ep.14 勝者は……
果たして『逆・鬼ごっこ』の勝者はどちらに傾くのか? 手に汗握る熱戦です。
坂本璃々亜の発言から、俺と杉本時雨はマップ情報が更新される事実を知った。早い者勝ちなのは変わらず……後はどう攻めるか? 鍵となるのは『鬼』である『リリー』の位置とやはり、更新されるマップ情報だ。
「頼りにしてるぜ? マッピングシステムさんよ……! 『鬼』の『リリー』の居場所はあんたに懸かってる」
例の鐘のある時計塔に向かって走りながらそんな事を宣う俺。しっかし、場所が場所だけにどうやって行こうかな? どこかの近くの建物の中へ入り、ベランダ伝いに高所にあるあの時計塔を目指すか?
そんな事を考えてる間にも杉本時雨は狭い路地に入り、その壁を蹴って少しずつだが着実に目的地へと近付いている。先程、坂本璃々亜の平手打ち(という名のハエ叩き)を喰らった事による学習から、建物の入り組んだ密集地帯を選んで動いている。
「今の璃々亜の手はデカいからな。それへの対策も兼ねた奴なりの作戦か。まるで古代インカ帝国。ペルーの世界文化遺産。アンデス山脈ウルバンバ谷標高2430mにあるマチュピチュみたいな迷路遺跡を再現し、現代版にリメイクした街中を利用して遠巻きから攻めている……。クソ! このままでは不味いな! 俺はどうすりゃ良いんだ?」
因みにインカ帝国の首都クスコはもっと高く、標高3400mにも上るが1533年にスペイン人の手で滅亡した。アンデス文明は文字を持たない為、マチュピチュ遺跡が何の為に造られたのか首都クスコとの関係は未だに分からないままだ。
……ん? 璃々亜の手? その時、俺はとんでもない事を思い付いた。
「璃々亜! 俺をその手で時計塔の中へ運んでくれ!」
「了解いたしました」
その名も『神の手』作戦!
時は1986年ワールドカップメキシコ大会。準々決勝。アルゼンチン代表VSイングランド代表。
アルゼンチンは1978年に自国で開催された同大会で国の英雄マリオ・ケンペスがナショナルチームを初優勝へと導いた。そしてその当時17歳だったあのディエゴ・マラドーナはメノッティ監督に『君にはまだ未来がある』と諭され、代表チームには選ばれなかった。
天才レフティーが人生で味わう最初の屈辱。その怒りを晴らすかのように日本で行われたワールドユースでは正に『天才』の名に相応しい活躍をして見せて決勝でソビエト連邦を破り、栄冠を勝ち取る事に成功。
そしてその後、迎えた1986年のワールドカップメキシコ大会。サッカーの母国イングランドとはフォークランド紛争の事もあり、政治上の意味でも緊迫した試合だった。
そこでマラドーナはサッカー界の偉大な象徴となるべく、『善』と『悪』。その両方のプレーを体現した。その一つがあの神の手ゴール。『ゴッドハンド』であり、手で決めてから3分後。ワールドカップ史上最高の5人抜きゴールでイングランド代表に勝利。この大会でアルゼンチン代表は二度目の栄冠を手にする事になった。
……つまり、何が言いたいのかと言うと坂本璃々亜の手を使い目的地まで運んで貰う。
その名も神の手。『ゴッドハンド作戦』だ。
坂本璃々亜はニンマリと妖艶に微笑み、『幻惑の都』。その地上にいる俺に巨大な手を差し出した。なんだ、最初からこうすれば良かったのか。
俺は差し出された璃々亜の掌におずおず乗るとそのままゴンドラかモノレール。もしくは工事現場にあるクレーンの要領でエスカレーターの様に上昇していく。
快適な空の旅を満喫していると、下に奴の姿が見えた。
「杉本時雨……手強い相手だった。もう二度と奴とは相まみえたくないな」
『主……。結局オレ達何の為に合体したのか分からないですね』
俺の仮想体『カッコー』がぼやいた。
「細かい事は気にするな。ポジティブに捉えるんだ。まだ、勝負は終わってないんだし……今日が終われば必ず明日がやって来る!」
等と、勝手に勝利宣言。正直、これって坂本璃々亜を味方に付けたら勝ちなんじゃね?
俺がこの『逆・鬼ごっこ』にてそんな事を思っていたら、奴――杉本時雨も同感なのか、その場で足を止め煙草を吹かし始める。俺はその態度に何か違和感を覚える。
「何だ? もうあきらめたのか。大したラスボスだ――」
「皆、伏せて!」
突然の爆発音。いや、爆発なんて生易しいものじゃない。まるでアメリカの世界貿易センタービルに旅客機が衝突し、一番近くの現場で体感した轟音をそのまま想起させる……プチビッグバン!
9.11同時多発テロ。俺は過去を振り返るテレビでその映像を見た事あるのだが、あんな映画みたいな出来事が実際に起こるとは本当に恐ろしい世の中だと肝を冷やしたものだ。
更に爆発が起こるその直後。俺はハッキリと見た。奴――杉本時雨がニヤリと笑ったのだ。しかも、敵意剥き出しで。本気の殺意を感じた。
ラスボスの本気の殺意。どうやらまだ勝負は終わらないみたいだ。
「……ぐっ!」
気が付くと『幻惑の都』は跡形もなく吹き飛ばされていた。一面焼け野原。まさか1945年8月15日。日本の終戦記念日に時間が巻き戻った錯覚を覚える。そんな教科書に載る時代に生まれてねーけど、東京大空襲の焼け跡とか広島の原爆ドームとかの写真や資料は幾度か見た覚えはある。
そして何故か? 俺と『カッコー』はほぼ無傷で、【権能】を行使していた坂本璃々亜が俺達と同じサイズで、全身にダメージを負っていた。さっきの轟音で耳がキーンとなっているが、そんなのお構いなしで俺達(と、言うか今俺と『カッコー』は漆黒のゴツいスーツで一体化している)は坂本璃々亜の元へと駆け寄る。
「大丈夫か!? 璃々亜……! もしかしてお前――あいつが何か仕出かすのを読んでいたのか?」
「……え、ええ。何せここ『幻惑の都』は女皇帝である私の領地。云わばテリトリーなの。それが意味するのは……正に一心同体。自分の肉体と精神に何か異常が起こったら直ぐに分かる様に、『幻惑の都』の住人達に何が起こったのかも、ある程度把握出来る……わ」
「わ、分かった! 分かったからもうそれ以上喋るな……! 後は俺に任せて、璃々亜。お前は休んでいろ」
「ぐっ……! 『リリー』はどこに……?」
その言葉でハッ……! とする。それと同時に違和感も感じた。坂本璃々亜の仮想体『リリー』は『親』と『子』の主従関係で結ばれている。なのに坂本璃々亜はその気配を察知出来ていない? だとすると……
仮想体の『リリー』は最悪消滅した?
「おいおい……! これ、マジで洒落にならねえぞ! 野郎、どこ行った?」
俺が焼け野原と化した『幻惑の都』の周囲360度をキョロキョロと見渡していると、そいつは何と信じられない事にちょうど目の前にいた。5メートル程の距離。さっきまでそこに奴はいなかった。
杉本時雨。
「おい! お前……! 一体何をした?」
「さっき、杜鵑源を負かした時にも言ったが……君達とはレベルが違う。この捕縛した『リリー』『鬼』を捕まえた報酬は?」
奴は俺の言葉に耳を貸そうとしない。唯、この『逆・鬼ごっこ』のクリア条件を満たし、『幻惑の使者』である『リリー』を解放した。
……ポン♪ と、ポップな音を立てて奴の掌から出てきたのは大きな宝箱。その中に坂本璃々亜の仮想体であり、『幻惑の都』の使者。『鬼』の『リリー』はひょっこり顔を出した。
『……あれれ? 私、ここで何してたのかしら』
俺は『リリー』が無事でいてくれた安堵よりも先にラスボスに怒りを感じる。容赦なくその矛先を向けるべく、奴――杉本時雨の顔面に全力でパンチを放つ……!
バシィ……! 拳独特の鈍い破裂音。それを受け止めたのは――何と、杉本久楽々だ。
「どけ! 久楽々! 奴との勝負はまだ終わっていない」
「……いいえ。どかないわ。これは私の問題よ」
杉本久楽々はニコリと笑い、俺の肩を軽く叩いて跳ね除けた。それだけで思いっきり吹っ飛ばされる俺。
「……ぐっ! くっそ! どうしてだ? 久楽々! 答えてくれ……!」
「直ぐに分かるわ」
冷たく俺をあしらう杉本久楽々。
「取り引きよ。この子達3人とその仮想体には手を出さないで。その代わりに私はあなたの言う通りに従うわ」
そう言って、自身の愛剣『開拓者』を自分の所持品武器一覧データベースに格納。戻した杉本久楽々。
「なら、この街から元の状態に戻して欲しいな。話はそれからだ」
杉本時雨の言葉に無言で頷き、久楽々は坂本璃々亜の方を見遣る。全身傷だらけで呼吸も荒い璃々亜は言われなくても、既に【権能】『幻惑の都』を維持する体力が限界に達していた。
それに、既に『逆・鬼ごっこ』の勝負は付いている。勝者は杉本時雨。
坂本璃々亜が【権能】『幻惑の都』を解くと、地底湖『キュール』へと続く鍾乳洞。最も冒険の始まりに近いダンジョンの全貌がまたも浮き彫りになる。
『逆・鬼ごっこ』の勝者には坂本璃々亜の『因』――『精霊の加護(D)』か『回復の雨(D)』のどちらかを一定時間自由に使える権利を与えられる。杉本時雨は溜め息を吐いて、躊躇なく『回復の雨(D)』を選択。
何のつもりか分からないが、直ぐに『因』を発動。身構える俺などお構いなしにその借り受けた『回復の雨(D)』を使い、坂本璃々亜のいる範囲に降らせた。
少しずつ傷が癒えてくる坂本璃々亜は呼吸も落ち着き、大分傷も目立たなくなってきた。このまま安静にしていれば、命に別状は無いだろう。
それにしても敵に塩を送るとは……何のつもりだ?
「……それで? 彼は牢獄へ送り込まれる手筈ではないのか?」
げげ! 思わぬ一言が突き刺さる。そうだった。敗者である俺は璃々亜の【権能】『幻惑の都』の中の囚人になる罰ゲームが待ってるんだっけ?
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