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第4種危険生物調査員  作者: 百日紅
11/12

11 格好いい装備とは

 衣類一式とブーツを新調し、馴染打ち刃物屋へと剣鉈の研磨を依頼し終え店を出る。日用雑貨品を取り扱う店のため、いくら鉈などの日用品を取り扱うとは言え血生臭い鉈の研磨は仕事の都合上後回しということで受け取りは夕方となってしまった。


「本格的な研ぎ直しもやるみたいで、ちょっと時間が掛かるみたいです」

「まぁどちらにしろ出発は明後日だし問題ないよ。元々急な仕事だから、気にしないで。しかし、あの剣鉈思ったよりズッシリしてたね」

「首落とすのに、重い方が楽なんですよ。まぁ、他の刀剣類使ったこと無いんですけどね」

「なるほどね。しかし、他の刀剣類は使わないんだ……」

「えぇっと。打ち刀とか恰好良いですけど、あれって対人用ですし、どちらかと言えば携帯用だったり補助用の武具って聞きましたよ。それに使わない時の保管も難しいみたいです」

「ん?そうかなぁ?人型相手なら使いやすいでしょ。それに保管だって、水の浄化魔法使えるでしょ?それなら問題なさそうだけど」


 それらしく言い訳を試みるもすぐに粗をつかれ押し黙る。


「……実は高いから、最初から選択肢から外しました……。鉈の10倍はするんですよ?使うの難しくて、下手だとすぐ曲がるか折れるって言われましたし」

「うーん?とりあえず、君の実績考えると、刃物の取り回しは熟練者の部類だと思うんだけどね。というか、主武装が鉈ってのは蛮族っぽくない?」

「そうですか?専業の人はあまり大きな装備を使ってる人居なく無いですか?」

「まぁ邪魔だからね。だけどさ、大鬼を群れごと駆除って話も聞いていたから、きっと恰好良く刀剣類を振るう様を想像したわけよ?二刀流なんて浪漫溢れるスタイルだったり、無駄に大太刀でも振るってるのかと思えば、鉈だよ?実は太刀とか使えたりしない?」

「それは身長的に無理です。僕が太刀なんて引き抜いたら曲芸みたいなもんですよ……」

「そうかぁ曲芸かぁ」

「使えても脇差か小太刀サイズですよ。打ち刀は一回触らせてもらったんですけど……腰に下げたら鞘が地面につきました」


 初めて小鬼駆除の仕事を受ける際、密かに憧れていた打ち刀を使ってみようと、知り合いに触らせてもらったことがあるが、腰に据えれば地面を引きずり、背中に背負おうものなら引き抜けず、口元を押さえる警官の兄ちゃんに連れられ先ほどの店で剣鉈を買って以来、剣鉈一本で仕事を熟してきた。もちろん今までに刃が駄目になることもあったが、強化魔法の習熟と共に刃こぼれすることも減り、特段不便を感じることもなかったため、得物を変えるなんて考えてみたこともなかった。


「そうかぁ。まぁ私の勝手な想像なんだけどね。でも、やっぱり鉈だから、ちゃんとした武具を買った方が良いと思うよ?私、個人的には脇差か小太刀なら十分使い熟せると思うんだけどね」

「小太刀かぁ……山中さんも昔なんか打ち刀みたいなの持ってましたよね?」


 クソガキ時代に、この人が打ち刀らしきものを腰に据えていたのを思い返しながら訪ねる。体格的にすぐに諦めてしまったが、当時の山中さんの出で立ちはカッコ良く、憧れ、真似をしようとした結果、笑われて剣鉈に行きついたわけであるが。


「私は脇差を使ってるね。打ち刀は重いし、私には少し長かったから学生時代からそのままだよ。……興味出てきた?」

「それは少し……」

「このあと武具店覗いてみる?途中、甲賀近くで泊まるから、そっちで見るのもアリだけど」

「うーん……」

「きゅー……」


 頭上から妙に力の無い鳴き声にはっとする。空腹感を覚え、懐中時計を見れば、既に正午を回っており、食事処も込み合う時間である。


「ってお昼回ってましたね。色々着き合わせちゃってすみません。良い時間ですけど、お昼はどうします?」

「あーこの辺りにウチの支部があるから、ちょっと報告行ってくるよ。車の段取りもしてくるから……悪いけど、何か摘まめるものを頼んでも良い?何やら屋台が出てるみたいだし、気になってたんだ」


 そう言い公園周りに並ぶ屋台を見やる。


「そう言えば、昔はやって無かったですね。8年くらい前からこの時期に夜市やるようになったんですよ。まぁ雨で時期がズレたらしいですけど、なんかお昼もやってるみたいですね。軽食ばかりでしょうけど、どうします?」

「うん。お願いしようかな。私は支社に顔出してくるから、よろしくね。合流は……」

「公園の北広場にしましょうか。たしか座るところが多かったと思うので」

「そうしようか。適当にいくつか見繕っておいて。足らなかったら、買い足せば良いだろうし」

「分かりました。うちのオハギは鼻が利くんで、美味そうなヤツ見繕っておきます」

「それじゃあ、よろしくね」


 路地裏へと入っていく山中さんを見送ると、悩ましい声を発する相棒に声を掛ける。


「じゃあ、オハギ、待たせて悪かったけど、案内頼むよ?」


 △△△

 △△△


 公園内の歩道には所せましと屋台が並び話に聞く難民キャンプのような状態になっていた。オハギの嗅覚を頼りに公園を歩くこと、十数分、すでにいくつもの串焼きなどの焼き物、と汁物を買い、両の手で持てない程度には嵩張ったため、狙ったかのように売っていた夜市限定と名したほぼ使い捨てのような品質の収納袋を購入し、次なる店へと足を向けている。

 関所で高橋さんとの話を何気に聞いていたようで、今日の相棒はうっぷんを晴らすように荒ぶり、財布に対して容赦がないダメージを与えてくる。


「キュ!キュキュキュキュ!キュー!(ハッ!この香り立つソースの香は!ヤキソバだー!)」

「りょーかい。焼きそばねー。すみません。焼きそば3つください」

「あいあい。いらっしゃい。焼きそば3つで900円ね」

「あれ?安くないですか?」

「はっはっはー。日持ちしない肉が多いだろ?昼の営業は売れ行きが悪いからな。晩の食材の余り使ってるんだ。昼からやってるところは、大抵そんなもんだぞ?」


 そう言われて竹皮に仕舞われていくヤキソバ見れば、麺の他は肉ばかりとソースも具材も真茶色である。周囲の店を見渡しても、営業している屋台は確かに日持ちが悪そうな食材をふんだんに使っているようである。


「キュキュ!」

「なるほど……気づかなかったです。ウチの子的にも僕的にも肉が多くて嬉しいですけどね」


 思い出してみれば、先ほど買った焼き物なども縁日の屋台の割には割安であったことを思い出し納得する。


「嬢ちゃん位の年齢ならそうだろうなぁ」

「いや、僕男ですから。あとお……」

「ちょっと、そこの子!」

「はい?」

「チッ……」


 支払いを済ませ、商品を受け取ろうとしたところで、急に声を掛けられ振り返ると、制服を着た警官と派手な派手な虎柄のジャケットを羽織った見知らぬ女が立っていた。


「何か御用でも?」

「はっ?」


 声を掛けられた真意が分からないため、首を傾げつつ、そう聞けば、中年の警官が眉間に皺を寄せ、何かを言う前に隣に立っていた女が口を開く。


「あなた!こんな時間に何をしてるの⁉」

「はい?お昼時なので、ご飯を買いに来たんですが?」

「なんで?それに一人で?」


 続けざまに強い口調で問いかけられ眉に皺を寄せる。


「はぁ?なんで?えっと……それ何か関係ありますか?」

「ほら!こんな口答えまでして!気持ちの悪い刺青までして、親の顔が見てみたいわ!あなたみたいな子がうろつくと困るのよ!考えなくても分かるでしょ⁉」


 一瞬何を言われたのか理解できず、静止する。影口叩かれることは、これまでもあったが、真正面から火傷の跡を気持ち悪いだと罵られたのは初めてである。空いた口が塞がらず、警官を見ると、眉間の皺は取れ、口元が歪に緩んでいる。


「(なんだコイツ⁉意味が分からん!)」


 こちらが唖然としている内に暴言を吐いた女は、調子に乗り始め、好き放題声を上げる。何が嬉しいのか、女の口元は弧を描いており、甲高い声の暴言があたりに響き周囲で買い物をしていた野次馬が集まってくる。


「こいつ、何様のつもりなん?オイ?警官のオッちゃんも何突っ立ってるんだ?ニヤニヤ笑ってないで、この女の暴言止めろよ?何なの、気狂いの女の横立って横暴させるんがあんたの仕事か?」

「気狂い⁉なんて失礼な!ちょっと!」

「はぁ……君、名前は?」


 あなまりな態度に流石に我慢できず、棒立ちでニヤつく警官に強めの口調で問い詰めれば、癇癪を起したように女は叫び警官の腕を引きこちらに指示をする。指示された警官も、どういう事か女に従い、こちらに質問を投げかけてくる。


「いやいや、先にそっちの女の確認だろ?公共の場でいきなり騒ぎたてて、急に罵倒し始めるわ、それでなんで被害受けてる側に職質始めてるの?オッチャンらも見てましたよね?返事したら、急に悪し様に罵り始めたの」


 周囲を見ませば、屋台にいたオッチャンらも渋い顔で頷いている。


「明らかに意味不明に人を侮辱し始める女が居て、それを無視……あんた、本当に警官?証明出来るもんある?知り合いに確認するから」

「はぁ?失礼にも程があるな!子供が平日の昼からこんな所に居るから補導しに……」

「ホドウ?……補導?はぁ。待って……僕成人してるんですけど?」


 警官の言葉に事情を理解し、高まった感情が一気に収まり、静かに反論した。


「はぁ?そんなすぐ分かる嘘ついて、良いからちょっと来なさい!」


 そう言い、警官(?)は腕を掴み、強引に引っぱられ、荷物を落としそうになったため、咄嗟に振り払う。


「痛っ……いやいやいや、そこは身分証明書か何かの確認でしょ?何でいきなり手をだすんですか……」

「良いからこっちに来いと言ってるだろう!」

「いや、だからぁ……身分証確認すれば良い事でしょ?何でそんな騒ぎたてるんですか?っと危ないじゃないですか」


 何故か感情的になる警官(?)に、完全に頭に上りかけた血が冷め、言い返すもヤケになったのか腕を掴もうと躍起になられ困惑する。


「子供が身分証なんて持ってるわけないだろう!良いから来い!」

「はっ?あーもう……<繋げ>あー川辺さんですか?山田です。ちょっと街中で変な警官に絡まれまして……」

「おい!勝手な真似をするな!」


 躍りかかってくる警官(仮)を避けながら、遠話をつづける。


『えっと、ひょっとして補導か何かってことかい?身分証は提示した?』

「ええ。多分ですが……碌に説明なしに拘束しようとしてきて、身分証見せようとしても無駄で……」

『はぁ?何それ?今どこ?』

「竹葉公園南側の屋台街です。変なおばさんに罵倒させてきたから、文句言ったら拘束ですよ……今も襲ってきますし、これ手を出しても大丈夫ですか?っと」

「おい!大人しくしろ」

『あぁ分かった。すぐ行くから、堪えてくれ!』

「だから……大人しくするのはお前だろ!」

「お前とはなんだ!大人を舐めるのも大概にしろ!」

「だから、何なんですか?身分証も確認せず、襲い掛かってきて!あなた本当に警察官ですか⁉」

「口答えをするな!」

「そこまで!動くな!」


 飛び掛かってくる警官に抗議し続ければ、人垣の中から、声が聞こえ数名の警官が走り寄ってくる。走り寄る警官の中に見知った顔を見つけ手を振りながら声をかける。


「山辺さん!この人とその女です」

「はぁ⁉」

「はぁ……手を出す前で良かった……。っ、おい。お前、何をしていた?」

「山辺さんっ……いえ、子供が昼間から遊び回っていると通報があったので、事情を聴こうと」

「はぁ?……身分証は確認したか?」

「いや、身分証って……そんなもの無いでしょう?」

「お前は……もう良い。そこの女性は?山田くんを罵倒させてたと聞いたが?」

「それは……言葉の綾のようなもので、彼女は……」

「いや、ヤキソバ買ってたら、急に何してるだの話しかけてきたから警戒してたら、変なスイッチ入って罵倒してきましたよ?ねぇ?」

「ああ。気持ち悪いだの、親の顔が見たいだの言ってたな」

「一緒にいた警官はニヤニヤ見てるだけだったぞ」


 屋台のオッちゃんに尋ねれば、野次馬たちも口々に同意する。


「はぁ……そこの女性、ちょっと良いですか?身分証か何かお持ちですか?」

「何よ!警察の癖に私を疑うの⁉」

「良いから、身分証を出してください」

「山辺さん、彼女はこの地区の民生委員で……」

「そうよ!その気持ち悪い子供が昼間から学舎にもいかずこんなところにいるから!」

「あーあとで聞きますので、黙ってください。ボソっ⦅こりゃあ……問題だな。役所に抗議を入れないといけない……⦆。この場は良いから、お前たちはその女とこの馬鹿を連れて詰め所に行け。この場は俺が確認しておくから」

「はっ⁉何でですか!」

「良いから、さっさと行け!」

「っ……」


 怒気を含ませた言葉に怯み、ゴネていた警官と女を追い払うと、こちらを振り向く。


「いや、すみません。お騒がせして。山田くんもごめんね……。あの警官は態度に問題有りでお目付け役が付いてたんだけど……やっぱり駄目だな」


 似たようなトラブルがあったのか、久さしぶりに合う山辺さんの顔は疲れているように見える。


「勘弁してほしいです……昼飯買いに来て罵倒されるとか意味が分からないですし……」

「坊主(?)も災難だったなぁ……えっと警察の兄ちゃん、事情聴取なら俺も説明するが……」

「ありがとうございます。でも、大丈夫です。正直、さっきの証言だけで十分ですので。ご迷惑おかけして申し訳ありません」

「そうなのかい?」

「ええ、この子は良くウチの仕事も手伝ってくれていて、半分うちの職員みたいなものなので。皆さんも、申し訳ありません。先ほどのはもう帰しましたが、何かあれば生活部の山辺までご連絡ください!あと何らかの損失が出てましたら、この場で申し出ていただければ、補填させていただきます」

「いや、大丈夫だ。元々、残り物を処理しているようなものだ。ただねぇ、縁日をする場所であぁ言うのが出入りするのはちょっとねぇ。ただでさえ人が多くて問題が起こりやすいから、あぁ言う人間はなるべく遠ざけてもらえると助かるよ」

「はい。指導不足で申し訳ない……。あの女についてもなんとか遠ざけますので」

「それは助かるけど、逆恨みされて暴れたりしないか?」

「多分大丈夫です。あの手の人間は昔よく対応しましたのでおまかせを」


 ヘコヘコと頭を下げつつも、屋台のオッちゃん達を宥める山辺さんはやはり凄いと思う。高橋さんに聞いた限りでは10年前の事件後、問題が起きないよう気を使ってくれた人の一人で、昔から何かと話す機会が多く、親身になって相談に乗ってくれる頼れる兄のような人である。


「(そう言えば、知ってる以上に世話になってたんだよな。ちゃんとお礼言っとこ)」


 話が終わるのを見て、話しかけようとしていると人垣の向こうから見知った顔が目に入る。


「ナゴミちゃん!探したよ!」

「あっ山中さん!すみません……ちょっと変なのに絡まれまして、にいち……じゃなくてお世話になってる知り合い呼んで助けてもらったところです」

「そうだったの?大丈夫だった?」


「コソッ⦅別嬪さんだな?⦆」

「ほう?コソッ⦅山田くんも中々隅に置けないなぁ⦆」


 △△△


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