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ナディアの苦悩

ーナディア視点ー

家に戻るとローブを脱ぎ捨て、ハンモックに飛び込む。


「はぁー!!ババアの演技するの疲れる。と言うか人の相手するの疲れたぁ!!!」


ハンモックを揺らしながら土の天井を見る。


「それにしてもあのイケオジに会えた事は僥倖。久しぶりに父親の姿思い出した〜。」


僕の父親は僕が物心つく前に心筋梗塞で死んでいる。写真の父は歳の割に老け顔ではあったが渋みがあるイケオジだった。


「瓜二つとまでは行かないけど、似てる。」


思わず出血大サービスをしてしまったが後悔はない。記憶の奥底に沈み消え掛かっていた父の姿を思い出させてくれただけでも対価としては十分過ぎるだろう。逆に貰いすぎまである。


「家族かぁ…。」


ハンモックの上で少し悶えながら感傷に浸りそうになるが気を取り直す。


「いかんいかん。僕に家族はもういないしここは異世界だから墓参りも無理だった。」


家族のことを思い出すとこの部屋は随分と寂しく見える。ただ一人で魔法の研鑽と薬の研究をして引きこもって何やってるんだろ?

いつから眠る事だけが楽しみになったのだろう?

妹が難病で死んでからか?父が心筋梗塞で死んでからか?母が二人の死に耐えきれず僕を置いて自殺してからか?それとも社会に適合出来ず孤立してからだったか?

いつからか、原因は何かなんて覚えていないし思い出せない…。

現実逃避からか、寂しさを紛らわせるためか理由なんて分からない。いつの間にか眠る事だけが生きる意味であり生の指針だった。

…空虚な夢を見て空っぽの器を満たされた気分になる。それだけを目的とし他人との関わりも最大限避けて来た。別にその選択に後悔も何もないが今思えば前世の僕は実に寂しい奴だったな。いや、今もか。

自嘲気味に笑うが僕は直ぐに思考を切り替える。


「忘れよう。ネガティブになるだけだ。僕には最高の生ならぬ最高の眠りを永遠に楽しむと言う目標がある。今はそれだけに邁進していればいい。きっとそれでまた心地よく眠れる。」


僕はそう思い、ハンモックから飛び降りると薬の研究を再開した。

まるで現実逃避するかのように没頭し時間も食事も大好きな睡眠すらも忘れ、生活に便利な魔法の練習と並列しながらも狂ったように24時間365日薬を試作しては改良を重ね試し試し試し、5年と言う年月を掛けて捩じ込まれた知識を元にこの森の中で取れる材料で製作可能なありとあらゆる薬をかけ薬化と小型錠剤化に成功した。

薬に関する知識と改良の成功例があったとは言え僅か5年で必要な材料を減らしつつ無数の薬を効果はそのままに形状を変化させられるとは僕には薬に関する才能があったのだろうか?

その副産物として回復魔法も使い慣れて結構難しい奴も開発出来たし医療系の才能があったのかもしれない。もしあったとするならば妹が死ぬ前に開花して欲しかった…。

ただ過ぎた事は変わらず、そんな事は誰にも分からない。どんなに悔やんでも過去は変えられず、自分の才能など自分が一番分からない。比較対象が居ないとなれば尚更…。


目的を達しても尚、空虚で虚無感だけが去来する。

あぁ、でもこれで心置きなく眠れる…。あとは極上の寝具を揃えて永久の眠りにつこう。そうしている間は少なくとも満たされているのだから。


しかし僕として見過ごせないと言うか気になる事もある。転生してから計7年と言う月日を経ても僕の姿は転生した時と全く変わらず少年のままだった。

神様が用意したであろう肉体が纏っていた衣類もある程度僕の成長を予測し設計されているのか未だに微妙に大きいし、明らかにおかしい。僕、ちゃんと人間だよね?

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