ep.4 名付け親
何も考えずにポテトチップス食べる時みたいな感覚で読んでくれればなと思います。
「……10年前に、俺の進学先である『埼玉県立ロマン学園』は既に廃校となっていた。あのチャイナアルアル娘――『情報屋』クアンが嘘を吐いていないならば、俺が(現実世界の時間感覚で)数カ月前に推薦入試で面接試験を顔パスした『埼玉県立ロマン学園』は一体どこへ?」
『……主。そんなに思いつめた顔をしないで下さい。考えすぎは良くないですよ? ハゲますよ?』
まあ、確かに。こればっかりは俺の仮想体の言う通りだ。今、考えても仕方がない。答えはこの先にある。
結局俺は『クエストロフィー』の最初の地点。中心部。あの曼荼羅紋様が黒と金色の刺繍で描かれたレリーフの床に舞い戻り、自分だけの空間を創れる『箱庭』へと移動した。
『箱庭』は自分だけのプライベート空間が開拓出来る。言ってみれば自分だけの『家』だ。
俺が『箱庭』に移動すると、殆ど何もない『部屋』が目に入る。床にはお馴染みの曼荼羅紋様が黒と金色の刺繡で描かれたレリーフ。更にもう一つ存在した。今度は白と金色の刺繍で描かれたパルティアンショットのレリーフがある。
「……なるほど。金と黒の曼荼羅紋様のレリーフは『クエストロフィー』、白と金のパルティアンショット(その昔、騎馬兵が背後を振り向いて弓を射るある種の武芸)のレリーフは『ジュール・リオ・フィールド』に繋がっているんだな。それくらいの事は理解出来る」
それ程広くない『部屋』は2LDK(二部屋にリビングダイニングキッチン)で、一部屋はフローリングの洋室。もう一部屋は和室だ。リビングはIHクッキングヒーター搭載のアイランドキッチン。
自分で言うのもなんだが……まだ、高校生になりたてのヒヨッ子がこんな寛ぎスペースを自由に使って良いもんなのかね? 後で大家さんが登場して敷金礼金、家賃に光熱費とか請求されてもこちとら『クエストロフィー』か『ジュール・リオ・フィールド』に高飛びするしか道はねーぞ?
『主。ここにも『掲示板』はありますよ!』
「ここにも? あ~そうか。『クエストロフィー』にも『掲示板』はあったんだっけ? まあ良いや。『掲示板』の内容は何だろな?」
のん気にそんな事をほざいて鼻歌交じりに『掲示板』に目を通した俺は思わず目が1m飛び出す程の衝撃を受けた。
――『埼玉県立ロマン学園』の新入生に告げる。『ジュール・リオ・フィールド』で死にたくなければ……私。杉本久楽々の『箱庭』に集まれ! 戦闘のイロハを教えてあげる――
「『埼玉県立ロマン学園』に杉本久楽々……間違いない。朝の登校時に出会ったあいつだ。それにしても戦闘のイロハだと? 奴の『箱庭』へはどうやれば行けるんだ?」
『他者の『箱庭』へ行くには『クエストロフィー』を経由する事で可能ですが、それが面倒ならこちらにある玄関の扉を開く事で繋がりますよ』
「でも、他にもプレイヤーはいるんだろ? どうやって区別するんだ? 玄関の扉は一つしかないみたいだぜ?」
『『掲示板』に住所の様なものは記載されてませんか? それをポチるとアイテムの『合鍵』が手に入ります!』
「住所にアイテムの『合鍵』だな?」
俺はその言葉に倣い、もう一度注意深く『掲示板』に書いてある杉本久楽々のメッセを見つめる。
――Kurara/Sugimoto:#01――
確かに受け取りましたよ。『戦闘のイロハを教えてあげる』の後にスペースが空いていて、ぱっと見気付かなかった。何かウェブ上のリンクみたいに青白く光り輝いてる。俺はその部分をタップする。
ポン♪ と、軽いポップなクラッカーみたいなSEが鳴り、煙が舞う。気付くと俺の掌に杉本久楽々の『箱庭』に繋がる『合鍵』が出現していた。
「うっし! ミッション完了~♪ 行くぜ? 相棒!」
『うっし! ミッション完了~♪ いつでも準備OKですぜ? 相棒!』
自分の仮想体に軽くいじられて、俺は玄関の扉の内側。本来ない筈の鍵穴に杉本久楽々の『箱庭』へと行ける『合鍵』を勢いよく差し込んだ!
*
「あら? またしてもお客さんのご登場ね」
扉を開けた先。そこに立っていたのは杉本久楽々……じゃない! 大きなお洒落丸眼鏡を掛けた少し雰囲気がボーイッシュな女の子と、
「んだよ……あんたも『箱庭』にある『掲示板』で杉本久楽々とか言う奴のメッセを見た口か?」
DQNって言うの? 背丈があり、ガタイの良い男子がウェルカムしてくれた。
俺は一瞬キョトンと呆けた顔をして……自分の仮想体と顔を見合わせた。あれほど勢い込んでここにやって来たんだ。そろそろこの物語のヒロインである杉本久楽々が出てきても良い頃合いだろう。
「……誰だ? お前等」
「私は……そうね。坂本璃々亜って言うの。この子。仮想体の名前は『リリー』よ。宜しくね♪」
「俺は杜鵑源だ。こいつ……仮想体の名前は『ゲン』って呼んでやってくれ」
取り敢えず俺達はそれぞれ握手を交わした。どうやら例の『箱庭』にある『掲示板』で情報を得たのは俺だけじゃなかった様だ。それもそうか。
「おたくの名前は?」「あなたは何て言うのかしら?」
「……ああ。俺は――」
「あら? どうやらもう既にお客さんは……来ている様ね?」
俺が自己紹介をしようとしたら、ここのプライベート空間の住人。杉本久楽々本人が玄関から顔を覗かせる様にして入って来た。何かタイミングを失い俺は言葉に詰まる。
「お~お~? 杉本久楽々さんか。久しぶりだな。俺の事は覚えているだろう? 『埼玉県立ロマン学園』の入学式はどこで執り行われるんだ?」
――! もしかしてDQN……。俺と同じ様に杉本久楽々から『鍵』を渡されて、このVRMMORPG【Sacred Agent ~Living area~】の世界を彷徨う迷える子羊か?
「あ~……。あなた杜鵑……銀ね。それなら安心して。『埼玉県立ロマン学園』は私達で開拓するの」
「杜鵑源だ! 勝手に改名するな! 俺ん家の両親が聞いたら泣くぞ!」
可哀想なDQN杜鵑銀……じゃねえ杜鵑源。まあ、そんな事よりも大事な事件勃発中。『埼玉県立ロマン学園』を俺達で開拓する……だと?
俺達は(何か一人だけ納得いかないみたいに文句垂れていたが)そのまま杉本久楽々に案内されて、リビングにある中央がガラス張りにされた無駄に高価そうなテーブルの席に着いた。
上座には杉本久楽々。その隣に坂本璃々亜。向かいには杜鵑源。何故か下座には俺、楠郭公が座りまーす。
「……どういう事か取説お願いしま~す! 幹事長♪」
とりわけ明るく楽しく元気よく愉快な打ち上げ会議を盛り上げる為に俺は敢えてその役目を請け負った。決して自分の居場所が不服だからじゃないよ?
「……なかなかナイス音頭ね。そこのあなた。名前は何て言うのかしら?」
杉本久楽々の第一声に坂本璃々亜、杜鵑源も俺に注目した。はぁ~仕方ねえわな。ここは自己アピールしとこ。つーか杉本久楽々。お前俺に『鍵』渡した張本人だよね? もう忘れたの?
「俺の名前は楠郭公! 『埼玉県立ロマン学園』の第20期生だ! ……つまり、新入生って訳なんだ。宜しく頼む」
「おお~♪ お前も俺と同じ『埼玉県立ロマン学園』の新入生か! 楠郭公ヨロシクな~! んで……そっちの仮想体ちゃんは?」
「何て名前なの?」
杜鵑源と坂本璃々亜の両陣営がお尋ねしてくる。それも当然か。つか、まだ……名前決めてねーな。まあ、後で変えられるっぽいし即興で良いかな?
俺の思惑を見透かしているのか? 仮想体と目が合った。ジト目である。ちょ、まあ落ち着けってタンマ。今はやり過ごすしかねーからマジで。
「え……ええ~と、そうだな。『カッコー』……そう、『カッコー』だ!」
――仮想体の名前が変更されました。『カッコー』に再登録します――
――YES/NO――
俺の視界に文字が浮かび上がり、脳内にあの女性アナウンスが鳴り響く。もちろんYESだ。何か気まずいから早くしてくれ……!
仮想体の名前を『カッコー』に変換中……。名前の変更が完了しました。
「『カッコー』で良いのね? 宜しくね『カッコー』ちゃん。うちの仮想体『リリー』とも仲良くしてやってね♪」
「おう『カッコー』良い名じゃねえか。俺の仮想体『ゲン』にも宜しくな!」
ふぅ~。まあ、意外と何とかなるんじゃないの? もしかして俺天才? そんな事を思っている最中ずっと俺の仮想体。『カッコー』が塩対応した奴をジト目で見てきてるのは、取り敢えず素通りして。
まさかの仮想体の名前は『カッコー』で定着します。変更する日はいつになるのやら……。
兎にも角にもここまで読んでくれた方々に感謝!




