ep.12 逆・鬼ごっこ
色々と長いです。
「はあああああああ……!」
遂に坂本璃々亜の【権能】が解き放たれた。彼女の『回路』に組成された2つの『因』。それは『精霊の加護(D)』と『回復の雨(D)』だ。
そこに『縁』が繋がり、『因』は効力を発揮。
『因』である坂本璃々亜の能力と、それを指揮する守護者『リリー』は2人で1つ。『精霊の加護(D)』は『火』『水』『土』『風』――四属性の加護を受け取り、『回復の雨(D)』は一定の範囲内に傷を癒やす雨を降らせる。
導き出された【権能】は――『幻惑の都』
突如として周囲360度の景色が変わる。場所はどこかの広場。中心には噴水が湧き、道は綺麗に舗装され、建物の間には等間隔に街路樹が植えられている。
一言で表すならば……美しい。どこか異国にある瀟洒な街並み。
唯、一つだけ摩訶不思議な事がある。この街に暮らす人が一人もいない。強いて言うならばいるのは三人。俺と漆黒のスーツで一体となっている『カッコー』。そして、杉本時雨だ。
「ほ~う? これは見事な街並みだ。実に美しい」
奴。杉本時雨はそんな事を宣う。まだ余裕があるのか実に癇に障る男だ。
「これが……坂本璃々亜の【権能】? 一体どんな効果があるんだ?」
『何か不思議と……安心しますね。主』
仮想体『カッコー』の言う通りだ。ここは、どこか異国の筈なのに……まるで故郷に里帰りしたかのような錯覚を覚える。誰かに見守られている。そんな感覚が俺達を導いている。
杉本時雨には分からないだろう感覚。奴が何考えてるのかこちらにも分からないが、少しよれてきた白スーツの胸ポケットから煙草を取り出し、それを吸いながら興味深げに周囲を観察していた。
俺と漆黒のスーツで一体化している『カッコー』がある種混乱の渦中に取り残されていると、そこに『幻惑の使者』。サーカスにでもいそうな女道化師。蠱惑的な姿にその身を変えた『リリー』がどこからかやって来た。
『ようこそ。我が主、璃々亜領の街。『幻惑の都』へ。今、あなた達は我が主。女帝坂本璃々亜様の支配下に置かれていま~す♪』
「おいおいどういう事だよ。これって坂本璃々亜の【権能】だよな……だよね? つーかそうであってくれ。もしかして……違う?」
コホン! と、軽く咳払いした後『幻惑の使者』と化した『リリー』は俺に向けて一通の手紙を差し出した。しかも、それは……歴史上最も古い木版印刷の手紙だ。
何だ何だ? 何が出てくるのかな?
『まず先程の質問にお答えしましょう。ご安心を楠郭公様。あなたはこの街を統治する坂本璃々亜様から正式に入国許可を与えられました。その手紙の中にその証が入っております♪』
そこにはつらつらと研ぎ澄まされた……まるで女流文学の最高峰。
あの中宮彰子に仕えた紫式部。
中宮定子を夫として迎えた清少納言。
まるで彼女等が現代に生きていて、直筆したかの様な随筆が巧みな筆致で浮き彫りにされていた。
――ようこそ。おこしくださいませ。くすのきかっこうさま――
見事な女文字(平仮名)が楠郭公の目に焼き付いた。
国風文化とは菅原道真の建議により遣唐使派遣中止が決まり、中国(唐王朝)の文化を吸収していた時代、弘仁・貞観期が終わりを告げ、そこから日本独自の文化が生まれた時代を差す。
時は905年。醍醐天皇の命により、古今和歌集を編纂し、土佐日記を著した紀貫之や紫式部の源氏物語などが物語文学の最高峰として今でも語り継がれている。藤原氏が一世を風靡した時代でもある。
最初の和の文化の発祥である。
だが、ここの街並みは現代のもの。或いは極めて現代に近い街並みであり、とても日本古来の奥ゆかしい景観とは似ても似つかない。
唯一つ言える事。それは【権能】を発現した『幻惑の都』の主。女帝とは坂本璃々亜である。
間違いない。これを書いた人物は……坂本璃々亜だ。
平安時代初期に仮名文字が発明された事により、古代日本の随筆文学は発展した。
それまでは漢字の音訓を借りた万葉仮名。カタカナは万葉仮名の一部を使用していた。
因みに女文字が平仮名で、男文字が漢字である。
木版印刷の手紙の最後に入国許可証の印が押されていた。おまけに金印紫綬まで添えてある。
間違いなくあの坂本璃々亜のサインと俺は受け取った。
古代中国の冊封体制みたいな上から目線で粋な計らいをしやがる。
すると……急に街に陰りが差し込み、薄暗くなった。何だ? と、思いつつ何気なく上を見るとそこには信じられない光景が俺の目に焼き付いた。
「はぁ!?」思わず大声を上げるのも無理はない。俺が見た先にあったもの……それは――
『どういう事ですか? 主!』漆黒のスーツ。仮想体の『カッコー』もドン引き。
巨大な坂本璃々亜の顔だった。
「ほう? 奴さんこれまた随分と大きくなって――」
ラスボス。杉本時雨が何かを言うのを遮り、坂本璃々亜はやんわりと告げる。
「いいえ。それは勘違いです。あなた達が小さくなったのよ」
「……何?」
「……マジ?」
さすがのラスボス杉本時雨もこれには意表を突かれた。俺も同じなんだけどね。
『……主。自らの【権能】である『幻惑の都』の特徴を敵に早速バラして良いのですか?』
「あ~……ごめんごめん。初めての【権能】で羽目を外しちゃったの♪ まあ、ここは後でカットしてね!」
『残念ですが、後で編集作業出来た所で時すでに遅し……ですよ? ing形ですから』
「…………はい。私が発動した【権能】――それは『幻惑の都』と言って、ここにいる敵味方問わず一度『幻惑の都』に入ったら私の決めたルールに沿って駒として動いて貰います」
『主……さり気なく話題を逸らしましたね』
さっきまで司会進行役として動いていた『幻惑の使者』、『リリー』はバツが悪いのか溜め息を吐いた。巨大化――いや、俺達が小さくなっても坂本璃々亜はのほほんとしている。ある意味、ホッとした。
「お前さんの駒として動く……か。大方この舞台、『幻惑の都』とやらもあんたの盤上。掌の上って事だろ?」
「ええ。そうです……が、不可解なのは杉本時雨さんの方ですよ。あなた、私の【権能】発動時。その網にわざと嵌まりましたね?」
坂本璃々亜の皮肉。それを聞いた俺は思わず舌打ち。奴はどことなく薄笑いを浮かべている。大方、俺達の【権能】を身体で体感してどれ程のものか試してるんだろう。ラスボス故の余裕。どこまでも憎たらしい奴だ。
「……それで? 璃々亜。君の【権能】――『幻惑の都』に俺とこの目の前のオッサンが小さくなって閉じ込められた訳だ。これから俺達に何をさせるんだ?」
「はい。実に良い質問ですね。答えは『鬼ごっこ』です」
――『鬼ごっこ』……!?――
開いた口が塞がらないのは俺だけだろうか? 横目でチラリと奴、杉本時雨の方を見ると……何が面白いのか喉の奥でクック! と、笑っていた。
「当然ですが唯の『鬼ごっこ』ではありません。『鬼』は『幻惑の使者』である『リリー』、そしてそれを追うのは楠郭公様と杉本時雨様。『幻惑の使者』である『鬼』の『リリー』は敵味方関係なく公平に街中を逃げ隠れします」
「本来の『鬼ごっこ』の逆バージョン。と言う解釈で良いのかな?」
「そうですね。その解釈で問題ありません」
……なるほど。坂本璃々亜の仮想体。『リリー』がこの『幻惑の都』で『鬼』を務めるのならば、当然何らかの能力を駆使して逃げ惑う事になるな。
今の所、『親』である坂本璃々亜の『回路』。そこから発動した『因』は2つだけ。
『精霊の加護(D)』と『回復の雨(D)』――援助と回復。どちらも攻勢に特化した能力ではない。でも、油断出来ない。
「そこから更に、楠郭公様と杉本時雨様に朗報です。この街、『幻惑の都』内での『鬼ごっこ』にて……『鬼』である『幻惑の使者』の『リリー』を捕まえる為ならば手段は問いません。武器、アイテム、何らかの【権能】を使役する……つまり、何でもありです」
「なるほど」「ふむ。分かった」
俺と杉本時雨は同時に首肯した。当然これが普通の『鬼ごっこ』ではない事は承知している。強いて言うなら『逆・鬼ごっこ』だ。
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