ep.8 父親とその娘
何だこの茶番劇……と、思いつつ読んで下さる方々に感謝。
「……ここが『ジュール・リオ・フィールド』の最初の『ダンジョン』――地底湖『キュール』へと続く鍾乳洞……か。それにしても便利だな♪ あの謎の『魔法陣』」
『ダンジョン』への移動は一瞬だった。何せ俺達は転移型の『魔法陣』を使って、そこから転送されて来たのだから。
「……既に踏破した『ダンジョン』には転移型『魔法陣』が出現する仕掛けになってる。ここの地図情報も多くの聖徒達が情報を共有してる。『情報屋』から買う手段もあるけど、それは殆どが最初にここを訪れた新人さんだけ……よ」
少し遠くを見ながら杉本久楽々は何故か自嘲気味に呟く。
「その一番最初の新人ってさっき話した……」
『この『ジュール・リオ・フィールド』の地を一番最初に踏んだ第11期生の事か?』
杜鵑源とその頭に肩車してる『ゲン』は脳筋なりに気を遣って聞いた。杉本久楽々は困った顔をして頷く。
「……最初は何もない。『情報屋』すらいない。でも、徐々に『埼玉県立ロマン学園』の入学者は増えて……今こうして私達は何事もなく『ダンジョン』にやって来れる。何の苦労もなく……ね。それは……最初のプレイヤー達が勇気を出して、臆する事無くこの『ダンジョン』を隅から隅まで踏破したから。第11期生に感謝しなくちゃ……ね」
地底湖『キュール』へと続く鍾乳洞。ここではロープレにあるあるの低位魔物が湧いて出てくる。思っていたよりも、エンカウント率が高い。杉本久楽々が取説してくれた通りに素手で立ち向かう。
俺――楠郭公と仮想体『カッコー』。
脳筋(実はインテリ?)――杜鵑源と仮想体『ゲン』。
頭脳派眼鏡ちゃん(もしかして脳筋)――坂本璃々亜と仮想体『リリー』。
最初の内は何もない所ですっ転んだり、敵の意外な行動にビビったりしたが、慣れてくると案外戦闘は面白いもので、熟していくと何だか癖になりそうだ。
時折出現するこの洞窟内での強敵コボルトは狼に似た顔に二足歩行。手にはショートソードを装備していたのだが、敵が一体ならば三人+仮想体でリンチしてぶちのめす。
敵のコボルトが数体に及んだら一体だけに俺達は集中して、残りは俺達の師匠。杉本久楽々と仮想体『クラン』のご登場だ。
正直、これだけ魔物を狩猟していると敵が可愛そうに思えてくる。だけど着実に経験値を重ねた俺達はそいつ等を糧にして強くなっているのも事実だ。
つまり、杉本久楽々の超初心者でも安全安心お得な『ダンジョン』魔物狩りツアーの読みは正しかった。
後はもういつ【権能】を発揮出来るのか? が、味噌なのだが……事件は唐突にやって来る。
俺達3人組(6人組)は念には念を入れて、安全対策として『セーブポイント』のすぐ近くで雑魚敵相手に奮闘していたのだが……戦闘に慣れてきたせいか、レベル上げもこのまま何事もなく終わるだろうと油断していた。
「え? ……嘘。冗談でしょ」
『久楽々。強大なこの力の源、奴ですよ……!』
……その時だ。俺達が相手していた魔物達が何かを察知して、足早と逃げ出す。あれ? どうしちゃったの? と、思う間もなく俺達3人組(6人組)もこのダンジョン。地底湖『キュール』へと続く鍾乳洞の中でとんでもなくどデカイオーラを感知した。
鍾乳洞の入り組んだ洞窟内。
『セーブポイント』付近に立っていた杉本久楽々がいきなり自身最強の武器『開拓者』を持参武器の一覧データベースから迷う事無く、出現させた。警戒心を露わにする。
「あり得ない。でも……奴ね」
……おいおい、何だコレ? ここはスライムとゴブリンくらいしかいない絶好の狩り場だってさっき話してたよな?
正直俺は初めての戦闘で浮かれていた。脳内は夏休みの夏祭り状態。
自分でも無謀だと分かってる。それでも……。
この凶悪な敵(?)にも立ち向かう……闘志むき出し状態です、はい。
杉本久楽々と仮想体『クラン』が言ってた――『奴』とは一体何者なのか?
「皆……。早く私の後ろに退いて。奴の気配を感じたでしょう? 予定外の事態発生よ」
『皆さん! 主の言う通りに従って! 尋常じゃない気配が地底湖『キュール』の奥地に出現しました! その敵が……近付いて来ます!』
珍しく杉本久楽々が焦る。彼女の仮想体『クラン』も同様。俺達は素直にその誘導に従い、最前線に立つ久楽々と仮想体『クラン』の背後に控え、陣取った。
どういう事だ? まあ、俺達新人が敵わないのは当然かもしれない……が、杉本久楽々はこれまでのプレイヤー達の中でも熟練の強者……
――あれ? 所で杉本久楽々って、『埼玉県立ロマン学園』の第何期生なんだ?――
そんな俺の何でもない脳裏に過ぎった思考を余所にそいつは現れた。
ブラックアウトで視界が遮断される。何だ停電か?
いや、鍾乳洞が暗いとはいえ人工的な光源は海底を這うロイター通信網の様に通っている訳が無い。
目の前にどす黒く巨大な『穴』が俺達の視界を遮ったのだ……!
巨大な『穴』から徐々に姿を現したそいつ。その正体は……何と白いスーツを着た初老の男性。
「はぁ!? つーか、誰だよあんた……!」
「イケてるオヤジ? イケオジ!」
「……全くもう! これはどういう事かしら?」
俺達が三者三様に反応した次の瞬間。
ドックン……! と、心臓が跳ね上がる感覚を受けた。何だよコレ。つーか、ヤバい! 理屈は分からんが息が苦しくなってきた。
「杜鵑源、坂本璃々亜……それに楠郭公! 大丈夫?」
初めて目にする杉本久楽々の焦りの表情。
「……チッ! んだよコレはよ!」
「心臓に杭でも刺された気分……よ。もしかして丑の刻参り?」
「あいつ……何者だ? 久楽々! 掌に小さくて赤い何かが見えるぞ……」
フルネームで呼ばれた俺達は息も絶え絶え。そのオッサン(イケオジ?)は右手をさり気なく胸元に上げてその掌には俺が示した通り。3つの赤く照り輝く小さな宝石の様な物体がくるくると回っていた。
「久楽々よ。お前の布教活動も今日この限りで終わりだ」
「……何を言ってるのかしら? 私の大切な仲間に手を出すつもり?」
「仲間? そろそろ目を覚ませ我が愛しき娘よ。お前が取り組んできた新人育成プログラム。それはお前の成長をも止める弊害になるのだよ?」
愛しき娘? 俺達が原因で……久楽々の成長が止まる? 何の話だ?
「それは承知の上。この子達は私を超える存在になる。そしていずれ……あなたをも超えるわよ?」
白スーツの男は喉の奥で苦笑。やがて、まるであり得ないとでも言いたげな乾いた嘲笑に変化。
「唯一の友達だったクアンを覚えているか? 彼女は自分の役割を見つけた。もちろんこのゲーム内において。『情報屋』としての生き方を選んだ彼女は正しく……そして何よりも賢い」
『情報屋』クアン? そう言えば……あのアルアルチャイナっ娘も言ってたな。杉本久楽々は友達だと。
「お前は革命児。この世界での救世主。そして勇者であるジャンヌダルク。そうプログラムされている」
「……目を覚ますのはそちらの方じゃなくて? 元学園の理事長。あなたは私の片棒を担いだ上に、その立場を利用してこのゲーム世界で自らを全知全能の絶対唯一神だと勘違いし……ラスボスとして定位置に付いた。違う?」
「実の血の繋がった娘を救うのに手段を選ばないのは至極当然な行為だと思うが?」
「なら、どうして……」
二人のやり取りを傍らで聞いていて、唯一判明した真実。それは白スーツの男と杉本久楽々は親子だという事。更に――
「あ……あんたが『埼玉県立ロマン学園』を更地にして手放した理事長……なのか?」
未だに掌の上に3つの宝石をくるくる回しながら、白スーツの久楽々の父親。初老の男はニコリと歪んだ笑みを作り、
「ほ~う……? まだ喋れる余力が残されているとはな。その通りだ。そして現在、私はこのゲーム世界において絶対唯一神に君臨した。君を含めた3人の新人。3人の仮想体。残念だが君達の成長は今ここで摘み取らせて貰う」
何だこの茶番劇……と、思いつつ読了してくれた方々に感謝。
もちろんブクマ登録してくれた方、ありがとうございます!




