第八章 秘密の崩壊
冬が終わりを迎え、新しい年が来た。
2026年2月10日、月曜日。
朝、窓を開けると、雪が解けて地面が濡れてた。
空は灰色で、どこか重い感じがした。
私の「最後の1年」は9ヶ月目。
あと3ヶ月しかない。
時間が減るたび、体が重くなって、心も追い詰められてる。
最近、毎日がきつい。
咳が止まらなくて、血が混じるのは当たり前になった。
熱が下がらない日も多くて、学校に行ける日が減ってきた。
病院で先生に「もう入院しかないよ」って言われたけど、「あと少しだけ」って頼んだ。
1年しかないなら、最後まで母さんと、彩花と、悠斗と一緒にいたい。
でも、もう限界が近いのはわかってた。
悠斗と付き合い始めてから、1ヶ月半。
クリスマスの告白以来、彼とは毎日少しずつ話して、放課後に図書室で本を読んだり、帰り道を一緒に歩いたりした。
彼は無口だけど、私のペースに合わせてくれる。
優しくて、そばにいてくれるだけで幸せだった。
でも、病気のこと、言えなかった。
隠したまま、普通に笑ってたいって思ってた。
母さんは最近、私の様子がおかしいのに気づいてる。
「みさき、病院行こう。顔色悪いよ」って何度も言うけど、「風邪だから平気」って嘘をついた。
彩花も「みさき、最近元気ないよ。大丈夫?」って心配してくる。
私は笑って誤魔化してたけど、もう隠しきれなくなってた。
その日、学校に行った。
朝、熱があったけど、薬を飲んで無理やり起きた。悠斗と彩花に会いたかった。
1年しかないなら、1日でも多く一緒にいたい。
母さんが「休みなさい」って言ったけど、「大丈夫だよ。学校楽しいから」って笑って出てきた。
コートにマフラー、手袋を着けて、カバンにハンカチと薬を入れた。
鏡を見て、顔色が真っ白だったけど、チークで隠した。笑顔も忘れずに。
教室に着くと、彩花が「みさき! やっと来た! 心配したんだから!」って駆け寄ってきた。
私は「ごめんね、ちょっと寝坊しただけ」って笑った。
彼女が「ほんと? 顔色悪いよ?」って言うから、「平気だよ。彩花が心配しすぎ」って誤魔化した。
でも、彼女の目が真剣で、胸が痛かった。
悠斗が隣の席で、「お前、熱あるだろ。無理すんなよ」って言ってきた。
私は「うん、ちょっとだけ。薬飲んだから大丈夫」って笑った。
彼が「嘘つけよ。目が赤い」って言うから、「寝不足だよ」ってごまかした。
でも、彼の目が鋭くて、逃げられなかった。
1時間目の授業中、頭がぼんやりしてた。
先生の声が遠くに聞こえて、ノートを取る手が震えてた。
胸が苦しくて、咳がこみ上げてきた。
ゴホッ、ゴホッ、私は慌ててハンカチで口を押さえたけど、血が滲んで、手に赤い染みが広がった。
隣の悠斗が「佐藤、大丈夫か?」って小声で聞いてきた。
私は「うん、平気」って笑ったけど、声が掠れてた
2時間目が始まる前、立ち上がろうとしたら、視界がぐらっと揺れた。
体が重くて、足に力が入らなかった。
次の瞬間、目の前が真っ暗になって、床に倒れた。
ガタンって音がして、誰かが「佐藤さん!」って叫んだ。
遠くで彩花の声が聞こえた。
彩花「みさき! みさき、大丈夫!?」
意識が戻った時、私は保健室のベッドに寝てた。
頭が痛くて、体がだるかった。
目を開けると、彩花と悠斗がそばにいて、二人とも泣きそうな顔だった。
保健の先生が「病院に連絡したよ。救急車呼ぶから」って言ってた。
私は慌てて、「大丈夫です、ちょっと貧血で」って言ったけど、声が弱すぎて誰も信じなかった。
彩花「みさき、何!? 何でこんなことに!?」
彩花が涙声で聞いてきた。
私は「ごめんね、平気だよ」って笑おうとしたけど、咳が出て、ハンカチに血が滲んだ。
彩花が「血!? みさき、血が出てるよ!?」って叫んで、泣き出した。
悠斗が私の手を握って、「お前、病気だろ。隠してたのか」って言った。
低い声で、怒ってるみたいだった。
美咲「…ごめん」
私がそう呟くと、彼が「何で言わなかったんだよ」って涙声で言った。
初めて見る悠斗の泣き顔に、胸が締め付けられた。私は「泣かないで。普通にいたかっただけだから」って言ったけど、涙がこぼれて止まらなかった。
救急車が来て、私は病院に運ばれた。
母さんが駆けつけてきて、私の手を握って泣いた。
母さん「みさき、ごめんね。気づいてあげられなくて」って。
美咲「母さんのせいじゃないよ。私が隠してただけ」って笑ったけど、声が小さくて、苦しかった。
病室で、医者が母さんに説明してた。
医者「末期がんです。転移が進んでて、もう治療では止められない。余命は数ヶ月です」
母さんが「そんな…」って泣き崩れて、私は目を閉じた。
1年って言われたのに、3ヶ月しかないなんて…早すぎるよ。
彩花と悠斗が病室に来た。
彩花「みさき、ごめんね。気づかなかった」
美咲「彩花が悪いんじゃないよ。隠してた私が悪い」
彼女が私の手を握って、「大好きだよ、みさき。ずっと友達だよ」って言ってくれた。
「私もだよ。ありがと」って笑った。
悠斗がベッドのそばに立って、私を見下ろしてた。
目が赤くて、黙ってた。
美咲「ごめんね、悠斗くん。隠してて」
悠斗「何で言わなかったんだよ。俺、お前が好きだから…知りたかった」って涙をこぼした。
私はびっくりして、「私も好きだよ。ずっと好きだった」って言った。
彼が私の手を握って、「俺もだ。お前がいなくなるなんて、嫌だよ」
温かい手で、涙が止まらなかった。
美咲「ごめんね。でも、そばにいてくれるだけで幸せだったよ」
私がそう言うと、彼が「俺もだ。お前と一緒にいられて、幸せだった」って言って、私の額にキスしてきた。
柔らかくて、温かくて、胸が締め付けられた。
1年しかない私に、こんな愛があっていいんだ。
その夜、母さんがそばにいて、私はノートを出した。
手が震えて、字が書けなかった。
母さんが「私が書くよ」って言ってくれた。
私は目を閉じて、言った。
『2026年2月10日。学校で倒れた。秘密がバレちゃった。彩花と悠斗が泣いて、母さんも泣いた。私も泣いた。1年しかないって思ってたけど、3ヶ月しかないんだって。怖いよ。でも、好きって言えて、好きって言われて、幸せだった。悠斗くん、彩花、母さん、みんな大好きだよ。ありがとう。もう少し頑張るよ』
母さんがノートを閉じて、私の手を握った。
私は目を閉じて、眠った。
胸が苦しくて、息が浅かった。
でも、みんなの顔が浮かんで、温かかった。