第六章 初めてのデート
秋が深まって、木々が色づいてきた。
2025年11月3日、土曜日。
朝、窓を開けると、冷たい空気が頬を撫でて、遠くでカラスの声が響いてた。
カレンダーを見ると、私の「最後の1年」はもう7ヶ月目。
あと5ヶ月しかない。
早いなって思うたび、胸が少し重くなる。
最近、体調が悪い日が続いてて、学校を休むことも増えた。咳がひどくて、血が混じる回数も多くなった。病院で先生に「進行が早いね。入院も考えた方がいいかもしれない」って言われたけど、「まだ大丈夫です」って断った。1年しかないなら、家で母さんと、友達と、普通に過ごしたい。入院なんて、最後まで我慢したい。
でも、今日は特別な日だ。悠斗と出かける約束をした。
初めてのデートだよ。
私が「紅葉見に行きたいな」って何気なく言ったら、彼が「じゃあ、行こうか」って返してくれた。
びっくりしたけど、嬉しくて、昨日からドキドキしてる。
彩花に話したら、「みさき、やっと恋っぽいじゃん!」ってからかわれた。私は「デートじゃないよ、ただの友達同士」って否定したけど、心の中ではちょっと期待してた。
母さんは朝から仕事で、「楽しんできてね」って笑って出かけてった。私はワンピースにカーディガンを羽織って、髪を少し巻いてみた。鏡を見て、顔色が悪いのに気づいて、チークを多めに塗った。咳が出ないように、ハンカチと薬をカバンに入れた。カメラも持ってく。写真、撮りたいな。
待ち合わせは駅前の広場、午前10時。
少し早めに着いたら、悠斗がもういた。グレーのニットに黒いパンツ、シンプルだけど似合ってる。
彼、私を見つけると軽く手を上げて、「お前、早いな」って言った。
美咲「悠斗くんも早いじゃん。楽しみにしてたんだ?」
私が笑うと、彼が「まあな。紅葉見るの久しぶりだし」ってそっぽを向いた。照れてるみたいで、ちょっと可愛かった。
私は「じゃあ、行こうか」って言って、二人でバスに乗った。目的地は近所の公園。紅葉がきれいだってネットで調べて、私が提案した場所だ。
バスの中、窓から見える景色がどんどん色づいてて、私は「きれいだね」って呟いた。
悠斗が「うん。秋って、なんか落ち着くな」って言った。私は「だよね。桜も好きだけど、紅葉もいいな」って返した。桜は私の「最後」になるだろうけど、紅葉は今を楽しめる。1年しかない私には、全部が特別だ。
公園に着くと、木々が赤や黄色に染まってて、まるで絵みたいだった。風が吹くたび、葉っぱが舞って、地面に積もってた。私はカメラを出して、写真を撮り始めた。紅葉のトンネル、ベンチに落ちた葉っぱ、全部きれいだった。悠斗が「写真好きなんだな」って言うから、「うん、小さい頃から好き。思い出残したいから」って答えた。
悠斗「なら、俺も撮れよ」
彼が私のカメラを手に持って、シャッターを切った。私は「え、待って、変な顔してたかも!」って慌てたけど、彼が「普通だよ」って笑った。初めてちゃんと笑うとこ見て、胸がドキッとした。優しい顔するんだな。
二人で公園を歩いて、紅葉の下で写真を撮り合った。私は悠斗にカメラを渡して、「撮ってよ」って言ったら、彼が「動くなよ」って真剣に撮ってくれた。出来上がった写真を見ると、私、笑ってて、ちょっと顔色悪いけど幸せそうだった。悠斗が「いい写真だな」って言うから、「ありがと。悠斗くんも撮ろうよ」って言って、今度は私が彼を撮った。紅葉を背に立つ悠斗、静かでかっこいい。シャッター押すたび、胸が温かくなった。
お昼になって、ベンチに座って持ってきたおにぎりを食べた。私が朝作ったやつで、悠斗にも分けてあげた。「これ、前のお礼ね」って言うと、彼が「美味いな。ありがと」って食べてくれた。私も食べて、紅葉を見ながら「こういう時間、好きだな」って呟いた。
悠斗「俺もだ。静かでいい」
悠斗がそう言って、空を見上げた。私は彼の横顔を見て、ふと思った。この人ともっと一緒にいたいな。1年しかないけど、こんな日があと何回あるんだろう。
その時、咳がこみ上げてきた。
ゴホッ、ゴホッ。私は慌ててハンカチで口を押さえて、「ごめん、ちょっと喉が」って誤魔化した。悠斗が「大丈夫か?」って聞いてきて、私は「うん、平気だよ」って笑った。でも、ハンカチに赤い染みがあって、隠すのに必死だった。彼がじっと私を見て、「隠してるだろ」って言った。前と同じ鋭い目で、心臓がドキドキした。
美咲「何でもないよ。風邪の残りだから」
私がそう言うと、彼が「嘘つけよ。顔色悪いし、最近休みすぎだ」って言った。私は言葉に詰まって、「ほんと大丈夫だから」って笑った。でも、彼が「何かあったら言えよ。俺、気づいてるから」って低く言ってきて、逃げられなかった。
「ありがと、心配してくれて。でも、ほんと平気」
私はそう言って、カメラを手に持った。「ねえ、もう1枚撮ろうよ」って話題を変えた。悠斗が少し黙ってから、「わかった」って頷いてくれた。私たちは紅葉の前で並んで、セルフタイマーで写真を撮った。
出来上がった写真、私と悠斗が笑ってて、紅葉がきれいだった。幸せな瞬間だ。
夕方になって、公園を出た。帰りのバスの中、私は少し眠くなって、目を閉じた。悠斗が隣にいて、「疲れたか?」って聞いてきた。私は「うん、ちょっと。でも楽しかったよ」って答えた。彼が「なら良かった」って言って、私の肩に軽く触れた。温かくて、安心した。
駅で別れる時、私が「ねえ、悠斗くん。もし私が消えたら、どうする?」って冗談っぽく聞いた。1年しかない私には、重い質問だったけど、笑顔で隠した。彼が一瞬黙って、私をまっすぐ見て、「探すよ。お前がいなくなっても、探す」って言った。真剣な声で、胸が締め付けられた。
美咲「そっか。ありがと」
私が笑うと、彼が「気をつけて帰れよ」って言った。私は「うん、悠斗くんもね」って手を振って、電車に乗った。窓から見える夕陽が、紅葉みたいに赤くて、きれいだった。
家に帰って、ベッドに倒れ込んだ。体がだるくて、咳が止まらなかった。ハンカチに血が滲んでて、怖くなった。私はノートを出して、日記に書いた。手が震えて、字が乱れてた。
『2025年11月3日。悠斗くんと紅葉見に行った。初めてのデート。写真撮って、おにぎり食べて、笑った。楽しかった。咳がひどくて、血が出た。隠したけど、悠斗くん気づいてるみたい。怖いよ。1年しかないのに、こんな幸せな日があっていいのかな。
もっと一緒にいたい。探すよって言ってくれた。
泣きそうになった。私、頑張れるかな』
ノートを閉じて、目を閉じた。胸が苦しくて、涙がこぼれた。でも、今日の思い出が温かくて、眠れた。
紅葉と悠斗、ずっと覚えてるよ。