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第二章 転校生

朝、目が覚めたとき、頭がぼんやりしてた。

昨日のことが夢だったんじゃないかって一瞬思ったけど、枕元のノートを見たら、やっぱり現実だった。

2025年3月21日

余命宣告されて2日目、変な感じだ。

カレンダーを見ると、春休みが終わるまであと少しで、来週から新学期が始まる。高校2年生

普通ならワクワクするはずなのに、今は胸の奥が少し重い。

でも、起きなきゃ。

母さんはもう仕事に出てて、家は静かだった。

私はベッドから出て、顔を洗って、トーストを焼いた。


冷蔵庫にあったジャムを塗って、コーヒーを淹れて、ゆっくり食べた。

いつもと同じ朝なのに、全部がちょっと特別に感じた。


1年しかないなら、こういう何でもない時間も大事にしなきゃね。

学校に行く準備をして、カバンを背負った。

ノートとペン、それに文芸部の詩集を入れた。

彩花に会うのが楽しみだった。

彼女にはまだ何も言ってないけど、笑顔でいれば気づかれないはず。

鏡を見て、髪を整えて、少しだけ口角を上げてみた。

うん、大丈夫。普通の高校生っぽい。

外に出ると、桜がまだ咲いてた。

昨日より少し散り始めてて、地面に花びらが薄く積もってた。

私はそれを踏まないように気をつけて、学校に向かった。

春の風が気持ちよくて、歩きながら深呼吸した。

生きてるって感じがした。

学校に着くと、教室は新学期前のざわざわした空気でいっぱいだった。

春休み明けの月曜日だから、みんな久しぶりに会って話したいことがいっぱいあるみたい。 私の席は窓際の後ろから2番目。

カバンを置いて、ぼんやり外を見てると、彩花が飛び込んできた。


彩花「みさきー! おはよー! やっと会えた!」


彩花の声はいつも通り明るくて、教室中に響いた。彼女は私の隣に座って、ニコニコしながらカバンからお菓子を出した。


彩花「これ、春休みに旅行先で買ったやつ。食べてみて!」


美咲「ありがと。彩花、元気だね」


私は笑って、お菓子を受け取った。

チョコレートがコーティングされたクッキーで、甘い匂いがした。


彩花は目をキラキラさせて、私の反応を待ってる。私は一口食べて、「おいしい!」って言った。


ほんとに美味しかったし、彩花の笑顔が嬉しかった。


彩花「でさ、春休みどうだった? 何か面白いことあった?」


彩花が身を乗り出して聞いてきた。

私は一瞬、病院のことを思い出したけど、すぐ頭から追い出した。


美咲「うーん、普通かな。本読んだり、散歩したり。あ、桜がきれいだったよ」


彩花「だよね! 私もお花見行ったよ。写真見せるね!」


彩花がスマホを出して、桜の下で撮った写真を見せてくれた。


彼女の家族と一緒に笑ってる姿が映ってて、なんだかほっこりした。


私も笑顔でうなずいて、話を合わせてた。

こういう時間が、私の「普通」だよね。

その時、教室のドアが開いて、担任の山田先生が入ってきた。


40代くらいの、ちょっとおっとりした感じの先生だ。

みんなが席に戻って、静かになると、山田先生が口を開いた。


山田先生「おはよう、みんな。今日から新学期だね。さて、早速だけど、新しい仲間を紹介するよ」


教室が少しざわついた。

転校生? 春休み明けに転校なんて珍しいな。

私は窓から目を離して、前を見た。 ドアの向こう

から、男の子がゆっくり入ってきた。


山田先生「藤井悠斗くん。よろしくね」


山田先生がそう言って、彼を教室の真ん中に立たせた。

藤井悠斗、背が高くて、黒い髪が少し長めで前髪が目にかかってる。

制服のネクタイがちょっと緩んでて、無造作な感じがした。

顔は整ってるけど、表情が硬くて、どこか近寄りがたい雰囲気だった。


藤井「藤井です。よろしく」


彼の声は低くて、短くぽつりと言っただけ。

教室が一瞬静かになって、誰かが「かっこいい!」って小声で言ったのが聞こえた。


彩花が私の耳元で、「ねえ、なんかミステリアスじゃない?」って囁いてきた。


私は笑って、「そうだね」って返した。


山田先生「藤井くんは、えっと、佐藤さんの隣が空いてるから、そこに座ってね」


山田先生が私の隣の席を指した。


私はびっくりして、思わず「え?」って声に出しちゃった。


教室のみんながこっちを見て、彩花が「ラッキーじゃん!」ってニヤニヤしてる。

私は慌てて首を振ったけど、もう遅かった。

藤井悠斗がカバンを持って、私の隣に歩いてきた。


藤井「よろしく」


彼が席に座って、私に一言だけ言った。

私は「う、うん、よろしく」って返したけど、声が小さくて自分でも情けなかった。


隣に座られると、彼の存在感がすごくて、ちょっと緊張した。


無口そうだし、何か用がない限り話しかけてこないタイプかな。


1時間目の授業が始まったけど、私はあんまり集中できなかった。

隣にいる藤井悠斗が気になって、チラチラ横を見ちゃう。

彼はノートも取らずに、ただ教科書を眺めてるだけだった。

手がきれいで、指が長くて、ちょっと芸術家っぽい雰囲気。

変なところに目がいっちゃうな…私。

休み時間になると、クラスの何人かが藤井くんに話しかけに行った。


どこから来たのかとか、部活何にするのかとか、質問攻めにしてる。


でも彼は「東京から」「まだ決めてない」って短く答えるだけで、すぐ会話が終わっちゃった。

みんなちょっと拍子抜けしたみたいで、そそくさと離れていった。


彩花「みさき、隣の子、めっちゃクールじゃない?」


彩花が私の席にやってきて、小声で言った。

私は笑って、「うん、なんか近寄りがたいよね」って答えた。


彩花「でもさ、隣なら仲良くなれるチャンスじゃん! 何か話しかけてみたら?」


美咲「えー、無理だよ。私、初対面の人苦手だし」


彩花「大丈夫だって! みさき優しいから、すぐ打ち解けるよ」


彩花が勝手に盛り上がってる。


私は苦笑いして、「まあ、様子見るよ」って言った。

ほんとに仲良くなれるかな。


1年しかない私に、新しい友達なんて作る意味あるのかな。


考えちゃうけど、やっぱり「普通」に生きたいから、少し頑張ってみようかな。

放課後、文芸部に行く前に、教室で少しだけ藤井くんと話すチャンスがあった。

私がカバンに物を詰めてると、彼が教科書を閉じて立ち上がった。


その拍子に、ペンが机から落ちて、私の足元に転がってきた。


藤井「あ、ごめん」

藤井くんが小さく言って、拾おうとした。


私は慌てて「大丈夫、私が拾うよ」って言って、ペンを手に取った。


黒いボールペンで、ちょっと使い込まれてる感じ。私はそれを彼に渡して、「はい」って笑ってみた。


藤井「ありがと」


彼がペンを受け取って、初めてちゃんと目が合った。

黒い瞳が鋭くて、でもどこか優しい感じがした。

私はドキッとして、急に胸が早くなった。


藤井「佐藤、だっけ?」


美咲「うん、佐藤美咲。よろしくね、藤井くん」


藤井「悠斗でいいよ」


彼がそう言って、軽く頷いた。


私は「じゃあ、悠斗くんね」って返した。

名前で呼ぶなんて、急に距離が縮まったみたいで、ちょっと照れた。


藤井「文芸部に行くの?」


私がカバンに入れた詩集を見て、彼が聞いてきた。私はびっくりして、「うん、そうだよ。知ってるの?」って聞いた。


藤井「さっき、友達と話してたの聞こえた」


美咲「そっか。うん、彩花と二人でやってる小さな部活だよ」


藤井「へえ。本、好きなんだ」


美咲「うん、好き。詩とか小説とか、読むのも書くのも」


私がそう言うと、彼が少しだけ目を細めた。

笑ったのかな? よくわからなかったけど、冷たい感じじゃなかった。


藤井「俺も読むよ。詩はあんまり書かないけど」


美咲「ほんと? じゃあ、今度何かおすすめ教えてよ」

「いいよ」


会話がそこで終わって、彼はカバンを肩にかけて教室を出てった。

私はその背中を見ながら、ちょっとだけ嬉しくなった。

意外と話しやすいのかも。

クールだけど、嫌な感じじゃない。新しい友達、できるかな。


図書室に着くと、彩花がもう待ってて、私を見るなり駆け寄ってきた。


彩花「みさき遅い! どうしたの?」


美咲「ごめん、ちょっと教室で話してて」


彩花「え、誰と? まさか転校生?」


彩花が目を丸くして、私は笑って「うん、ちょっとだけ」って言った。


彼女が「やっぱりラッキーじゃん!」って騒ぐから、慌てて「そんなんじゃないよ!」って否定した。


でも、心の中では、悠斗との短い会話が頭に残ってた。

図書室の窓から見える桜が、夕陽に染まってきれいだった。


私は彩花と並んで席に座って、詩集を開いた。

1年しかない私の時間に、新しい人が入ってきた。藤井悠斗、どんな子なんだろう。


少しずつ知っていけたらいいな。

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