ep.11 突き付けられた現実
杜鵑源の【権能】が炸裂……!
「……ほ~う? 中々素敵な【権能】だ。それでもまだヒヨッ子だがな」
奴――杉本時雨の動きは確実に鈍っている。それを『術式・重力(D)』の重力空間内部。仮想体『ゲン』のバイクを操縦して確認した杜鵑源は攻勢に移る!
【権能】『重力無双』――『鉄拳制裁重力突き』!
『ゲン』のバイクからハイジャンプして、重力空間の圧力を内部から拳に集中させる。まだ限られた空間でしかない、D級の重力空間をなるべく消滅させない様に適度な大きさである三つの大小様々な重力の籠もったボールを限界ギリギリまで切らさず、自分の右手に集めた。そしてストレートの一撃を解き放つ……!
「喰らえ! 『鉄拳制裁重力突き』!」
極限の咆哮。杜鵑源の【権能】。それも全力。渾身の右ストレートを杉本時雨。このゲーム世界のラスボスに向けて打ち抜く!
狙うは顎。掠りでもしたら、その衝撃で脳が揺さぶられ脳震盪は免れない。こういう時に何気機転の利く杜鵑源の頭の良さはさすがである。いや、脳筋だからバトルIQなのか?
全力で打ち抜いた拳。その時、絶対的な力の差を肌で感じ取ったのは――杜鵑源の方だ。
「……な!?」
「そうか。これが君の【権能】とやらか……実に惜しい。実に勿体ない。そして……それを凌駕する程、実に物足りない。ここでその芽を刈り取るのも気が引ける」
どういったトリックか? 杜鵑源のその渾身の一撃を利き手じゃない方の左手オンリーで軽く受け止める杉本時雨。
「ど、どうし――」
「どうして自分の最強の一撃をこんなにも易々と受け止められるのか? 答えは単純明快。レベルの差だ」
圧倒的なレベルの差。
それを証明するかの様に、杉本時雨は何の【権能】も発動しない。いや、それどころか、『回路』の力を使わずにまるで合気道の達人が一般人を軽くいなして、ふわりと宙に浮かせる要領でガタイの良い杜鵑源の身体を引っ繰り返した。
……嘘だろ? 杜鵑源はあの右ストレート。『鉄拳制裁重力突き』を放ち、敵。杉本時雨に軽く受け止められた時に既に違和感を感じ取っていた。
奴。杉本時雨に自分の拳が触れた瞬間。明らかに違う空気が流れた。
どこか場違いな……漠然とした空気。奇妙な気配。それを感じ取った時、自分は実力で負けたと思い至らせる――弱者だけが分かる危険信号。
この領域。【権能】――『重力無双』は自分が開拓し侵したテリトリーだ。その内部で負ける訳は無いと高を括り、無意識で感じていた錯覚を直視しない様に戦闘にだけ集中していた。
奴が甘んじて自分の【権能】を受け入れた訳を漸く理解した杜鵑源。
何かのチート能力? いや、違う。奴は……正々堂々と杜鵑源に真っ向から戦いに挑んだ。
それが故に感じた力の差。レベルの差。
しかも、【権能】――『重力無双』の発動を阻止する事も可能だった筈。なのに奴はそれをしないで……杜鵑源に攻勢の機会を譲ったのだ。
「君はほんの一瞬、私がこのゲーム世界のラスボスである事を忘れていた」
未だに『重力無双』は展開されている。そんな中でも奴。杉本時雨は余裕の表情で言葉を紡ぐ。
ガクッ! と、膝から崩れ落ちる敗者。杜鵑源は戦意喪失。
まるで立場逆転。【権能】――『重力無双』を発揮したのは杉本時雨の方で、その被害者が杜鵑源にあたかも見えてしまう錯覚。
これがこの世界の現実。VRMMORPG【Sacred Agent ~Living area~】の最強の敵。ラスボス杉本時雨の力だ。
「お……俺の『重力無双』の中で合気道をしてみせたのも――」
「その通り。君は見た目とは裏腹に中々賢いな。既に理解しているとは思うが、レベルの差だ。それを分からせる為に……即興で合気道をしたのだ。戦いにおける君、杜鵑源の才能。それは認めよう。但し君には実力が圧倒的に足りていない」
必然。まだ『ジュール・リオ・フィールド』の最初のダンジョン。地底湖『キュール』へと続く鍾乳洞の雑魚魔物を手当たり次第に倒した所で、レベル上げ最中の新人がいきなりラスボスと戦う事自体が無謀だったのだ。しかし、杉本時雨はニコリと微笑み止めを刺さない。まるで赤子をあやすかの様な柔和な表情で杜鵑源を見ていた。
そして、タイムリミット。杜鵑源の【権能】――『重力無双』は解除された。
戦意喪失したのか、杜鵑源の『回路』。そこに発現した3つの『因』――『身体能力(+5)』『術式・重力(D)』『リサイクル(D)』の力は失われていく。その橋渡しをする『縁』もその源が失われれば、繋げる事は出来ない。
『……主! お怪我はありませんか?』
膝から崩れ落ちた絶望の果て。そんな杜鵑源にすぐさま駆け付け、寄り添ったのは……他でもない主従関係を結んだ『子』である仮想体の『ゲン』だ。既にバイク形態から元の姿に戻っている。
「悪いな……相棒。お前がバイクに変身したってのに……俺はこのザマだ。あの野郎に掠り傷一つ喰らわせられない」
『……ぐすっ! 主~。だったら、もっと強くなれば良いじゃないですか~……!』
「お前、まさか……泣いてんのか?」
思わず苦笑。そして突き付けられた現実と新たな目的。
そうだ。『ゲン』の言う通りだ。もしも、どうしても勝てない相手が現れたら……もっと強くなれば良い。この世界で生きている限り、強いて言えば元の世界に戻っても……生きていれば、皆それぞれの目標に向かって駆け抜けていく。
杜鵑源が一つ学んだ事。小さな相棒がそれを教えてくれた。
「さて……もう終わりかな?」
ラスボス。杉本時雨はニコリ♪ と笑っている。さも嬉しそうに。
その顔が物語るのは残酷な現実。
「まだよ! ……行けるわよね? 『リリー』」
『ううう……。正直怖いですけれど、やらなきゃいけないんですよね?』
「そうだ。俺達ならまだやれる! ……だろ? 『カッコー』」
『ふっふっふ♪ 我が主の言う通り~。オレ様に任せて一網打尽だ!』
恐らく補助の【権能】を発現されるであろう坂本璃々亜と仮想体の『リリー』。
杜鵑源が倒れた今。
俺――楠郭公と『カッコー』、坂本璃々亜と『リリー』はお互いのやるべき事を理解していた。
一対一での勝負が駄目なら、坂本璃々亜と『リリー』の【権能】を受け、連携に繋げる。守備の要を坂本璃々亜と『リリー』に任せて俺――楠郭公と『カッコー』は攻めに転じる。
唯、この戦い方には一つのリスクが伴う。俺の【権能】が攻撃に特化した能力でなければ……いくら坂本璃々亜が補助系の【権能】に目覚めたとしても、勝負はお預け。確実に詰む。
今、俺と『カッコー』は『統一者(A)』により一体となっている。『親』である俺が本体で、身に付けた漆黒のゴツいスーツが『子』の仮想体。『カッコー』だ。
『回路』から直接、より強力な力が全身に漲ってきている。奴、杉本時雨は言っていた。俺の『魂』に組成された『因』――『統一者(A)』はA級だと。
その意味する意図はまだ分からないが、『因』発現時に奴の狼狽えていた所から察すると、俺の『統一者(A)』はそれなりに優れた代物なのだろう。
それだけに油断は出来ない。圧倒的有利かと思われたあの杜鵑源の【権能】が軽くいなされたのだ。
けれども俺の心配は杞憂に終わる。
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