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第4種危険生物調査員  作者: 百日紅
10/12

10 吉田の町にて

 書面を交えての打合せも終わり、林さんに断りを入れ組合を後にすると、組合の廊下を歩きながら装備品について確認を続ける。


「とりあえず、砂漠もとい砂丘迷彩の装備を準備しようか。調査中も基本その服装か?」

「いえ、これにポケットが魔具袋になったタイプのパーカージャケットを着込んで、腰から剣鉈下げてますね」

「ジャケットを見せて貰っても?」

「大丈夫です。えっとポケットが魔具袋になってるので、買い直すと結構行っちゃうんですけど……」


 鞄から封印済みの上着を取り出し手渡すと、山中さんはジャケットをクルクルと回しながら、確認し、こちらへ返してくる。


「うん。これなら道具屋で加工してもらえると思うから、色彩変更の属性追加で対応できると思う。よくある加工だから、魔道具屋に頼めばすぐ終わると思う」

「そうなんですか?」

「私の装備もそうしてるが、加工も半日くらいで終わると思うよ。衣類もカーキ系のヤツ買っておこう。あとそのブーツもちょっと劣化が怖いかなぁ。結構使いこんでるでしょ?他県に行くときは、現地で代替品が買えないことがあるから、買い直した方が良さそうだね。基本的に経費で落とせるから、他にも何かあったら気にせずに買っちゃおう」


 思ったよりお大臣な発言に驚く。普段、相棒の食費にヒイヒイ言いながら装備を数年は更新しない専業調査員とは感覚が違う。


「それは、えっと助かります。もしかして、剣鉈の研ぎ直しなんかも?」

「問題ないよ。鉈なんて使ってるのか。こんな急な仕事押し付けられたんだから、経費に入れてちゃおう」


 羽振りの良い言葉に、思わず見返して尋ねれば、苦笑いで返される。


「経費で落とせるって良いですね……。じゃあ、中央通りで魔道具屋行って、その後に服飾屋。靴も多分あると思うので、ついでに買ってしまって、その後刃物屋寄って、食品やらの消耗品を買いに商店街の方行きましょうか」

「それで頼む。途中ウチの支部に寄らせてくれ」

「了解です。そう言えば、移動の足はあります?」


 人と買い物に行くなど久しぶりだったので、訪ねる。最悪電車を使えばいいが、歩いて移動となるとそれなりに時間が掛かってしまう。


「いや、支部の方で受け取る予定だから、まだ無いね。ナゴミちゃんは単車使ってるんだよね?それで良いんじゃないか?」

「えぇ?人乗せたこと無いんで、ちょっと怖いですが」

「荷物積んでると思えば大丈夫さ。私が運転しても良いしね」


 そこまで話したところで、玄関を出たためおずおずと駐車場へと案内し、愛車まで辿り着く。


「一応、この単車です。二人乗り用のステップはありますけど……」

「ほーう。アレダの2代前の型か。渋いじゃないか?」


 愛車を前にし、山中さんが面白そうにつぶやく。今どうなのか知らないが、この人も学生時代に単車を乗り回していたハズだから懐かしいのだろう。


「水分解式なんで、音は五月蠅いんですけどね。運転してみます?」

「良い?じゃあ、お言葉に甘えて」


 差し出した鍵を受け取ると、山中さんは単車に跨り原動機を始動させる。どうやら調子は良いようで、始動とともに規則的な安定した稼働音が響く。


「おー。懐かしい音だな。……ほう。よし、このまま行こうか。けど案内よろしく~」


 一瞬、シート周りを確認した山中さんは満面の笑みを浮かべ、こちらを見る。どうやらハンドルを離す気はないようである。


「えっと……それじゃあ後ろ失礼しますね」


 選択肢がなさそうなため、オドオドと後席に跨ろうとしたところで、後席シートの小ささに気づき、思考が停止する。

 そこそこ旧式の車種であるアレダ39は、発売当時の道路事情の悪さから二人乗りを想定していない。そのため、前席の延長である後席は気持ち程度の大きさしか設けられておらず、2人乗りをしようものなら、運転手との密着が避けられない。こちらがモタついているのに気づいた山中さんは、ニヤニヤとこちらをみてくるため、覚悟を決めて後席を跨いだ。


「え……(こ……こんなに密着する⁉抱きついてるようなもんじゃん⁉)」

「どうした?それ行くぞ~」


 返事も待たずにハンドルを握り、単車が発進する。不意の挙動でバランスを崩しそうになり思わず山中さんの腰に手を伸ばす。


「うわ……(柔らか……え、てか何かいい匂いするんですけど⁉)」

「ん?あーごめん。久々に分解式の単車乗るから、ガタつくかも。しっかり掴まっててよー?」

「へ……大丈夫でしゅ」

「なに~?ホントに二ケツで走ったこと無いの?シートが小さめだから気にするなーそれより案内頼む」

「とっ、とりあえず大通り出たら左折で……(は……恥ずかしいわ……これ。あっこれ、前後逆だったら逆に不味かったかも……)」

「はいはい~」


 なお、妙齢の美人と言える程に整った顔つきで満面の笑みを浮かべた成人女性が、同じく中性的であるも整った顔つきの140cm程の小柄な少年(?)に抱きつかれ単車をかる様子は、弟(?)を連れた姉か、仲の良い姉妹のお出かけの瞬間、あるいは子ザルを乗せた母ザルの散歩にしか見えず、平時は奇異の視線を投げる歩行者や三輪車ドライバーの目、ついでに言えば出発時のやり取りを見ていたであろう駆除組合事務所から注がれる目は非常に生暖かいものであった。


 △△△

 △△△


「それじゃあ、また夕方に来るので、おねがいします。……意外に安く済むんですね……10万位飛ぶかと思って冷や冷やしてたんですけど」


 林さんの紹介で尋ねた魔道具屋を出る。山中さんの話通り、魔道具の改造としてはよくあるようで、時間もあまりかからず、話が進んだ。費用も思ったより安くすみ驚いている。


「あー。よくある改造だから、手段が確立されて必要資材もそれなりに多く出回ってるわけ。だから、奇抜な珍しい魔道具に比べれば値段は安くなるんだよ。収納袋だって、10年前に比べて随分安くなったんだよ?個人用の収納袋の拡張率だって相当高くなってるんだ。次は服飾屋か」

「そうなんですね。えっと衣類はそこの角曲がって表通り側に、卸の作業着屋があるので、そこ行きましょう」

「りょうかいー」


 煉瓦作りの魔道具屋を出て、小道を抜け大通りに戻ると激安!セール中!地域最安!などと胡散臭い幟がたなびく倉庫のような店へと向かう。店の中は、物であふれており、人一人が辛うじて通れる程度の通路を残し、天井近くまでいつ崩れても可笑しくないような乱雑さで衣類や靴が積まれていた。


「ここですね。すみませーん!……ここ物が多過ぎて、客じゃあ商品を探せないし取り出せないんですよ……崩れるので」

「それは見た目通りだなぁ……大丈夫なの?」

「僕はここしか使ったこと無いですけど、少なくとも不良品は当たったことないですね」

「はいはい~!あーヤマダちゃんとオハギちゃんじゃないか。どうしたんだい?今日は綺麗なお姉さんまで連れて!あ!噂の上のお姉さんかい?」


 店の奥から小柄な小母ちゃんが、狭く曲がりくねった通路を器用に抜けてくると、楽しそうに話しかけてくる。


「姉ちゃんじゃなくて、仕事の依頼人。ついでに言ったら命の恩人だよ。次の仕事が因幡の砂丘だから、そっち系の迷彩服探しに来たんだけど、ある?あとブーツも新調したいんだけど……良いのあるかな?」

「あらいやだっ!ひょっとして治療師の?。山田ちゃんの大恩人じゃない!もうー聞いてたよりずっと綺麗な子だし!この子……今でこそいい子だけど、昔は顔だけ可愛らしいクソガキだったでしょ?私も何度ぶん殴ったことか……。そんなクソガキでも良い所はあるのよ?私が……」

「えーと、山中です。えっと……ははは……」

「小母ちゃん……ゴメンけど、今日は買い出しが忙しくてあまり時間が無いんだよ……商品見繕ってもらって良い?」


 少し残念な顔をした小母ちゃんは、山中さんへ一言謝ると、注文を聞くなり服の壁の向こうに消えていった。


「すみません。子供の時からお世話になってるもので……完全に身内扱いあれてるんですよね……」

「そうかー。ナゴミちゃんはヤンチャだった可愛い末娘みたいな扱いなわけかぁ」

「いや、カズです。あと僕男ですから!」

「あーナゴミちゃんかい。良いわねソレ!あたしもこれからはナゴミちゃんで行こうかしら」


 山中さんにからかわれつつ、話をしていると、いつの間にか戻ってきたのか、既にいくつかの衣類を携えていた。


「小母ちゃん……相変わらず早い。んでもって僕の名前はカズですから!」

「ハイハイ。とりあえず、服の方はいくつか見つかったんだけど、ブーツはちょっと待って頂戴。試着してる間に探してくるからね」


 衣類の束を渡され、小母ちゃんが迷路の先に消えるのを見送りると溜息をつく。手渡された衣類は複数セット見繕ってあるようでで、思ったより数が多い。


「とりあえず、試着してみようか。あ、これかなり上等な生地だよ?」

「あ、やっぱそうなんですか?体格変わらないのであまり買い替えないんですけど、ヤケに丈夫なんですよね」

「うーん。お母さんに服を選んでもらってると言えばあれだけど、プロが選んでくれてると思えば……」

「え“……何か不名誉な感じが」

「あー。いや、店員が選んだと言えば……いや、カズくん……。メーカーとか生地、あとは服のタイプとかちゃんと覚えようか。急に入用になって他所で買うこともあるしね……装備は命に関わるんだから、これも勉強と思って……ね?」

「なんか本気で心配されてません⁉」

「地元で愛されてると言えば聞こえは良いんだけけど……自分で選べないままなのは、ちょっと甘やかされ過ぎかな……?」

「あぁその……。この体格なので……どうしても店員さん任せになっちゃうんですよね」

「まぁ、良いさ。とにかくあの小母ちゃんの選別眼は確かだのようだし、試着しよう?」

「そうですね……。あ、オハギ預かって下さい」


 オハギを預け、試着室に入るとカーキ色の細身のパンツを手に取る。個人的にはゆったりとしたパンツが楽で良いのだが、普段着、調査着問わず、体格の関係で紳士用の衣類はサイズが合わず、必然的に子供用か女人用の衣類しか選択肢がない。


「(だから事情知っててお任せ出来るここは便利なんだけどな……ってあれ?)」


 パンツを履いていて、裾丈が調整無しで丁度いい事に気付く。その場でしゃがんでみるも踝が露出するかしないか程度の長さで裾上げをしなくともすぐに使用できそうである。


「んん?」

「どうかした?」

「いえ、なんか裾丈までピッタリで……うわっ急に開けないでくださいよ……」

「女子じゃないんだから、別に良いだろう?……ふむ……ちょっと失礼……あー」

「ちょっ……」


 不意に腰元を掴まれ、後ろを向かされると、何やら腰元のタグやら裾裏を見られる。不意打ちで抵抗も出来ず成すがままになっていると、納得したのか解放されポンポンと頭を叩かれる。


「なんですか、一体……」

「いや、何でもない。コレ、思ったより良い服だ。乱雑に扱っても数年は持つよ。最近話題になり始めたとこのヤツだね。買いだよ。パンツをもう1着、出来れば2着欲しいとこだな。宿で洗濯は頼めるけど、洗い変えと予備が欲しい。シャツは、ジャケットの色彩変更で何とかなると思うけど、速乾性のインナーが……あるね……。流石……。サイズだけ確認したらそれも数着行っちゃおう」

「なんか大判振る舞いさせちゃって、申し訳なくなってきますね……」

「備えの無い三川の人間を因幡の砂丘に放り込むんだ。日取りの余裕もないわけだから、装備だけは至急したことにしないと不味いからね」

「山田ちゃん、ブーツとついでに肌着も持ってきたよ!ハイカットだけど、これだけだと砂が入るからタイツもね」

「タイツ?」

「知らないのかい?これだよ?」


 ステテコの類を想像し、首を傾げると、いくつか固定ベルトのついた筒状の皮布を手渡される。


「(想像と違う)……?」

「ゲーターとかサンドガードとかも言うんだけど、踝ぐらいから膝元までかぶせる砂除けだよ。積雪が酷い時とかも似たようなものを使うだろ?確かにこれもあった方がいいね」

「そう言えば、合同調査で見たことありますね。そういう装備だったんですね……。小母ちゃん!パンツだけど、同じヤツ、あと2本あるかな?色はこれで大丈夫みたい」


 店の奥へ声を張ると、すぐに返事が返ってくる。


「ちょっと待ってなよ?すぐに準備するから」

「よろしく~。……これなら昼前に刃物屋まで回れそうですね」

「はぁ。ちなみにそのパンツは、備前の工房が作ってるものね。レディースサイズだけど、何気に私より腰回りが細いなぁこの子は」

「えー?流石にそれはしょうがないですよ。基本、危険領域で跳ね回ってるんですから、コンサルだとそこまで現場に出ないでしょう?」

「だから太ったとでも?……これでも結構、現場主義なんだけど。はぁ……可愛がってやったた弟分が10年で随分と生意気になったじゃないか……お姉さんは悲しいよ」

「いやいや、太ってなんてないですよウチの一番上の姉貴なんて下っ腹が……」


 △△△


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