第十章 別れの予感
春がすぐそこまで来てた。2026年3月15日、日曜日。
朝、母さんがカーテンを開けてくれた時、窓の外に桜のつぼみが見えた。ピンクが濃くなって、もうすぐ咲きそう。私はベッドから体を起こそうとしたけど、力が入らなくて、母さんに支えられた。
私の「最後の1年」は、終わりが近い。あと1ヶ月もないって、医者が言った。
体が動かなくなってきてる。咳が止まらなくて、血が混じるのは毎日だ。息が浅くて、胸が締め付けられるみたいに苦しい。薬を飲んでも効かなくて、夜は眠れないことが多い。でも、母さんや彩花、悠斗がそばにいてくれるから、心は穏やかだった。
1年しかない私の時間、最後まで大事にしたい。
母さんがお粥を持ってきて、スプーンで少しずつ食べさせてくれた。
美咲「ありがと、美味しいよ」
美咲母「みさき、頑張ってるね」
私は「母さんがそばにいてくれるからだよ」って返した。
彼女の手が震えてて、私の手を強く握ってくれた。
温かかった。
昼前、彩花が来た。制服じゃなくて、私服で、カバンから手紙を出してきた。
彩花「みさき、クラスのみんなからだよ。読んでね」
私は「ありがと。彩花、優しいね」って言って、手紙を受け取った。母さんが代わりに開けてくれて、一緒に読んだ。みんなの字で、「みさき、元気になってね」「また学校で会おうね」って書いてあった。私は「嬉しいよ。みんなに会いたいな」って呟いた。
彩花が「ねえ、みさき。桜、咲いたら一緒に見ようね。約束だよ」って言った。私は「うん、約束だよ」って笑った。でも、声が弱くて、咳がこみ上げてきた。
ゴホッ、ゴホッ。私はハンカチで口を押さえて、「ごめん、ちょっと待って」って言った。血が滲んでて、彩花が「みさき、大丈夫!?」って慌てた。私は「うん、平気だよ」って笑ったけど、彼女の目が赤くなってた。
彩花「みさき、辛いなら言ってね。私、そばにいるから」
彩花が私の手を握って、そう言った。私は「ありがと。彩花がいてくれるだけで嬉しいよ」って言った。
彼女が「大好きだよ、みさき。ずっと友達だよ」って泣きながら笑った。私は「私もだよ。彩花、大好き」って返した。胸が苦しかったけど、幸せだった。
夕方、悠斗が来た。コートを脱いで、私の部屋に入ってきて、「お前、顔色悪いな」って言った。
私は「うん、ちょっと疲れてる。でも、悠斗くんが来てくれて嬉しいよ」って笑った。彼がベッドのそばに座って、手に持ってた本を見せてくれた。
「銀河鉄道の夜」私が好きだって言ったのを、また持ってきてくれた。
美咲「読んでよ」
私が言うと、彼が「わかった」って頷いて、本を開いた。低い声で、静かに読み始めた。私は目を閉じて、聞いてた。ジョバンニとカムパネルラの話、星空を旅する物語。切なくて、きれいで、胸に響いた。
咳が出てきて、ゴホッ、ゴホッ。私はハンカチで口を押さえたけど、血が滲んで、悠斗が読みのを止めた。
美咲「お前、大丈夫か?」
彼が心配そうに聞いてきた。私は「うん、平気だよ。続けて」って笑った。彼が「無理すんなよ」って言ったけど、私が「お願い」って言うと、彼は黙ってまた読み始めた。声が優しくて、温かかった。
読み終わった時、私は「ありがと。やっぱり好きだよ、この話」って言った。悠斗が「俺もだ。お前と読むと、特別だ」って言った。
私は笑って、「ねえ、悠斗くん。私、桜見たい。一緒に見てくれるよね?」って聞いた。
悠斗「うん、見よう。お前と桜、見るって約束しただろ」
彼がそう言って、私の手を握った。温かくて、力強かった。私は「うん、約束だよ。咲くまで頑張るから」って笑った。でも、息が苦しくて、声が震えてた。
悠斗が「頑張れよ。お前ならできる」って言った。
目を赤くしながら、私を見つめてた。
美咲「悠斗くん、私、好きだよ。ずっと好きだった」
私がそう言うと、彼が「俺もだ。お前が好きだ。ずっとそばにいるよ」って言って、私の額にキスしてきた。柔らかくて、温かくて、涙がこぼれた。
私は「ありがと。一緒にいてくれて、幸せだよ」って言った。彼が「泣くなよ。お前が笑ってる方がいい」って言って、私の涙を拭いてくれた。
その夜、母さんが「みさき、寝なさい」って言って、電気を消してくれた。私はベッドに横になって、目を閉じた。胸が苦しくて、息が浅かった。夢を見た。桜が咲いてて、悠斗と彩花と一緒に笑ってた。
きれいな夢だった。
翌朝、目が覚めた時、体が重すぎて、動けなかった。母さんが「みさき、大丈夫?」って慌てて聞いてきた。私は「うん、ちょっと疲れただけ」って笑ったけど、声がかすれてた。母さんが医者を呼んでくれて、家で診てもらった。
医者「もう時間がない。家族と一緒に過ごしてください」
母さんが泣いて、私は「母さん、泣かないで。私、幸せだよ」って言った。
昼過ぎ、悠斗と彩花が来た。二人とも泣きそうな顔で、私のそばに座った。
美咲「二人とも、来てくれて嬉しいよ」
彩花「みさき、桜、もうすぐ咲くよ。一緒に見ようね」
私は「うん、見たいな」って頷いた。
悠斗「咲いたら、連れてくよ。お前と見るって約束だ」
美咲「うん、待ってるよ」
3月20日、木曜日。朝、母さんが窓を開けてくれた。桜のつぼみが、ほとんど花になってた。もう少しで咲く。
私はベッドから手を伸ばして、窓の外を見た。「きれいだね」って呟くと、母さんが「うん、きれいだよ。みさき、頑張ったね」って泣いた。
私は「母さん、ありがと。私、幸せだよ」って笑った。
悠斗が来て、私の手を握った。
悠斗「お前、桜見たいって言ったよな。もうすぐだ」
美咲「うん、見たい。一緒に見ようね」
息が苦しくて、目がぼやけてきた。私は「悠斗くん、私、疲れたよ。少し寝るね」って言った。彼が「うん、寝ろよ。俺、そばにいるから」って言って、私の手を強く握った。
母さんがノートを出して、「みさき、何か書く?」って聞いてきた。私は「うん、書いて」って言った。声が出なくて、母さんが代わりに書いてくれた。
『2026年3月20日。桜がもうすぐ咲く。悠斗くんと彩花と母さん、みんながそばにいてくれる。1年しかない私の時間、終わりが近いよ。怖いけど、幸せだ。桜、見たいな。約束、守れるかな。みんな、ありがとう。大好きだよ。私、頑張ったよね』
母さんがノートを閉じて、私の手を握った。
私は目を閉じて、息を吸った。胸が苦しくて、でも温かかった。悠斗の手が、ずっと握っててくれた。
桜、見られるかな。