ep.6 聖徒会
何だか話が迷路の様になってきました。
――この世界では一時的にあなたの『魂』を強制転換して作成された仮想体に宿らせます――
――……主の『魂』を『回路』に統合中。……登録されました――
「おい~!!!! あれって演出じゃなくてガチだったの?」
「マジかよ……オイ」
「はぁ~。まあ、しょうがないわね。実際、私達はゲーム世界に取り込まれたんだから……」
俺。楠郭公、脳筋(もどき?)の杜鵑源、インテリぶってる眼鏡ちゃん。坂本璃々亜は三者三様の反応を見せる。
「そ、それでさ! その『ある人物』ってーのは……どなた様ですか?」
『カッコー』と『ゲン』、『リリー』に『クラン』……俺達の『魂』を一時的にしろ仮想体に強制転換し預けた学園の元理事長。そいつの片棒を担いだ『ある人物』の名前くらい聞いておかねば、このVRMMORPG【Sacred Agent ~Living area~】で死んでも死にきれねえ!
「消えた『埼玉県立ロマン学園』……その元凶。さっき言ったとある生徒よ。でも、その人の力を借りなければ『埼玉県立ロマン学園』を復活させる事は叶わない」
良い……? 私達は既に檻に閉じ込められた『鼠』なの。だからこそ皆にはこのVRMMORPG【Sacred Agent ~Living area~】をクリアする為に戦闘のイロハを学んで欲しい。
杉本久楽々は力強くそう言った。
「……そう言う事なら仕方ねえ。戦闘のイロハを承ろうじゃねえか」
俺は渋々了承した。杜鵑源も坂本璃々亜も文句はない様だ。
「……良かった。正直、戦力が不足していて困ってた所なの。良い? こっちの世界で戦うのは主人格である『親』の私達自身と、その意思を受け継ぐ『子』であるそれぞれの仮想体なの」
うん。まあ、俺達の『魂』をこのゲームクリアまで託された訳だからねぇ~? まさか俺達が必死こいて戦っている最中、この仮想体どもが仲良く鬼ごっこしているなんて事ある訳ないっしょ。
「『子』は『親』の血を受け継いでいる。この場合は『魂』の接続。連鎖に連なる訳だけど、主人格の『親』が経験した云わば『経験値』は『子』である仮想体にも影響を与える。特に戦闘では【権能】という独自のバトルシステムが働いて、仮想体も姿形を変えていく。私の『クラン』ちゃんみたいに……」
へぇ~。だから俺達の仮想体とは違って杉本久楽々の仮想体『クラン』だけ人に近い姿をしてるのか。
『……てへへ!』と、杉本久楽々の仮想体『クラン』は照れた様にはにかんだ。う~ん……可愛い。
「そこで……まずここにいる皆には戦闘地帯へと出向いて貰うわ。比較的弱い敵が出現して、簡単にエンカウントバトルを行える場所に」
へ? それってもしかして……。俺達は自分の仮想体も含め目を丸くしていた。
対する杉本久楽々さんは仮想体の『クラン』を紹介した時から最初に腕を組んだまま言う。
仮想体の『クラン』も同じ格好で腕を組む。
「『ジュール・リオ・フィールド』にある『ダンジョン』よ」
*
「ほ~う? あの杉本久楽々が新しい客を招集してパーティーメンバーに加えたか。……まあ、同じ目的同士。それは吉報と受け取っても良いな」
場所は『ジュール・リオ・フィールド』。『ダンジョン』の最前線戦域。『埼玉県立ロマン学園』の学生服に身を包み、腰には帯紐が無いにも関わらず野太刀を引っ提げている。その出で立ち、雰囲気は正に硬派な男。
文武両道を地で行き、燃え滾る野心がその眼に窺える……そんな男だ。
彼は『埼玉県立ロマン学園』聖徒会会長の鐵能戸。通り名は『龍』の『聖』と書いて『龍聖』。
自分の身長ほどもある野太刀『八百万之守』を取り回し、この男に剣を抜かれた瞬間戦闘が終わっていた――と言う伝説が、開拓途上の『埼玉県立ロマン学園』に罷り通っている強者だ。
「そうデスね~♪ デスが今更余計な新人さんを加えた所で足手纏いになるだけではないでしょうか兄様? まだ、ボク等はここ『ジュール・リオ・フィールド』にある各地。【火】の精霊サラマンドラ、【水】の精霊ウンディーネ、【土】の精霊ノーム、【風】の精霊シルフのボス攻略すら真面に出来ていない有り様。あの忌々しい女。杉本久楽々は何を企んでるのやら……」
そんな聖徒会会長。鐵能戸の傍らにはいつもこのボクっ娘が付き纏っているのも、最早『埼玉県立ロマン学園』の常識になっていた。
このボクっ娘の名は債鬼愛。聖徒会会計を担当している、何かと文句を付けたがる皮肉屋。それでいて、聖徒会会長の鐵能戸にべた惚れないつも目の下にクマを作っている怪し気な女聖徒だ。会長鐵能戸に近付く輩は女は当然の事……男にだって噛み付く。ある意味この学園において一番危険で厄介な人物だ。
特に杉本久楽々とコイツ、債鬼愛は犬猿の仲として知られている。
債鬼愛の【権能】の一つ。『傀儡子』は自分の仮想体だけでなく、敵味方問わずある条件を満たせば他者の仮想体も自分の意のままに操れる。このVRMMORPG【Sacred Agent ~Living area~】の新人にとっては恐怖の存在。
因みに『傀儡子』の発動条件は未だ本人以外誰も知らない。それを知った所でパンドラの箱。債鬼愛にバレれば……文字通り操り人形と化す。
そう言った理由もあり、例え誰か知っていたとしても絶対に口を割らない。それを債鬼愛本人も自覚しているのだ。
そんな最強のボクっ娘。聖徒会会計債鬼愛……なのだが。
なぜか杉本久楽々の仮想体だけは一度も操れていない。その事を根に持っているのかは謎だが、一番の敵として杉本久楽々と対立している理由は他にある。
杉本久楽々が聖徒会会長の鐵能戸に一役買われている点だ。
要するに単なるやきもち。もっと強力に言えば嫉妬だ。尤も鐵能戸は二人の関係改善に取り組む程、お人よしではない。てゆーか、鐵能戸本人が原因で発生しているとは露知らず、この犬猿の仲は未だ続いている。
「フフフ……中々に見応えのある間柄は未だ継続中ですな~。聖徒会会計。及び、債鬼愛殿。これだから書き物は止められない。わたくしとしてもここの籍に身を置いておいて損は無いと言うもの」
そんな癖のある聖徒会連中の中でも一際異彩なオーラを放つ者がまた一人。
聖徒会書記の藤原硝子だ。彼は制服ではなくいつも平安貴族の衣装をその身に纏い、腰まで届く銀髪をそのまま下ろしている。一見すると不潔そうに見える……が、この男の凄い所は何がそうさせているのか、女に見間違えられる程の美貌を武器に近付くとふわっ♪ と、サフランの匂いが高貴に漂う。
頭には烏帽子を乗せて手には少し大きめの扇。この男の性格上敵を作る事も多いが、トラブルを回避する処世術は身に付けている常識人(?)なのだ。
因みに小説や日記を書くのが趣味で、その為か聖徒会書記に身を置いた。そこで運良く(悪く?)出会った最強ボクっ娘、債鬼愛の史実をエンタメ性高いノンフィクションで面白おかしく学園内にばら撒いている。ある意味命知らずな男だ。
「……チッ! これだから平安貴族は……あの杉本久楽々には何か裏があるんデスよ? そこをリサーチして完了しなければ、ボクはこの地。『ジュール・リオ・フィールド』のある『埼玉県立ロマン学園』の聖徒会会計として、VRMMORPG【Sacred Agent ~Living area~】にて死んでも死にきれないデスね♪」
「まあ、それは債鬼愛殿の仰られる通り。面白いとは思いますが……わたくしは唯、静かに傍観しておきましょう。それでこそ紳士の嗜み」
「……それを野次馬根性って言うんデスよ」
そこに聖徒会副会長の姿はない。それも当然だ。何せその副会長が杉本久楽々本人なのだから。新しい情報を共有出来てるのはそう言う意図があったのだ。
「まあ、それも言えてるな。俺達はこのVRMMORPG【Sacred Agent ~Living area~】に一番最初に送り込まれた『埼玉県立ロマン学園』の第11期生。あれから10年近くが経過した。なのに今更新人を戦地へと送り込む理由はほぼ無い。この世界。特に『ジュール・リオ・フィールド』には他にもやるべき事は沢山ある」
『埼玉県立ロマン学園』の開拓、ショップの新設、情報探索、仕事専門の傭兵団派遣会社設立(冒険者ギルドの設立)、政治や経済の動向、インフラの整備・拡張、通貨紙幣の発行と管理、プレイヤー同士の争いを無くす治安維持部隊の警備――etc.
最早この世界。たった10年程で、VRMMORPG【Sacred Agent ~Living area~】は人が他人を管理出来る程、整然と規律規範が整っていた。正に、元いた世界。現代社会の日本の様に。尤も、ここにいる人物達は皆が『埼玉県立ロマン学園』の聖徒である事に変わりはないのだが。
それに、まだまだ開拓途上である事も否めない。
「……だが、我等が聖徒会副会長が新人の教育を行うのは決して無駄ではない。何せ『セーブポイント』からやり直せるとは言え、俺達の肉体は所謂疑似的なものだ。『魂』を一時的にこの仮想体に預けているのならば……戦闘不能、死亡した時に確実に寿命が削られている。一見すると終わりがなさそうで、俺達は皆生きた囚人だ」
「キ~! ……全くもって兄様はお人よしデスね♪ でも、そう言う所も嫌いじゃないデスよ! あの副会長。杉本久楽々が何者であれ、ボクは兄様と共にこの世界での『死』を受け入れます」
さっきまでの意見とは正反対の言葉で掌返し。最強ボクっ娘。債鬼愛にも乙女心は作用した。恋は盲目と言うヤツである。
「わたくしも同意見です。流石は会長殿。先見の明が鋭いですね。つまり、副会長杉本久楽々殿が新人を育てる事。それ即ち、この世界の謎解きを解明する我々の目的を……未来の駒。その一つ一つを『成り』にして託す事が可能となるのですね。今のわたくし達と同様に」
「そう言う事だ。……シッ! 今から誰も喋るな。何者かが近付いて来る」
――! 債鬼愛と藤原硝子はお互いに顔を見合わせて頷く。先頭を歩く男。鐵能戸。これだから聖徒会長には頭が上がらない。
新キャラ続出の回でした。しかもかなり濃い連中です。
ここまで読んでくれた方々に感謝!




