ep.18 【卯月】双子
何か書いてたら……何時の間にかこんな量に。
『埼玉県立ロマン学園』は『ジュール・リオ・フィールド』の中心にある。俺達『聖徒』の拠点。他ならぬ最後の防衛地点だ。
全部で四層に積み重なるその最上階に聖徒会室はあり、そこで俺達はある人物に接触する為にやって来た。
他でもない。あの杉本久楽々だ。
俺達。楠郭公、杜鵑源、坂本璃々亜。そして仮想体の『カッコー』に『ゲン』、ついでに『リリー』も一緒にやたらと広い豪華なエレベーターに飛び乗り、そこから『4F』のボタンを皆が何度も連打。扉が閉まり、一息つくのももどかしく、心の中はせかせかと忙しなく――まるでドラクエ5のグランバニア城で自分の息子が生まれる時のパパスみたいな心境で――やたらめったら落ち着きなく心はざわつき、直立不動で実は微動だにしていなかった。
「お客様。随分とお急ぎの御用みたいですね?」
そこで全員がはたと気付いた。何か余計などうでも良い人物が混ざっている。ドラクエ5で言うサンチョやプサンみたいな立ち位置。でも、いなけりゃ冒険の楽しさが半減する。そんな女。
彼女は一気に雪崩れ込んだ俺達の気持ち等、微塵も介さずにニコリ♪ と、営業用のスマイル0円を提供してきた。
何と、そこにいたのは今となっては懐かしい。エレベーターガールが俺達の乗るドデカマシン。つまり、エレベーターに一緒に乗っていたのだ。
「な……? このご時世にエレベーターガールとは珍しい。あんたNPCじゃないよな?」
「当然です。そもそもここ『埼玉県立ロマン学園』にエレベーターガール等不要……と、お思いですか? そんな事ありません。きっといつの日か役に立つと思われますので、ご容赦を。あ、そろそろ着きますね。皆様の旅路に幸あらん事を」
ライムグリーンに似た色を薄くしたセミロングの髪の毛を両肩に乗せて、そのエレベーターガールは聖母の様な微笑みをお与え下さった。何か知らんが、駅伝走者が観客の応援を貰う時の様に少しだけ励まされた俺達は、そのまま勢いを殺さずに、廊下に出る準備。それぞれが屈伸やら軽い跳躍やら腕のストレッチで筋肉をほぐす。……何かの大会?
チン♪
そんな折。正面に伸びたこれまただだっ広い廊下。両端は全面ガラス張り。床もガラス張り。おまけに天井もガラス張り。
聖徒会室の入り口。そこへと連なるガラス張りの広い廊下はまるで空中歩行をするかの様な謎の緊迫感が漂う。
唯、その最初の位置と等間隔の途中にまるでアーケードの様に両脇に柱が連なる見事な意匠を施した彫刻が来る者を歓迎。或いは人によっては威嚇していた。
柱は現実世界の某中華街にでも出現しそうな金色の龍を模したもので、あの『龍聖』とかの呼び声高い聖徒会長――鐵能戸の趣味嗜好がチラホラ窺える。
だが、デザインは見事だ。20世紀後半。皆が西暦2000年以降。つまり、21世紀以降の世界はどうなるのか予想していた当時。態々外に出歩くのに、あのチューブの様な通り道を通ったりする間抜けなのを色々修正して、現代版にきちんとアレンジした仕上がりになっている。
あの当時。車は空を飛んでいて、宇宙旅行なんて朝飯前に熟し、例のチューブの様な通り道を通ったりするのが当たり前だと予想されていた……らしい。正直、バカなんじゃないか? それが叶ったら22世紀は本格的に例のお喋りな猫型ロボットが大量生産されているだろう。
まあ、その21世紀構想にどっこいしょと便乗してアイボとか言うロボット犬がいたのは確かだが、今それを持ってたらアンティークの値打ち物として高く売れるんじゃないか? とか思ってしまう。
逆にそこから更にその昔。ロンドン万博で見られた水晶宮の方が現代のこの廊下。建築構想にマッチしていると思われる。いや、ゲーム内の異世界だしその時代に生まれてないしそれ故にロンドン万博なんて行った事ないんだけどね。
さて、俺達はそんなこんなで聖徒会室に辿り着いた。唯、そこには謎の男が壁に背を預けていて……。
「フ! 『日出所の天子……』の続きは?」
「……『書を日没する所の天子に致す。恙なきや』!」
「フ! 良いだろう。開場だ。入って良し」
その謎の男(名など無い。私に名前などあったらそれこそ謎の男ではないだろう――本人談)はいつも缶コーヒー(微糖)か煙草のラッキーストライクを嗜んでいて、見た感じちょっとやさぐれたBFの大学生みたいな印象を受ける。
今日は缶コーヒー(微糖)を軽く嗜んでいた。メッチャどうでも良いけど。
まあ、そんなこんながありーの俺達は聖徒会室に無事辿り着き、中に入った。
*
時は一週間以上前に遡る。
杉本久楽々が連れ去られたその日。俺達は『ジュール・リオ・フィールド』にある『埼玉県立ロマン学園』の聖徒。その中でも最も力があり、賢く、話の通じる相手はいないか? と、突如作戦会議に入っていた。
場所は杉本久楽々の『箱庭』。その理由は最初に掲示板を通じて久楽々によってこの部屋に全員集合した際に、貼り付けてあったリンクから俺以外の皆も『合鍵』を取っていた事が発端だ。唯一、『情報屋』のクアンは久楽々とフレンド登録していたが為に『合鍵』の一つや二つ、本人から受け取っていたのも功を奏した。
そしてリビングにあるあの無駄に高価そうな中央をガラス張りにされたテーブル。その上座に俺。楠郭公、その隣に『情報屋』クアン、向かいには坂本璃々亜、そして下座には杜鵑源が座る。
「……どういう事か、取説お願いしま~す! 幹事長♪」と、源は不満タラタラだったが却下。
何か既視感を覚えているのは俺だけで、それと同時に今はそんな事で揉めている場合ではない。
それにこの場所なら……いつ、何時『屍人』の杉本久楽々がやって来ても可笑しくはない。周囲からも隔絶されて余計に気を配る必要もない秘匿するには絶好の場所だ。
そして俺達はアーサー王の伝説。円卓の騎士のランスロット(=俺。楠郭公)だとかグィネビア(=『情報屋』クアン)だとかヴィヴィアン(=坂本璃々亜)だとかガウェイン(=杜鵑源)等々、そうそうたる顔ぶれの雰囲気だけを物真似して、ものの一分も持たず20秒で飽きた。
因みにその間、俺達3人の仮想体は隣の和室で柴犬の子供達の様に仲良くじゃれていた。『情報屋』クアンの仮想体は未だ詳細が知れず。
何か色々と恥ずかしくなってきたので本題に入ると――
「それなら、『聖徒会』の会長。鐵能戸を尋ねるのが得策ネ!」
自信もって、例の爆弾胸を張ったのは……他でもない。杉本久楽々の一番の親友であり、この世界で『情報屋』として活動しているクアンだ。因みに彼女いわく、その『聖徒会』とやらの副会長に杉本久楽々は抜擢されているんだとか……。なるほど、『聖徒会』の副会長だけに『聖徒会』の会長や会計、書記なんかとも顔が割れている。
だが、本当に爆弾胸の持ち主。『情報屋』クアンの言う通りに事が運ぶだろうか?
不安は拭い切れなかった……が、他に案が浮かばなかったのも事実で、俺達は作戦会議を終えるとそのまま『聖徒会』のある部屋。聖徒会室へと向かう。
この時は特別急ぎの用では無かったので、階段を使った。つまり、例のエレベーターガールと会う事も無い。
「フ! 倭の五王とは?」
「讃・珍・斉・興・武!」
「フ! 良いだろう。開場だ。入って良し」
例の謎の男。この時は煙草のラッキーストライクを吹かしていた。
まあ、そんな事よりも許可を得た俺達は中へ入り、初めて『聖徒会』の面子と相対した。そして――
あの時の事件。俺達は久楽々の父親であり、このゲーム。VRMMORPG【Sacred Agent ~Living area~】のラスボス。更に、現実世界の『埼玉県立ロマン学園』の元理事長。そして、ゲーム会社『マギコス・キクロス』なるものを起ち上げた代表取締役社長の杉本時雨が実の娘、杉本久楽々を連れ去った、これまでの経緯を全て洗いざらい話した。
「……話は分かった。君達三人が期待の新人であり、我等が『聖徒会』の副会長。杉本久楽々の選んだ貴重な人材だという事も。そして何よりも危険なのは杉本時雨。彼女の父親がラスボスだという現実」
その人物。ここ『聖徒会』で聖徒会長を受け継ぎ、務めている通り名『龍聖』事、鐵能戸は事の重大さを理解したのかすんなりと受け入れた。
さすがはこの防衛拠点『埼玉県立ロマン学園』の聖徒達を束ねる指揮官。聖徒会長である。
「だが、今日はもう夜遅い。君達もその事件で疲れている筈だ。その話を聞く限り、杉本久楽々が最初に現れるのは、ここ。聖徒会室の可能性も有り得る。その時が来たら、君達にも報せよう。唯、分かってるとは思うがこの件は我々だけの秘匿情報。くれぐれも他の聖徒達にバレない様に内密に頼む。要らぬ混乱を極力避けたいのはお互い様だろ? 用件が済んだのなら自身の『箱庭』で疲労を癒せ。杉本久楽々も友人の疲労しきった顔など見たくはないだろうからな」
聖徒会長――鐵能戸。中々、その腹の内を見せない狡猾な男だ。
*
まあ、そんなこんながありーの。俺達は今になって杉本久楽々が帰って来た急報を受けたのだ。
例のラスボス。久楽々の父親。杉本時雨が定めた時間はこのゲーム。VRMMORPG【Sacred Agent ~Living area~】を現実世界で正式にリリースするまで。それまでに俺達はいかなる手段を用いてでも強くならなければいけない。
恐らくそのXデーが来た時に杉本時雨はラスボスと言う立場を利用して、今ここにいる聖徒達を皆殺しにするだろう。この世界の真実を改竄し、無かった事にする為に。たぶん、その時にラスボスの本領を発揮する。
因みに今ここに『情報屋』クアンはいない。杉本久楽々が帰って来た事により情報の解禁を聖徒会長鐵能戸から直々に公示する様にと命じられたのだ。
この出来事を多くの聖徒に知ってもらう為に、ありとあらゆる情報網を駆使して、連絡を取っている。『情報屋』クアン。さすが久楽々の親友だ。彼女ならきっとこの世界にいるゲームプレイヤー全員に大事な情報を共有出来ている事だろう。
聖徒会室に入ると、そこに久楽々の姿は無い。あれ? どういう事だ。あの女が『屍人』だからと言って目に見えない訳じゃあるまいし。
それに敏感にいち早く反応したのは、やはりと言えば良いのか定番の男。
他でもない。杜鵑源だ。
「これはどういう事か取説頼むぜ~? 聖徒会長さん。所であんた『龍聖』とか言う称号を持っているんだよな? どれくらい強いのか……俺と一つ手合わせしないか?」
「……ちょっと! 待ちなさいよ。源君、こんな時に仲間同士でいがみ合うのは良くないわ。これから起きる事を少しでも調整してお互いに協力し合う。それが一番大切よ」
「璃々亜の言う通りだ。俺達は一刻でも早く強くならなければいけない。こんな時にこんな所で喧嘩売って負けて、有難うございました~♪ じゃ、済まされねーぞ!」
「負け確定!?」
俺と璃々亜が軽く源を注意したその時だ。何か陰鬱とした雰囲気を放つ女聖徒が一人、苛立ちを隠す事無く曝け出して電気ショックに似た暴言を吐いた。
「仲間? 面白い事を言うね。ボク達『聖徒会』のトップ。『龍聖』の通り名を持つ兄様とたかだか第20期生のクソガキが同じ立場にいるとでも思ってるんデスかね?」
目の下にクマを作ったボクっ娘。女聖徒であり、この『聖徒会』の会計を任されている。債鬼愛とか言う傀儡子だ。話によると、副会長を務める杉本久楽々の事を敵対視している。
「んだとコラ、テメーやる気あんのか?」
今度は俺がすかさず反撃を試みても、
「……ふ~ん? このボクと殺し合うつもりデスか? 杉本久楽々の下っ端三人組如きが?」
「ちょっと待って。何で私まで……?」
内戦・紛争は治まるどころか拡大していく。
「それにしても……あの杉本久楽々は本当に霊体なのでしょうか?」
「ああ。間違いない。彼女がこのVRMMORPG【Sacred Agent ~Living area~】の核。現実世界のどこかにあるサーバー内部。そのマザーボードに憑りついた『魂』……このゲーム内で言う所の『屍人』だ。それもおっぱい爆弾『情報屋』クアンのお墨付き」
俺に質問を投げ掛けたのは『聖徒会』書記の藤原硝子。とても清楚な平安貴族のいで立ちで、長い銀髪を腰まで垂らしている。しかもイケメン。何か見ているだけでボルテージが溜まる男限定のはた迷惑な野郎だ。
「くふふふ……♪ 杉本久楽々は『屍人』。そういう事だったのデスね? 兄様♪」
「いや、俺に振られても困る。問題はその本人の父親。どうやってラスボス杉本時雨を倒すかだ」
……そう。杉本久楽々は『屍人』。
それと同時に杉本時雨の本性を知る俺達ゲームプレイヤーにとって最後の『鍵』となる人物。切り札だ。
「所で奴――杉本時雨が言ってた『機械仕掛けの神』。それは杉本久楽々本人が創り出したものだとして『機械文明史』ってのが今一良く分からんのだが……」
俺が顎に手を添えたまま、首を捻っていると、
「その質問には、私……。本人が説明しなければならないわね」
うわぁ! と、恐怖の雄叫びを上げたのは……まさかの杜鵑源。コイツもしかして中身はビビリ? 反応、速~!
だが、俺も含め他の皆もそれぞれ動揺していたのは確かであり、急に姿を現したのは他ならぬ杉本久楽々。この『聖徒会』――副会長を務める『屍人』。
「――な? 言っただろ? 杜鵑源。久楽々は『屍人』」
なぜか俺がドヤ顔で宣言。自分でも良く分からないが誇らしいのは確かだ。
『主……ダッサ~』
そう言ってやれやれだぜと首を振っているのは言うまでもなく仮想体の『ゲン』。
「そうね……。具体的に言うとまだ生霊なのだけど」
最初に杉本時雨が教えてくれた話だと久楽々は聖なる使者。そしてこの物語の核となるVRMMORPG【Sacred Agent ~Living area~】の創造神。そこから生まれたのが『機械仕掛けの神』。
だが、実際はもっと複雑だ。杉本久楽々が『機械仕掛けの神』を創造したのは……元来オタク気質な久楽々の精神がそれを望んでいたから。その無念な想いが彼女の精神を深く暗いどこまでも続く精神の果てに行くのを寸での所で引き止めた。
「『機械文明史』と言うのは『機械仕掛けの神』を通じた私の記憶そのもの。簡単に言うと、この世界のあらゆる事物・事柄・事象を探る事。物質・生物・自然には『記憶』が宿っているの。プレイヤーがそれに触れると不思議な事に過去の出来事がフルダイブして……この世界の中で蘇る」
怨念・自責・祈願・希望。それは時に人を癒し、人を陥れ、人を壊す。
「ふ~ん? 正に鬼が出るか蛇が出るかデスか」
「その通り。それは【権能】にも深く関係するわ……。唯……私の父親。杉本時雨はそれが私の意識の中である事に未だ気付いていない。サーバー内の『回路』に宿る幾人ものプレイヤー達の『魂』……。それを司るのが『機械仕掛けの神』である私の役割」
「盲点はそこだな。杉本時雨は娘である杉本久楽々を復活させれば、全てが万事治まると考えているが実際は違う。杉本久楽々は霊体であるが故に『機械仕掛けの神』になり得た。少なくとも杉本久楽々の『魂』はこちら側の世界にある。それを取り違えて杉本久楽々が現実世界に目を覚ませば……」
――このVRMMORPG【Sacred Agent ~Living area~】の世界はシャットアウトされて、杉本時雨の野望は潰える――
その為の切り札。杉本久楽々という存在そのものが俺達のジョーカー。最強の手札。
「後は……俺達の『魂』をどう現実世界に戻すかだが……」
「やっぱり、杉本時雨。ラスボスを叩くしか道はないな」
俺と杜鵑源が真面目に話し合っている途中。
「ちょっと良いですか?」坂本璃々亜が挙手をした。
何か奥の手でも思い付いたのか? そう思い、俺と杜鵑源はニッコリ♪ と、彼女――璃々亜に話の権限を促した。
「そろそろ……良いよね?」
坂本璃々亜は久楽々にアイコンタクトで同意を求めた。何だ何だ?
「そうね……もう頃合いかしら。良いわよ璃々亜」
……ん? 今まで久楽々は坂本璃々亜の事をフランクに下の名前で呼んだ事あったっけ? 何気なくそんな事が脳裏を過ぎり――
「実は私は杉本久楽々の妹。それも、幼い頃に生き別れたお姉ちゃんの双子の片割れなの」
実はあるキャラの設定を少し変えてみました。そこを探すのもこの話を楽しむ醍醐味だと思って下されば……嬉しいです!
もちろん、読んでくれた方に感謝。ブクマ登録してくれた方! ありがとうございます!




