ep.21 【卯月】全ては強くなる為に
話を色々詰め込んだ感が否めない……!
「どうやら『聖徒会』が動き始めた様ですね……。何でも新人が……失礼。新入生が3人、あの杉本久楽々の手によりここ『埼玉県立ロマン学園』に入学を検討している。いや、もうこの世界に入った以上……強制的に『埼玉県立ロマン学園』に入学して貰わなければ、こちらとしては困るのですが」
「ふむふむ。まあ、入学式なぞやらんでも『訓練場』にて強くなれればそれで良いのじゃ♪ 果たして今回は何人ギブせずに生き残れるかな?」
『埼玉県立ロマン学園』の聖徒達を強くする為に生まれた場所。その名も『ラ・ウルティマ訓練場』。通称『訓練場』は最初にここを訪れた第11期生の現実世界にあった元『埼玉県立ロマン学園』の新入生達によって、開拓された。
ここ『訓練場』は云わば新人達の登竜門。『儀式』と呼ばれる過酷なシゴキが俺、楠郭公と杜鵑源、坂本璃々亜を待ち受けている。
実はあの聖徒会長鐵能戸。第11期生の彼も当然ではあるが、この『ラ・ウルティマ訓練場』開設に一枚噛んでいる。あの時、俺達にあたかも思い付いたみたいにここを案内してくれたが……全ては予定通りに事が運んでいるのだ。
何せ……今、『聖徒会』含めた『埼玉県立ロマン学園』の自分達(聖徒達)が欲しているのは誰よりも強い存在。この世界『ジュール・リオ・フィールド』には敵が多い。この最終防衛拠点である『埼玉県立ロマン学園』にもいつ、何時、魔物や他校の連中が攻め込んでくるのか分からない。その為、拠点を開拓出来る逸材はもちろん、一個小隊を率いるリーダーシップの取れるある種のカリスマ性。
文武両道(この場合、戦術性に長けていて尚且つ敵を一人で一掃出来る力の持ち主)の潜在能力が一番に求められるのだ。
あらゆる局面でも力を発揮出来るユーティリティー性能。『訓練場』事『ラ・ウルティマ訓練場』は『埼玉県立ロマン学園』の新入生を蟻地獄に陥れる強制対価措置。その見返りは単純な強さだけではない。
智略・暴虐・冷徹・順応・育成・財力・理解・商法・掌握・根気・諜報――これ等全てを備えられる存在。それを『ラ・ウルティマ訓練場』で教わるのだ。
つまり、『ラ・ウルティマ訓練場』及び『訓練場』を生活の一部としながら自身の拠点。『埼玉県立ロマン学園』の開拓や、『ジュール・リオ・フィールド』各地の冒険。そこでの仕事を熟したり、『箱庭』で友人・恋人と日常を過ごしたり、その個人の自由度は様々。多岐に渡る。
ここでは現実世界の部活動が『訓練場』の様なものである。そして、そこから繰り広げられる日常・非日常が青春なのである。ちょっと防衛大学や体育会系全般にあるあるのグレーな方に偏りがちだが……。
兎にも角にも『ラ・ウルティマ訓練場』では『訓練場』と呼ぶに相応しいトレーニング施設が揃っており、仲間達との切磋琢磨。所謂【権能】を最大限に活かす機会が設けられているのだ。
*
『埼玉県立ロマン学園』が突如閉鎖された事による被害は甚大で、そこには大人達も混ざっている。
そう。言うまでもなく職員達だ。教職員として『埼玉県立ロマン学園』に配属されたは良いものの……彼等彼女等は一方的な学園の閉鎖に伴い、自分達の役割を終えた。
メタ糞リアルな話。リストラに遭ったのだ。但しそんな愚かな大人達にも希望の光は用意されていた。
他でもないこのVRMMORPG【Sacred Agent ~Living area~】にいる聖徒達の育成。
『埼玉県立ロマン学園』の開拓。ここでは先生の『生』に『聖』と書いて『先聖』と呼ばれる。
その教育基本方針は――『友情』『恋愛』『文武両道』『気合い』。
もちろん大人達もバカではない。それぞれが様々な経緯があり、今ここにいるのだ。強制的に『魂』を束縛されて、VRMMORPG【Sacred Agent ~Living area~】なるどこぞの素人がツクール系ソフトに手を出して、偶々その手の大会で賞を授与したみたいなこの中二病ありありの異世界にて、生きる為に必死に模索した。
……何を模索したかって? 決まってるじゃないか! 元の世界に戻り、この事件が現実に起こった事実を世間様に公表する。これは国家規模……いや、世界規模の一大スクープなのだからマスコミが黙っちゃいない。
『埼玉県立ロマン学園』の元理事長。杉本時雨なる人物が、ゲーム制作会社『マギコス・キクロス』を起ち上げて、どういう仕組みかは現実世界のどこかにあるサーバーの中。『回路』=マザーボードに俺達プレイヤーの『魂』を混入・統合させた。
詳しい事はまだ解き明かされていない。謎に包まれているが自分達の肉体をゲーム世界の中にフルダイブさせる事を可能にしたのだ。
だが、このVRMMORPG【Sacred Agent ~Living area~】の中にいるプレイヤー達は知っている。この世界にはそのプレイヤー達の『魂』を母体として司る『機械仕掛けの神』をも生み出した全ての中枢である杉本久楽々の『魂』が発端となって始まった事を。
――聖なる使者――
そして、この閉じられた世界にはもう一つ。『機械文明史』なる杉本久楽々の記憶が宿る、人(NPCにも含まれる)・物・自然に吹き込まれた杉本久楽々の『魂』にある過去。彼女が『頭脳』として司る歴史が残されている。
それが神の恩恵――プレイヤーが仮想体を作成した際に得られる【権能】も含めた聖なる使者の役目・役割なのだ。
だが、現実世界の人間にこんな話信じてもらえる訳はない。余りにも荒唐無稽で中二病くさいし、その杉本久楽々という人物がどこにいるのかもハッキリしない。
唯一つ言える事。もしもこの話が単なる都市伝説ではなく、真実で現実世界にも影響を与えているのならば……事態・局面は大きく変わる。
これはある種の監禁であり、世の中で起きる筈のない不可能犯罪だ。巨大なクローズドサークルに近い出来事がそれも仮想空間。現実世界の埼玉県南部に似ている場所で今、行われている。ハッキリ言って狂気の沙汰である。
唯一救いなのがここに送り込まれる新入生達は世に言う『ネトゲ』やラノベの『異世界転生モノ』に詳しい者が多く、割とすんなりとこの事件を寛容に受け止めている所だ。人によっては楽しんでいる節さえある。
そんな可愛い聖徒達を一人一人守るべく、大人達。先聖は一丸となってここでの生き方を人によっては優しく、或いは厳しく、或いは鬼教官となって皆身体を張って命を賭して教えるのだ。
――『埼玉県立ロマン学園』や『ラ・ウルティマ訓練場』にて。
だが、世代とは皮肉なもので大人達(特に高齢者)がいくらこの異世界転移したゲームの事を知ろうとしても常に最先端を走る子供達には敵わない。『セーブ』? 『エンカウント』? 『パッチ修正』? ……何のこっちゃ。いや、中にはこのIT革命に対応したスペックの高い大人(若年層)も少なからず存在する。何せ2000年には『Y2K問題』があり―の、そこからITのグローバル化が始まりブラウン管テレビが薄型液晶テレビやプラズマテレビに進化を遂げて携帯電話やウォークマン等、今のスマホやタブレット端末に相通じるものがあったりする。いや、確実にあったのだ。『2000円札』なんて今は見る影もない値打ち物だが……。
そこで大人達。先聖は新たなる画策に打って出た。ゲームシステムの事は子供である聖徒。主に『聖徒会』を筆頭に任せて、その関係を維持する事。そして、そこから新たな企画や運営を開拓という形で進める際に、全力で惜しまずに協力する事。
教育の基本は真摯に子供達の――ここで暮らしている全聖徒達の意見を聞く事。それに耳を貸し、そっと手を伸ばすのだ。先聖の役割は現実世界でもゲームの異世界でも変わらない。
それにはまず、このゲーム世界の事を詳しく知らなければ話にならない。『仮想体』や【権能】はもちろんの事、生きていく為には何が必要なのかを考えていき、それを一年後に現れる新人に教育する。先聖とはそういう立場でなくてはならない。
事、ゲーム内で何かを開拓&開発する際には若年層の大人達も一緒に協力し勉強していく。それは現実世界で言う所の職業訓練所。或いは職業訓練施設に似ているかもしれない。唯、ここでは聖徒達と一緒に学ぶ体験が出来るというだけで、大人も子供も皆平等に同じ扱いだ。何せここはある種の福祉施設ではない。『埼玉県立ロマン学園』と言う『ジュール・リオ・フィールド』各地にある『ダンジョン』や村・町・都市・国を統治する敵か味方かも分からない連中からその身を守るべくして造られた防衛拠点なのだ。
永遠にこのVRMMORPG【Sacred Agent ~Living area~】から出られない……或いはラスボス杉本時雨によりいつか殺される運命にあるのならば、子供達である聖徒にそっと手を差し伸ばし僅かな希望でも良いからその象徴となる。
今や、この仮想上。ゲーム世界の『埼玉県立ロマン学園』には第11期生から開拓が始まり、第20期生が入学している。およそ10年近くの時間が経過している。
そして、そんな中。『埼玉県立ロマン学園』の全聖徒達が己を鍛錬し、仕事を受注し、そこで様々な人達(主にNPCではあるが)の悩みに共に思考を巡らせて解決に導き、お金を手に入れる。それこそが自立する糧となり、強さの本質でもある。世の中綺麗事だけじゃ生きていけない。その、まるで汚水を濾過して浄水に変える作業に適しているのが、ここVRMMORPG【Sacred Agent ~Living area~】の『埼玉県立ロマン学園』なる場所なのだ。
*
「『訓練場』? てっきり、武器・防具・アイテム。その装備品を揃えて『冒険者ギルド』にでも直行するんだと思ってたんだがな。それはどういう意図があるんだ?」
俺――楠郭公の質問に鐵能戸はニヒルに笑い、軽く否定した。
「君はここを中世ヨーロッパを舞台にした剣と魔法のファンタジー世界だと解釈している様だが……『ジュール・リオ・フィールド』の景色を見て分かる通り。埼玉県南部の東は見沼代用水が所々に入り組んでいる農業地帯と西は浦和・大宮等、東京のベッドタウンとして栄えるさいたま市、つまり大都会が絶妙なコントラストを奏でる云わば東日本の関東地方をモデルにしている事にすぐ気付いただろう?」
その言葉で俺は思い出した。『屍人』である杉本久楽々の言葉を。確か、ここ『ジュール・リオ・フィールド』には『埼玉県立ロマン学園』を主要開拓地。防衛拠点として東西南北に色々な『ダンジョン』が広がっている。
その代表的な例として、元々帝釈天の配下が須弥山(世界の中心にある山)を守る為に四天王(四大属性王)が立ち塞がっている……とか何とか。
増長天(南)には【火】の精霊サラマンドラ。
多聞天(北)には【水】の精霊ウンディーネ。
広目天(西)には【土】の精霊ノーム。
持国天(東)には【風】の精霊シルフ。
そう言えばこの事件に巻き込まれる前に久楽々が話してた現実世界のオバタリアン軍団とは何だったのか? その内、暇が出来たら聞いてみよう。今は、強くなる事が先決だ。
それに精霊達が奉られた石碑の事も気になる。学園の守護精霊とか言ってたよな確か。
「ああ。その通りだな。ちょっとばかし勘違いしてた。ここはその昔、東京を含めて『武蔵国』と呼ばれてた場所とそっくりさんだったんだな。まるで久楽々と璃々亜。双子姉妹の様だ」
自分達を名指しされた久楽々はどこか照れた様に頬を赤らめる。逆に璃々亜はその眼鏡の奥に何を企んでいるのかドヤ顔。
「いや、まあ新人だしこの土地が広がる世界。『ジュール・リオ・フィールド』の事を知らないのも無理はない。さっき言ってた『冒険者ギルド』――所謂、冒険者の為の組合もあるにはあるのだが、そこもまだ開拓途上でね。それに武器・防具・アイテムを揃える為の店。それにはまず『商人ハンザ』が機能していないといけない。つまり、何が言いたいのかというと……」
「ここ『埼玉県立ロマン学園』もまだ開拓途上。そうデスよね? 兄様」
その話に割って入って来たのは、ボクっ娘の目の下にクマがある聖徒会長鐵能戸にべた惚れな、とても年上とは思えない杉本久楽々に引けを取らない不気味な女。【権能】の一つ。『傀儡子』として恐れられている債鬼愛だ。
「『商人ハンザ』? あの昔、商業的なサポートとして交易権を広げたりした国家間の『商人ギルド』の団体の事か?」
「よく知っているな。その通りだ。元々『商人ハンザ』は12世紀頃に創られて、後に北ドイツの自由都市として同盟を結んだ『ハンザ同盟』の云わば交易商人の先駆者達だ。彼等彼女等は国家間での商業ルートを確保して各地の都市に商館を置いたり、都市参事会なる大商人達有力者を集めた議会に参加して、実質的な権力を握った」
「へぇ~。なるほどな。つまりその大商人様の集まりがここ『埼玉県立ロマン学園』の商いに精通している程いない以上、ロクにこの拠点付近に店を構える事は愚か武器・防具・アイテムに詳しい人材を登用する段階にまだ至っていない訳だ」
「その通りです。杜鵑源殿。貴方は見かけによらず頭の回転が良いですね。わたくし感服致しました」
俺――楠郭公、鐵能戸、杜鵑源、藤原硝子の一連の会話から察するに、まだまだ『埼玉県立ロマン学園』に開拓の余地はある。
「……それで? 真面に機能してるのは何なの?」
坂本璃々亜のその問いに、『聖徒会』トップの男。鐵能戸は頷く。
「それは主に2つ。『教会』と『訓練場』。正式名称は『エーア・ガイツ教会』と『ラ・ウルティマ訓練場』だ。だからこそ君達三人組。仮想体含めた6人組には手っ取り早く強くなる為に『訓練場』への参加を申請したい」
『エーア・ガイツ教会』に『ラ・ウルティマ訓練場』。
やっとこさ本格的に俺、楠郭公と『カッコー』。杜鵑源と『ゲン』。坂本璃々亜と『リリー』の目指すべき目的がここVRMMORPG【Sacred Agent ~Living area~】の中。開拓途上の『埼玉県立ロマン学園』にて出来た気がする。
全ては強くなる為に……俺達はその申請を許諾した。
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