ep.22 【卯月】実戦こそ正義の極み……!
気付いたら年末年始も近付いてる……かなり間が空いてしまい申し訳ございません!
「ようこそお越し下さいました~♪ 『ラ・ウルティマ訓練場』へ~♪ ここでは様々な訓練が楽しめます~♪ この『訓練場』では、主に『埼玉県立ロマン学園』の聖徒達が参加申請出来るモードが豊富に取り揃えてあります~♪ 一度足を運んだら病みつきになる事間違いなしで~す♪」
病みつきってあくまで『訓練場』だから結構きついんじゃないの? そう俺が問うと、
「いえ、お客様はまだ新人さんですよね~? 確かに仰られる通り~それなりにきつい訓練もありますけれど~それはここの上級者が主な支配層ですよ~? ただ~、どうしても不安だと思う方限定で~『体験トライ♪』システムを活用すれば~、やり方を理解出来ると思いますよ~? 因みに私もですね~ここ『ラ・ウルティマ訓練場』の常連となっておりま~す♪」
「へ? ……それってどういう事かしら? ゲーミングジョーク?」
思わぬヘンテコ回答に俺はショックを受けて、自分も変な受け答えをしてしまった。何だよ『ゲーミングジョーク』って……。ドンマイ、ギャグにしちゃやり過ぎだろ。妙な造語作んな。
「要は『訓練場』でトレーニングに興じて自分を鍛える。達成感を得る。心地よく汗を流した後にシャワーを浴びる。プロテインと共に美味い飯やデザートを食べた事に充足を得る。仲間達と武勇伝を語る。……そんな所か?」
杜鵑源がキラリ! と、無駄にキシリトールの効いた白い歯を見せて笑う。
「はい~♪ は、ははは……は~い! その通りで御座いま~す。お客様凄いですね~? プロですか~?」
何のだよ。
IQだかEQだか脳筋だか分からない。
そのどれかが優れている筈の杜鵑源。やはり『訓練場』とくればこの男の登場だろう。
「それで? 私達は新人だし、ここに来るのは初めてだけれど……。そのモード? とか『体験トライ♪』システムを利用するには、何か手続きを踏まなきゃならない訳なの?」
俺達三人組(仮想体を含めれば六人組グループ)の中で、唯一の麗しき乙女。坂本璃々亜がカウンター越しにいる受付嬢。何だかのっぺりとした口調の妙齢の女に眼鏡をキラリ! と、無駄に光らせて問い詰めた。
「え~と……。取り敢えず『体験トライ♪』についてお教えします~」
まずはお金に関して。これは一切かからない。もし気になるのなら、消費者センターか『聖徒会』会計代表誰もが知ってる恐るべき【権能】の使い手。
『傀儡子』債鬼愛管轄の民部省(民政と租税の管理)か大蔵省(財政政策や度量衡――紙幣・貨幣の単位やそれに伴う品物の価値を決める)にお問い合わせするのが一番。
唯、今目の前にいる受付嬢。のっぺり口調の彼女が『ラ・ウルティマ訓練場』末端の責任者だ。
だから、ここ『ラ・ウルティマ訓練場』にて『体験トライ♪』システムを利用した際に金銭が発生した場合。この受付嬢に聞いてみるのが手っ取り早い。
「因みにこれが~♪ 私の~名刺となりま~す♪ よろしくお願いしますね~?」
そう言ってその『訓練場』カウンター受付窓口の女性は少し笑う。俺達に差し出された名刺には『玄奘黒子』という名前に連絡先(初めて掲示板にて杉本久楽々のメッセを見た時に貼り付けてあったリンクだ)。
『主! このリンクをポチれば……』
「分かってる。『合鍵』が出てくるんだろ? 玄奘黒子さんの『箱庭』へと続く……」
「よくお分かりですね~? まあ、何かあった時には気軽に訪ねて下さ~い♪」
更に名刺には『ラ・ウルティマ訓練場』の文字が地味だが綺麗な筆致体でレタリングされていた。何だコレ。
「『体験トライ♪』についての説明は? まだ途中みたいだけど?」
「『体験トライ♪』は~ここ『訓練場』の各モードをちょこっと体験出来る云わば体験入学ですね~♪」
それは、現実世界で言う学校説明会やオープンキャンパスと同じ。
『モード』とはこの『訓練場』に設けられた各種の訓練の事。
主に『闘技場』モード、『依頼任務』モード、『財宝探索』モード、『魔物討伐』モードの4つが代表的だ。
「『体験トライ♪』はこの4種目のモード参加権がそれぞれ一回ずつ与えられる訳ですね~♪ ただし……」
のっぺり口調でも、シッカリと取説してくれるのはこちらとしても有難い。
唯、何かまだある様だ。
「……それぞれ4つのモードはランク分けされていま~す♪ これは4つのモード共通で~す♪ ランクは下から~『見習い』『一人前』『玄人』『達人』『神』の五つに分類されて~、当然ですが~上にランクアップする毎に~その難易度は高くなりま~す♪ こちら『体験トライ♪』では~『闘技場』モード、『依頼任務』モード、『財宝探索』モード、『魔物討伐』モードの~参加資格が与えられるので~す……!」
『肝心の報酬は……『体験トライ♪』でも貰えるのか?』
『そうだそうだ!』
『そこ大事よ?』
俺。楠郭公の仮想体『カッコー』に……杜鵑源の仮想体『ゲン』、おまけに坂本璃々亜の仮想体『リリー』までも参戦! 正直どうでも良かったが、コイツ等の疑問は尤もだ。
何せ『親』である俺達の意識と一心同体。一番聞きたかった情報を引き出してくれた。
寧ろ、有り難かったな。
「ええ~♪ 貰えますよ~♪」
のっぺりと言ってのける玄奘黒子。――ですが……と、そこで話に釘を刺す。
「正直、貰えるお金は~微々たるもので~す。あくまで回数制限も~4種目の『モード』の一番最初の段階なので~……。つまり、『見習い』となりま~す♪」
但し、そのクリアした4種目の『モード』は『ラ・ウルティマ訓練場』に入る事によって、データ引き継ぎが可能だとの事。
営業用のマニュアル通りに頭を下げる玄奘黒子。いや、そこは仕方がない。俺達みたいな新人でもちゃんと強くなれる様にこうした『訓練場』が設けられてるんだ。
「じゃあ、皆。ここは『体験トライ♪』から入って行くか? せっかく無料なんだし。悪い話じゃないと俺は思うんだが」
「まあ、そうだな。この『訓練場』のシステム上、『闘技場』モードと『魔物討伐』モード。本音を言うと俺は強い奴と戦いたい……が、状況が状況だ」
「そうね。今の私達には時間とレベル。この世界での『力』が足りてないのは事実。それに、『依頼任務』モードと『財宝探索』モードには『力』だけじゃなくて『知識』も得られると思うの。この話に便乗しない手は無いわ」
俺達も少しは金を持っている。この世界の通貨の単位は『J』だ。
あの時。ラスボスの杉本時雨が現れる前に雑魚敵相手に手に入れた。
地底湖『キュール』へと続く鍾乳洞。あの『ダンジョン』で経験値とお金、更には敵がドロップした『素材』を少しだけ頂戴したのである。
所持金は三人合わせて精々『3000J』程度。平均一人当たり約『1000J』だ。これは一日に最低限必要な食費だけでぶっ飛ぶ。
これまでの『衣』『食』『住』は『埼玉県立ロマン学園』がある程度保障してくれた。それに『住』は『箱庭』がある。その他、日用品も『箱庭』には揃っている。贅沢は出来ないが。
その為、お金が何よりも必要な今は『体験トライ♪』システムは新人には有難い。まあ、新人を主な対象にしてるんだろうけどね。
「決まりですね~? それではこの書類にサインお願いしま~す。こちらの文書は~『体験トライ♪』参加登録証としてこちらが厳重に管理致しますので~ご安心を~♪ 因みに『体験トライ♪』参加者が~本格的に『ラ・ウルティマ訓練場』にて活動する事が決まりましたら~、再度のご登録は不要ですので~安心して自己鍛錬に励んで下さ~い♪」
分かりました~♪
軽いノリで俺達はその参加登録証とか言う危ない書類に記すべき項目を埋めていく。そこでふと気付き、書類に書く手が止まった。
――ん? 何だコレ。『訓練場オリジナルネーム』?
「あの、この~『訓練場オリジナルネーム』ってーのは何でしょうか?」
「ああ、それですか~? 芸名みたいなものですよ~♪ 『ラ・ウルティマ訓練場』にだけ通用するもう一つの名前で~す♪ ふざけて恥ずかしいオリジナルネームにしない方が良いですよ~。何せ後々影響するかもしれませんから~♪ 私の『玄奘黒子』も~実は『訓練場オリジナルネーム』で~す♪」
「後々に……影響?」
「簡単な事で~す♪ 『ラ・ウルティマ訓練場』のどれか一つの『モード』を極めると~、その『訓練場オリジナルネーム』は正式に通り名。称号として『訓練場』の外でも名乗る事が許されるんで~す♪ しかもそれだけじゃなくて~……各地にある限定の店で通常の価格よりも低価格で物を購入出来たり~♪ 閉鎖されていた未開拓の『ダンジョン』を~通る事を許されたり~♪ 色々便利ですよ~♪ 特に『ダンジョン』を切り開いた時に~大都市と農村の近道になる事も多いですので~♪」
あっぶな~! だとしたら確かにここで地雷を踏むのは避けた方が無難だな。
中高生が卒アルの文集でinnocenceにボケた途端、成人した後それを閲覧すると……滑ってブラックホールに吸い込まれるあの現象と同じだな? 寒怖えホラーだ……。
「因みに仮想体には……?」
「いいえ~♪ 仮想体には適用外となりま~す♪ 何でも『訓練場』の創設者が~『これ以上ややこしくするな~!』とか~何とか」
「じゃあ、何でその主である俺達聖徒にそんな面倒な事させるんだ?」
「『訓練場』の創設者いわく~『その方が格好良いから!』との事で~す♪ ヒーローやヒロインに前口上を述べさせるのは~強者の掟であり、その証。因みに~私もそれには賛成で~す♪ 恥ずかしいのならば本名でも構いませんよ~? ですが~一度登録したら二度と変えられませんので~そこだけは注意して下さいね~♪」
一度登録したら変更不可になるのか。ここは慎重に検討しないとな。元の世界にも(主に海外だが)『騎士』の称号であるイギリスの『Sir』とかローマ皇帝の称号『Caesar』だとかが『訓練場オリジナルネーム』に値すると見て良い訳だよな?
――さてさて? どうするかな♪
『主。オレが決めて良いか?』
唐突に俺の『子』である仮想体『カッコー』が無茶な事を提案した。
『主~! 俺も名前決めたい』
すると、杜鵑源の仮想体『ゲン』も無茶な事を提案した。
『主、私も自分で決めてみたい』
そこからコンピューターウイルスの様にさもありなんと坂本璃々亜の仮想体『リリー』も感染。お茶目な事を提案した。
「駄目だ! 『カッコー』、お前にはまだ早い……!」
俺は厳しく戒めた。ここは大人の対応で善処する。自分の『子』には『親』である俺。楠郭公がシッカリと躾しとく……!
「……そうだぞ? ここは楠郭公の言う通り。『ゲン』、頭の良いお前には分かるよな? 何せ、俺の『子』だ!」
俺に便乗して自らの仮想体『ゲン』に言ってのけた『親』の杜鵑源。さもありなんと『親』の威厳をドヤ顔で示す。
「あの二人の様になりたくなければ……ここは遠慮しときなさい? 『リリー』。それがレディの嗜みですよ?」
さり気なく俺と杜鵑源をディスり、『リリー』を諭す『親』の坂本璃々亜は聖母の様な微笑みをする。でも、眼鏡の奥の瞳は決して笑っていないのが怖い。
『え~!? ありえねえ~。塩対応』
『ブゥーブゥーブゥー! 俺の名前は主が決めた癖に~!』
『あの二人の事は兎にも角にも脇に置いといて……レディの嗜みこそまだ私には早いのでは?』
色々と言われてるが……有難うございました。残念な事に『訓練場オリジナルネーム』はお前等お子様とは違い、替えが効かない。ここは『親』の威厳(と言う名の『表現の自由』――日本国憲法第21条参照を糧に)を最大限に使い、大惨事を免れるのが基本的人権の尊重と言うもの。
俺――楠郭公、杜鵑源、坂本璃々亜は(こういう時だけ)三人力を合わせてデルタアタックを敢行。
デモ隊を結成。ブーイングしながら『Freedom of expression!』(表現の自由!)なる看板を掲げて、俺達の周りをウロチョロしている仮想体の『カッコー』、『ゲン』、『リリー』の首根っこを引っ掴んでそのまま自分の懐に三人纏めて監禁したのは杜鵑源。
ジタバタと暴れ、逃走を試みる輩をガード。カバーリングする坂本璃々亜。
その間に速筆で俺は三人分の『訓練場オリジナルネーム』を書いて即提出! フ……♪ これぞ大人のやり方だ。『カッコー』『ゲン』『リリー』――お前等には悪いがここで我が儘を通すとなると後に大変な事になる。それを学ぶのが『子』である君達の宿命。
「はい~♪ では、こちらの書類は厳重に保管しておきますのでご安心下さいね~♪ それでは『体験トライ♪』システムで楽しい『訓練場』ライフを~♪」
『ラ・ウルティマ訓練場』受付窓口の玄奘黒子(訓練場オリジナルネーム)が片手をひらひらとさせて、俺達の仮想体。『カッコー』『ゲン』『リリー』に対し、少し皮肉に似た同情を指し示す。
その後、俺達は自身の仮想体。『カッコー』『ゲン』『リリー』のご機嫌を取り戻すのに1時間半も消費した。偉い苦労したが結局、『フォーティー1・アイスクリーム』のトリプルを注文して食わせる事で何とか機嫌を治める事に成功。
全く……『親』ってーのも大変だな。今更ながら自分が幼き頃もこんなんだった事を思い出し、少しホームシックになりつつも、やっとこさ『訓練場』の『体験トライ♪』システムを通じて出入り自由になった訳だ。
さあ、遂に自分を鍛える場所は決まった! ここ『ラ・ウルティマ訓練場』の各モード――『見習い』から始まる『体験トライ♪』を楽しんでやるぜ……!
読んでくれた方々に感謝を! ブクマ登録してくれた方、ありがとうございます!




