ep.7 権能
少し長いのでご容赦くださいませ。
それは聖徒会長の『龍聖』事、鐵能戸だけが僅かな音を探知して気付いた。鐵能戸は自身の【権能】の中の一つである『六式・絶対音感』と言うものを備えている。
その効果は自身の五体もしくは仮想体が触れている場所。そのあらゆる物体から『音』だけを拾い上げる事が出来ると言うものだ。
本来、【権能】を行使出来るようになるには『ジュール・リオ・フィールド』の各地にいるボスを倒す事によって試される。
【火】の精霊サラマンドラ、【水】の精霊ウンディーネ、【土】の精霊ノーム、【風】の精霊シルフを倒してからプレイヤーの『魂』に組み込まれた『回路』の制御システムが解除される。
その仕組みは画期的な進化であり、主に下記の通りだ。
精霊サラマンドラを倒した際には――『火属性』。
精霊ウンディーネを倒した際には――『水属性』。
精霊ノームを倒した際には――『土属性』。
精霊シルフを倒した際には――『風属性』。
各属性の『属性玉』が『魂』に繋がる『回路』に作用して制御システムの『鍵』となりその己自身に宿りし封印された力が解放される。
『火』『水』『土』『風』の四天王。彼等彼女等ボス格の敵は討伐すると、必然的に仲間になる。
更には『埼玉県立ロマン学園』の聖徒として生まれ変わる。
この守護精霊達の力は『魂』に呼応して、自身の成長と共に自動的に強力になる。そして『回路』の制御システムが解放された事により、新たな【権能】に目覚めるのだ。例えば『火』の精霊、サラマンドラを討伐した際には『火』属性の【権能】を巧みに熟す事が可能となる。
守護精霊の恩恵はその『火』『水』『土』『風』のボスを討伐した者にだけ最初は宿る。
そしてその後。データベース間の『フレンド登録』等を通じて、全てのプレイヤーの【権能】……その出力装置の基盤である『回路』に主従関係として現れる。
但し、これは一例に過ぎない。実質四天王のボスを討伐すれば新たな武器・防具・アイテム等がアンロックされてその力に触発されし、新たなプレイヤーが出現するのも時間の問題。
つまり、『火』『水』『土』『風』のボスを討伐した瞬間に、ウイルスの様に広がると考えて良い。
守護精霊の恩恵。その主従関係とは御恩と奉公――これを『因』と『縁』と呼び、『因』は『魂』に組み込まれた『回路』の力の発露。『縁』はそれを繋ぐ開拓を表す。
『因』と『縁』。この主従関係、御恩と奉公は何も守護精霊の恩恵のみに当てはまる訳ではない。
最初からこの世界。VRMMORPG【Sacred Agent ~Living area~】のプレイヤー達全員の『回路』。或いは『魂』に眠っている。
極端な話。『属性玉』が無くても【権能】は使役出来る。鐵能戸の『六式・絶対音感』や債鬼愛の『傀儡子』の様に、様々な経験値を得る事によってそれは可能なのだ。何せ、ここには【権能】を目覚めさせる四天王以外にも敵は数えきれないほどいるのだから。
その手の敵。或いはボス。魔物や他者である敵対者から経験値を蓄積し、外側から内側へインプットしてアウトプットする。
但し、四天王の『属性玉』を手に入れなければ物語の主軸。メインストーリーであるゲームクリアには至らない。
どうしてもこのゲーム世界から元の世界に戻りたければ……四天王を倒し、『属性玉』を手に入れて、ラスボスとの最終決戦に挑むのがどうやらVRMMORPG【Sacred Agent ~Living area~】の筋書き。物語の様だ。
『敵……ではない。恐らく、あの厄介者達だ』
今回は鐵能戸の仮想体。『クロノ』が『音』を拾い上げた。
やれやれ……と、思わず頭を左右に振って呆れた様に警戒を解いた鐵能戸。
「『屍人』。あの得体の知れない連中は本当に神出鬼没だな。まあ、ここは『ジュール・リオ・フィールド』の戦闘最前線。この『ダンジョン』に何か良い情報が落ちていないか奴等に聞くのもありだな♪」
*
『ジュール・リオ・フィールド』――ここでは『埼玉県立ロマン学園』を主要開拓地として、東西南北に様々なダンジョンが広がっている。ここでの『東』『西』『南』『北』は元々帝釈天の配下で須弥山(世界の中心にある山)を守護すべく四天王が立ち塞がる。
その為か、各地の名称も古風なものになっている。
増長天(南)には【火】の精霊サラマンドラ
多聞天(北)には【水】の精霊ウンディーネ
広目天(西)には【土】の精霊ノーム
持国天(東)には【風】の精霊シルフ
「うん……。それは分かった……。でもさ、一つだけ質問良いか?」
「あ~……。北に位置する『多聞天』はまたの名を『毘沙門天』って言ってね? ……その意味の由来は――」
「違う! 俺が聞きたいのはお前も気付いてるだろう杉本久楽々! 何で『ジュール・リオ・フィールド』が俺達の住んでいる埼玉県南部。見沼区や岩槻市、東浦和そして大宮の全景と殆ど一緒。酷似してるんだ? ってー事と~」
「……何? 似てるのは認めるけれど……ここ『ジュール・リオ・フィールド』の彼方此方に『ダンジョン』や村・町・都市は各地に点在してるわよ」
俺はこれ以上なく吟遊詩人が唸る様に語らせて頂いた。『埼玉県立ロマン学園』があった場所。あの更地に開拓途上とは言え、学園。『埼玉県立ロマン学園』の校舎がそのまま平然と何事もなく平和に建っているのか? それを聞かずにこの冒険を始めるのはいくら何でも無理だ。
「……平和に建っている? ちょっとそこには異論があるわね。まあ、新人さんだから現状を把握出来てないのは認めるけれど」
因みに俺達――楠郭公、杉本久楽々、杜鵑源、坂本璃々亜が今いる場所は……。『埼玉県立ロマン学園』の屋上だ。
周囲には鉄の金網。落下防止用の柵があった筈だが……なぜかこの『埼玉県立ロマン学園』にはその危険防止用の金網が張られていない。ここの理事長(創設者)は頭ラりってるんじゃないか? それとも建築基準法を無視した経費削減でどこかミスった(手抜き工事した)造りになってるとか? 事件じゃん! 頭ラりってるんじゃないか?
まあ、吹き抜ける風は4月のそれ。心地良いのは認めるけれど、ここから落ちたらゲームオーバーだ。
「こいつはどういう事か説明してくれ。杉本久楽々」
『久楽々! 俺も知りたいな!』
杜鵑源が俺の質問を掻っ攫って行った。奴の仮想体『ゲン』も俺の質問を搔っ攫って行った。
「結論から言うと……ここは『埼玉県立ロマン学園』じゃないの。ここは所謂『ジュール・リオ・フィールド』の開拓地の一部。現実の世界と酷似しているけれど……ちょうどこの位置にかつて『埼玉県立ロマン学園』が建っていたのは知ってるわよね。そしてここに毎年、送り込まれるのは決まってる」
何だと? これだけ元の世界に酷似しているのに更地だった『埼玉県立ロマン学園』……ではない?
「もしかして、例の『鍵』を使ってここにやって来た新たな『埼玉県立ロマン学園』の新入生。第20期生である生徒を巻き込んだVRMMORPG【Sacred Agent ~Living area~】のプレイヤー達が開拓したのが……」
坂本璃々亜が口元に手を当てながらキラリと眼鏡を光らせた。
「そう。『聖』と書いて『聖徒』。元々『埼玉県立ロマン学園』に進学希望していた聖徒達がここに自らの願望を体現すべく……『埼玉県立ロマン学園』と言う名の防衛施設を開拓している……。ここを基地・拠点として。聖徒達の生活水準はある程度保障される。最も大事なのは東西南北各エリアにいるボスを撃破する事。幸いにも聖徒達の最終目的はゲームクリアで一致しているから……ここは最後の砦。皆で開拓するのは必然」
『衣』『食』『住』の共有。なるほど。インフラの整備・拡張は大事だ。ここにいるプレイヤー達を『聖徒』と呼んでいるのも、そう言う理由があるのか。
『なるほどね~♪ だから、何事もなく平和に建っているとは言えないのか!』
そんなこんながありーの俺の発言は踏襲され、理解を得た。特に俺の仮想体『カッコー』が。
『具体的に言うと……それは第11期生が最初なの』
何気なくそう呟いたのは杉本久楽々の仮想体。『クラン』だ。
『第11期生……? それはどういう事なの? クランちゃん』
それに応じるのは坂本璃々亜の仮想体。『リリー』である。
第11期生と言えば……俺達20期生とは9年間の隔たりがある。現実じゃ既に成人してる大人だ。
『ちょうどかつての『埼玉県立ロマン学園』の理事長が自分の学園を買収して、ゲーム会社『マギコス・キクロス』を設立した当初。最後に在籍していた学生は第10期生。そして――』
「――新しく『埼玉県立ロマン学園』に進学を決めた新入生が第11期生だったの」
「その第11期生がこのVRMMORPG【Sacred Agent ~Living area~】の最初の生贄に捧げられたのか。今の俺達みたいに。……んで? その不幸な高校生の俺達4人組はこれからどこへ向かうんだ?」
「まずは、経験値とお金稼ぎ。近場の『ダンジョン』に侵入してそこで出現した敵とエンカウントバトル……よ」
「ほ~う? 腕が鳴るぜ!」
杜鵑源がやっとこさ脳筋を発揮。
「……大丈夫なの? 私達、武器も防具もアイテムさえも持っていない。それに……戦闘知識やその手の技術。護身術すら真面に覚えていない。元の世界では唯の一般人よ」
『璃々亜の言う通り。何も持たずに『ダンジョン』に向かうのは危険ですわ!』
坂本璃々亜の相方である『リリー』が危険信号を発信! それは良いのだが、相手が悪い。何せ杉本久楽々には何か得体の知れない企みがある。
「大丈夫……よ。向かう先はロープレの『ロ』の字も知らない超初心者でも安心安全お得な『ダンジョン』なの。中で出現する魔物は主にスライム、ゴブリンがメイン。その中で低確率で出現する強力な魔物もコボルト程度。危ないと思ったら……私が瞬殺してあげるし……『セーブポイント』も等間隔で配置されているの」
それから……と、井戸から這い出た女に似た女。杉本久楽々はボソボソ呟く。
「……それにね? 【権能】を発揮&習得するには、それなりに自分を追い込まなければいけないの。『回路』に【権能】を本気で認識させたいなら……序盤の敵に素手で立ち向かう勇気が必要なのよ」
任せなさい! とでも言いたげに杉本久楽々は珍しくドヤ顔。
いや、お前の『鍵』さえなけりゃ今の所俺達は平和な中卒ライフを満喫していたんだぜ……とはさすがに言えないか。
『仕方ない。まあ、この『カッコー』様がいれば何も問題はないだろうから、皆。大船に乗ったつもりでいてくれよな!』
ハイ、お疲れ様です。残念ながら死亡フラグが今、立ちました~♪ 何で俺の仮想体『カッコー』はこんなにもクソ生意気な自信家なんだ? 確か、仮想体の性質は『親』である主から受け継ぐとか聞いた様な……ってー事は俺じゃん!
俺達は杉本久楽々の言葉に従い、その謎の『ダンジョン』へと向かう事になった。
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