ep.10 重力無双
気の向くままに読んでくれたらなと思います。
その時だ。俺達3人。楠郭公、杜鵑源、坂本璃々亜の心臓を宝石のコレクションに変えた初老の男。
白スーツを着こなした久楽々の父親。ラスボスの下に何か奇妙な白い靄の様なモノが複数集まって来るのが見て取れた。
……うふふふふ。久楽々、久しぶりねぇ~?……
……最近会わないと思えば……こんな所で何してるんだ久楽々?……
……強力な力の源を辿ってみれば……もしかして時雨さんと久楽々?……
「そろそろ来る頃合いだと思っていたよ。久楽々。君と同様の今は亡きお友達だ」
「……『屍人』」
――『屍人』――
彼等彼女等はこのゲームで生き、このゲームで死んだ。
実体のない云わば幽霊。
その生き様は個人それぞれ違う。唯、死後の意識は共通してこの世界に取り残されてる。
それには『魂』と『回路』の関係が大きく影響している。
元々このゲーム世界に存在する為には、一番最初の時点で『魂』を預けなければならない。
一時的な『魂』と『回路』の結合。
恐らくそれはどういう理屈でそうなるのかは謎だが、俺達の『魂』そのものをこのVRMMORPG【Sacred Agent ~Living area~】の中。現実世界で言う機械。プレイヤーデータである聖なる使者の権利を外側から管理し、ゲームクリアするまで鍵を掛けてロックする。
映画などでよくあるパスワードを入力して、アンロック出来るのとは全く異なる方法でだ。
サーバー内にあるデータベースやファイルの中に俺達の聖なる使者の権利は存在して、その根っ子にあるパソコンの『回路』を何とかして破壊しなければこのゲームから強制離脱する事は不可能。
つまり……俺達プレイヤーはこの目の前のラスボス。杉本久楽々の父親。杉本時雨の設立したゲーム会社。『マギコス・キクロス』社の消費者。その顧客としてサーバー内にある『魂』を文字通り機械の心臓部。『回路』を中心として書き加えられた悲しき被害者。
『埼玉県立ロマン学園』と言う一つの仮想空間を釣り餌にされた魚でしかない。
但し……それがどのような理屈で出来ているのか? 元々『魂』なる曖昧な概念を『回路』それも機械の一部に取り込む事等、普通じゃ考え付かない。あり得ない事態だ。
だが、その事を如実に物語るのが……このゲーム世界に彷徨う『屍人』の存在。
ここVRMMORPG【Sacred Agent ~Living area~】がもし……俺達プレイヤー。その『魂』の聖なる使者の権利を一つのデータ。一つの情報として扱っているのならば……元いた世界。そこにある杉本時雨の起業したゲーム会社『マギコス・キクロス』はこの事態を外部に秘匿する為、少なくともゲームクリアまでは情報を絶対に開示しないだろう。
それこそマスコミに嗅ぎ付けられて、証拠のデータが流出しない限り、この現実は続くのだ。
何せ俺達は……現実世界には既にいないのだから。
その為、俺達はここから出られない。死んでしまったプレイヤー達の『魂』もこのゲーム世界に残り続けるのだ。
「……聖なる使者。そして、その生活圏」
『屍人』が空中を舞い、漂う中。ボソッと呟いた杉本久楽々。
それは……このゲームタイトルの和訳。
「……ふん! 今更もう遅い。だが、これで良いのだ。久楽々よ。よく聞いてくれ。私は愛する娘であるお前を救う為には手段を選ばな――」
「黙ってて!」
初めて見せる。杉本久楽々の激高。もしかして彼女はこの世界を望んでいない? なら、どうして俺達にVRMMORPG【Sacred Agent ~Living area~】の入り口。その『鍵』を託したのか? この時の俺に知る由もない。
「ならば仕方ない。話題を変えよう。このゲーム世界は誰が原因として創られたのか?」
「……!」
杉本久楽々は愛剣『開拓者』。その刃の切っ先を容赦なく杉本時雨の顔面に向け、翳す。
明らかに敵対した眼で、実の父親を今にも射殺さんばかりに。しかし、その表情は苦し気に涙で歪んでいる。
「よ~う♪ パパ! 俺達の存在を忘れてないか~?」
その時だ。バイクに変形した『ゲン』の上に跨り、全力疾走で近付く者が一人。他でもない杜鵑源が戦闘に割り込んでくる! そして……【権能】を発動!
杜鵑源の『回路』に備えられた3つの『因』。
手札は『身体能力(+5)』『術式・重力(D)』『リサイクル(D)』だ。
その3つの『因』の橋渡しとして『縁』は繋がる。
更に『親』から『子』へ。仮想体『ゲン』はそれらの力。原動力を受け継ぎバイク形態に変化。そこから導き出される【権能】は――『重力無双』!
向上した自身の身体能力を活かし、『術式・重力(D)』を展開!
『術式・重力(D)』とは魔法陣から解き放たれた球状の重力亜空間。その重力ホールを用いて敵を押し潰したり、圧力で自由な動きを封じたりする術の一つである。
『術式・重力(D)』の『(D)』とはその術の格式。D級の事を表しており、術の格式は『D』~『S』(下から『D→C→B→A→S』と格付けされている)まであり『術式・重力(D)』は最も覚えやすい最底辺レベルの重力術式だ。
展開した『術式・重力(D)』を用いて魔法陣を杉本時雨の立ち位置に発動! 直ぐに球状の重力空間が出来上がると、そこにラスボス。杉本時雨は飲み込まれた。
それと同時にバイクと化した『ゲン』で疾駆、杜鵑源もその重力空間に入っていく……!
重力空間内部は『リサイクル(D)』により、杜鵑源の意思により常に再生循環されている。その為、基本的にはこの重力空間が途切れる事は無い。
「さ~て。ショータイムだ……! 果たして俺の攻撃に耐える事が出来るかな?」
【権能】――『重力無双』!
重力空間内での激しい攻防戦が繰り広げられる。優位と化したのは当然仕掛けた杜鵑源&『ゲン』だ。何せ、この『術式・重力(D)』を発動したのは杜鵑源本人なのだから。内部の重力空間ではその圧力を軽くするのも重くするのもお手の物。
つまり、杜鵑源&『ゲン』は最軽量の状態に仕組み、より仮想体の『ゲン』が変形したバイクで超スピードで加速する事が出来る……!
その一方で、相手の杉本時雨を最重量の重さに仕組んでその動きを束縛する。今、正に杉本時雨は肌で感じているだろう。自分が立たされた位置。そこから一歩も動けない、例えるなら囚人が足に重い鉄枷を嵌められた様な絶対的初動速度の差を……。
これがサッカーで言う所のホーム&アウェイ方式の試合ならば、観客の声援を背に受けて地元で絶好調の調子を整え高いモチベーションを維持し、試合の主導権を握っているのがホーム側。杜鵑源&『ゲン』。
一方、自分の観客が少ない中。自らの精神を鼓舞。何とかして守備に徹しカウンターで一点もぎ取るのが目的となるアウェイ側。それが杉本時雨の方になるだろう。
唯、これはサッカーでは無い。杜鵑源が発動した【権能】――『重力無双』。それも生きるか死ぬかの殺し合い。
古代ローマ帝国の剣闘士を思わせる命のやり取り。
敵は猛獣か……それとも同じ奴隷とされた単なる凡人か?
答えは言うまでもないだろう。
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