ep.19 【卯月】今後の展望と課題
書いてたら話が変な方向へ行ってしまいました。
いきなりの爆弾発言! 俺と杜鵑源はハァ? とか言いながらお互いに間抜けな顔をしていた。
「ちょ、ちょっと待て! じゃあ坂本璃々亜。お前は俺達(この場合、俺――楠郭公と杜鵑源の事を差す)と同じ『埼玉県立ロマン学園』の20期生じゃないってのか?」
「ええ。そもそもこれまでの経緯で私が『埼玉県立ロマン学園』の20期生だと自ら言ったりした事があったかしら? 私は杉本久楽々……お姉ちゃんを救いにこの世界に自分の意思で入ったの」
「つ、つまり! ……要約するとだな! 俺達(この場合、杜鵑源と楠郭公の事を差す)は……杉本久楽々、坂本璃々亜、そしてあの忌まわしきラスボス。イケオジ――杉本時雨にさえ騙されていたって訳か?」
「その通りよ♪」「……そういう事になるわね」
ハァ~と、大きな溜め息。俺と杜鵑源は仕事で嫌な事があった社員の同僚同士で、今晩は行きつけの飲み屋で愚痴る新橋辺りのサラリーマンみたいな陰鬱な気分に陥った。
「因みにこの眼鏡を外して、髪型をちょっと変えてみるだけで……ホラ、この通り♪」
まるで3分クッキングか昼間にやるロードショーが佳境に入った時の合間に執り行われる某通販番組、いやそれよりももっと速く彼女。坂本璃々亜は杉本久楽々に変身してみせた。
何でもっと早く気付かなかったんだ? 俺達(この場合、俺――楠郭公と杜鵑源の事を差す)は♪
『主~。もう少し頭を捻ってくれれば、オレだって見抜けたのにさ!』
『主。こう言っちゃ何だが……もしかしてバカ?』
「「うるせーよ!!」」
同時に同じ台詞で自身の仮想体に反旗を翻し、まさかの八つ当たり。俺と杜鵑源はその真実をうやむやにもみ消した。
「さて……そろそろ良いか? ちょっと意外な展開があったが、これで役者は揃った。後はラスボス。杉本時雨をどうやって倒すかだが」
鐵能戸が呆れた様に溜め息を吐いて話の先を促した。具体的に言うと書記の藤原硝子にホワイトボードで今後の展望。それぞれのやるべき事を箇条書きに書いて整理する。
「まずは何と言っても、君達三人組。楠郭公、杜鵑源、坂本璃々亜の戦力補強だ。正直、今のままでは話にならない。ハッキリ言って足手纏いになるだけだ」
「!」「はぁ?」「そうなっちゃうわね」
杜鵑源だけは少し不服そうな顔をしていたが、こればかりは聖徒会会長の鐵能戸。彼の言う通りだ。
「1項目目。あ・し・で・ま・と・い……三馬鹿トリオ――と♪」
聖徒会書記。藤原硝子が律儀にも最初の項目。今後の展望と課題をホワイトボードにマジックインキを器用に使い流麗な行書体で書き記していく。どこかEnjoyなのは気のせいか?
まあ……それは兎も角。鐵能戸のその重い言葉はどこまで行っても真実だ。
何せ、いくら俺達がトリッキーな【権能】を駆使しても……奴――杉本時雨の足元にも及ばなかった。ラスボスである杉本時雨は言っていた。
君達とは実力が違い過ぎる。レベルの差だ――と。
「奴との戦いで分かった事。もしかしてこの世界にはロープレで言う所の『レベル』なんて概念があったりするのか?」
「まあ、無きにしも非ず……と言いましょうか。気になるのでしたら御自身のステータス画面を確認してみてはいかがでしょう?」
俺の言質をニッコリと受け取ったのは聖徒会書記の藤原硝子だ。なるほど、確かに。ここは大人しく超絶イケメンに付き合ってやるか。メッチャ不本意だけれども。
俺――楠郭公。杜鵑源、坂本璃々亜は眼前に手を翳して、人差し指を横に振る。
現れた項目は前に見た通り。唯、これまであまり細かく見なかったせいか一つの項目にも色々な要素が詰め込まれてる事に気付いた。この先。今後も新発見があるのかもしれない。
・VRMMORPG【Sacred Agent ~Living area~】の進行状況。現在『1%』と表記されている。
・『ステータス情報』。ここの項目をクリックすると、個人のパラメータや装備品。所持品。【権能】等その他諸々の情報が浮き彫りになる。もちろん自身の仮想体情報も。『レベル』を知りたきゃここ開けってか。因みにここには『魔物図鑑』と言うものが存在し、魔物・ボス・宿敵(人物)の長所(強耐性)・短所(弱耐性)の攻略が戦う際に、自動的に書き込まれていく。態々自分で相手を研究しなくても、この『魔物図鑑』を開けば一発で情報を得られる。但し、戦っていない敵の情報はもちろん分からない。だが、一度戦えばその後にトンずらしても途中までの記録は事足りるのだ。かなり助かる初心者でも安心安全の新設設計。
・『フレンド登録』――情報を共有したい相手とパーティ編成する事により、ここに仲間のデータが公開される。所謂『フレンド登録』そのまんま。だが、仲間の情報は貴重なので侮れないし重宝する。それにいざって時に連絡が取れないと不便だ。もちろんNPCとの情報共有は出来ない。
・『地図情報』――ゲーム内の土地(町やダンジョン等)を踏破する事により、勝手に更新されていく。自分の現在位置はもちろん、そこからナビや各地にあるロケーションも情報として提供してくれる。地味だが、冒険時に滅茶苦茶重宝する。また、地底湖『キュール』へと続くあの鍾乳洞。最初のダンジョンの様に踏破された場所(これを聖域と呼ぶ)。聖域には転移型『魔法陣』が出現し、何時でもこの『地図情報』から『聖域』の『魔法陣』アイコンをタップすれば、一瞬で移動出来る。『フレンド登録』或いは何らかの形で情報を共有した際に、この『地図情報』は一時的に有効となる。また、『情報屋』から『地図情報』の『聖域』を購入する事も可能だが新しく難易度の高い場所にある『聖域』は当然高額になる。因みにこれは余談だが、このゲーム世界の通貨の単位は『J』――『1J』=『1円』である。
・『その他』――システム面の改善など開発者側に送る事が出来る。今はどういう訳かキュートなアニマル調のマスコットが『メンテナンス中』と看板を掲げて、使用不可能。……何だお前? 犬? 猫? どっち?
因みに俺の『レベル』は『9』と表示されている。討伐した魔物はスライム、ゴブリン、コボルト。更にあの宿敵。因縁の相手――ラスボスの杉本時雨のデータまで記載されてある。その殆どは詳細不明。それもそうか。奴は手の内を明かしていなかったからな。坂本璃々亜の【権能】――『幻惑の都』で小さくなった奴を平手打ち(と言う名のハエ叩き)したのが唯一の収穫か。
杜鵑源の『レベル』は『10』、坂本璃々亜のレベルは『7』。討伐した魔物の種類は同じだ。
「せっかくだし、ここにいる皆と『フレンド登録』しておこうよ。これから情報を共有出来ないと困るし」
「……だな! 俺達の目的はラスボス。杉本時雨を倒す事なんだし、仲間は多ければ多い程良い。特にこのゲーム世界に詳しい先輩方からも色々と御教授願いたい」
今やすっかり杉本久楽々の双子の妹として俺の脳内に刻印されている坂本璃々亜の一言が発端となり、俺もそれに同調。
杜鵑源、杉本久楽々に否やは無し。
聖徒会のトップ。聖徒会長の鐵能戸もそれが一番だと思ったらしく、腕を組んで渋い顔をしながら頷く。唯、その他二人は中々良い返事をくれなかった。しぶとい連中だ。
当然、その二人組とは聖徒会会計の債鬼愛に聖徒会書記の藤原硝子だ。因みに藤原硝子に関しては、
「大事な個人情報をそんなに簡単に公開する訳にはいかないのではないでしょうか? それもつい最近このゲーム世界にやって来た新人相手に……。勿論、この方々三人(彼曰く、俺達三馬鹿トリオ)に協力する事を反対する訳ではないのですが……」
ふむ。全くもってその通りだ。俺が長年この世界の中にいて、いきなり現れた(副会長の杉本久楽々のスカウトを受けたとはいえ)怪し気な三人組(彼曰く、俺達三馬鹿トリオ)に情報共有しろと言われたならば難色を示すのが当然である。もしかしたら敵のスパイだったーなんて事にはならないだろうが……念には念を入れるのが普通であり、妥当な線だろう。
それにもし、俺達三人組(彼曰く、俺達三馬鹿トリオ)が本当にスパイならば、ある種のサイバーテロよりも性質が悪い。
しっかし、もう一人の御方は中々素直じゃない様でした。答えはお分かり? 聖徒会会計の債鬼愛である。
「100億譲ったとしてもボクは反対デスね! 偶々目的が同じになっただけデスし、コイツ等は副会長杉本久楽々が連れてきた云わば舎弟デスよ? しかもどう持ち上げても使えない新人と来たもんだ! こんなゴミ屋敷の中から拾い上げたガラクタ相手に交渉の余地はないデスよ! 今からでも遅くはないデス。全ては兄様の御英断に懸かっています」
さすがは『聖徒会』の面子の一人。言いたい放題やってくれるじゃねーの……!
「んだとコラ! ……テメーちょいと面貸せ――」
早速爆発しました脳筋様。杜鵑源を軽く手で制して、
「……俺達がゴミ屋敷から拾ったガラクタ? 証明するならテメーと【権能】で――」
更にそこから二次被害。誘爆したのは他でもない俺。楠郭公をやんわりと手で制して、前に出たのは坂本璃々亜。
「そうですね。私達がガラクタなら、あなたはゴミそのものではないでしょうか? 一度自分の姿を鏡で御覧になってもう一度、ここへ来て下さい。前言撤回を要求します」
まさかの全員ブチギレ……! このままブレイキングダウンでも始まるんじゃないかと思われる緊迫した事態でも杉本久楽々は興味なさげに生あくびを噛み殺していた。
奴(債鬼愛)の本性を最もよく知っている筈なのに止めようとしない。まあ、その方が俺達としても会計様を片付ける手順が狂う事もなく進行するから良かったのだけれども……。
もしかして奴(債鬼愛)の本性を最もよく知ってるから止めないのか?
ブウ~! ブウ~! ブウ~!
『ゲン』『カッコー』『リリー』からもまるでフーリガンの如きブーイングの嵐。
2014年ワールドカップ、ブラジル大会。準決勝。ネイマール不在のブラジル代表を悪夢に陥れた歴代最強のドイツ代表みたいな完璧なサッカーでセレソン(ブラジル代表の愛称)を1‐7と言う信じられないスコアで破ったその日をミネイロンの惨劇と呼ぶ。但し、この時はブラジル人サポーターの怒りの矛先はサッカー先進国。王国ブラジル、カナリア軍団に向けられた皮肉だったのは言うまでもない。勝つのが当たり前のブラジル代表にとって100年の恥とまで言われたサッカー史である。
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