――★前編★――
午前七時、目覚ましがサイレンみたいに脳内を爆撃。浮環式メガシティ〈リブート・シティ〉では、毎日午後五時になると都市まるごと時間が巻き戻る――らしい。住民の大半は記憶まで巻き戻る。だけど私は例外。だから百回目の同じ金曜日を迎えた。
私は夢見いろは。自称実況系女子高生、恋脳ハイテンション体質。リブートのたびに記憶だけ増量、学力もゴリゴリ上がってるのに「告白スキル」は0%据え置き。ターゲット……いや「お相手」は同級生の瀬川遼くん。黒髪さらり、ピアノ鍵盤みたいな指、そして毎朝同じホームルームで「おはよ」と笑う。
今日もリセット前恒例「放課後ラプソディ大作戦」を発動。だが、校門を出た瞬間に頭上の軌条型ホログラム時計が赤く点灯――〈システムリブートT-3:00:00〉。タイムリミット三時間で告白? 無理ゲー匂がプンプン。
〈自意識実況チャンネルON〉
〈実況〉「主人公選手、今日こそ恋を射止められるか!? 残機──∞(実質)!!」
午後二時。桜型ドローンが花びらホログラムを散らすメインストリート。私は遼くんの真横を歩きながら「肩ポン→チラ見→会話へ接続」という必殺・恋の三段跳びをシミュレート。
――ポン。
遼くん「ん? いろは、今何か言った?」
私「い、いやっ、その、空の色キレイだねー!」(語彙蒸発)
時計はT-2:12:45。やばい。
〈作戦A〉失敗→〈作戦B〉へ。〈B〉は「メッセアプリ符号ラップ告白」。けれど送信ボタンに指を置いた瞬間――スマホ画面に〈エリア内通信停止〉が点滅。リブート三十分前になると市全域で通信が凍結される仕様。
私は屋上へ駆けた。校舎最上部の風は高層都市の下降気流で竜巻みたい。
「遼くんが好きだぁぁぁぁ!!」
叫んだ声はビル壁に跳ね返り、自分にブーメラン。誰にも届かない。空の下、ホログラムの秒読みが点滅を速める。
T-00:00:30。街灯が一斉に逆流光を放ち、世界は薄桃色のシャッターで覆われる。私は手すりを強く掴む――「好き」が虚空に溶け、視界がホワイトアウト。次の瞬間、ベッドの上にリスタート。
百一回目の金曜日、また始まり。
でも今日は違う。リブートの直前、屋上の空に緋色の裂け目が見えた。そこから歯車みたいな巨大な瞳が私を覗いていた。もしあれが時間を巻く〈コア〉……? 破ればリブートを止め、遼くんへリアルな「好き」を届けられる。
私は決めた。次こそ、告白成功→世界停止→恋脳エンディング。
〈実況〉「次回、主人公選手は時を超えるラブクラッシャーに変身!?」
――前編、終了。