は苦手だったけど、芽衣ちゃんと茜ちゃんと関わったことで少しずつ考えも変わっていった。

「おはよ詩織さん。朝から元気だね。」

私は眠そうに挨拶をした。

「眠そうね!でも今日は入学式よ!せっかくの晴れ舞台だし、さっさと目覚ましなよ!」

なかなか起きれない私を詩織さんは無理やり起こした。昨日夜遅くまで話しに付き合ったせいなのに。

 私たちは朝の学食を食べて部屋に戻り、着替えを済ませて学校に向かった。入学式の準備が出来ていて会場を見ると少し緊張してきたが詩織さんが色々話しててくれたおかげで気が紛れた。

 パパとママも今日入学式に来る予定で少し楽しみだ。入学の一週間前から入寮していたせいで少しホームシックになっていた。修学旅行以外で家から離れることがなかったからだ。

 入学式が始まり、新入生一人一人の名前が呼ばれ私もなるべく大きな声で返事をした。新入生代表挨拶になり、代表の生徒が壇上に上がると少し周りが騒がしくなった。その代表が私と同じ部屋の詩織さんだったからだ。見た目はほぼギャルなのでみんなが疑問に思うのも仕方ないと思う。なぜなら新入生代表は成績トップの生徒が指名されるのがこの高校の伝統だからだ。

「やっぱりあの見た目だと頭いいなんて思われないよね。」

私も最初はみんなと同じ考えだった。だけど、一週間生活した中で彼女は自分らしさを無くさずに周りに評価されようと努力しているのを見たらすごい人なんだなと思った。

 入学式が終わり、各クラスに向かった。私は詩織さんと同じクラスになった。内心嬉しかった。

「みんなよろしくね!」

詩織さんは最初こそみんなに警戒されていたけど、話せば話すほど人柄の良さをわかってもらえて、学級委員に指名までされた。私とは大違いだ。私は結局自分から話しかけることが出来ず、話しかけられてもあまり会話を盛り上げることも出来なかった。

「由香!昼飯食べよ!」

詩織さんは私が孤立しているのを気にしてか常に一緒にいてくれている。私も変わらないといけないと思っているけど、そう簡単にはこの性格は変わらないみたいだ。

「まぁ由香は由香だから焦らずに行けばいい!この高校はみんな偏差値高いし、気が合う人はいるよ!」

詩織さんの一言一言に励まされている。両親とも会い、一人仲良く出来そうな人がいると伝えたらまた泣きそうな表情で「良かったね」と言ってくれた。

 高校生活が始まり一ヶ月が経ち、私の周りに変化が起こり始めた。詩織さんと仲良くしているおかげか私に話しかけてくるクラスメイトが増えてきたのだ。

「由香さんって詩織ちゃんと仲良いよね!寮で同じ部屋なんだよね?」

今話しかけてきたのは石川里奈。テニスのスポーツ推薦で入学したスポーツ女子だ。

「同じ部屋だよ。だから良くしてもらってる。」

そう言うと里奈さんは、

「なんか意外な組み合わせだと思ってね!まぁ由香さんは学年で三位の成績みたいだし、話が合うのも当然か!」

入学してわかったことだけど、入試の成績は自己採点ではギリギリだと思ってたけど、割と順位は上だったみたいだ。少し嫌味が混ざったような事を言われてなんと言えばいいか分からず黙ってしまった。

「由香さんってあんまり会話してくれないよね。もう少しちゃんと話してよ。」

私が困っている様子を見て里奈さんは面倒だと思ったのかその場を去っていった。

「やっぱり初めて話す人とはあまり上手く話せないな。」

他のクラスメイトはぎこちなさはあるけど、話しをしてくれる。けど里奈さんは私のことが嫌いなんだろうなと思った。理由は何となくわかる。恐らく詩織さんと私が一緒にいることが気に食わないのだろう。

「由香!次体育だから着替え行こ!」

でも詩織さんはそんなこと関係ないと言わんばかりに今日も私と一緒にいてくれている。

「由香さん。ちょっといいかな?」

そう話しかけてきたのは、詩織さんと同じ学級委員の綾瀬陸斗くんだ。彼もサッカーのスポーツ推薦で中学では全国にも出場した程の実力者だ。イケメンで女子に人気があり、私なんかが近づけない存在だ。

「な、なに?」

男子とほとんど会話をしたことがない私は上手く返事が出来ない。

「今度クラスのみんなで集まって親睦会でもしようと思うんだけど、どうかな?今一人一人に声掛けてるんだ。」

詩織さんが薄らそういう話をしていたのを思い出した。集まりは苦手だと思ったが、みんなと仲良くなるチャンスだと思い承諾した。

「行きます。」

すると笑顔で「ありがと!」と言って連絡先の交換をお願いされた。初めて男子の連絡先を知った。

 体育の時間になり、今日はバスケをすることになった。正直気は進まないが授業だから仕方ない。出席日数もあるし、皆勤賞も取ってみたい。

「一緒のチームに入ろ!」

詩織さんはワクワクな表情で私を勧誘してきた。

「いいよ。」

男子と女子に別れて試合が始まった。早速詩織さんが私にパスしてきた。

「由香!いくよ!」

私はボールを受け取りドリブルをした。すると周りが驚き始めた。詩織さんとパスを回し、私がゴールを決めた。

「驚いた。由香ってバスケ経験者だったの?」

詩織さんが驚きに表情で私に問いただした。しかしは私はバスケなどした事がなく、否定した。

「パスしたのは私なんだけど、まさかこんなスムーズにゴールまで行けるなんて思わなかった!」

中学の頃は部活など入ってはいなかった私だが、別に運動神経が悪い訳ではなかった。ママが高校まで剣道をしていて全国にまで行った実力者だった。その影響か小さい頃から体力をつけるため学校から帰るとママが一緒に走ろうと毎日のように誘ってきたのだ。そのおかげで引きこもりになっても体力が落ちることは無かった。

 私がバスケができることをしり、同じクラスの女子バスケ部員から勧誘を受けた。だがもちろん断った。たまにするのはいいが、毎日やるなんてごめんだからだ。体力の使わない文芸部にでも入ろうかと思っていたところだ。せっかくママの扱きから抜け出せたのだから。

「せっかくだし、なんか運動部にでも入ってみたら?それだけ動けるならバスケ部でも通用するだろうし!」

詩織さんは私を運動部に入れたがっているように見える。別に好きなスポーツとかもないし、遠慮したい。

「私は文芸部がいいなと思ってて。」

そう言うとみんな少し残念そうになった。ここでやると言った方がクラスに馴染めたかもしれないけど、ほんとに運動は好きではなかったのだ。

「まぁ無理にするものでもないしね。やりたくなったら一緒にやろ!」

詩織さんはバスケ部所属で一番勧誘したそうにしてたけど、私が嫌がっているのを感じてこの話を収めてくれた。

 女子の試合が終わり、男子の試合が始まった途端黄色い声援が始まった。学年1番と言ってもいいイケメンの綾瀬陸斗が試合に出たからだ。彼は運動神経抜群でサッカー以外もなんでも出来るように人だった。それであの顔なら確かに人気は出そうだ。私は苦手だけど。

「うち今まで好きな人とかいなかったけど、陸斗くんいいかも」

詩織さんが私にそういった。どうやら陸斗くんの事が気になっているようだ。確かにこの二人なら見ててなんの違和感もない。陸斗くんのことを見つめる詩織さんを見て恋するってこういうのなんだなと私は不思議と興味が湧いた。

 授業が終わり、帰り支度をしていると詩織さんが陸斗くんと話している内容がたまたま聞こえてきた。どうやら今度の休みに遊ぶ約束をしたようだ。多分この調子だと部屋に戻ってきたらまた話しを聞かないといけないな。また寝不足になるだろう。すると、詩織さんが駆け寄ってきて

「由香〜今日部活ないからカフェにでも行かない?」

と誘われたので断る理由もないし、頷いた。

 詩織さんが行きたいと行ったカフェはすごくオシャレで私は場違い感が凄かった。一人では絶対に入れない場所だな。飲み物を頼み、軽く話しをしているとどうやら今度陸斗くんと遊ぶ時の下調べだったようだ。なんとなく利用された感はあったが新しい経験も出来たからまぁ良しとする。

「由香はうちと陸斗くんて合うと思う?まぁ陸斗くんがうちの事好きになるかはわかんないけどさ」

私に聞かれても恋愛経験がないからわからないが見たままを伝えた。お似合いと言ったら「良かった!」と嬉しそうに話している詩織さんを見て可愛いなと思った。寮に戻り、ご飯を食べて寝る準備をしているとまた長い恋愛話が始まってしまった。私は聞くことに専念していた。

 ある日、珍しい男子に声をかけられた。

「由香さんおはよう。」

そう挨拶してきたのは黒川勇気。一応中学の同級生だ。もちろんほとんど話したこともない。お互い暗い性格だったから。同じ高校を受けていたのも入学してから知ったくらいだ。偶然にも同じクラスになった。

「おはようございます。」

挨拶を返すと笑顔でお辞儀して行った。なんなんだろう。ほとんど話したこともないのに。すると、

「由香ちゃんおはよ〜」

次に挨拶してきた人は最近仲良くなった澤江ゆきなと斉藤優里だ。二人はオタクで私もアニメは見る方だから話しがあった。最近はこの二人と過ごすことが増えてきた。詩織さんは部活が本格的になり、朝練も増えてきたからだ。

「黒川くんに挨拶されてたけど、仲良かったっけ?」

そう聞かれたので私はほとんど話してないと言うと、

「中学から一緒っていうのは知ってたけど、話したことないんだ。なんか黒川くんの由香を見る目はちょっと変わってる気がするんだよね。」

私はなんのことかわからなかった。なにか恨みでも買っているのかなと少し不安にはなったが、優里ちゃんが多分好きなんじゃないかなと言われ、それはないと否定はしておいた。

「まぁちょっと変わってるから気をつけた方がいいと思うよ。由香ってそういうの鈍感そうだし、ちょっと心配よ」

ゆきなちゃんが心配しているのがわかったけど、私はそういうのに疎くてよく分からなかった。

「間に合ったー!」

朝練で朝礼ギリギリに詩織さんと陸斗くんが教室に駆け込んできた。「おはよ!」と私に言って席に着いた。二人が一緒に入ってきたことに少し疑問を持ったが後に理由がわかった。

「実は朝練終わったあとに少し話したんだよね〜」

とても嬉しそうな顔で私に話した。どうやらここ最近仲が進展したみたいだ。進展したら話すと言っていたからこんばんはまた長話に付き合うことになるかな。もう慣れたけど。黒川くんのことを相談しようかなと思ったけど、幸せそうにしてるのを見ていると話しにくくなった。

 日は進み、週末の休みの日になった。今日は詩織さんと陸斗くんのデートだ。朝から支度に忙しそうにしていて私も何故か叩き起された。

「どう?これで大丈夫かな?」

私に服装の事を聞かれてもよく分からないけど、今日の詩織さんはとても可愛く見えたので素直に答えた。詩織さんは安心したようにカバンを持ち、出かけて行った。

 私も今日外出届けを出し、外に出る予定があったので準備をして出かけた。学校から二時間かかる地元に列車で向かい、久しぶりに芽衣ちゃんと茜ちゃんと遊ぶ約束をしていたのだ。

「由香久しぶり!なんか雰囲気変わった?」

芽衣ちゃんは相変わらず明るい。茜ちゃんは少し大人びたな。まだ別々になって三ヶ月しか経ってないのに違う人のように見える。

「久しぶり。茜ちゃんは雰囲気変わってるね。芽衣ちゃんはあんまり変わってないかも」

三人で顔を見合せて笑った。春休みから仲良くなったとは思えないほど馴染んでいることに私は驚きを隠せない。ほんとにこの二人にあえて良かったと思う。

 前のようにショッピングモールで買い物をし、カフェで一休みしたあと、人生初のカラオケに二人が連れていってくれた。

「芽衣はよく玲央とカラオケ行ってるよね。私は正直そんなに行ったことないんだよね。由香は初めてだよね?」

意外なことに茜ちゃんはあまりカラオケには行かないタイプらしい。芽衣ちゃんは玲央くんとよく行くそうだ。ほんとに仲がいい。私は初めてだと伝えると芽衣ちゃんが「なら私に任せろ!」と胸を張って自慢げにしてた。

 初めてのカラオケに私は緊張していた。それを横目に二人は知っている曲を次々と入れていく。私は正直音楽はほとんど聞かないから流行りの曲が分からない。なので昔パパとママが良く聞いてきて歌詞を覚えている曲を歌うことにした。検索してみると30年前の曲だと知り、ちょっと恥ずかしくなった。私の番が来て歌ってみたが二人はピンと来てないようだった。

「結構古い曲だよね?何となく聞いた事あるけど、全然わかんないや」

こうなることはなんとなく想像していた。まぁでも二人が笑っているのを見てなんだかんだ楽しかった。

 カラオケを終え、外に出ようとした時一人の店員が近づいてきた。誰かと思ったら玲央くんだった。

「え、玲央ここで何してん?」

茜ちゃんが聞くと玲央くんは、

「そういえば言ってなかったな!ここでバイトしてるんよ!てか、茜久しぶりやね!」

二人が楽しそうに会話していると玲央くんがこちらを見て話しかけてきた。

「確か狩野由香ちゃんだよね?芽衣から色々聞いてるからもう覚えたよ!」

別にお前に覚えられてもと内心で思ったが顔には出さないように気をつけた。トイレに行ってた芽衣が戻ってきて玲央くんに向かっていった。

「バイトおつかれさ〜ん、しっかり働きな!」

からかいながら玲央くんの肩を叩いた。すると玲央くんがちょっと真面目な顔になり、芽衣ちゃんに質問した。

「そういえばあのこと二人に話した?」

そう質問すると芽衣ちゃんが少し焦った表情で、

「こ、このあと言うつもりだったのよ!」

その反応に私と茜ちゃんは首傾げて、なんなのか問いただしてみた。

「芽衣?なんかあるの?」

私たちで何かあるのかと詰めてみると芽衣ちゃんは観念したのか質問に答えた。

「実は二人に言おう言おうと思って言えてなかったんだけど、入学して少ししてから玲央に告られて付き合うことになったんだよね〜」

恥ずかしそうに芽衣ちゃんは答えた。すると玲央くんが、

「俺前から芽衣のことが好きで同じ高校に行けたら告ろうと思ってたんよね。結果行けたから告った。」

二人が赤面しているのを見ると私たちも照れくさくなった。

「まぁそういうことなんでよろしく。」

何をよろしくされたのか分からないけど、とりあえずおめでとうと祝福した。けど何となく心がモヤっとした。

 カラオケ店をでて、そのまま今日は実家に泊まることにした。せっかくなので二人もうちに泊まることになった。

「おかえり。」

三ヶ月ぶりに帰った我が家はとても落ち着く場所になっていた。これは引きこもりには分からない感覚だ。ママは私が帰ると知って豪華な料理を作っていた。友達が泊まりに来ると話すととても嬉しそうにしてくれた。パパも仕事から帰ってきて私を見た途端抱きついてきた。いい匂いのする詩織さんとずっと一緒にいるせいかパパを少し臭いと感じた。

 ご飯が出来上がった時、二人が家に到着した。

「お邪魔します!今日はよろしくお願いします!」

二人とも礼儀正しく挨拶をしたからママはいい子たちでよかったと耳打ちしてきた。ご飯も美味しいと沢山食べてくれて高校生活の事も色々話すことが出来た。ただ、ママは二人の顔を見たあと何か考えていたように見えたのは気のせいだったのだろうか。

 食事も終わり、みんなで私の部屋に向かった。元々引きこもっていたせいか部屋はパソコンや漫画などオタク部屋とかしていたからどう思われるか不安だったが二人とも興味津々で部屋を見回っていた。

「私この漫画読んでた!めちゃくちゃ感動したの覚えてるんだよね!」

漫画を見回ったあとはゲームを三人でやった。意外にも茜ちゃんがかなり上手でそこそこ上手いはずの私がぼろ負けしてしまった。クール系女子なのにギャップが凄かった。芽衣ちゃんはゲーセン通いしていたはずなのにあまり上手くなく、ずっと最下位だったからちょっとはぶてていた。その後、朝まで自分たちの高校の話をしたり、恋愛話をしたりと初めての女子会というものを経験した。

 楽しい時間はあっという間に過ぎ、帰る日になった。朝ごはんを食べて二人を見送った。名残惜しい気持ちになった。また会う約束はしたからそれまでの我慢だな。

「由香〜今日はいつ帰るの?」

ママにそう聞かれ、昼過ぎには帰ると伝えた。

「昨日は寝れなかったんだろうし、少しは休んど来なさいよ」

そう言って私の大好物の大学芋を作って出してくれた。久しぶりのママの大学芋は美味しすぎてペロッと食べてしまった。

「たまになら寮に送るわよ」

それを聞いて強く頷いた。

 帰る時間になり、ママが駅まで送ってくれた。パパは朝から仕事で行ってきますを言えなかったが最後では無いし、メールでいいと思った。列車に乗る前にママが何か伝えたそうにしてるように見えたけど、最後は笑顔で見送ってくれた。二人が家に来た時の一瞬の表情と何か聞きたそうにしていた感じがすごく気になったけど、なぜだか聞くことができなかった。

 寮に着き部屋で一休みしていると詩織さんが帰ってきた。どうやらデートは成功したようだ。明らかにテンションが上がった状態で帰ってきたからだ。

「たっだいま〜!由香帰ったよ〜!」

私はおかえりといい、今日のことを聞こうとしたら詩織さんから話を始めた。

「今日の陸斗くんとのデートだったんだけど、なんとうちら付き合うことになりました!」

詩織さんとても嬉しそうに話していてなんだかこっちも嬉しい気持ちになった。でも、なぜか少し寂しい気持ちがある。

「おめでとう」

心からの祝福ができなかった。

 休みが始まり、学校が始まるともう期末テストの時期になっていた。芽衣ちゃんと茜ちゃんのところも始まるという話をしていてめんどくさいと落ち込んでいた。けど私は中間テストでは学年一位を獲ることが出来なかったから今回の期末はなんとしても獲りたいとは思っていた。中間テストでは詩織ちゃんが一位だった。私は五位と入学試験より少し落ちてしまった。あの子はいつ勉強してるんだろ。部屋では基本私が勉強してる横でひたすら話しているのに。

「勉強?別にしなくても授業聞いていれば大体解けるくない?」

理屈はわかるけど、それだけで一位なんか取れるか!と内心で思った。頭の作りが違うんだなと感じた。

 試験期間が始まり、私はますます勉強に力を入れていた。今回は詩織ちゃんから一位を奪う為に必死で勉強している。ただ気になることがあり、少し気が散らされている。詩織ちゃんの帰りが遅く、帰ってきてもずっと電話をしている事だ。相手は陸斗くんだ。付き合ってからというもの勉強もせず、授業中もスマホで連絡を取り合うほど仲がいい。初めての彼氏と言っていたし、浮かれるのも仕方ないとは思うけど、このままでは試験どころの話ではなくなると思い、少し注意した。

「詩織ちゃん、勉強しなくても大丈夫なの?期末試験もうすぐだよ?」

するとムッとした表情で、

「今は勉強より初めての彼氏と毎日を楽しみたいの!別にしなくたって上位は取れるし!」

私は悪いことは言ってないと思うが、怒られたことに落ち込んだ。それ以降私は勉強に集中するために二人のことは考えないことにした。

 試験当日になり、私は気合十分で試験に望んだ。詩織ちゃんは相変わらず陸斗くんにご執心のようだ。大丈夫なのか少し心配はしたが、1位を獲るために集中し直した。

 試験が終わり、私は心が開放されたような気持ちになった。詩織ちゃんとのピリピリした関係も前と同じように戻っていた。陸斗くんのことは相変わらずのようだが。

「由香〜試験も終わったし、どっか遊び行かない?」

断る理由もないので、遊びに行くことにした。都内のカフェ巡りをし、試験で疲れた脳みそを甘いもので回復させて行った。

「そういえば今度の休みにクラスの親睦会あるんだって!なるべくみんな参加だから由香を一緒に行こ!」

そういえばそんなこと言っていたなと思い出した。勉強ばかりでそれどころではなかったからだ。部活動の関係でまだ出来てなかった親睦会を試験が終わり、落ち着いた今やろうということだそうだ。そこで詩織ちゃんと陸斗くんが交際していることを発表するそうだ。まぁクラスのみんなはほとんど気づいてはいるが、お互い人気があるせいか信じたくない人も多いみたいだ。

「わかった。私も頑張ってクラスに馴染みたいし行くよ。」

友達は増えたがやはり私の性格上壁を作っているみたいでゆきなちゃんと優里ちゃんと詩織ちゃん以外はあまり関わって来ようとしないのが現状だ。けど詩織ちゃんは、

「由香が気づいてないだけでみんな結構気にしてるよ?」

私には感じ取れないものを知っているようで励ましの言葉をかけてきた。それを聞いてもっと頑張ろうと思った。

 親睦会当日になり、詩織ちゃんと会場に向かった。オシャレな場所でクラス委員の二人が下見をして決めたようだ。あの二人のセンスがいいのが分かる。

「二人とも来てくれてありがと!」

陸斗くんが幹事をしていて受付も担当していた。働き者すぎるなと感心していた。みんなに楽しんでもらうために裏作業はほとんどやっていたらしい。

「うちが手伝おうとしても任せてって言われて逆に申し訳なかったんだよね」

彼女にいい所を見せたいといったところなのだろうか。彼氏がいた事のない私には全く分からない感覚だ。親睦会が始まり、みんな話をしたり、ご飯を食べたりと各自したいことをしている中私はゆきなちゃんと優里ちゃんとオタク話で盛り上がっていた。

「由香ちゃんあのアニメ見てたんだね!結構マニアックなところ知ってるよね。」

ゆきなちゃんは私がたまたま見ていたアニメがどうやら定番とはかけ離れたものだといい驚いた。自分が見ていたものは有名なものだと思っていたからだ。

「逆にこのアニメで話ができる人少ないから嬉しい!」

二人は共通の物を喜べて嬉しそうだった。楽しく話していると後ろから黒川くんが話しかけてきた。

「僕もそのアニメ知ってるよ。面白いよね。狩野さんは他に好きなアニメは何かある?」

突然話しかけられてびっくりした。だが無視するわけにもいかないので、当たり障りのないものを応えた。すると黒川くんは何か納得したようにその場を去っていった。

「やっぱり変わってるね黒川くん。今日も会場の隅っこでゲームしてるし。」

優里ちゃんは警戒していたのか、黒川くんの動向を見張っていたのだ。私にほんとに気をつけた方がいいと忠告してくれて、確かにと思った。いつも突然話しかけてきて一方的に会話をして終わるというのが定着していた。私の事を好きというのとは違う気もしていたが二人は絶対そうだと言った。

 親睦会も終わりに近づいてきた頃、詩織ちゃんと陸斗くんが前に出てみんなを注目させた。

「えっと、みんなに報告があります!俺と詩織は1ヶ月前から付き合っています!今後クラス委員としても二人でクラスを盛り上げていきたいのでよろしく!」

会場は盛り上がり、拍手が起きた。一部の女子からはコソコソと文句が出ていたように見えたが、特に気にしないようにしていた。みんなが注目している中、私は声をかけられた。

「ちょっと話があるんだけど。」

そう話しかけてきたのは石川里奈さんだった。

「あんたあの二人のこと知ってた?詩織とは寮が同室なら聞いてたんでしょ?」

圧があり、ちょっと怖いなと思った私は小さく頷いた。すると里奈さんが「あっそ」と納得したようで友達のところに戻って行った。そのあとすぐにゆきなちゃんと優里ちゃんが駆け寄ってきて「大丈夫?」と心配してきたので私は大丈夫なことを伝えた。二人は私が里奈さんに嫌われていることを知っていたため、心配してくれたのだ。良い友達を持ったなと思った。

 親睦会も終わり、解散となった。私は詩織ちゃんと帰ろうと思ったがどうやら陸斗くんとどこかへ行くようだ。ごめんというジェスチャーが見えたので、それならとゆきなちゃんと優里ちゃんとカラオケに行こうと誘われたので向かうことにした。カラオケが終わり、寮に帰ったが詩織ちゃんは帰ってきてなかった。寮母さんが今日は外泊届けが出ていると後で教えてくれた。

 次の日、詩織ちゃん昼頃に寮に帰ってきた。どうやら陸斗くんの家に泊まりに行ったようだ。両親とホテルに泊まったことにしているから内緒にしてと言われたので黙っておくことにした。すごく嬉しそうだと思ったが、なぜだかまたモヤっとする気持ちがあった。

「陸斗の家ってめっちゃお金持ちらしいんだよね!お手伝いさんとかいてびっくりした!」

陸斗くんの家はこの辺の地主らしく、かなり顔が広く有名みたいだ。噂には聞いていたが本当だとは思わなかった。田舎では見ない本物の金持ちだった。

「私もそれに見合うだけの女にならないとね!」

詩織ちゃんは努力しようと意気込んでいた。確かにドラマでよく見る家柄のいい人はそれ相応の相手を選ばなければならないみたいなのがあるのだろう。私達とは住む世界が違うのだ。

 週明けに期末テストの結果が張り出された。私は念願の学年一位を獲ることができた。あれだけ勉強したのだから取れないと困る。詩織ちゃんは案の定三十五位とかなり順位が下がってしまった。それを見てかなり落ち込んでいたが自分が悪いとは分かっているようだった。

「由香さすがだね!一位とかスゴすぎ!」

ゆきなちゃんは二十八位、優里ちゃんは十五位とオタクの割に順位が高い。二人は私に勉強を教わったからと言うが、それだけでは無いと私は分かっている。教える側も理解が深まってより勉強出来るし、お互い様だった。詩織ちゃんはそれを聞いて、

「流石に順位下がりすぎだよね。陸斗にも怒られちゃった。ご両親は優秀な人しか認めないみたい。」

詩織ちゃんはめちゃくちゃ落ち込んでいた。陸斗くんがそんなことで怒るとは意外だなと思った。お互いほんとに好きなんだなと思えるほど二人は気があっているように見えたからだ。やはり家のことがあるのだろうか。

「陸斗くんはうちが一位だったから付き合ってくれたのかなと思ってるんだよね。地主の息子で跡継ぎ問題もあるし、厳格な両親みたいだから付き合う相手も結婚相手も優秀じゃないと許さないんだよね。」

私は陸斗くんはそんなこと考えず、好きで付き合ってるように見えると言ったが、不安は消えなかったみたいで試験が終わったにもかかわらず勉強を始めていた。

 期末テストが終わり、体育祭の時期になった。うちのクラスでも各競技に出る人を決めるため話し合いが開かれた。体育祭委員はなんと陸斗くんと私になった。地味に運動神経のいい私が選ばれてしまった。本当はしたくなかったが詩織ちゃんが押してきたのでみんなも賛成してしまったのだ。

「ではどの競技に誰が出るか決めていきたいと思います!各自出たい競技に挙手してください!」

競技は5種目あり、リレー、バスケ、バレー、卓球、サッカーと色々ならスポーツがある。みんな競技を決めていき、大体埋まってきた。陸斗くんはサッカーとバスケ、私はバスケとバレーに体育祭委員だからと二つ強制で出ることになった。授業で下手な振りをすればよかったとしみじみ思った。競技が決まったところで体育の時間、放課後に練習が始まった。この期間は部活も休みになるので、みんな気合いが入っている。各競技で優勝したクラスには夏休みに研修旅行という名目のクラス旅行がプレゼントされるのだ。なのでみんな体育祭には一層の気合いが入るのだった。

「うちの学校めっちゃ太っ腹だよね!まぁ頑張って入れた分還元もでかいってことだね!」

すごいと思ったけど、私はそれより詩織ちゃんにイラッとしていた。なぜ私を体育祭委員に押したのか。自分がなればよかったのにと。

「ごめんって!そんなに嫌がると思ってなくてさ〜、由香は運動神経かなりいいし、優勝するならそれがベストだと思ってさ!私バスケ以外苦手だし。」

もうどうしようもないので仕方ないが今度カフェのスイーツを奢ってもらう約束をした。爆食いすると言うとほどほどにと言われたが聞くつもりはなかった。けどみんなに期待されていたのでなかなか断ることも出来ず、仕方なく引き受けることにした。

「由香ちゃん練習行こ!」

バスケは練習しなくても大丈夫と言われたのでバレーの練習に専念することにした。ゆきなちゃんと優里ちゃんも一緒でバレーをやるということで嬉しかった。放課後に毎日運動するのは正直大変だったけど、みんなでやっていくうちに私も勝ちたいという気持ちが強くなっていった。ただそれとは別で少し気になることがあった。詩織ちゃんの事だ。バスケの練習をしているのは見ているけど、寮に帰ってくるのも遅いし、朝も早く出ているので会話が前より少なくなった。どうやら陸斗くんと会っているようだ。相変わらず仲がいいなと思ったのだけど、前とは少し違った印象もある。詩織ちゃんが前より楽しくなさそうだったからだ。聞いてみようとしてもいつもはぐらかされてしまう。そんなこんなしていたらあっという間に体育祭になった。

 男子はサッカーとバスケ、女子はバスケとバレーに参加する。研修旅行の為、みんな気合いが入っている。

「由香!頑張ろうね!夏休みの研修旅行は私達のものよ!」

試合が進み、男子のサッカーとバスケは二位と六位、女子のバレーも三位で一位を獲ることは出来なかった。最後の女子バスケ、私たちは全力を出し切った。

 夏休みが始まったが、私は実家に戻らず寮で生活していた。その理由は1週間後に研修旅行があるからだ。私たちはバスケの試合で優勝し、権利を獲得したのだった。

「準備できた?由香は部活してないし、夏休み始まってからダラダラしてるんだからちょっとは準備しとかないと!」

詩織は部活動で忙しそうにしていた。毎日毎日疲れきった状態で帰ってくるのを見て大変そうだなと思っていた。私はと言うと研修旅行まで特に何も無いので、寮でゴロゴロする以外することがなかった。たまにゆきなと優里と遊んだりした。最近あの二人と詩織とは特に仲が良くなった気がする。

 研修旅行当日、私と詩織は準備を終えて集合場所のバス停に向かった。朝六時集合で早く眠い目をこすりながらバスに乗り込んだ。

「さすがに早すぎて眠すぎる。昨日も部活だったし、目的地に着くまでは爆睡だな〜」

詩織は昨日も夜まで部活をしていて朝もギリギリに起きた。私もギリギリだったけど。でも、目的地に着くまでは自由時間だし、寝てればいいと思った。

「由香!楽しみだね!一応勉強もしなきゃ行けないけど、半分以上自由時間だから色々やろうね!」

クラスの中で四人一組で別れるため、私と詩織とゆきなと優里でグループを作ることにした。バスの席順も隣が詩織で二人が後ろになったから嬉しかった。中学の修学旅行は友達も話せる人もおらず、自由時間も一人で過ごしていたため全く楽しくなった。誰かと旅行をするというのがこんなに楽しみなことは初めてだ。旅行は二泊三日で、一日目の京都での歴史の勉強と夜の自習時間と最終日のテスト以外は自由時間とされている。勉強するのもよし、観光をするのもよしと難関校だからこその研修旅行だと言える。まぁ基本遊ぶ人がほとんどだと思うけど。

「ふぁ〜〜そろそろ着きそう?」

詩織が起きてきた。私も少し前に起きてお菓子をつまんでいた。もう少しで着くと伝えるとまだ眠いからと二度寝した。

 バスは私たちが泊まるホテルに着いた。部屋に行って荷物を置き、旅行中の予定を全体集会で再度確認したあと夕方の美術館訪問まで各自自由となった。

「由香、ゆきな、優里ちょっと外でよ!」

詩織はそう言ったがそれを阻むように陸斗くんが声をかけた。

「詩織は旅行中俺と一緒に周ろうよ」

四人一組で行動ということだったが、陸斗くんは二人で周りたいと言ってきた。正直ルールを破るのは嫌だったが詩織は嬉しそうにしてたので私たちは断ることが出来なかった。

「二人ともばれないようにね!」

ゆきなが一応注意するように言った。私は四人で周れないことに残念な気持ちになったが、仕方ないと思った。

 自由時間が終わり、美術館でも歴史の勉強ということで各自作品を見てレポート書くことになった。またあの二人は別行動になったので、三人で見て周ることにした。この感じだと詩織は私たちと行動できないような気がしてならない。モヤモヤしながらもレポートを完成させ、ホテルに戻った。詩織が部屋に戻ってきたのは私たちがご飯とお風呂を済ませた後だった。どうやら二人で外で食べてきたようだった。でも、何故か分からないが少し落ち込んだ表情で帰ってきた詩織を見て話を聞こうと思ったけどすぐにベットに潜り、話せる状況じゃなく私たちはどうしたらいいか分からなかった。心配ではあったけど、こっちから無理に聞いても多分話してくれないだろうから。私たちは心配しつつもトランプやゲームとかで満足するまで遊んで疲れ果てて寝た。

 次の日、夜まで自由時間ということで京都の観光をしようと思ったけど、詩織は朝早くから出たみたいで起きた時にはもう居たなかった。陸斗くんの所行ってくると書き置きがあった。四人で周ろうと話していたのになと残念だったが、気を取り直して三人で周ることにした。

「せっかくの京都だし、三人でも楽しも!」

ゆきなは京都が初めてらしく、張り切っていた。私と優里は修学旅行できたことがあり、京都巡りもしたことがあるのでゆきなほどではなかった。昔両親と一緒に行ったとは聞いたけど何をしたのかはあまり覚えていない。まぁ小さい頃だからそんなものか。

 私たちは一日京都を観光した。お寺を回り、有名な湯豆腐や八ツ橋を食べて満喫した。昼ごはんを食べて次の観光地に向かう途中、詩織と出会った。

「由香、こんなとこで出会うとはね、今日は別々になっちゃってごめんね。」

詩織は陸斗くんのグループに呼ばれて急遽そっちに合流したみたいだ。申し訳なさそうにしているのを見て仕方ないよと私たちは答えた。陸斗くんがお土産屋から出てきて詩織を呼んだ時、少し驚いた。メンバーが男子だけだったからだ。ゆきなと優里も驚いて詩織に大丈夫か聞いたけど、素っ気なく大丈夫と言って戻って行った。

「なんかちょっと心配だよね。詩織は陸斗くんの事すごい好きだから色々従っちゃうのは分かるけど、嫌とか言えないのかな」

二人が詩織のことを心配していた。詩織が陸斗くんの事が大好きなのは見ててわかる。けど、最近会う度に疲れた表情になるのを見ているので心配になる。理由も教えてくれないから話もあまりできてはいない。

「気になるけど、私たちは私たちでしっかり楽しも!今日の夜また話を聞いてみよ!」

ゆきなの言う通りだと思い、私たちは次の観光地へ向かった。

 観光も終わり、夜の勉強会で疲れた身体をお風呂で癒した。相変わらず詩織は部屋に戻って来るのが遅い。陸斗くんのところで勉強しているようだ。戻ってくるまで待とうと思ったが、疲れきった私たちはすぐに寝てしまった。朝になり、帰る日になった。詩織も戻っており、話をしようかと思ったがテストの時間もあるので帰ってからにしようと思う。いつもと変わらない様子だったので、普段通りに接した。

 テストも終わり、私たちは帰路に着いた。学校に着き、解散して私たちも寮に戻った。かなり疲れていたのか部屋に戻って早々ベットに倒れ込むように寝た。詩織はまた陸斗くんとどこかへ行ったようでまだ戻ってきていない。

 旅行の後、私は夏休みが終わるまで実家に戻った。あれから詩織は寮に戻ってないみたいでなぜかメールも返ってこなかった。帰りのバスで陸斗くんと夜にどこかへ行くとは聞いていたが行先は言っていなかったため、居場所も分からない。

「詩織ちゃんから連絡は来ないの?喧嘩したとかじゃないの?」

ママは高校で初めての友達ということで詩織のことを気にしていた。あまり心配するなと言っても色々聞いてくる。逆に私が聞きたいくらいなのに。まぁ学校が始まれば絶対に会えると思ってはいるので今の私はそこまで気にしていなかった。

 夏休みが終わり、新学期が始まった。けれど詩織は出席しておらず、寮にも戻ってきていなかった。先生も知らないみたいで親に連絡を取ってみるという。クラスのみんなも誰一人理由を聞いておらず、心配していた。陸斗くんは普通に出席しているのに。

「詩織どうしたんだろうね。由香は何も聞いていないの?」

ゆきなが色々聞こうと私に話を聞きに来た。けど私にすら連絡をしていないことを知ると驚いた。私が言うのもなんだが詩織と一番仲が良かったと思う。みんなもそう思っていたらしく、何か聞いていないかと聞きに来た。陸斗くんに話を聞いたが

「俺も新学期が始まる四日くらい前から連絡取れないんだよね」

どうやら陸斗くんも何も分からない様だ。これは先生からの連絡を待った方がいいと思い、一旦考えないようにした。正直気になって仕方なかったが、次の期末テストに向けて勉強もしていきたかったので、授業に集中した。

 授業が終わり、帰りの会になった時、先生から詩織のことで話があると私と陸斗くんが呼ばれた。なぜこの二人かというと私は寮が同室だからで陸斗くんは学級委員だからという理由だ。

「牧村さんのことなんだがどうやら実家に戻っていたようだ。夏休みの終わりに突然帰ってきて両親もびっくりしていたらしい。理由も話さないから学校への連絡も遅くなってしまったようだ。彼女に関してなにか気になったことはあるか?」

そう聞かれたが理由は全く分からなかった。後で色々聞こうと思っていた矢先にいなくなってしまったからだ。陸斗くんも途中までは一緒にいたが最後の方は分からないと答えた。少し陸斗くんに違和感を覚えたが、その時はあまり深く考えなかった。

 私は詩織が不登校になった理由を知るために仲のいい子やバスケ部の人に話を聞いてみたけど、誰も急なことで分からないと答えた。色々聞き回っていたところ、里奈ちゃんが話しかけてきた。

「あのさ、詩織の事でちょっと話あるんだけど」

普段あまり話さないから少し怖かった。ただ詩織の事と聞き、何か知れると思って誰もいない教室まで着いて行った。

「詩織が学校に来なくなった理由だけど、もしかしたら陸斗が絡んでるかもしれない。私陸斗と中学が近くてちょくちょく噂聞いてたんだよね。家柄のこともだけど、ちょっとやばい噂も聞いた事があるんだよね」

そう言うと里奈ちゃんはその噂を詳しく話してくれた。それはあまりに酷く、ほんとかどうか怪しいもので半信半疑で話してくれているようだ。私もありえないと最初に思ったが詩織が陸斗くんと会って帰ってきた日の夜、よく落ち込んだり、塞ぎ込んだりしていたのを思い出した。里奈ちゃんは陸斗くんの噂を知っていたから詩織の事をずっときにしていたようだ。

「噂の事詩織に話そうと思ったけど、二人は上手くやれてたみたいだから余計なことしない方がいいと思って言わなかったんだよね。陸斗も変わったんだと思ってた」

里奈ちゃんは話さなかったことを後悔していた。私に絡んでたのも詩織と仲がいいと思って噂を話しておこうとしたけどなかなかタイミングが掴めなかったらしい。ずっと嫌われていると思っていたので少し安心した。

「研修旅行の後何があったか知らないけど、その期間に何かあって詩織は家に帰ったんじゃないの?何とか調べられないかな」

何とかしたいとは思ったがどうしたらいいのか分からなかった。ふとあることを思い出した。この学校にはそういうのに強い人がいたということを。私は里奈ちゃんに心当たりを当たってみるといい、任せてもらった。

 心当たりというのは、その道のプロである警察の息子が同級生にいるということだ。それは中学が同じだった黒川くんだ。彼は警察庁長官の息子でよく推理小説を一人で読んでいるのが印象的だった。実際にどうなのかは分からないけど、聞いてみる価値はあると思っていた。

「僕に話って何?」

黒川くんを呼び出して陸斗くんの噂と研修旅行のあとの話をした。

「なるほど。その期間の間に陸斗くんと何かあったんじゃないかと思って僕に調べて欲しいって感じなのかな。けど正直そういうのやった事ないし、役に立つかは分からないよ?」

少なくとも私よりは上手くできると思ったので、お願いすることにした。一ヶ月欲しいと言われたがもっとかかると思う。

 詩織が休学して一ヶ月、メールを送っても全く返ってこない日が続いていた。誰も連絡が取れず、私も部屋が一人になり寂しくなった。あれから黒川くんは色々調べてくれてたみたいでわかったことがあるということで学校終わりに里奈と三人でカフェに行くことになった。

「一応僕なりに調べて見たんだけど、正直ほんとかどうか信じられないと思う。ただこれから話すことは事実だから」

そう前置きすると何があったか詳しく話してくれた。確かに全て信じることは出来なかったけど、真剣に話す黒川くんを見て事実なんだろうなと思ってしまった。簡単に言うと詩織は利用されていて陸斗くんとその取り巻きにいいように弄ばれたらしい。親の権力をチラつかせて逃げられなくするというのが陸斗くんのやり方のようだ。学校での表の顔と違いすぎて私も里奈も困惑した。

「私が聞いてた噂より酷い気がするんだけど。てか、今まで同じような事件なかったの?今回が初めてだと思えないんだけど」

里奈がそう聞くと黒川くんが、

「そこも親が絡んでるらしいね。女絡みのことは今まで色々あったらしいけど、金とか脅しで揉み消してきたらしい」

正直田舎育ちの私からすると別世界の話だけど、目の前で聞かされている話は現実のようだ。詩織は陸斗くん達から酷い目にあい、学校に来れなくなってしまったという事実。全てを理解した時、私の中の何かが切れた音がした。友達を傷つけた奴らに怒りが込み上げてきた。

「由香大丈夫?顔怖いよ」

里奈ちゃんが心配そうに私をなだめた。どうやら私は顔にも怒りが出ていたようだ。

「この事を教師や警察に話したところで真面目に取り合ってくれないと思う。お父さんにもそれとなく話してみるけど、忙しいから協力はして貰えないかも」

親の影響で頼れる人間はかなり少ないみたいだ。警察ですら簡単に手が出せないらしい。恐らく今まで事件にならなかったのも親の力だろう。

「個人的にもう少し調べてみるよ。詩織さんが学校に来なくなったのはそれだけが原因って訳ではないかもだし」

黒川くんは引き続き協力してくれるみたいだ。

「黒川ってやる時はやるやつだったんだね!いつも隅っこで本読んでるだけだから話せないやつなのかと思ってた!」

相変わらず里奈ちゃんは口調が強い。言い方がきついから誤解されるんだな思った。

 黒川くんが調べるということでこの場は解散になった。私は一人寮に向かう中、頭の中で色々な考えが巡っていた。詩織を助けるために何ができるのか。私が何をしたら詩織は学校に来れるだろうか。そう考えながら帰っていると陸斗くんが男の子数人と女の子一人で歩きながら話しているところにでくわした。ヘラヘラと笑いながら話している陸斗くんを見た途端、私は怒りで頭がいっぱいなった。なぜ詩織が学校に来れなくなるまで追い込まれたのにあいつは普通に学校に来ているのか。不登校の原因はあいつだというのに。そう思うと私の中に普段考えつくことの無い案が浮かんできた。それはあまりにも突拍子もなく、口にすることもダメな事だと分かっていたがもうそれ以外考えられなかったのだ。

 それからの私はおかしかったと思う。自分で自分を制御出来ないと分かっていたけど、もうどうしようもなくなった。身体が動くままに行動していった。途中黒川くんの情報や里奈ちゃんが新しい噂を話してくれたけどほとんど覚えていなかった。私はそれ以外のことを考えることが出来なくなっていたからだ。不登校の原因を聞いてから一ヶ月後、陸斗くんは消息を経ち、学校に来ることは無くなった。

 

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